【宇宙世紀】ジオン残党だけど火星で第二帝国を作る羽目になった件【スターウォーズ概念クロス】 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
遠い昔、はるか彼方の銀河系で。
長い戦争が終わったあと、勝者は敵の旗を降ろし、兵器を破壊し、組織の消滅を宣言する。
だが、戦争の本当の終わりを決めるのは、勝者の報告書ではない。
敗者が武器を置けるか。
生き残った者が、死者の言葉を次の戦争ではなく、次の生活へつなげられるか。
そして、過去の鎧を棺ではなく、記憶として残せるか。
この銀河の火星でも、長すぎたジオンの物語に、最後の記録が加えられようとしていた。
宇宙世紀0122年12月。
オリンポス中央拠点の陥落から、一か月が経過していた。
火星の地表では、まだ戦いの痕跡が残っている。
焼けた岩盤。
崩落した地下入口。
ビームの熱で溶け、ガラス状に固まった赤い砂。
回収されないまま横たわるRFシリーズの残骸。
かつてオールズモビルの旗が掲げられていた地表施設には、地球連邦軍の管理灯が点滅していた。
だが、戦闘はほぼ終わっていた。
シャルル・ロチェスターの戦死。
オリンポス中央拠点の制圧。
RFシリーズ生産設備の喪失。
火星独立ジオン軍の主力部隊は武装解除に応じ、一部の強硬派も火星各地へ散っている。
地球連邦軍参謀本部は、すでに公式発表の準備を整えていた。
火星圏における旧ジオン系武装勢力の主要拠点を制圧。
指揮官シャルル・ロチェスター戦死。
組織的抵抗能力は消滅。
火星独立ジオン軍、通称オールズモビルは壊滅。
またしても使われる言葉は、完全だった。
完全制圧。
完全壊滅。
最後のジオン残党の完全消滅。
歴史は、何度も同じ言葉で閉じられてきた。
オリンポス山地下施設跡。
地球連邦軍第13実験戦術部隊の記録参謀、トンプソン少佐は、発掘されたRFゲルググの残骸を見ていた。
黒に近い濃紺の装甲。
焼けた胸部。
失われた左腕。
切り落とされた頭部アンテナの基部。
シャルル・ロチェスターが最後に乗った機体である。
「これが、最後の機体ですか」
隣に立つ若いサナリィ技術士官が尋ねた。
「中央拠点に残っていた指揮官機としてはな」
トンプソンは答えた。
技術士官は開放された点検口から内部を覗き込む。
「外見はゲルググですが、内部構造は別物ですね」
「RFシリーズだからな」
「複数世代の部品が混在しています。フレームの一部はアナハイム系。制御装置には連邦軍規格。ジェネレーター周辺は火星独自の改造です」
「よく動いていたものだ」
「正規の整備規格なら、設計審査を通りません」
「火星では、動けば審査を通ったらしい」
少し離れた場所で、アナハイム・エレクトロニクスから派遣された技術監査官ルクレールが、端末を操作していた。
「訂正します」
彼女は言った。
「動かなくても、叩いて起動すれば合格だったようです」
「ひどい基準だ」
「そのひどい基準の機体に、御社のジェガンが何機も苦戦したのですが」
若い技術士官は黙った。
ルクレールはRFゲルググの内部記録を確認する。
彼女の任務は、火星へ流出したアナハイム系部品の特定だった。
ただし、公式にはそう書かれていない。
終戦後技術協力。
中古規格部品の追跡調査。
将来の安全管理に向けた資料収集。
官僚用語は、都合の悪い事実へ柔らかい包装を施す。
「アナハイム製の部品はありましたか」
トンプソンが尋ねる。
「ありません」
ルクレールは即答した。
「まだ調べている途中でしょう」
「調べる前からありません」
「それは調査ではない」
「我が社の製品に似た部品があるだけです。宇宙は広いので、偶然形が似ることもあります」
「製造番号が残っていますが」
「火星の砂で読めません」
「きれいに読める」
「読めません」
トンプソンは追及を諦めた。
地球圏の死の商人と、火星の残党。
互いに認めないだけで、長年持ちつ持たれつの関係だったことは明らかだった。
「それにしても」
若い技術士官は、RFゲルググを見上げた。
「理解できません」
「何がだ」
「ここまで外見へこだわる理由です」
彼は端末へ機体性能の分析結果を表示した。
「内部技術だけを使って新しい外装を設計すれば、もっと軽くできた。推進剤も節約できる。センサー配置も改善できたはずです」
「正しい」
「では、なぜザクやドムやゲルググの姿を残したのでしょう」
トンプソンは、すぐには答えなかった。
火星の地表を弱い風が吹く。
砂が装甲の破片へ積もっていく。
「帰る場所だったのだろう」
「帰る場所?」
「彼らは国を失った」
トンプソンは言った。
「ジオン公国は滅びた。アクシズも、ネオ・ジオンも、ジオン共和国も消えた。火星へ来た者たちは、地球圏から忘れられ、最後にはシャアの戦争でも使い捨てにされた」
若い士官は黙って聞く。
「正式な国家もない。認めてくれる政府もない。帰れる故郷もない。だが、ザクの形だけは残っていた」
「兵器が故郷になったと?」
「兵器そのものではない」
トンプソンはRFゲルググの赤いモノアイを見る。
電源は落ちている。
もう二度と光ることはない。
「その形を見れば、自分たちが何者だったか思い出せた。だから彼らは、何度時代が変わっても、そこへ帰った」
若い士官は、しばらく機体を見ていた。
「非合理的です」
「そうだな」
「軍事的には、多くの欠点があります」
「ああ」
「それでも、残し続けた」
「人間は、合理性だけでは生きられない」
ルクレールが端末から顔を上げる。
「合理性だけで兵器が売れれば、我が社も苦労しません」
「説得力のあるような、ないような話ですね」
「兵器の半分は性能で売れます。残り半分は物語です」
「それでアナハイムは、両陣営へ売ったのですか」
「その質問へ回答する権限はありません」
「でしょうね」
地下施設の最深部では、接収班が古い保管庫を発見していた。
武器庫ではない。
装甲部品もない。
保管されていたのは、記録媒体、写真、手紙、色あせた部隊章だった。
アクシズにいた頃の記録。
火星への出航準備。
まだ地下都市が新しかった時代の集合写真。
レジオンとの内戦。
チェスター艦隊の出航。
スウィートウォーターから届いた、シャアの決起演説の複製。
そして、アクシズ戦を生き延びた者が持ち帰った戦死者名簿。
一枚の古い写真には、火星へ来たばかりの兵士たちが並んでいた。
誰もが若い。
まだ軍服も新しい。
背後には、整備されたザクとゲルググ。
全員が、未来を信じた顔で笑っている。
写真の端に、こう書かれていた。
火星に、我々の国を作る。
「この人たちは」
若い技術士官が尋ねる。
「ほとんどが、もう亡くなっている」
トンプソンが答える。
「戦死ですか」
「戦死。事故。病気。老衰。いろいろだ」
「彼らは、国を作れたのでしょうか」
トンプソンは写真を見た。
ジオンマーズ。
レジオン。
オールズモビル。
名前は変わった。
指導者も変わった。
理想も、途中で何度も歪んだ。
正式な国家として認められたことは、一度もない。
「作れなかった」
トンプソンは言った。
「少なくとも、彼らが最初に夢見たものは」
「では、すべて失敗だったと?」
「そう簡単ではない」
写真の中の者たちは知らない。
この先、火星で何が起こるのか。
内戦。
巨大兵器の暴走。
英雄への盲信。
裏切り。
敗北。
それでも、彼らが作った地下施設では人々が暮らした。
芋を育てた。
子供が生まれた。
地球圏から見捨てられても、生活をつないだ。
国家は作れなかった。
だが、居場所は作った。
「軍事的には敗北だ」
トンプソンは言った。
「政治的にも失敗した。理想の国家も作れなかった」
「なら」
「だが、火星で人間が生き残った」
記録媒体の箱を閉じる。
「それだけは、失敗ではない」
その頃。
火星の別の地下居住区では、カール、グラン、ハンス、ディーツが連邦軍との最終交渉に臨んでいた。
通信画面には、ナバロ・アーキントンが映っている。
「条件を確認する」
ナバロが言った。
「オールズモビルは、組織としての武装抵抗を停止。RFシリーズの主要兵装および軍事施設を、共同監視のもとで解体する」
カールがうなずく。
「火星居住区には、限定的な自治評議会を設置。生活、医療、資源採掘、地下施設の管理は、火星住民代表と連邦政府派遣団が共同で行う」
「旧オールズモビル兵については」
グランが確認する。
「一般兵は武装解除後、原則として訴追しない」
「指揮官と襲撃作戦の責任者は」
「個別審査になる」
ディーツが小さく手を挙げた。
「質問しても?」
ナバロは彼を見る。
「何だ」
「俺は基地へ侵入してF90を盗みました」
「把握している」
「個別審査ですか」
「当然だ」
「どのくらい怒られます?」
「裁判を怒られるという言葉で処理するな」
「機体を無傷に近い状態で持ち帰った点は、評価されませんか」
「むしろ計画的な強奪の証拠になる」
「では、黙っておけばよかった」
「全記録が残っている」
「最近のシステムは便利すぎますね」
ハンスがディーツの頭を軽く叩いた。
「真面目に話せ」
「はい」
ナバロは続けた。
「最後に、F90二号機」
室内の空気が変わる。
二号機は、別の地下施設へ隠されていた。
赤と黒の塗装。
火星側の認証系統。
オールズモビルの兵器データ。
サナリィにとっては、取り戻すべき最高機密である。
カールが言った。
「二号機は返還する」
ディーツは何も言わなかった。
すでに同意している。
グランが条件を加える。
「ただし、機体内部に蓄積された火星独自の技術情報については、複製を認めてもらう」
「兵器転用できる情報は認められない」
「火星環境下での稼働記録は、生活用機動機械にも応用できる」
「サナリィと協議する」
「また検討ですか」
カールが尋ねる。
ナバロは少し苦い顔をした。
「今回は、私も同じ席につく」
「それなら、少しは期待します」
「期待しすぎるな」
「わかっています。このシリーズで十分に学びました」
ナバロには、シリーズという言葉の意味がわからなかった。
だが、深く尋ねなかった。
数日後。
火星の地下ドックで、F90二号機の返還式が行われた。
式と呼ぶには、簡素だった。
連邦軍の警備兵。
サナリィの技術者。
火星側の整備員。
カールたち。
それだけである。
赤と黒へ塗られた二号機が、整備台から降ろされる。
連邦軍の識別章は戻されていない。
赤いツインアイも、そのままだった。
サナリィの技術者が不満そうに言う。
「元の状態へ戻してから返してほしかったですね」
ハンスが答える。
「塗装費用を負担するなら戻す」
「修復費用は、そちらへ請求する予定ですが」
「こちらも、火星環境での実証試験費用を請求する」
「強奪した機体で勝手に試験したでしょう」
「貴重な実戦データだ」
「誰が頼んだのですか」
「未来の技術者」
「請求先として無効です」
両者の言い争いを無視し、ディーツは二号機の足元に立っていた。
「寂しいか」
グランが尋ねる。
「少し」
「返したくないか」
ディーツは赤い機体を見上げた。
「返したくありません」
正直な答えだった。
「でも、機体を持っているために火星の人たちがまた戦うなら、返します」
グランは若者の横顔を見る。
「大人になったな」
「ようやく気づきましたか」
「その答えで評価を下げるな」
二号機のコックピットハッチへ、デフ・スタリオンが上がっていく。
正式な返還確認を担当するためだった。
途中で足を止め、ディーツを見る。
「乗るか」
「何に」
「地球圏まで二号機を運ぶ」
「俺は被告候補でしょう」
「だから、正式な監視下でだ」
ディーツは驚いた。
「いいんですか」
「機体の火星側設定を最も理解している操縦者が必要だ」
「信用されています?」
「監視されている」
「似たようなものですね」
「まったく違う」
ディーツは笑った。
「なら、最後にもう一度だけ」
二人は二号機のコックピットへ入っていった。
かつて同じ機体を奪い合った二人が、今度はそれを地球圏へ返すため、同じ操縦席に座る。
戦争を始めた機体が、交渉の最後を運ぶ。
兵器としては、奇妙な役割だった。
だが、悪くはなかった。
火星から撤収する前夜。
トンプソン少佐は、正式報告書を完成させた。
『火星独立ジオン軍、通称オールズモビルは、最高指揮官の戦死および中央軍事拠点の喪失に伴い、組織的武装抵抗を停止した』
『主要兵器および生産設備は、地球連邦軍と火星自治評議会の共同監視下に置かれた』
『ガンダムF90二号機は返還手続きに入った』
『以上をもって、火星圏における旧ジオン系正規軍事組織は消滅したものと判断する』
軍人として正しい報告だった。
数字。
戦力。
施設。
結果。
必要な事実が、過不足なく書かれている。
だがトンプソンは、もう一通の記録を書いた。
提出する予定のない、私的な記録だった。
『彼らは敗北した』
『軍事的にも、政治的にも、自らが思い描いた理想においても』
『だが、最後まで自分たちが何者であったかを忘れなかった』
少し考え、文章を修正する。
『いや、正確には違う』
『彼らは最後に、自分たちが何者であったかだけではなく、これから何者になるかを選ぼうとした』
『ザクの形を守りながら、ザクとともに死ぬことは選ばなかった』
『ガンダムを奪いながら、ガンダムのために住民を犠牲にすることも選ばなかった』
『過去を鎧として受け継ぎ、棺にすることを拒んだ』
トンプソンは、最後の一文を書く。
『ジオンは死んだ』
『だが、火星の人々は生き残った』
『それで十分だったのだと思う』
宇宙世紀0123年。
地球圏では、新たな武装勢力が台頭する。
クロスボーン・バンガード。
コスモ・バビロニア。
貴族主義を掲げる新たな戦争。
人々の関心は、急速にそちらへ移っていった。
火星のオールズモビルは、すぐに古い事件となった。
新聞の一面から消える。
軍事報告書の末尾へ追いやられる。
新しい戦争を学ぶ若い兵士たちは、その名前すら知らなくなる。
それでも、奇妙なことに、ザクに似た機体は作られ続けた。
丸い頭部。
単眼のセンサー。
太い脚。
肩の装甲。
必ずしもジオンの思想を受け継いでいるわけではない。
性能上、最適な形でもない。
ただ、誰かがその姿を覚えていた。
誰かが模型を作り。
誰かが映像を見て。
誰かが、古い兵士の話を聞いた。
兵器は破壊できる。
国家も解体できる。
だが、形に結びついた記憶は、命令書だけでは消せない。
火星。
オリンポス山地下施設跡。
戦場跡の大半は、立入禁止区域となっていた。
黒いRFゲルググの残骸は回収され、その頭部は火星自治評議会へ返された。
かつて切り落とされた指揮官用アンテナは、修復されなかった。
折れたまま。
焼けたまま。
小さな資料室の壁へ飾られた。
説明板には、短い文章だけが記されている。
『RFゲルググ頭部』
『火星独立ジオン軍最高指揮官、シャルル・ロチェスター搭乗機』
『オリンポス中央拠点最終防衛戦にて大破』
『本機は、火星住民避難のための時間を確保した』
ジオンの正統。
ザビ家の復興。
連邦への復讐。
そうした言葉は、どこにも書かれていない。
展示を見上げていた一人の子供が、隣にいるカールへ尋ねた。
「このロボットは、強かったの?」
カールは少し考えた。
「最後の戦いでは、相手のほうが強かった」
「じゃあ、負けたの?」
「ああ」
「それなのに、どうして飾ってあるの?」
カールは、折れたアンテナを見る。
「負けても、守れたものがあったからだ」
子供は完全には理解していない。
それでも、もう一度機体の頭部を見上げた。
「かっこいいね」
「ああ」
カールは笑った。
「本人が聞いたら、一番喜ぶ言葉だ」
展示室の外では、火星の弱い太陽が昇っていた。
農業区画へ向かう作業員。
学校へ走る子供たち。
連邦軍の監視員と口論する自治評議会の職員。
医療物資を積んだ輸送車。
そして、畑の生育状態を確認するハンス。
「今年の芋はどうです」
カールが尋ねる。
「去年よりましだ」
「食べられる?」
「食べられることと、うまいことは違う」
「十分だ」
遠くからディーツの声がする。
地球圏での審査を終え、条件付きで火星へ戻っていた。
現在は、非武装の作業用モビルスーツ教官をしている。
「そこの新人! 作業機の旋回で出力を上げすぎるな! 畑を全部吹き飛ばす気か!」
若い作業員が叫び返す。
「教官が昨日、勢いが大事だと言ったんでしょう!」
「勢いを向ける先を選べとも言った!」
ハンスがため息をついた。
「成長したのか、していないのかわからんな」
「少しずつでいい」
カールは答えた。
遠い昔、はるか彼方の銀河系で、古い船や鎧を手放さず、長い戦争を生きた者たちがいた。
彼らが守ったのは、兵器そのものではない。
兵器へ結びついた記憶。
失われた故郷。
仲間との約束。
そして、自分が何者であるかという感覚だった。
この火星の人々も同じだった。
彼らはザクへ帰った。
だが、最後にはザクの中で死ぬことだけがジオンではないと知った。
過去を忘れずに生きること。
神話を信じながら、その神話へ未来を預けすぎないこと。
鎧を残しながら、必要な時には脱ぐこと。
フォースは存在しない。
だが、長い敗北の歴史から、次の世代が別の答えを選ぶことならできる。
火星ジオンは滅びた。
オールズモビルも、軍事組織としては消滅した。
彼らが夢見た国家は、最後まで実現しなかった。
だが、火星に暮らす人々は残った。
記録も残った。
古いモビルスーツの姿も残った。
そして、自分たちの未来を誰か一人の英雄へ預けてはならないという教訓も残った。
それこそが、火星へ渡った最初の者たちから、チェスターJr.、シャルル・ロチェスターを経て、名もなき生存者たちへ受け継がれた、最後の遺産だった。
ジオンの神話は終わった。
火星の朝は、これからも続いていく。