機動戦士ガンダム ギレン、ハマーン、シャアの次なる答え――ジオンの最高頭脳、サナリィの最新ガンダムで宇宙世紀を総決算する   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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亡霊の彼方に【U.C.0122】

宇宙世紀0122年12月。

最高指揮官シャルル・ロチェスターの戦死と、オリンポス・ベース地下拠点の完全崩壊。その凄惨な戦闘記録のデータが、地球圏の連邦軍参謀本部や、次世代主力モビルスーツのコンペティションで勝利して調子に乗っているサナリィ(海軍戦略研究所)の最上階オフィスに届いたとき、エリート官僚や技術者たちはみな、一様に「いやあ、これでようやくあの『肩にトゲを生やしたがり、何かと赤く塗りたがる、恐ろしく声の大きい地底のオタクども』の苦情処理から解放されるよ!」と、ワイングラスを掲げて祝杯を挙げていた。

 

だが。

地球圏から遥か数億キロメートル離れた、火星の極寒の荒野。

連邦軍第13実験戦術部隊の戦果確認チームに所属する、生真面目だけが取り柄の記録参謀、トンプソン少佐は、冷え切った装甲装軌車のキャビンの中で、分厚い電磁報告書の端末を抱えたまま、あふれ出る涙と鼻水で顔をグチャグチャに濡らしていた。

 

「う、うおおおおん……! なんてことだ……なんて切ない歴史の終わりなんだ……! ジオンが……僕たちの青春の、あの忌々しくも美しかった『神話の亡霊』たちが、今、本当にただの記号になって消滅してしまった……!」

 

「トンプソン少佐、泣きすぎです。あと、涙が端末のタッチパネルに垂れて、サナリィへの請求書の金額が3倍にバグっています。拭いてください」

 

隣の席で、アナハイム・エレクトロニクス社から派遣された終戦処理オブザーバーのルクレールが、呆れたようにため息をついた。

ルクレールは、かつてアナハイム・エレクトロニクス社が『ガンダム開発計画』やら『Z計画』やらで全宇宙の軍需産業の財布を牛耳っていた時代の栄光を、サナリィというポッと出のベンチャーに奪われて精神的に荒んでいる、冷徹なアラフォーの女性社員だ。

 

「ルクレールさん! 君は血も涙もないのか! 見ろ、この全損した『RFゲルググ』の残骸を! 確かに中身は我が連邦軍のジェガンを脅かすほどの最新鋭駆動系が詰まっていたが、このコックピットの計器類を見ろ! わざわざ宇宙世紀0079年当時の、あの『緑色の真空管っぽい電子目盛り』と『重たいアナログのレバー』を、わざわざ職人がワンオフで削り出して再現してあるんだぞ! サナリィの液晶タッチパネルなんてクソ食らえと言わんばかりの、この狂気と愛を見ろ!」

 

「はあ。我が社としては、その『最新鋭の駆動系』が、なぜか数年前までうちの月面フォン・ブラウン工場から『文房具の替え芯』という名目で火星に極秘輸出されていた事実の証拠隠滅、いえ、戦後調査のために来ているだけですので。そんな老兵の同人誌みたいなこだわりを熱弁されても、領収書は切れません」

 

トンプソン少佐の頭の中にあるのは、地球圏の教科書には絶対に載らない、しかし確実にこの不毛の大地を狂わせ、そして去っていった男たちの「生き様」の総決算だった。

 

宇宙世紀0083年、ハマーン・カーンの若すぎる独裁にキレて、オセアノン・パプらがザビ家の正統性を胸に火星へ逃げ延びたあの日。

デラーズ・フリートが地球にコロニーを落としている裏で、彼らは「芋しか育たない不毛の砂漠」で泣きながら、ゲルググの関節に砂が詰まるバグと戦っていた。

さらに、アナハイム・エレクトロニクス社がグリプス戦役でエゥーゴとティターンズの双方に武器を売って大儲けしていた影で、火星は「ティターンズの敗残兵」をTR-6の技術ごと丸抱えし、アリシア・ザビという少女を担ぎ上げて『レジオン』なんていう、とんでもない地獄の身内争い(内戦)までやらかしたのだ。

 

「いいですかルクレールさん! 彼らはシャア・アズナブルがスウィート・ウォーターで『地球の寒冷化』を企んだとき、わざわざ火星からチェスター艦隊を編成して駆けつけたんだ! 結果、シャアの『アクシズ落とし』の単なる肉壁(盾)にされてロンド・ベル隊に全滅させられたのに、それでも生き残った子孫たちは、サイド3のジオン共和国が自治権を完全放棄した宇宙世紀0100年の後も、ずっとこの地下で『いつかギレン総帥のような最高にいい声の指導者が、僕たちをお迎えに来てくれるはず』と信じて、ザクのスパイクを磨き続けていたんだぞ! 切なすぎるだろ!」

 

「まあ、冷静に考えれば、地球圏の政治に都合よく使われては捨てられ続けた、壮大な『認知の歪み』の被害者グループですけどね。その結果が、あのシャルル・ロチェスターの『全身真っ黒のRFゲルググ』ですか」

 

ルクレールは、キャビンの外で連邦軍の作業用モビルスーツがクレーンで吊り上げている、シャルルの愛機の頭部パーツを冷ややかに見つめた。

1号機に撃ち抜かれ、完全に炭化した巨体。だが、その背中に装備されたビーム・ナギナタの柄には、手書きで『ジオン公国よ永遠に』と、恐ろしく達筆な文字が刻まれていた。

 

「あいつらは……あいつらオールズモビルは、ただザクに乗りたかっただけなんだ! 『ジェガンなんて、あんな量産型の四角い顔をしたモビルスーツは、僕たちのガンダム趣味、いや、ジオン趣味が許さない!』という、全宇宙のオタクの意地だけで、40年間も連邦軍を恐怖(と困惑)のどん底に陥れたんだ!」

 

トンプソン少佐は、ハンカチで鼻をかみながら、さらに古い記録データをめくった。

火星獨立ジオン軍が開発した『RFシリーズ』の設計図。

そこには、サナリィの最新小型MSである『F50D』や『ジェガン』のフレームをあえて引き伸ばし、外側に「わざわざ無駄なデッドスペースを作ってまでザクの外装を被せる」という、エンジニアが発狂するレベルの無駄な執念が記録されていた。重量を増やすためだけに、頭部に重たい鉄製のモノアイ・レールを溶接する。これこそが彼らにとっての『正義』だったのだ。

 

その時、装軌車のハッチが開き、前線でのF90(1号機)のデータ回収を終えたサナリィの若いテストエンジニアが、自慢の白いツナギを着て入ってきた。

 

「トンプソン少佐、お疲れ様です! いやあ、今回のデータは最高ですよ! 強奪された2号機のOSに残されていた、敵のハッキングコードの解析が終わったんですが、笑っちゃいましたよ。パスワードの文字列、なんて書いてあったと思います? 『MS-06F_ZAKU_SAIKO(ザク最高)』ですよ! 宇宙世紀120年にもなって、機密ファイルの暗号がこれって、彼らの脳内は一年戦争の開戦前夜で完全にフリーズしていたんですね!」

 

サナリィの若者は、まるで面白いコメディでも見たかのようにケラケラと笑った。

 

その瞬間。

トンプソン少佐の涙がピタッと止まり、キャビン内の空気がマイナス180度(火星の冬の夜並み)にまで急降下した。

 

「……君、今、なんて言った?」

 

「え? いや、だから、オールズモビルの暗号がダサすぎるって……」

 

「ダサい、だと……?」

 

トンプソン少佐はゆっくりと立ち上がり、サナリィの若者の胸ぐらを、軍人とは思えないほどの『歴史の重み(執念)』がこもった力で、ガシッと掴み取った。

 

「うわっ!? な、なんですか少佐!?」

 

「君たちサナリィの若造には! あの『MS-06F』という6文字の文字列を打ち込むとき、シャルル閣下やディーツ少尉たちが、どれほどの涙と、どれほどの『芋掘り労働の汗』を流したか、その重みが分からないのか! 彼らはな、地球圏の軟弱な市民がフォーミュラ計画だの、ビーム・シールドだのと、スタイリッシュな未来に浮気している間も! ずっと『ザクの、あの緑色の太もものラインこそが、宇宙世紀の至高のデザインなんだ!』と、たった一人で宇宙の真理を守り続けていたんだぞ!」

 

「ひ、ひえええ……! 少佐、目がマジです! 助けてルクレールさん!」

 

若者が助けを求めるが、アナハイム社のルクレールは「大型の方が儲かるし、今更ラインを変えるのが面倒だったから、そのオタクの執念だけはちょっと分かるわ」と、遠い目をして窓の外を見ていた。

 

「いいか、よく聞けサナリィの坊や! 君たちが作ったF90は、確かに強い! 効率的だ! だがな、40年後、50年後の宇宙世紀の人間が、君のF90のプラモデルを、涙を流しながら『やっぱりF90のこの肩のラインはたまらん病みつきになる!』と、地下に隠れてまで再現しようとするか!? しないだろ! 効率で動く兵器は、より効率的な兵器が現れた瞬間、ゴミ箱に捨てられるんだ! だが……ジオンは違う! ザクは、ドムは、ゲルググは、効率を越えた『宗教(神話)』になったんだよォォォ!!」

 

後世の歴史家から見れば、効率で動く兵器とはコスモ・バビロニアのバグだの、ザンスカールのタイヤモビルスーツだのが該当する。

 

「わかりました! わかりましたから離してください! ジオン万歳! ザク最高! これでいいですか!?」

 

若き技術者が半泣きで叫ぶと、トンプソン少佐は「分かればよろしい」と、ガタガタと震えながら彼を解放し、再びシートに沈み込んで、電磁報告書の端末に『オールズモビル、そのロマンの完全なる終焉について』という、公式記録には絶対に採用されない大作エッセイを執筆し始めた。

 

キャビンの外では、火星の冷たい風が、オリンポス山の戦場に散らばったモビルスーツの装甲の破片を、静かに赤い砂で覆い隠そうとしていた。

 

シャルル・ロチェスターの戦死、そして火星拠点の完全破壊。

この日をもって、宇宙世紀0079年の一年戦争から40年以上、全宇宙を震撼させ、あるいは困惑させてきた『ジオン』の名を掲げる公式な軍事組織の歴史は、完全に、そして永久にその幕を閉じた。

彼らは「最後のジオン」だった。地球圏の人間がどれほど嘲笑おうとも、彼らは自分たちの信じた『宇宙世紀0079年の幻影』と心中することを選んだ、最高に一途で、最高にめんどくさい、愛すべき亡霊たちだったのである。

 

「ルクレールさん。これで本当に、戦後は終わったんですね……」

 

トンプソン少佐が、腫らした目で呟いた。

 

「ええ。これからは、もっと新しくて、もっと利己的で、もっとタチの悪い『趣味の悪い奴ら』が、地球圏を引っかき回す時代よ」

 

ルクレールが指差したデータ端末の端には、サイド4のフロンティア・サイド周辺で、怪しげな中世貴族のコスプレをしながら「これからはコスモ・バビロニアの時代です! 貴族主義万歳!」と、オールズモビルとはまた別のベクトルで脳内が沸騰している、コスモ・バビロニア建国を宣言したクロスボーン・バンガード(バックにはブッホ・コンツェルンがいる)の不穏な資金移動の記録が、ひっそりと表示されていた。

 

宇宙世紀0122年12月。

火星独立ジオン軍(オールズモビル)という名の、偉大なるレトロマニアたちの神話が消え去った不毛の赤い惑星は、ただ静まり返っていた。

彼らが遺した「ザクへの愛」は、やがて来る宇宙世紀0123年の、新たな戦火(機動戦士ガンダムF91)の足音にかき消されながらも、全宇宙の歴史の記録(と、トンプソンの個人ブログ)の片隅に、消えないモノアイの残光のように、いつまでも静かに、熱く、輝き続けるのであった。

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