機動戦士ガンダム ギレン、ハマーン、シャアの次なる答え――ジオンの最高頭脳、サナリィの最新ガンダムで宇宙世紀を総決算する 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0122年。
火星。
オリンポス山地下施設跡。
第二次オールズモビル戦役は終わっていた。
正確に言うなら、終わりつつあった。
地上では連邦軍の掃討部隊が活動し、地下ドックではサナリィ技術者たちが接収作業を進めている。
黒いRFゲルググの残骸は、ひっくり返ったまま砂塵に埋もれかけていた。
その頭部アンテナだけが、まだ天を向いていた。
「本当に終わったんですね」
若い技術士官が呟いた。
返事をしたのはトンプソン少佐だった。
「そうだ」
「最後のジオン残党ですか」
「おそらくな」
若者は黙った。
しばらくして再び口を開く。
「……理解できないんです」
彼はゲルググを見た。
「ここまで旧式に拘る理由が」
「性能だけならガンダムを量産した方が良かった」
「RFシリーズの中身は最新なのに、どうして外見だけザクやゲルググなんです」
トンプソンはゆっくり煙草を取り出した。
今は禁煙だが、今日くらいは構わないだろうと思った。
火を点ける。
煙が火星の薄い空気に溶けた。
「帰る場所だったんだろうな」
若者は意味がわからなかった。
トンプソンは続けた。
「彼らは国家を失った」
「故郷も失った」
「仲間も失った」
「だがザクだけは残った」
「だからザクに帰ったんだ」
シャルル・ロウチェスターの遺体は見つからなかった。
ビーム直撃による完全消滅。
公式記録にはそう記された。
しかし彼の部下たちは最後まで離脱しなかった。
降伏命令も出ていた。
逃げろとも言われていた。
だが誰も逃げなかった。
全員がゲルググやザクやドムもどきに乗り込み、
「ジーク・ジオン」
と叫んで突撃した。
勝てないことは知っていた。
それでも行った。
トンプソンは理解していた。
あれは戦争ではなかった。
葬式だったのだ。
ジオンという長い長い物語の。
地下施設最深部。
接収班が古い保管庫を発見した。
中には書類があった。
劣化した記録媒体があった。
古びた写真があった。
アクシズ時代のもの。
0080年代。
まだ火星が夢だった頃のもの。
そこには一人の男が写っていた。
オセアノン・パプ。
のちのチェスター主席。
火星ジオンの始祖。
トンプソンは写真を見つめた。
その隣には若い兵士達がいた。
後に死んだ者達。
歴史に名前さえ残らなかった者達。
誰もが笑っていた。
未来を信じていた。
火星に共和国を作れると。
本気で信じていた。
「これが始まりか」
誰にともなく呟く。
答える者はいない。
数日後。
火星撤収前夜。
トンプソンは報告書を書いていた。
正式報告。
そこにはこう記した。
『火星独立ジオン軍(オールズモビル)掃討完了』
『敵戦力は壊滅』
『再起能力なし』
『組織消滅』
軍人として正しい報告だった。
事実でもあった。
だが彼はもう一通の文書を書いた。
提出する気のない個人記録。
題名はない。
冒頭にこう書いた。
彼らは負けた。
完全に負けた。
政治的にも。
軍事的にも。
経済的にも。
思想的にさえ。
だが最後まで、
自分たちが何者だったのかだけは忘れなかった。
そこまで書いて手を止めた。
そして最後に一文を加えた。
ジオンは死んだ。
だがザクは生き残った。
それで十分だった。
宇宙世紀0123年。
フロンティアIV。
クロスボーン・バンガードが蜂起する。
コスモ・バビロニア建国戦争。
歴史は次の時代へ進む。
火星の亡霊は忘れられる。
オールズモビルの名を知る者も少なくなる。
そしてさらに時代は流れる。
宇宙戦国時代。
新しい国家。
新しい戦争。
新しいモビルスーツ。
だが不思議なことに。
どんな時代になっても。
どこかでザクに似た機体が作られ続けた。
ドムに似た機体が現れた。
ゲルググに似た機体が戦場を歩いた。
合理性では説明できない。
性能でもない。
効率でもない。
ただ、
人は忘れなかったのだ。
かつて宇宙のどこかに、
最後まで古いモビルスーツに拘り続けた
途方もなく不器用な人間たちがいたことを。
火星。
風が吹く。
砂に埋もれた黒いゲルググのアンテナが、
ほんの少しだけ顔を出していた。
その姿を知る者は、
もう誰もいない。
だがそれでいい。
英雄になれなくても。
歴史に残らなくても。
彼らが守ろうとしたものは、
確かに未来へ届いた。
火星ジオンは滅びた。
オールズモビルも滅びた。
だがそのロマンだけは、
宇宙世紀の果てまでも残った。
そしてそれこそが、
オセアノン・パプが火星へ持ち込んだ、
最後の勝利だったのである。