【宇宙世紀】ジオン残党だけど火星で第二帝国を作る羽目になった件【スターウォーズ概念クロス】   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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アルカディアの開拓者【U.C.0085】

宇宙世紀0085年。

 

火星は、楽園ではなかった。

 

この一文を、オセアノン・パプ改めチェスター主席は、毎朝三回くらい心の中で唱えていた。

 

赤い大地。

薄い空気。

冷たい砂。

やたら細かい粉塵。

頼りない生命維持プラント。

そして、どこを掘っても出てくるのは希望ではなく、修理しなければならない配管である。

 

タトゥイーンだって、もう少し観光地としての愛嬌があったのではないか。

 

二つの太陽はない。

モス・アイズリーの酒場もない。

ジャワのサンドクローラーも走っていない。

ミレニアム・ファルコンみたいな気の利いた密輸船もない。

 

あるのは、アクシズから持ち出した旧式艦と、ザク、リック・ドム、ゲルググの予備部品と、不機嫌な作業員と、火星の砂嵐だけだった。

 

「だまされた」

 

チェスターは、地下司令室の簡易椅子に座りながらつぶやいた。

 

副官のガルシアが、無言でこちらを見た。

 

図体がでかい。

口数が少ない。

力仕事に強い。

ついでに、怒ると怖い。

 

この点だけなら、チューバッカ枠としてはかなり優秀である。

 

「誰にだまされたんですか、主席」

 

隣にいた整備主任が、目の下にくまを作った顔で聞いた。

 

「俺自身にだ。火星に行けばアクシズの政治ごっこから逃げられる、玉座も暗黒卿もいない、静かに暮らせる。そう思っていた過去の俺を、いまここに呼び出して小一時間説教したい」

 

「静かではありますよ」

 

「生命維持装置の警告音しか聞こえない静けさを、静かとは言わん」

 

その瞬間、司令室の天井から警報が鳴った。

 

ピー、ピー、ピー。

 

チェスターは天井を見上げた。

 

「ほら見ろ。火星は俺が悪口を言うとすぐ反応する」

 

通信士が振り向いた。

 

「第三区画の気圧が低下しています」

 

「またか!」

 

「原因は、旧公国軍規格の接続パーツと、火星都市アルカディア側の古い配管規格が合っていないことによる微細な漏れです」

 

「毎回それじゃないか!」

 

チェスターは机を叩いた。

 

「一年戦争前の技術者どもは、なぜネジの規格ひとつ統一できなかったんだ! ジオニック社もツィマット社もMIP社も、モビルスーツを作る前にまず工具箱を共有しろ!」

 

「それを言うなら、火星都市側の設備も相当古いですからね」

 

整備主任が、端末を見ながらぼやいた。

 

「アルカディアの地下施設、移民初期の規格が混じっています。連邦系、民間企業系、旧宇宙開発公社系、あと出所不明の謎規格まであります」

 

「謎規格ってなんだ」

 

「わかりません。たぶん作った本人も忘れています」

 

「フォースでも使わないと理解できないやつだな」

 

「主席、フォースは存在しません」

 

「知ってる。だから困っているんだ」

 

火星都市アルカディア。

 

その名だけ聞けば、まるで理想郷である。

緑の大地、青い空、豊かな水、自由な開拓民。

そんなものを想像した者は、いますぐ火星表面に立って五分くらい反省したほうがいい。

 

実際のアルカディアは、地下施設と採掘区画と居住ブロックを無理やりつなぎ合わせた、でかい生命維持装置である。

 

人類は宇宙世紀の始まりとともに宇宙へ進出した。

コロニーを造り、月に都市を造り、外惑星圏へ船を送り、火星にも拠点を築いた。

だが、地球圏が一年戦争だのジオン独立戦争だのに夢中になっている間、火星はだいたい忘れられていた。

 

つまり、火星とは、地球圏の人間が都合の悪いものを置いておく引き出しである。

 

行き場のない開拓民。

古いプラント。

忘れられた資源採掘施設。

政治的に面倒な移民集団。

そしていま、ジオンの残党。

 

完全に辺境だった。

 

スターウォーズで言えば、タトゥイーンとホスと、ついでに誰も修理してくれない反乱軍基地を足して、快適さだけ全部引いたような場所である。

 

「主席!」

 

通信士がまた叫んだ。

 

「第二区画から報告。テスト中のリック・ドムが停止しました」

 

「今度は何だ。砂か。寒さか。重力か。全部か」

 

「全部に近いです」

 

「やっぱりか!」

 

外部モニターに、火星の赤い荒野が映し出された。

 

そのど真ん中に、リック・ドムが立っている。

いや、正確には立っているのではない。

止まっている。

もっと正確に言うと、動けなくなっている。

 

「宇宙用のリック・ドムを地表で動かすからこうなるんですよ」

 

整備主任が言った。

 

「元は宇宙戦用です。火星の砂は細かい。関節にもインテークにも入る。地球より低い重力とはいえ、地表運用は地表運用です。あれ、いま巨大な黒い置物です」

 

「言い方」

 

「では、火星の観光名所です」

 

「もっと悪い」

 

チェスターは頭を抱えた。

 

アクシズから持ち出したモビルスーツ群は、彼らにとって命綱だった。

ザク、リック・ドム、ゲルググ。

一年戦争を生き延びたジオンの象徴であり、旧公国軍人たちの心の支えである。

 

だが、心の支えと実用性は別問題だった。

 

砂が入る。

冷える。

シール材が劣化する。

火星の低重力で姿勢制御がずれる。

古い部品と古い部品を組み合わせると、なぜかさらに古い故障が起きる。

 

「スター・デストロイヤーを砂漠の農場で運用しろと言われた帝国軍整備兵の気持ちが、いまなら少しわかる」

 

チェスターがつぶやくと、整備主任は真顔でうなずいた。

 

「たぶんその整備兵も辞表を書いています」

 

「俺も書きたい」

 

「主席が辞めたら誰が責任を取るんですか」

 

「責任という言葉を火星に持ち込むな。酸素が減る」

 

そんなことを言っている間にも、火星の現実は待ってくれない。

 

開拓民には食料が要る。

居住区には空気が要る。

工廠には電力が要る。

モビルスーツには部品が要る。

そしてジオン残党には、なぜか演説が要る。

 

チェスターは、地下ホールに集められた兵士たちを前に立った。

 

アクシズから来た者。

もともと火星にいたジオン系残党。

キシリア派の流れを引く者。

旧公国の技術者。

食うために協力しているだけの開拓民。

 

まとまりがない。

実にまとまりがない。

この寄せ集め感だけなら、反乱同盟にも負けていない。

 

ただし問題は、反乱同盟にはルークもレイアもハン・ソロもいたが、こちらには砂まみれのザクと胃痛持ちのチェスターしかいないことだった。

 

「諸君」

 

チェスターは声を張った。

 

「我々はアクシズを離れ、この火星に来た。なぜか。ハマーンのもとで、ミネバ様を担いだ地球圏帰還戦争に人生を使い切るためではない。デラーズ・フリートのように、星の屑とともに燃え尽きるためでもない」

 

兵士たちが黙って聞いている。

 

「我々は生き残るために来た。そして、ジオンという名を一つの玉座に閉じ込めないために来た」

 

おお、と小さな声が上がった。

 

チェスターは続けた。

 

「だが、いまの我々には問題がある」

 

整備主任が小声で言った。

 

「多すぎますね」

 

「黙れ。演説中だ」

 

チェスターは咳払いした。

 

「問題は、我々の機体が火星に向いていないことだ。ザクもドムもゲルググも、ジオンの魂である。だが魂だけでは砂は防げん。魂だけでは気密は保てん。魂だけではジェネレーターは直らん」

 

兵士たちの何人かが、しんみりとうなずいた。

魂でジェネレーターが直るなら、整備班はとっくに解散している。

 

「よって、我々は新たなモビルスーツ改修計画を始める」

 

チェスターは端末を操作した。

 

画面に映ったのは、ザクのようでザクではなく、ゲルググのようでゲルググではない、どこか見慣れたシルエットの改修案だった。

 

「外見はジオンのまま。中身は火星で生き延びるために総入れ替えする。旧世代の名を残しながら、内部を新しい世代へ置き換える。リファインド・ファースト・ジェネレーション。略して、RFシリーズだ」

 

おおお、と今度は大きな声が上がった。

 

モノアイ。

スパイクアーマー。

曲面装甲。

一年戦争の記憶。

 

ジオンの兵士は、それらを見るとだいたい元気になる。

理屈ではない。

犬がボールを見ると走り出すのと同じくらい、本能に近い。

 

整備主任が手を挙げた。

 

「主席。質問です」

 

「許可する」

 

「外見を旧公国軍風に維持する必要、あります?」

 

ホールが静まり返った。

 

チェスターは、信じられないものを見る目で整備主任を見た。

 

「あるに決まっているだろう」

 

「でも、火星環境への適応を最優先するなら、装甲形状も関節構造も一から見直したほうが」

 

「見直していい」

 

「なら」

 

「ただし、見た目はザクだ」

 

「矛盾しています」

 

「矛盾ではない。伝統だ」

 

「伝統は砂を防ぎません」

 

「砂は防げなくても、心は守る」

 

「主席、技術会議でそういうことを言うと整備班が泣きます」

 

「泣きながら作れ」

 

整備主任は天井を見上げた。

 

「暗黒面より厄介だ……」

 

チェスターとしても、わかっていないわけではなかった。

 

機能だけを考えれば、外見にこだわらないほうがいい。

古いザクのシルエットを守るより、火星用の新設計にしたほうが合理的だ。

ジオン伝統の曲面装甲やモノアイにこだわるせいで、設計上の無駄は増える。

 

だが、彼らはただの開拓団ではない。

 

ジオンの敗残兵なのだ。

 

敗残兵には記号が要る。

旗が要る。

自分たちはまだ何者かであると信じるための形が要る。

 

反乱同盟が古いジェダイの伝説を必要としたように。

銀河帝国の残党がストームトルーパーの白い装甲を手放せなかったように。

ジオンマーズには、モノアイとザクの影が必要だった。

 

「それに」

 

チェスターは声を落とした。

 

「外見が古ければ、敵は油断する」

 

整備主任が眉をひそめた。

 

「敵とは?」

 

「連邦だ。アクシズだ。これから火星に流れ着くかもしれん、ろくでもない連中だ」

 

「具体的には?」

 

チェスターは、しばらく黙った。

 

そして、嫌そうな顔で言った。

 

「ティターンズ」

 

その名前が出た瞬間、ホールの空気が変わった。

 

地球圏ではいま、ティターンズという組織が力を強めつつあった。

一年戦争後の連邦軍が、ジオン残党狩りと治安維持を名目に生み出した、エリート部隊。

黒い制服。

強硬な地球至上主義。

スペースノイドへの圧力。

そして、やがて30バンチ事件のような、取り返しのつかない暴力へ突き進む連中。

 

スターウォーズで言えば、共和国がまだ共和国の顔をしているうちに、内部で帝国親衛隊を育て始めたようなものだった。

ストームトルーパーの白い装甲よりたちが悪い。

なぜなら彼らは、自分たちが正義だと本気で信じているからだ。

 

「ティターンズが火星に来るんですか」

 

兵士の一人が言った。

 

「まだわからん」

 

チェスターは答えた。

 

「だが地球圏の連邦軍は、いずれ失敗する。肥大した軍隊は必ず内部で割れる。ティターンズのような組織は、勝っているうちは威張るが、負け始めると逃げ場を探す」

 

「その逃げ場が火星だと?」

 

「辺境だからな。帝国の残党が逃げ込むには、砂漠の星がちょうどいい」

 

嫌な説得力があった。

 

タトゥイーンには、帝国の目が届きにくい。

ホスには、反乱同盟が基地を隠せる。

辺境とは、いつだって敗者と逃亡者に優しい。

ただし、先に住んでいる者にはあまり優しくない。

 

その時、通信士が慌てて走り込んできた。

 

「主席。地球圏の潜入員から暗号通信です」

 

「今度は何だ。ハマーンが我々を連れ戻しに来るのか」

 

「いえ。ティターンズ内部の一部勢力が、火星方面の調査と資材退避ルートに関心を示しているようです」

 

ホールがざわついた。

 

「それだけではありません」

 

通信士は続けた。

 

「火星内の別系統のジオン残党の動きも活発化しています。ギレン・ザビの思想を強く掲げる一派が、独自に勢力をまとめつつあるとの情報があります」

 

チェスターは眉をひそめた。

 

「ギレン派だと?」

 

「はい。さらに、その周辺でアリシア・ザビを名乗る少女の噂が出始めています」

 

「アリシア・ザビ」

 

チェスターはその名を繰り返した。

 

ザビ。

またザビである。

 

ジオンという組織は、どうしてこうもザビの名前に弱いのか。

誰かがザビを名乗ると、必ず周囲の大人たちが集まり、旗を作り、演説を始め、最後には戦争になる。

 

銀河帝国の残党が、皇帝の影を見つけるたびに新しい指導者を担ぎ上げるのと同じだった。

 

「その少女は本物なのか」

 

チェスターが聞くと、通信士は首を横に振った。

 

「不明です。ただ、ザビ家の後継を自称し、火星の地下勢力をまとめる象徴として利用されつつあるようです」

 

「利用されつつある、か」

 

チェスターは苦い顔をした。

 

ミネバと同じだ。

 

幼い血筋。

大人たちの思惑。

失われた帝国の再興。

黒い軍服の男たち。

そして、どこかから運ばれてくる新兵器。

 

嫌な予感しかしない。

 

「主席」

 

整備主任が小声で言った。

 

「もしティターンズの残党が本当に火星へ来るとしたら、彼らは何を持ち込むと思いますか」

 

チェスターは即答した。

 

「ガンダムだ」

 

ホールが凍った。

 

ジオン兵にとって、ガンダムという単語は縁起が悪い。

一年戦争で散々な目に遭った。

サイド7から始まり、ジャブロー、ソロモン、ア・バオア・クー。

白い悪魔が現れる場所では、だいたいジオン兵が死ぬ。

 

「しかもティターンズのガンダムだ」

 

チェスターは続けた。

 

「連邦の技術と、エリート部隊の傲慢さと、アナハイムあたりの商売根性が混ざった、ろくでもないやつに決まっている」

 

「主席、予想がだいぶ具体的ですね」

 

「歴史はだいたい嫌な方向に当たる」

 

実際、地球圏ではTR計画と呼ばれる、ティターンズ系の試験機計画が進んでいた。

その成果がやがて火星に流れ込み、ガンダムTR-6、そしてインレという巨大な悪夢へつながっていくことを、この時のチェスターはまだ知らない。

 

知らないが、勘は働いた。

 

「RFシリーズを急がせろ」

 

チェスターは言った。

 

「外見はザクでもゲルググでもいい。だが中身は火星で戦えるものにしろ。砂を噛まない関節。低重力に対応した姿勢制御。地下都市で使える火器。すべて必要だ」

 

「技術が足りません」

 

整備主任が即答した。

 

「なら買う」

 

「どこからです」

 

「アナハイム」

 

整備主任は、心底嫌そうな顔をした。

 

「死の商人じゃないですか」

 

「だから売ってくれる」

 

「正論なのが腹立ちますね」

 

アナハイム・エレクトロニクス。

 

地球圏の戦争が大きくなればなるほど、なぜか儲かる企業である。

連邦にも売る。

反連邦組織にも売る。

ジオン残党にも売る。

将来性があれば、たぶん砂漠のジャワにだって部品を売る。

 

クラウド・シティのランド・カルリジアンより商売が上手い。

なお、倫理観は真空に放り出されている。

 

「火星で掘ったレアメタルを代金にする。向こうは欲しがるはずだ」

 

チェスターは言った。

 

「その代わり、こちらは最新のジェネレーター、駆動系、センサー部品を手に入れる。外見は旧式。中身は新型。火星の砂漠で、帝国残党も反乱者もまとめ

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