【宇宙世紀】ジオン残党だけど火星で第二帝国を作る羽目になった件【スターウォーズ概念クロス】 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0088年。
地球圏では、またジオンが名乗りを上げていた。
いや、正確に言えば、ジオンを名乗る連中はずっといた。
一年戦争が終わっても、デラーズ・フリートがいた。
アクシズがいた。
サイド3にも旧公国の亡霊がいた。
火星にも、チェスター主席率いるジオンマーズがいた。
つまり、ジオンという名前は、宇宙世紀における不滅の迷惑メールみたいなものだった。
消しても消しても届く。
ブロックしても別アドレスで来る。
しかも件名はだいたい「正統なるジオンの再興」である。
その中でも、いま地球圏でいちばん派手に暴れているのが、ハマーン・カーン率いるネオ・ジオンだった。
火星地下基地の食堂で、そのニュース映像を見ていたガルシア・ロペスは、手にしたスプーンを本気で曲げそうになっていた。
「おいおいおい。なんだこれ」
ガルシアはでかい。
無口である。
力仕事が得意である。
整備班からは、だいたいチューバッカ枠として扱われている。
ただし、今日はめちゃくちゃしゃべった。
「なんだこれ! あのピンク髪の暗黒卿、とうとうサイド3まで取ったのかよ!」
隣で火星産ジャガイモペーストを食べていたハインツが、顔も上げずに答えた。
「ニュースくらい静かに見ろ、ガルシア」
「静かに見られる内容じゃないでしょうが!」
画面の向こうでは、ハマーン・カーンのネオ・ジオンが、グリプス戦役後の混乱に乗じて地球圏へ影響力を拡大していた。
連邦は疲れている。
エゥーゴも疲れている。
ティターンズは崩壊した。
シャアことクワトロ・バジーナは行方不明。
カミーユ・ビダンは戦えなくなった。
ブライト・ノアはまた胃が痛そうな顔をしている。
つまり、全員ボロボロである。
そこへ、ハマーンが来た。
ミネバ・ラオ・ザビを掲げて。
ガルシアには、その構図がどう見てもスターウォーズだった。
幼い姫。
黒衣の暗黒卿。
帝国残党の艦隊。
復讐を夢見る騎士たち。
そして、疲弊した共和国の隙を突いて帰ってくる銀河帝国。
「どこからどう見てもダース・ベイダー政権じゃねえか」
ガルシアが言うと、ハインツは眉をひそめた。
「ベイダーは黒い仮面を被っているだろう」
「ハマーンは髪型がすでに仮面みたいなもんです」
「本人に聞かれたら消されるぞ」
「火星まで聞こえないことを祈ります」
画面には、ミネバ・ラオ・ザビの姿が映っていた。
ドズル・ザビの娘。
ザビ家最後の直系。
アクシズにいた頃から、ジオンの残党たちにとっては特別な存在だった。
だが、火星のジオンマーズの兵士たちは、その映像を素直に見られなかった。
「なあ、ハインツ先輩」
「なんだ」
「あれ、本物なんですかね」
「本物か偽物かは知らん」
ハインツはスプーンを置いた。
「だが、どちらにせよ自由ではないだろうな」
その言葉に、ガルシアは黙った。
ミネバが本物なら、彼女はハマーンの政権の中心に置かれた人質のようなものだった。
偽物なら、もっとひどい。
どちらにしても、地球圏で叫ばれている「ザビ家の正統」など、火星から見ればかなり怪しかった。
レイア姫が反乱同盟の意思で立つならまだいい。
だが、幼い王女を暗黒卿が玉座に座らせて、「これが帝国の正統だ」と宣言しているように見えるなら、話は別である。
「うちの主席が怒るぞ、これ」
ガルシアが言うより早く、食堂のスピーカーが鳴った。
「全将兵に通達。チェスター主席より緊急演説。主要区画の者は地下ホールへ集合せよ」
ハインツはため息をついた。
「ほらな」
「やっぱり怒ってる」
「怒ってない時の主席のほうが珍しい」
二人は食器を片付け、地下ホールへ向かった。
火星地下基地のメインホールには、すでに多くの兵士と技術者が集まっていた。
ジオンマーズの面々である。
アクシズから来た者。
火星にいた旧ジオン系の者。
キシリア派の流れを引く者。
チェスターについてきた補給畑の連中。
そして、ただ生きるためにこの勢力に加わった開拓民。
統一感はあまりない。
ただし、全員に共通するものが一つある。
ハマーンが気に入らない。
理由は人によって違う。
アクシズを私物化したから。
ミネバを利用しているように見えるから。
地球圏で派手にやりすぎだから。
こっちは火星で砂と配管と戦っているのに、あっちは王朝ごっこをしているから。
嫉妬もある。
正統性への怒りもある。
政治的警戒もある。
単純な好き嫌いもある。
ジオン残党というものは、思想が濃いぶん、感情もだいたい濃い。
壇上にチェスター主席が現れた。
昔の名はオセアノン・パプ。
アクシズから離脱し、火星に逃げ、ここでジオンマーズを作った男。
現在はチェスター主席を名乗っている。
見た目はだいぶ疲れたおっさんである。
だが、壇上に立つと妙に強い。
ガルシアは、そこだけは少し尊敬していた。
「火星の同胞たちよ」
チェスターの声が、地下ホールに響いた。
「地球圏ではいま、ハマーン・カーン率いるネオ・ジオンが、ミネバ・ラオ・ザビ様の名を掲げて勢力を拡大している」
ホールがざわつく。
「ハマーンは言うだろう。自分たちこそ正統なるジオンである、と。ザビ家の血を掲げ、アクシズの軍を率い、連邦の弱体化に乗じて地球圏へ帰還した。我々は帝国の帰還である、と」
チェスターはそこで一度、言葉を切った。
「だが、私は認めない」
ホールが静まった。
「ハマーンのネオ・ジオンは、ジオンのすべてではない。ミネバ様を掲げれば正統になれるというなら、銀河帝国の残党がレイア姫を玉座に座らせて『これが反乱同盟の意思だ』と言い張るようなものだ。旗と本人の意思は違う。血統と政治利用も違う」
ガルシアは思わずうなずいた。
「いいぞ主席」
ハインツが小声で言う。
「静かに聞け」
チェスターは続けた。
「我々ジオンマーズは、ザビ家を軽んじるものではない。だが、ザビ家の名を誰か一人の玉座に閉じ込める気もない。我々はアクシズの神殿から離れ、火星の砂の中で生き延びる道を選んだ」
彼の声に熱がこもる。
「つまり、こうだ。ハマーン・カーンがミネバ様を掲げようが、サイド3を得ようが、地球圏で帝国ごっこを始めようが、我々はその指揮下には入らない」
ホールが揺れた。
「我々こそ、火星のジオンだ。ジオンマーズだ。火星で生き、火星で作り、火星で戦う。ザクの影を捨てず、ゲルググの名を忘れず、RFシリーズによって新しい牙を得る。我々は、ハマーンの暗黒面に膝をつかない」
兵士たちが拳を上げた。
「ジーク・ジオン!」
誰かが叫ぶ。
「ジーク・ジオン!」
別の誰かも叫ぶ。
ガルシアも叫びかけたが、ふと現実に戻った。
「なあ、ハインツ先輩」
「なんだ」
「これ、地球圏に届いたらやばくないですか」
「やばいな」
「ハマーンが怒って、ドライセンとかガザDとか送ってきませんか」
「可能性はある」
「うち、まだRFシリーズも完成途上ですよね」
「そうだな」
「主席、勢いで宣戦布告みたいなこと言ってません?」
「言っているな」
「止めなくていいんですか?」
ハインツは、壇上で演説するチェスターを見た。
「止まると思うか?」
「思いません」
「なら、そういうことだ」
ガルシアは頭を抱えた。
ジオンという組織は、なぜこうも正統性で殴り合いたがるのか。
一年戦争ではギレンとキシリアが揉めた。
デラーズは大義に殉じた。
アクシズはハマーンのもとで地球圏に戻った。
そして火星ではチェスターが「こっちこそ別系統のジオンだ」と言い始めている。
スターウォーズで言えば、銀河帝国の残党が三つくらいに分裂して、それぞれ「我こそ皇帝の真意を継ぐ者」と言い出している状態である。
面倒くさい。
とても面倒くさい。
だが、燃える。
ジオンの兵士にとって「正統性をめぐる内ゲバ」は、なぜか血が騒ぐ危険な娯楽でもあった。
その時、通信士がホールに駆け込んできた。
「主席!」
チェスターが演説を止める。
「なんだ」
「地球圏から緊急観測データです。ネオ・ジオン内部で、グレミー・トトを中心とした反乱の兆候が拡大しています」
ホールがどよめいた。
「グレミー?」
ガルシアが眉をひそめた。
「あの金髪の若造か?」
ハインツがうなずく。
「ザビ家の血筋を主張する、また面倒なやつだ」
「またザビかよ!」
ガルシアは叫んだ。
「なんでジオンは、困った時すぐザビを増やすんだよ!」
誰も答えられなかった。
ハマーンのネオ・ジオンは、ミネバを掲げて正統を主張している。
そこへグレミー・トトが、自分こそ正統だと言い出す。
つまり、地球圏のジオンは、連邦と戦いながら内部でも正統性バトルを始めたのである。
帝国軍が反乱同盟と戦っている最中に、帝国軍内部で「いや、私こそ真の皇帝の後継者です」と将軍同士が撃ち合うようなものだ。
勝てるわけがない。
「主席」
通信士はさらに続けた。
「加えて、別件です」
「まだあるのか」
チェスターの顔が嫌そうに歪む。
「はい。グリプス戦役および第一次ネオ・ジオン抗争の混乱の中で、地球圏から複数の敗残兵船団が外縁航路へ移動しています。その一部に、元ティターンズ系の識別コードを持つ艦艇が含まれています」
ホールが一気に静まり返った。
ティターンズ。
その名前は、火星でも十分に不吉だった。
地球連邦軍内部に生まれた黒い騎士団。
スペースノイドを抑えつけるために作られたエリート部隊。
グリプス戦役で敗れ、崩壊しつつある連中。
スターウォーズで言えば、帝国軍の中でも特に面倒な親衛隊が、負け戦のあと行き場を失って辺境に逃げてくるようなものだった。
「元ティターンズの船団が、火星方面へ?」
チェスターの声が低くなった。
「はい。さらに、彼らの輸送記録にTR系列の符号が確認されています」
整備主任が息を呑んだ。
「TR系列……」
ガルシアには詳しいことはわからない。
だが、周囲の整備班の顔色が変わったことで、ろくでもないものだと理解した。
「なんですか、それ」
ガルシアが聞くと、ハインツが小声で答えた。
「ティターンズの特殊試験機計画だ。ガンダム系のやばいやつが絡む」
「ガンダム?」
その単語で、ガルシアの背筋が冷えた。
ジオン兵にとって、ガンダムは縁起の悪い言葉である。
白い悪魔。
サイド7から始まった悪夢。
ア・バオア・クーでジオンの歴史に穴を開けた存在。
それが、今度はティターンズ仕様で火星に来るかもしれない。
「待て待て待て」
ガルシアは両手を振った。
「こっちはいま、ハマーンが気に食わないとか、ミネバ様が本物かどうかとか、グレミーがまたザビを名乗ったとか、そういう話をしてたんですよね?」
「していたな」
「そこへ、元ティターンズがガンダムを持って火星に来る?」
「そういうことらしい」
「話が増えすぎだろ!」
ハインツは静かにうなずいた。
「宇宙世紀だからな」
「宇宙世紀って便利な言葉ですね!」
壇上では、チェスターが険しい顔で通信士を見ていた。
「その船団の目的は?」
「不明です。ただし、火星圏への退避、もしくは合流先の確保を図っている可能性があります」
「合流先?」
「火星内部の反ジオンマーズ勢力。ギレン思想を掲げる一派。および、ザビ家の後継者を自称するアリシア・ザビ周辺との接触が疑われます」
またザビ。
ホール全体が、言葉にならない疲労感に包まれた。
ガルシアは小声で言った。
「ザビ家、多すぎません?」
「本物かどうかはともかく、名乗るやつが多い」
ハインツが答えた。
「ジオンの残党にとって、ザビの名はライトセーバーみたいなものだ。持っているだけで周囲が勝手に意味を見出す」
「危ない武器ですね」
「危ない武器だ」
チェスターは、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「全軍に通達」
ホールが静まる。
「ハマーンのネオ・ジオンを認めないという我々の立場は変わらない。だが、地球圏の内ゲバを笑っている余裕はなくなった」
その声には、先ほどまでの演説の熱とは違う、冷たい緊張があった。
「元ティターンズが火星へ来る。しかもTR系列の技術を持ってくる可能性がある。これは単なる亡命ではない。火星の勢力図を変える侵入だ」
整備主任が言った。
「主席。もしTR系のガンダムが本当に来るなら、現状のRF試作機では正面からの対抗は厳しいです」
「わかっている」
チェスターは答えた。
「だが、逃げ場はない。ここは火星だ。我々がアクシズから逃げてきた最後の場所だ。ここを奪われたら、もう次のタトゥイーンはない」
ガルシアは、ごくりと唾を飲んだ。
ハマーンを笑っていた。
ミネバの正統性に文句をつけていた。
グレミーの内ゲバに呆れていた。
その間に、地球圏で負けた別の帝国残党が、ガンダムを抱えてこちらへ向かっている。
笑えない。
いや、状況だけなら笑える。
笑えるくらいひどい。
だが、当事者としてはまったく笑えない。
「全区画、警戒態勢」
チェスターが命じた。
「RFシリーズの試験機を動かせる状態にしろ。旧式機も全部出せ。ザクでもゲルググでも、火星で動くものはすべて戦力だ」
「主席」
ガルシアは思わず声を上げた。
壇上のチェスターがこちらを見る。
「なんだ、ガルシア」
「ガンダムが来るんですか」
ホールが沈黙した。
チェスターは少しだけ間を置いた。
「来るかもしれない」
「火星に?」
「火星にだ」
「ジオンのいる火星に?」
「そうだ」
ガルシアは、深く息を吸った。
「最悪ですね」
チェスターはうなずいた。
「最悪だ」
「フォースに祈っていいですか」
「祈るだけなら無料だ」
「効果は?」
「知らん」
ガルシアは天井を見上げた。
火星の天井は低い。
いや、地下基地なので当然なのだが、今日に限っては宇宙全体が低くのしかかってくるようだった。
遠い地球圏では、ハマーンとグレミーがジオンの正統をめぐって争っている。
連邦は疲弊し、エゥーゴも消耗し、ティターンズは崩壊した。
その敗者たちが、火星へ逃げてくる。
ザビの名を掲げる少女と、TR系列のガンダムを伴って。
そして火星には、チェスターのジオンマーズがいる。
つまり、次の戦争の材料がそろいつつあった。
王女。
暗黒卿。
偽の後継者。
帝国残党。
辺境の砂漠。
ガンダムという名のデス・スター。
そして、それに巻き込まれるならず者たち。
スターウォーズなら、そろそろオープニングクロールが流れる頃である。
ただし、こちらにはかっこいい音楽はない。
あるのは警報音と、砂にまみれたザクと、胃が痛そうな主席だけだ。
「ハインツ先輩」
ガルシアが言った。
「俺、さっきまでハマーンのこと笑ってましたけど」
「ああ」
「笑ってる場合じゃなかったですね」
「そうだな」
「でも、やっぱりハマーンも悪いですよね。地球圏でちゃんとティターンズを片付けておいてくれれば、こっちに来なかったのに」
「責任転嫁が早いな」
「ジオン兵ですから」
ハインツは少し笑った。
「それは否定できん」
火星基地は、あっという間に戦時体制へ移行した。
整備班はRF試作機の稼働チェックに走る。
補給班は弾薬と推進剤を確認する。
通信班は外縁航路の監視を強化する。
古いザクやゲルググまで、倉庫から引っ張り出された。
どれも完全ではない。
どれも古い。
どれも火星の砂に苦しんでいる。
だが、それがジオンマーズのすべてだった。
ガルシアは、自分の持ち場である格納庫へ走った。
彼の前には、火星仕様へ無理やり改修されたザクが立っている。
見た目は古い。
装甲も傷だらけ。
関節には砂対策のカバーが巻かれ、肩のスパイクは何度も補修されている。
だが、モノアイはまだ光っていた。
「頼むぞ」
ガルシアは機体を見上げた。
「相手がガンダムでも、せめて一発くらいは当てさせてくれ」
その願いが届くかどうかは、わからない。
フォースは存在しない。
ジェダイもいない。
ライトセーバーもない。
だが、ビーム・サーベルはある。
ガンダムは来るかもしれない。
そして火星の砂漠には、逃げ場がない。
宇宙世紀0088年。
ハマーンのネオ・ジオンは、ミネバを掲げて地球圏を揺るがした。
グレミーの反乱は、ジオンの正統性をさらに泥沼へ落とした。
そして、その混乱の裏で、ティターンズの敗残兵たちは火星への航路を進み始めていた。
火星のジオンマーズは、地球圏の帝国ごっこを笑っていた。
だが次に笑われるのは、自分たちかもしれない。
ガルシアはザクのコックピットに乗り込み、ハッチを閉めた。
暗い操縦席の中で、モノアイの起動音が低く響く。
外では、赤い砂嵐が吹いている。
この星に、まもなく新しい敗者たちが来る。
そして敗者同士の戦争ほど、しつこく、醜く、終わりにくいものはない。
嫌な予感だけは、今日もよく当たった。