【宇宙世紀】ジオン残党だけど火星で第二帝国を作る羽目になった件【スターウォーズ概念クロス】 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0089年。
火星に、新しい帝国が生まれようとしていた。
いや、生まれようとしていた、という言い方は少し綺麗すぎる。
実際には、地球圏で負けたティターンズ残党と、火星でくすぶっていたジオン系勢力と、ザビ家の後継者を自称する少女と、ガンダムTR-6という厄介すぎる兵器が、同じ地下施設に押し込められた結果、勝手に発火したようなものだった。
新国家というより、危険物混載である。
その中心にいたのが、アリシア・ザビだった。
年齢は若い。
表情は薄い。
声は静か。
だが、自分が人の上に立つことを、まるで疑っていない。
火星の地下に急造された謁見の間で、アリシアは玉座めいた椅子に座っていた。
一応、玉座である。
ただし、地球圏の本物の宮殿にあるような由緒正しいものではない。
元は火星都市アルカディアの管理局長用の椅子だったものを、ジオン風の装飾とティターンズ風の黒い金属パーツで無理やり改造した結果、悪趣味な高級ゲーミングチェアみたいになっている。
それでも、座る本人が玉座だと思えば玉座である。
帝国というものは、だいたいそこから始まる。
「皆さん」
アリシアは静かに言った。
「今日、この火星に新たな秩序が生まれます」
謁見の間には、元ティターンズ兵、火星のギレン派残党、技術者、警備兵、そしてなんとなく流れで参加してしまった関係者たちが並んでいた。
全体的に黒い。
ティターンズの制服。
ジオン系の濃い軍服。
火星仕様の暗色装備。
照明も暗い。
ストームトルーパーの白さとは逆方向だが、空気だけなら完全に帝国軍の式典だった。
オットー・ハインリヒは、その端のほうで直立していた。
元T3部隊系メカニック。
現在は、ガンダムTR-6の整備担当。
そして心の中では、今すぐ帰りたい人間代表である。
「なあ、先輩」
オットーは小声で隣のコンラッドに話しかけた。
「これ、建国式典なんですか?」
「そうだ」
「いつの間に国を作る話になったんですか?」
「火星航路の途中からだ」
「その場の勢いで国って作れるんですか?」
「歴史上、だいたい勢いで作っている」
「嫌な説得力がありますね」
壇上では、アリシアが続けていた。
「地球圏のネオ・ジオンは、ハマーン・カーンの失政とグレミー・トトの反乱によって自壊しました。ティターンズは、地球連邦の腐敗した中枢とエゥーゴの反乱によって瓦解しました。ジオンマーズは、過去の亡霊にすがり、古いザクの影に隠れているだけです」
オットーは思った。
言い方。
いや、言っていることは一部当たっている。
だが、初対面の相手を全部まとめて見下すのは、政治的にはかなり危うい。
もっとも、帝国を作る人間に、最初から謙虚さを期待してはいけない。
アリシアは立ち上がった。
「ならば、火星には新しい正統が必要です」
正統。
その単語が出た瞬間、ジオン系の兵士たちの背筋が伸びた。
ジオン関係者は、この言葉に弱い。
ものすごく弱い。
ザビ家。
正統。
再興。
独立。
ギレンの意思。
このあたりの単語を並べると、一定数のジオン残党はだいたい真顔になる。
反乱同盟の古参兵がジェダイの名を聞いて姿勢を正すようなものである。
アリシアは右手を掲げた。
「我々は、レジオンを名乗ります」
沈黙。
数秒後、誰かが小さく言った。
「レジオン……」
その響きは悪くなかった。
強そう。
黒そう。
組織っぽい。
帝国残党感がある。
ついでに、意味を深く聞かなければ格好いい。
オットーは小声で聞いた。
「レジオンって、どういう意味なんですか」
コンラッドは前を向いたまま答えた。
「雰囲気だ」
「雰囲気で国名を?」
「国名はだいたい雰囲気が大事だ」
「すごいこと言ってますよ」
壇上のアリシアは、そんな会話など聞こえていない。
「レジオンは、ザビ家の正統なる意思を継ぎ、ティターンズの技術を受け継ぎ、火星に新たな秩序を築きます」
オットーは心の中で頭を抱えた。
ザビ家。
ティターンズ。
火星。
新たな秩序。
危険な単語を四つ同じ文章に入れてしまった。
スターウォーズで言えば、皇帝の血筋を名乗る少女が、帝国残党の技術者たちを従え、辺境の砂漠惑星に新しいデス・スター建造計画を発表しているようなものだ。
よくない。
非常によくない。
しかし、謁見の間の空気は盛り上がっていた。
元ティターンズの兵士たちは、行き場を失っていた。
地球圏へ戻れば、敗残兵である。
連邦軍主流派からも警戒される。
エゥーゴからは当然嫌われる。
ネオ・ジオンにも信用されない。
だから、彼らには新しい旗が必要だった。
火星のギレン派残党も同じだ。
彼らはジオンマーズに押されていた。
チェスター主席のジオンマーズは、古いジオンの外見を保ちながら、RFシリーズによって火星での実戦力を高めつつある。
対抗するには、もっと強い旗と、もっと強い武器が要る。
そこへアリシアが来た。
ザビ家の名を持つ少女。
ティターンズ残党を従える象徴。
そして背後には、ガンダムTR-6。
完璧だった。
あまりにも完璧で、オットーは嫌な汗しか出なかった。
「こりゃ駄目だ」
彼は小声で言った。
「何がだ」
コンラッドが聞く。
「全員、担ぐ気満々じゃないですか」
「旗は担がれるためにある」
「担がれた旗がまともな方向に進むとは限りませんよ」
「それは歴史が決める」
「歴史に丸投げしないでください」
アリシアの側近が進み出た。
ティターンズ上がりの将校で、顔が硬い。
軍服も硬い。
たぶん会話も硬い。
「アリシア総帥。ジオンマーズのチェスター主席より、返答が届いております」
「読んで」
アリシアは当然のように命じた。
将校は端末を開いた。
その顔が、少しだけ引きつった。
「どうしたの」
「いえ、その……かなり率直な内容です」
「読みなさい」
将校は覚悟を決めた顔で読み上げた。
「どこの馬の骨とも知れん小娘がザビ家を名乗るな」
謁見の間が凍った。
オットーは視線を横に逃がした。
あ、これ駄目なやつだ。
将校は続ける。
「ティターンズの敗残兵どもと手を組んだ時点で、お前たちはジオンの面汚しである」
元ティターンズ兵たちの顔が険しくなる。
「ガンダムの技術に魂を売った連中が、ジオンの正統を名乗るなど笑止千万」
ジオン系兵士たちもざわつく。
「火星は我々ジオンマーズの土地である。ザビ家を騙るなら、まずそのガンダムを溶鉱炉に放り込んでから出直してこい」
読み終わった。
沈黙。
アリシアは、にこりとも笑っていなかった。
「……なるほど」
声が静かだ。
静かすぎる。
オットーは経験上知っていた。
本当に怒っている人間は、怒鳴らない時がある。
その場合、怒鳴っている時より危ない。
「チェスター主席は、ずいぶんと礼儀を知らない方なのですね」
アリシアは言った。
「ええ、まあ」
側近が汗を浮かべる。
「火星の砂に長くいると、言葉も荒くなるのでしょうか」
オットーは思った。
たぶん元からです。
もちろん口には出さない。
アリシアは、ゆっくりと玉座から降りた。
「ジオンマーズは、古い夢にすがる敗残兵です。ザク、ゲルググ、RFシリーズ。過去の形を守ることで、自分たちがまだジオンであると信じている」
彼女は謁見の間の奥へ歩く。
そこには巨大な隔壁があった。
「ですが、彼らは理解していません。正統とは、古い形を守ることではありません。正統とは、支配する力を持つことです」
隔壁が開く。
その奥に、ガンダムTR-6があった。
白い機体。
細いシルエット。
異様な存在感。
そして、ジオン兵にとっては見ただけで胃が痛くなるガンダムの名。
オットーは心の中でため息をついた。
出た。
うちの厄介な看板商品。
アリシアはTR-6を見上げた。
「これが、我々の力です」
謁見の間の空気が変わる。
元ティターンズ兵たちは誇らしげに胸を張った。
ジオン系の兵士たちは複雑な顔をした。
ガンダムという名は嫌いだ。
だが強い兵器は好きだ。
ジオン残党の心は面倒くさい。
「主席」
オットーは小声でコンラッドに言った。
「この機体、火星環境でまだ完全には安定してませんよね」
「安定はしていない」
「砂塵対策も追加調整が必要ですよね」
「必要だ」
「サイコミュ系の連動も磁気嵐で怪しいですよね」
「怪しい」
「それ、いま出して大丈夫なんですか」
コンラッドは一秒だけ黙った。
「政治的には大丈夫だ」
「技術的には?」
「聞くな」
「聞きたいです」
「聞くな」
アリシアは振り返った。
「コンラッド」
「はっ」
コンラッドが直立する。
「TR-6は動きますね?」
オットーは心の中で叫んだ。
やめてください。
そういう聞き方をしないでください。
技術者に「動きますね?」と聞くのは、ほぼ脅迫です。
コンラッドは答えた。
「動きます」
オットーは横から小声で言った。
「条件付きで」
コンラッドが肘で小突いた。
アリシアは聞こえていないのか、聞こえていないふりをしたのか、満足げにうなずいた。
「では、ジオンマーズに示しましょう。火星の支配者が誰なのかを」
その瞬間、謁見の間に歓声が上がった。
「ジーク・レジオン!」
誰かが叫んだ。
「ジーク・レジオン!」
声が増える。
元ティターンズ兵も、火星のジオン系兵士も、同じ言葉を叫び始めた。
冷静に考えると、かなり奇妙な光景だった。
地球至上主義のティターンズ残党が、ザビ家を名乗る少女の下で、火星にジオン系国家を作り、「ジーク・レジオン」と叫んでいる。
思想の整合性は、だいぶ怪しい。
だが敗者にとって、整合性より旗のほうが大事だった。
旗があれば、昨日の負けを今日の建国に言い換えられる。
撤退を転進にできる。
亡命を遠征にできる。
敗北を準備期間にできる。
帝国残党は、そうやって生き延びる。
「オットー」
コンラッドが低く言った。
「TR-6の出撃準備を進めろ。ウーンドウォート単体で動かす。インレ構成はまだ早い」
「そりゃそうでしょうね。あんなものを今出したら、火星の地表より先に整備班が崩壊します」
「口を動かすな。手を動かせ」
「僕の口は精神安定装置なんです」
「故障しているぞ」
オットーは文句を言いながら走った。
TR-6の起動準備。
火星環境用の微調整。
推進剤残量確認。
センサー補正。
砂塵侵入防止シール。
冷却系統。
武装接続。
作業項目が多すぎる。
「デス・スターの主砲を撃つほうが、まだ手順少ないんじゃないか……?」
オットーがぼやくと、近くの整備兵が真顔で答えた。
「デス・スターは排熱口の点検を忘れるので駄目です」
「そこだけ教訓にするな」
一方その頃、ジオンマーズ側では、チェスター主席がレジオンからの動きを受けていた。
火星地下の別区画。
ジオンマーズ司令室。
チェスターは端末に映るアリシアの宣言文を見て、心底嫌そうな顔をしていた。
「レジオン建国だと?」
整備主任が答える。
「はい。アリシア・ザビを総帥とし、元ティターンズ残党および火星内の反ジオンマーズ勢力が合流した模様です」
「ザビの名にティターンズを混ぜるな。食い合わせが悪すぎる」
「もう混ざっています」
「ガンダムTR-6もあるんだろう」
「あります」
「最悪だな」
「最悪です」
チェスターは腕を組んだ。
「つまり、こういうことか。地球圏で負けた黒服どもが、火星まで逃げてきて、ザビ家を名乗る小娘を担ぎ、ガンダムを御神体にして、我々に膝をつけと言っている」
「だいたい合っています」
「スターウォーズなら、皇帝の孫を名乗る少女が帝国残党をまとめ、辺境で新しいデス・スターを組み立て始めたようなものだな」
「かなり嫌な話ですね」
「宇宙世紀だぞ。嫌な話しかない」
チェスターは立ち上がった。
「全軍に通達。レジオンを火星の正統政府とは認めない。アリシア・ザビの称号も認めない。ティターンズ残党の火星支配も認めない」
「戦争になります」
「もうなっている」
チェスターの目が細くなる。
「第一次火星内戦だ」
その言葉が司令室に落ちた。
第一次火星内戦。
誰かが名付けたわけではない。
だが、その瞬間から、そう呼ぶしかないものが始まった。
レジオンは、TR-6を中心とする新しい力で火星を支配しようとする。
ジオンマーズは、RFシリーズと旧公国の誇りでそれに抵抗する。
どちらも敗者の集まりだった。
地球圏で居場所を失った者。
アクシズから離れた者。
ザビ家の名にすがる者。
ジオンの影を捨てられない者。
ティターンズの技術を手放せない者。
敗者同士の戦争はしつこい。
なぜなら、彼らには負けた理由を認める余裕がないからだ。
レジオン側では、TR-6が格納庫から引き出されていた。
アリシアは、その前に立っていた。
「火星は、我々のものになります」
オットーは操縦補助端末を確認しながら、小声で言った。
「なりませんように」
コンラッドが睨む。
「聞こえるぞ」
「聞こえないように言いました」
「聞こえた」
「なら忘れてください」
アリシアは振り返る。
「オットー」
「はいっ」
「この機体は、私の意志に応えますか?」
オットーは一瞬だけ固まった。
技術者として正確に答えるなら、機体は意志には応えない。
操作系統と制御系統と出力系統が正常なら動く。
サイコミュ系の補助が噛む場合はパイロット適性も影響する。
火星環境では砂塵と磁気嵐の影響が懸念される。
だが、それを全部言う空気ではない。
「応えるように整備します」
オットーはそう答えた。
アリシアは満足げにうなずいた。
「よろしい」
オットーは心の中で思った。
言い方、完全に皇帝側だ。
レイア姫ではない。
ルークでもない。
ハン・ソロでもない。
これは、玉座に座る側の人間だ。
しかも本人は、自分が火星に秩序をもたらすと信じている。
その手段が、ザビ家の名とティターンズ兵とガンダムTR-6であることに、何の矛盾も感じていない。
シス向きだ。
絶対にシス向きだ。
やがて、レジオンの最初の部隊が出撃した。
火星の地下ハッチが開き、赤い砂が吹き込む。
砂嵐の向こうへ、TR-6と随伴機が進む。
ジオンマーズの拠点へ向けて。
一方、ジオンマーズ側でもRF試作機と旧式機が動き出す。
ザク。
ゲルググ。
火星用に改修された機体。
まだ不完全なRFシリーズ。
モノアイが赤い砂の中で光る。
ガルシアは、自分のザクのコックピットで通信を聞いていた。
「レジオン部隊、接近中」
ハインツの声が入る。
「ガンダムタイプを確認。TR-6と思われる」
ガルシアは深呼吸した。
「本当に来やがった」
「怖いか」
ハインツが聞く。
「怖いっすよ」
ガルシアは即答した。
「でも、ここで逃げたら火星のザク乗りとして終わりです」
「いい返事だ」
「あと、あの小娘に火星を帝国にされたら困ります」
「そうだな」
「こっちは先に住んでたんですから」
「不動産問題みたいに言うな」
「火星の地下施設はだいたい不動産問題ですよ」
戦闘は、まだ始まっていない。
ただ、二つのジオンが向かい合っていた。
一方は、ザビ家を名乗る少女とティターンズの技術を掲げるレジオン。
もう一方は、アクシズから離れ、火星で独自のジオンを築いたジオンマーズ。
どちらも正統を名乗る。
どちらも敗者の末裔。
どちらも、自分たちが火星を守ると思っている。
そして、どちらも相手を認めない。
スターウォーズなら、帝国残党同士が砂漠の星で玉座を奪い合い、その横で反乱軍のならず者が頭を抱えているような話である。
ただし宇宙世紀では、全員が本気だった。
赤い砂嵐の向こうで、TR-6のセンサーが光る。
それに応えるように、ジオンマーズのザクのモノアイが灯る。
第一次火星内戦。
その最初の火花が、まもなく散ろうとしていた。
フォースは存在しない。
だが、暗黒面みたいなものなら、火星の地下にいくらでもあった。