機動戦士ガンダム ギレン、ハマーン、シャアの次なる答え――ジオンの最高頭脳、サナリィの最新ガンダムで宇宙世紀を総決算する 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0089年。不毛の極みである赤茶色の惑星・火星の地表は、まさに「全宇宙規模の迷子収容所」と化していた。
地球圏で盛大に自滅したエリート組織「ティターンズ」の敗残兵どもが、命からがら逃げ延びてきた先。そこに待っていたのは、先住の芋掘りジオン残党こと「ジオンマーズ」の面々である。
普通なら「お互い地球連邦軍にシバかれた負け組同士、仲良く傷を舐め合おうじゃないか」と芋焼酎でも酌み交わすところだが、そこは宇宙世紀の住人である。彼らの辞書に「協調」や「妥協」といった生ぬるい文字は存在しない。あったら一年戦争もグリプス戦役もあんな泥沼になっていない。
そんな一触即発のメンヘラたちの前に、彗星の如く、いや、文字通り地球圏からの密航船で颯爽と現れた一人の少女。
その名はアリシア・ザビ。
「……ふふ。ふふふふふ。見なさい、この不毛にして気高い、赤く燃え盛る大地を! これこそ我がザビ家にふさわしい、新たなる王国の揺り籠です!」
火星の地下シェルターに急造された、最高に趣味の悪い(ザビ家特有の成金趣味なゴールドをこれでもかとあしらった)謁見の間の玉座で、アリシアは脳内で完璧な勝利のファンファーレを鳴り響かせていた。
彼女の頭の中は、今や「全宇宙をひざまずかせる女王様ごっこ」の妄想でパンパンに膨れ上がっていた。
地球圏ではハマーン・カーンとかいうピンク髪の女狐がミネバ・ラオ・ザビという幼女を担いでネオ・ジオンを名乗っていたが、あんなものは偽物だ。断じて認めない。我が血統こそが、あのギレン・ザビ総帥の意志を継ぐ、純度100パーセントの「ザビ家」の正統な後継者なのである。誰がなんと言おうとそうなのだ。異論はガンダムTR-6[ウーンドウォート]のメガ粒子砲で消し飛ばす。
「いいですか、我が忠実なる下僕……ゴホン、栄光なるティターンズの騎士たちよ! 我々は今日から『レジオン』を名乗ります! 意味? カッコいいからに決まっているでしょう! 異論は認めません!」
玉座の下で、ガチガチの軍服に身を包んだ元ティターンズの筋金入りのオッサン兵士たちが、大真面目な顔で「ジーク・ジオン!」ならぬ「ジーク・レジオン!」と拳を突き上げている。
この光景、客観的に見れば「地球至上主義で宇宙ノイドに毒ガスを撒いていたはずの超エリート軍人どもが、なぜかザビ家を名乗る少女を神輿にしてジオンの残党狩り組織を結成する」という、論理構造がゲシュタルト崩壊を起こしているギャグにしか見えない。
だが、地球圏で行き場を失い、精神的に追い詰められた彼らにとって、アリシアという「ザビ家のアイコン」と、彼女がもたらした「ガンダムTR-6」の設計データは、すがりつくのに最高の偶像(ドラッグ)だったのだ。
「アリシア総帥。ジオンマーズのチェスター主席より、我が方の『無条件降伏・およびザビ家の名のもとへの臣従要求』に対する返答が届きました」
側近の元T3部隊関係者の男が、ガンダムのウサギマークが印刷された電子端末を恭しく差し出してきた。
アリシアはフンと鼻を鳴らし、高飛車に端末を引っ掴んで画面を睨みつける。
「ほう、あの芋掘り老人が。一体どんな泣き言を……って、何ですかこれは!?」
画面に表示されていたのは、チェスター主席が真っ赤な顔で中指を立てているかのような、超ド級の罵詈雑言の嵐だった。
『どこの馬の骨とも知れん小娘がザビ家を騙るな!』
『ティターンズの敗残兵どもと手を組んだ時点で、お前らはジオンの面汚しだ!』
『こちとら一年戦争の時からザクのモノアイだけを見つめて生きてきたんだよ! ガンダムの技術に魂を売った売国奴め、火星の錆にしてくれるわ!』
「な、ななな……何たる無礼! 何たる不敬! この私が! ザビ家の正統なる血を引くこの私が、直々に『配下にしてあげる』と言っているのに、あのアナクロな骨董品マニアのジジイめ!!」
アリシアはあまりの屈辱に、頭のてっぺんから湯気を出しそうになりながら玉座をドンドンと叩いた。
彼女の脳内シミュレーションでは、ザビ家の名前を出した瞬間に、ジオンマーズの連中が「ははーっ! ミネバ様より全然本物っぽいお姿、恐れ入ります!」と涙を流して五体投地し、秘蔵の資源やモビルスーツの生産ラインをすべて献上してくるはずだったのだ。
それがどうだ。完全に「頭のイカれたコスプレ女」扱いである。
「許しません……! 徹底的に教育してあげます! おい、コンラッド! オットー! どこにいますか!」
「は、はいっ! 総帥!」
謁見の間の隅で、これまたティターンズ仕様の黒い制服を着せられたメカニックのオットーたちが、ビクッと肩を震わせて前に出た。
「地球圏から持ってきたあのガンダムTR-6[ウーンドウォート]、および換装用のパーツの準備はどうなっています!? 今すぐあのザクの化石どもを、跡形もなくスクラップにしに行きますよ!」
オットーは冷や汗を滝のように流しながら、アリシアの怒気におののいた。
「あ、あの、アリシア総帥……。機体の整備自体は完了しているのですが、火星の酸化鉄を含んだ特殊な砂嵐のせいで、TR-6のウサギマークの入った精密センサーが『ここどこ? 地球圏じゃないんだけど?』って毎日エラーを起こしておりまして……。あと、ジオンマーズが独自に開発しているという『RFシリーズ』ですが、あれ、外見こそザクやゲルググですが、中身はアナハイム・エレクトロニクス社製の最新鋭ジェネレーターが詰まっていて、なめてかかると返り討ちに遭います!」
「うるさいウルサイ五月蝿い! ガンダムがザクに負けるわけがないでしょう! 一年戦争の歴史の教科書を読み直しなさい! いいですか、我がレジオンの思想は『ザビ家の権威』と『ティターンズの武力』、そして『かわいいウサギのガンダム』という最強の三位一体で成り立っているのです! 伝統美だけで戦っている旧世紀の遺物どもに、最先端の『インレ』の絶望を教えてあげるのです!」
アリシアの頭の中では、すでに火星全土が自分の足元にひざまずき、巨大決戦兵器「ガンダムTR-6[インレ]」が火星の空を支配する美しい「女の楽園(レジオン)」の完成図が、3Dグラフィックで鮮明に描かれていた。
「全軍に命じます! これより『第一次火星内戦』の火蓋を切って落とします! 目標、ジオンマーズの地下拠点の全プラント! 逆らう者は一人残らずパイプライン建設の強制労働に叩き込んであげますから、覚悟しなさい!」
「ジーク・レジオン!!」
オッサン兵士たちが再び狂信的な咆哮を上げる。
その様子を見ながら、オットーは心の中で激しく頭を抱えていた。
(やってられるかチクショー! 地球圏でシロッコが死んでティターンズが終わったと思ったら、今度は火星でザビ家マニアの超絶ワガママお嬢様のワンマン経営に付き合わされるのかよ! これならエゥーゴに降伏して、月の刑務所で大人しく服役してた方が三倍マシだったわ!!)
しかし、現場の整備兵のそんな悲痛な叫びなど、アリシア総帥の耳には1ミリも届かない。
「さあ、見せてあげなさい、ガンダムの真の力を! ジオンの魂(笑)だの伝統(笑)だのにしがみつく、あの哀れな負け犬どもに、新時代の洗礼を与えるのです!!」
アリシアが誇らしげに右手を掲げると、背後の大型ハッチが開き、不気味なほど洗練されたシルエットを持つ白い悪魔――ガンダムTR-6が、その異形の四肢をくねらせるようにして起動した。
宇宙世紀0089年。地球圏がネオ・ジオンの終焉によって一瞬の虚脱状態に陥るなか、遥か彼方の赤茶色の惑星では、ザビ家の名前を騙る少女の「究極の悪ノリと独裁スイッチ」によって、ジオン対ジオンという、全人類総呆れのリミット解除の内戦ドロ沼劇場の幕が、ついに切って落とされたのである。