機動戦士ガンダム ギレン、ハマーン、シャアの次なる答え――ジオンの最高頭脳、サナリィの最新ガンダムで宇宙世紀を総決算する   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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参謀の計算【U.C.0089】

宇宙世紀0089年。地球圏から見捨てられた赤茶色の流刑地――もとい火星圏は、現在進行形で「脳のネジが数本吹き飛んだ過激派オタクたちの代理戦争会場」と化していた。

 

先住のジオン残党こと「ジオンマーズ」は、見た目だけを一年戦争の栄光(ザクやゲルググ)に偽装した悪趣味な張りぼてを最新技術でシコシコと作り続け、後から転がり込んできた「レジオン」のティターンズ残党どもは、可憐な少女アリシア・ザビを女王に祭り上げて「ウサギマークの凶悪ガンダム」を量産している。客観的に見れば、全宇宙ノイドの知性を疑わざるを得ない泥沼のコスプレ大決戦であった。

 

その狂気あふれるジオンマーズ側の最高司令部に、「参謀」という最高に胡散臭い肩書きでちゃっかり居座っている元ティターンズの男、ドナルド・レザード。彼は今、チェスター主席の豪華な執務室の片隅で、冷えた合成コーヒーをすすりながら、内心で激しい頭痛と戦っていた。

 

「やってられるか、こんな原始人どもの飼育係……!」

 

ドナルドの頭脳は、組織の軍事バランスをミリ単位で計算する冷徹な参謀のそれである。だが、彼の目の前にいるジオンマーズの最高権力者、チェスター主席の思考回路は、残念ながら「昭和の頑固親父」の領域から1歩も外に出ていなかった。

 

「おい、ドナルド! 聞け!」

チェスター主席は、火星の低重力でたるんだ腹を机に押し付け、怒髪天を突く勢いでホログラムディスプレイを叩いた。

「あのティターンズの小娘が率いるレジオンめ、我が方の第3採掘プラントに新型の『バーザム』っぽいシルエットの改修機を送り込んできおった! だが我がジオンマーズの魂たる『RFザク』の突撃の前に、あんな股間にビーム・サーベルを格納している変態MSなど一撃で粉砕してやったわ! ガハハハ!」

 

「……それは素晴らしい戦果ですね、チェスター主席」

ドナルドは完璧なビジネス笑顔(目がまったく笑っていないタイプ)で返答したが、脳内では凄まじい勢いで毒づいていた。

 

(勝って喜んでるんじゃねえよ、この脳筋クソジジイが! バーザムなんてな、地球圏では『コストパフォーマンスだけが取り柄の、エリートが乗るにはちょっと恥ずかしい量産型』なんだよ! そんな前座の偵察機を1機落としたくらいで、勝った気になってんじゃねえぞ!)

 

ドナルドが真に恐れているのは、レジオンの尖兵として動くバーザムもどきではない。彼らが地下の最高機密ドックで極秘裏に建造を進めている、文字通りの怪物――決戦兵器「ガンダムTR-6[インレ]」であった。

 

ドナルドは手元の電子端末に表示された、独自の潜入スパイから送られてきたインレの盗撮データをスクロールした。そのスペックを見るたびに、彼の心臓は嫌なドラムを刻み始める。

 

全長、約100メートル。

主兵砲である大型コンポジット・シールド・ブースターを集積した複合兵装から放たれるメガ粒子砲の威力は、誇張抜きで火星の地表をいくつかのクレーターに変えるレベルである。おまけに、その巨体の中に「モビルスーツをまるごと1個中隊(ウーンドウォート等のコンポーネント)」格納してばら撒くという、設計者の頭の狂気を感じさせる「動く最終防衛要塞」なのだ。

 

「いいですか、チェスター主席。戦術的な小競り合いの勝利に目を奪われてはなりません」

ドナルドは眼鏡のブリッジを指で押し上げ、冷徹な声で進言した。

「レジオンの本質は、アリシアという少女の甘いおままごとではありません。彼女の後ろ盾となっている元T3部隊の技術者どもが目論む『インレによる火星全土の絶対制空権の掌握』、これです。もしあの化け物が完成し、火星の成層圏に配置されれば、我が方のモビルスーツは地上を一歩も動けなくなります。……文字通り、ただの『赤い砂漠のモグラ叩き』のモグラに成り下がりますよ」

 

「フン、ガンダムが何ぼのもんじゃい!」

チェスター主席はハワイ産の安物の葉巻(もちろんアナハイム社からの密輸品)をふかし、傲然と言い放った。

「我が方には、長年かけて熟成させた『リファインド・ファースト・ジェネレーション』がある! 伝統のジオン魂が詰まったゲルググのフォルムに、アナハイムから買い叩いた高出力ジェネレーターをぶち込んだのだぞ! あんなウサギマークのガリガリした細足ガンダムなど、一揉みにしてくれるわ!」

 

(だから、その伝統のフォルムのせいで、空気抵抗の計算とデッドスペースの無駄が限界突破してるって昨日の方程式のデータで見せただろ、このジジイ……!!)

 

ドナルドはこめかみに青筋を浮かべながら、手元のコーヒーカップを握りつぶしそうになった。

ジオンマーズの連中の致命的な欠陥。それは「ジオンの伝統美」という呪いに脳を破壊されている点だ。中身をどれだけ最新の第2世代、第3世代級にアップデートしようとも、外見がドムやゲルググのままである以上、機体容積の無駄や装甲のデッドウェイトをどうしても削れない。彼らは「機能美」ではなく「記号美」で戦っているのだ。

 

対するレジオンの「ガンダムTR-6」は、骨格(ドラムフレーム)に直接武装とスラスターをボルト留めしたような、効率主義の極致である。機能性だけで言えば、勝負は戦う前から見えている。

 

「……まぁいいでしょう。主席がそうおっしゃるのであれば、私は参謀として、次なる防衛線の構築に全力を尽くすのみです」

ドナルドは丁寧にお辞儀をして、執務室を退出した。

 

一歩廊下に出ると、彼の表情から「従順な参謀」の仮面が完全に剥ぎ取られ、冷酷な計算マシンの顔へと切り替わった。

 

「おい、ドナルド。またあの頑固ジジイの機嫌取りかい?」

物陰から声をかけてきたのは、ドナルドが地球圏から引っ張ってきた元ティターンズの腹心、レナード大尉だった。

 

「気安く話しかけるな、レナード。耳の痛い正論を言うと、あの老害はすぐに『ギレン総帥の演説を聞き直せ』と精神論を始めて時間を無駄にする。会話の効率が地球連邦政府の予算審議並みに悪い」

 

ドナルドは周囲を警戒しながら、専用の極秘通信端末を取り出した。画面に表示されているのは、ジオンマーズの防衛マップではなく、レジオン側の建造ドックの「リアルタイムの電力消費グラフ」である。

 

「ドナルド、本当にいいのか? ジオンマーズに加担して、TR-6[インレ]の開発データを盗み見るなんて真似をして。万が一レジオン側にバレたら、あのウサギのガンダムに文字通り消し炭にされるぞ」

 

「バレるわけがない。レジオンの技術者どもは、インレのサイコミュ制御システムのデバッグで今頃死にそうになっているはずだ。あいつら、地球圏からサイコ・ガンダムの出来損ないみたいなサイコ・コントロール技術(エレニズム)を持ち込んだはいいが、火星の磁気嵐のせいで、パイロットの少女の情緒不安定な脳波と同調して毎日システムがフリーズしているからな」

 

ドナルドはふっと冷酷な笑みを浮かべた。

彼の本当の目的は、ジオンマーズを勝利に導くことでも、ましてやザビ家の再興に手を貸すことでもない。

彼の目的は「データの回収」と「生き残り」である。

 

地球圏のグリプス戦役でティターンズは滅び、ネオ・ジオンもハマーンとグレミーの内ゲバで崩壊寸前。これからの時代、勝利するのは特定の「思想」ではなく、生き残った「軍事資産」を次の覇権者に高値で売り抜けた者だ。

ドナルドは、レジオンが完成させるであろう「インレ」の圧倒的な戦闘データと、ジオンマーズが意地で完成させた「RFシリーズ」の低コスト換装ノウハウ、その双方を限界まで競り合わせ、熟しきったところで両方の果実をまとめて収穫する算段を立てていた。

 

「ジオンマーズの戦力では、遠からずインレの暴力の前に地表を追われることになる。チェスター主席の命も、おそらくそこまでだ」

ドナルドは、端末上のチェスター主席の顔写真の上に、無慈悲なバツ印を電子ペンで書き込んだ。

 

「いいかいレナード。この内戦は、どちらが勝っても火星圏の国家体制は内部から瓦解する。狂信的な少女と、過去の遺物にすがる老人がまともに統治できるわけがない。我々はジオンマーズの兵力を適度に消耗させつつ、インレがその牙を剥く瞬間を特等席で観察させてもらうのさ」

 

「相変わらず汚いな、参謀殿。だが、もしインレの力が我々の計算を超えていたら?」

 

「その時は、チェスターのバカ息子(チェスターJr.)あたりを身代わりにして、地下組織へ潜伏するさ。アナハイム・エレクトロニクス社はいつでも『次の市場』を探している。この火星のデータがあれば、地球圏の次の動乱のチケットなんていくらでも買える」

 

ドナルドは、窓の外に広がる赤茶色の地平線を見つめた。

遠くの空が、レジオンの偵察機とジオンマーズの防空部隊が交わすビームの光で、不気味に明滅している。

 

神話の亡霊どもが、お互いのプライドを賭けて殺し合うピエロの舞台。そのすべての予算と命の残高をチェス盤の上から眺めるように、ドナルド・レザードは冷徹な微笑を浮かべ、次なる「破滅の方程式」のエンターキーを静かに押し込んだのであった。

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