機動戦士ガンダム ギレン、ハマーン、シャアの次なる答え――ジオンの最高頭脳、サナリィの最新ガンダムで宇宙世紀を総決算する   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

9 / 12
奪われた地表【U.C.0090】

宇宙世紀0090年。我々ジオンマーズの歴史に、最大最悪の黒歴史が刻まれた。

 

つい数日前まで、火星の地表は我々のものであった。不毛の赤茶けた大地とはいえ、一年戦争の敗戦という地獄から這い上がった先人たちが、血と汗と芋の汁を流して開拓した栄光のフロンティアだったのだ。

それがどうだ。今や地表を見上げれば、空を覆い尽くさんばかりの巨大な「白いウサギのバケモノ」がのそのそと滞空している。

 

地球圏の変態技術者どもの妄執が形を成した究極の決戦兵器、ガンダムTR-6[インレ]。

その圧倒的な質量と、頭のおかしい数のメガ粒子砲による絨毯爆撃の前に、我がジオンマーズの本部プラントは、ものの見事に木っ端微塵にされた。誇り高き「RFシリーズ」のモビルスーツ部隊は、伝統のゲルググの美しい曲線美ごと、最新の光学兵器で焼き溶かされてスクラップの山と化したのである。

 

「クソがッ……! 何がザビ家の正統なる後継者だ! 何がレジオン建国だ! あんな細足のウサギ型モビルスーツを崇めるコスプレ狂いの小娘に、父上たちの楽園を奪われてたまるか……!」

 

火星の極寒の氷床下、光すら届かない地下都市の、さらに薄暗いジャンク屋の倉庫のような隠れ家に潜伏していたチェスターJr.は、液晶の割れた電子端末を睨みつけながら激しく歯噛みした。

 

彼の頭の中は、今やレジオンの総帥アリシア・ザビへの殺意と、戦死(あるいはレジオンの地下深くで再教育中とも噂される)した偉大な父、チェスター主席への申し訳なさでぐちゃぐちゃに沸騰していた。

親父が「中身をアナハイム・エレクトロニクス社製の最新ジェネレーターに丸ごと入れ替えたから、外見が一年戦争のままでも最強なのだ!」と豪語していた「RFゲルググ」は、インレから放たれた超大型コンポジット・シールド・ブースターの主砲一発で、文字通り蒸発した。中身が最新だろうがなんだろうが、装甲の絶対的な厚みと火力が違いすぎたのだ。技術の進歩という現実を無視した、オタク親父の精神論の完全な敗北であった。

 

「チェスターJr.様、落ち着いてください。声が大きいです。レジオンの監視ドローンに拾われたら、我々まで明日からパイプライン建設の強制労働に直行ですよ。あそこの現場、監獄の癖に『全員お揃いの可愛いウサギ耳の帽子を着用すること』が義務付けられている精神的拷問部屋なんですから」

 

背後から声をかけてきたのは、ボロボロの作業着を着たジオンマーズの若きメカニック、カールだった。

 

「うるさい! カール、そんなことより例の『飛行禁止令』の状況はどうなっている!?」

 

チェスターJr.が問い詰めると、カールは心底嫌そうな顔で、火星全土に発令されたアリシア総帥による「公式布告ビデオ」を再生した。

 

ホログラム画面に映し出されたのは、ゴールドの刺繍が無駄にギラギラ光る玉座にふんぞり返ったアリシア・ザビである。彼女はカメラに向かって、最高にサディスティックな笑みを浮かべながら語りかけていた。

 

『オホホホホ! 聞きなさい、地を這う哀れなモグラ残党――ゴホン、旧ジオンマーズの迷子たちよ! 本日をもって、このアリシア・ザビの名において、火星全土に完全なる【飛行禁止令】を発令します! これより我がレジオンの許可なく空を飛ぶ不届き者は、鳥だろうが、スペース・ノイドの生ゴミだろうが、ジオンマーズの骨董品MSだろうが、すべてインレのサイコミュ誘導ビームで細切れにして差し上げます! 地表は私と可愛いウサギたちの楽園なのですから、あなたたちは大人しく冷たい氷の下で、私のためにペダルでも漕いで発電していなさい!』

 

「あの、アマァァァァァッ……!!」

チェスターJr.はあまりの理不尽さと、画面から漂う強烈な悪ノリ臭に、頭の血管がブチ切れそうになった。

 

「飛行禁止令」とは名ばかりの、実質的な「地表全域の私物化」である。

インレの巨大なセンサー網と、火星の成層圏を周回する防衛サテライトシステムが連動し、地表で少しでも熱源が浮き上がった瞬間に、宇宙から神の雷のごときビームが降ってくるのだ。おかげで、ジオンマーズ自慢のドムによる「ホバー走行」すら、「ちょっと浮いてるから飛行とみなす!」という超法規的クソ理論で爆撃される始末。ドムのアイデンティティは完全崩壊し、今は地下で大人しくズリズリと這いつくばって歩くしかないのである。

 

「完全に独裁体制を固めやがって……。地球圏でギレン総帥が『あえて言おう、カスであると!』とかカッコつけてた時代の悪い部分だけを煮詰めて、可愛いウサギのトッピングをしたような地獄絵図じゃないか……!」

 

「しかも、地表の資源プラントはすべてレジオンに接収されました」

カールがため息混じりに端末のデータをスクロールする。

「元ティターンズの技術者ども、さすがは地球圏で『ハイザック』だの『バーザム』だのといった、なんとも言えないセンスのMSを量産していた連中だけあって、現場の割り振りが無駄に組織的です。我が方の秘蔵の生産ラインを使って、TR-6の量産型(キハールIIなど)をどんどん組み立てていますよ。このままでは、火星の工業力そのものがウサギに塗りつぶされます」

 

「ふざけるな! 我々ジオンマーズには、まだ地下に隠された『最後の希望』があるはずだ!」

チェスターJr.は拳を握りしめ、倉庫の奥に鎮座する、厚いカモフラージュネットに覆われた巨大な影を見上げた。

 

それは、父チェスター主席が、いつか地球圏へ殴り込みをかけるために、アナハイム社から闇ルートで買い付けた、ジオンマーズ仕様の特殊改修重モビルスーツ――。

しかし、これとて地表に出た瞬間にインレに上空からロックオンされれば、ただの「ちょっと豪華な棺桶」に早変わりである。

 

「チェスターJr.様……。実は、さっきから気になっているのですが……」

カールが気まずそうに、部屋の隅にある骨董品の通信機を指差した。

「あの『参謀』として居座っていたドナルドのオッサン、レジオンの総攻撃が始まった瞬間に、真っ先に『ちょっと前線の様子を見てきます!』って言って、最新鋭のシャトルに乗り込んでどっかに消えたんですけど……」

 

「何だと!?」

チェスターJr.は目を見開いた。

 

彼の脳内に、ドナルドがいつも浮かべていた「冷徹で、すべてをバカにしているようなビジネス笑顔」がフラッシュバックする。

あの男、ティターンズの敗残兵のくせに「ジオンの精神論には心から共感します」などと調子のいいことを言って父に取り入り、軍事アドバイザーの地位に収まっていたのだ。

 

「あいつ、まさか……最初からレジオンと裏で繋がっていたのか!? あるいは、我々がインレにボコボコにされるデータをお土産にして、アナハイムの役員席にでも転職しやがったのか!?」

 

「おそらく後者かと。あの人、机の中に『月面フォン・ブラウン市の高級マンションのパンフレット』を隠してましたから」

 

「あの地球ノイドのタヌキオヤジめぇぇぇ!!」

チェスターJr.のプライドは完全にズタズタだった。

ザビ家マニアの我が儘お嬢様には地表を奪われ、地球圏の汚いインテリ参謀には踏み台にされ、残されたのは氷の底でブルブル震える、芋の備蓄も底をつきかけたジオンの残党たちだけ。

 

だが、ここで諦めたら、それこそ「ジオンの精神論(笑)」と地球圏の連中に未来永劫笑い者にされる。

 

「カール……。まだだ、まだ終わらんよ……!」

チェスターJr.は、どこかで聞いたことのある赤い彗星のセリフをパクりながら、怪しく目を光らせた。

「レジオンの独裁が完璧に見えるのは、あの『ガンダムTR-6[インレ]』という神輿が空に浮いているからだ。なら、話は簡単だ。……あのウサギの化け物を、我々の手でへし折って、奪い取ってやればいい」

 

「は!? 何言ってるんですかチェスターJr.様! 相手は全長100メートルの化け物ですよ!? こっちは地下で酸欠になりかけてるモグラなんですよ!?」

 

「フッ、レジオンの連中はティターンズの残党だ。つまり、あいつらは『ガンダム』という記号に絶対の信頼を置いている。逆に言えば、あのインレさえ奪えば、レジオンのオッサンどもは明日から我々の下僕になるということだ! アリシアの生意気な顔を、火星の赤砂で擦り洗ってやるチャンスは必ず来る!」

 

チェスターJr.の脳内では、すでに失われた地表を奪還し、インレの巨体を自らの旗艦として、アリシア・ザビをパイプラインのウサギ耳強制労働へと叩き込む、最高にハイな逆転劇の絵コンテが完成しつつあった。親父譲りの「都合のいい精神論」と「現実逃避の妄想力」は、見事に息子へと遺伝していたのである。

 

「全残存部隊に暗号通信を送れ! これより我々は完全な地下潜伏組織へと移行する! 作戦名は……そうだな、失われた地表の星を再び輝かせるという意味を込めて、【輝ける星作戦】だ! カッコいいだろう!」

 

「はぁ……。名前はいいですから、とりあえず明日の分の合成芋の配給、なんとかしてくださいよ……」

 

カールの切実な愚痴を無視し、チェスターJr.は地表を睨みつけるように天井の氷の壁を見つめた。

 

宇宙世紀0090年。レジオンの圧倒的な物量と「可愛いウサギのガンダム」の前に、ジオンマーズは完膚なきまでに敗北し、火星の地表は一時的にアリシア・ザビの「女の楽園」へと変貌を遂げた。

しかし、氷の底のモグラたちは、まだ死滅していなかった。地球圏の動乱などどこ吹く風、火星の覇権を巡る「痛々しいこだわり」を抱えた男たちのドロ沼の復讐劇は、冷たい地下の暗闇の中で、さらにその発酵度合いを深めていくのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。