アベンジャーズ計画に神代ブリテンの騎士が追加されました   作:アルトリウス(深淵歩きはしない方)

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 ここから少し文字数が増えます。


王の影として

 

 

 

 ロンドンの地下深く。

 表向きにはどの地図にも存在せず、いかなる行政のデータベースにも登録されていない、広大な空間を丸ごと買い上げたような隠し施設の一室。

 歴史的な価値がありそうな古びた石造りの壁には、それらとはおよそ不釣り合いな最新型のモニター群が壁一面を覆い尽くすように埋め込まれている。巨大な机の上には、カビの生えそうな羊皮紙の古文書、排熱音を唸らせるサーバー端末、呪力が籠った魔術礼装、そして完全に分解されて基盤が剥き出しになった通信機器が、一切の脈絡なく雑多に並べられていた。

 

 その部屋の主である『第十一席』ガレスは、キャスター付きの高級な椅子に足を投げ出しながら、チカチカと明滅する複数のモニターを眺めて機嫌良さそうに笑っていた。

 

「表側の盾、思ったより硬いね。名前負けはしてない」

 

 十三の席の中でも若く、現代文明への適応力が最も高いガレスの得意分野は、魔術とネットワークを完全に融合させた電子魔術(テクノマンシー)である。

 彼が今やっているのは、単なるクラッキングやプログラムの書き換えではない。物理的な光ファイバーのケーブル上にルーンの術式を直接流し込み、通信パケットの羅列の中に呪いの紋様を不可視のノイズとして混ぜ込み、セキュリティのファイアウォールそのものに魔術的な錯覚を噛ませるという、完全に既存の科学法則を無視した荒業だ。

 都市インフラや監視網をゲーム感覚で弄り回す彼が操るメインモニターには、先ほどのハッキングによってSHIELDの強固な防壁のわずかな隙間から抜き取ってきた、いくつかの断片的な情報が並んでいた。

 

『PENDRAGON』

『internal sword-shaped energy signature』

『0-8-4 classification revised』

『Coulson assigned』

『controlled low-output ether observation confirmed』

 

「王の影、大人しく盾の中にいるねぇ。しかもご丁寧に剣まで見せてる。サービス精神旺盛じゃん」

 

 鼻歌交じりにキーボードを弾くガレスの背後から、ひどく冷たく、感情の欠落した足音が近づいてきた。

『第六席』アグラヴェイン。情報統制、裏工作、そして政府機関や裏社会への浸透を担う男だ。魔術という不確定要素に頼りきることを極端に嫌い、法律、権力、記録の改ざん、そして徹底した情報操作によって、相手を盤面ごと追い詰めてすり潰す完全な現実主義者。

 

「遊ぶな」

「仕事してるよ。遊びみたいに見えるだけ」

「お前の仕事はいつもそうだ」

「褒めてる?」

「叱っている」

 

 ガレスは呆れたように肩をすくめ、手元のキーボードを指先で弾いてモニターの表示を切り替えた。

 

「で、どうする? 盾の中にいるなら、いっそ盾ごと割る?」

 

 ガレスの能力をもってすれば、SHIELDの通信網を完全に物理破壊することも不可能ではない。だが、アグラヴェインは即座にその無意味な提案を切り捨てた。

 

「不要だ。現状でSHIELDと全面衝突する意味など欠片もない」

「じゃあ放置?」

「影を動かす」

「うわ、性格悪いやつだ」

「効率的と言え」

 

 アグラヴェインの目的は極めて明確だった。

 SHIELDの強固な施設を外部から破壊する必要などない。アルトリウス・ペンドラゴンが、自らの意志で、自らの足で外へ出てくる状況さえ作ってしまえばいいのだ。

 そのために彼が末端の部下に用意させたのは、決して本物ではない。王権神秘に似せて意図的に偽装された波形、限りなくオリジナルに近い聖剣反応の模造、そして、アーサー王伝説にまつわる古い教会の跡地を利用した、一般人を巻き込みかねない小規模な儀式。

 それは儀式と呼ぶにはあまりにもお粗末な、ただアルトリウスを試し、単独で誘い出すためだけに用意された粗悪な餌に過ぎなかった。

 

「あんな雑な偽物で釣れるの?」

「雑だからこそ来る」

「なんで?」

「本物の重さを知る者ほど、その名を騙る粗悪な偽物を見過ごせないものだ」

「うわぁ、ほんと陰湿」

「二度言わせるな。効率的と言え」

 

 彼らはすでに、アルトリウスという男の行動原理を正確に読み切っていた。

 王の名を雑に扱う。円卓を騙る。粗悪な偽聖遺物を大仰に置く。それだけで、あの王の影として生きた古い時代の騎士は、絶対にそれを無視することができない。

 

     *

 

 SHIELDの臨時施設。

 前日からのサーバーへの不審なアクセスの調査が続く中、コントロールルームの監視システムを睨んでいた研究員が、突如として発生した新しい反応に声を上げた。

 

「ロンドン市内にエネルギー反応を検知。昨日のパブで大男が持っていた大剣の波形と似ていますが、もっと……ずっと薄いです」

「薄い、とは?」

 

 報告を受けたコールソンの横で、モニターに表示されたその波形を一瞥したアルトリウスが、やれやれと小さく息を吐いた。

 

「雑だね」

 

 芯がない。ただ表層の形だけを不格好になぞった、青白いだけの空虚な反応。本物の魔力を知る者からすれば、見るに堪えない代物だった。

 

「それは、危険度が低いという意味ですか?」

「違う。偽物としての出来が致命的に悪いという意味だ」

「つまり?」

「王の気配の形だけを無理やり真似ている。けれど中身の密度が薄すぎる。そうだな、安い香水で死体の血の匂いを誤魔化そうとしているようなものだね。不快極まりない」

「偽装聖遺物、ということですか?」

「たぶんね。しかも、私がSHIELDの施設にいると分かった上で、私に見えるようにわざと置いている」

 

 アルトリウスの分析を聞き、コールソンはわずかに眉をひそめた。

 

「完全な罠ですね」

「そうだね」

「なら、行かないのが正解です」

 

 コールソンのその極めて常識的で合理的な即答を、アルトリウスは首を振ってあっさりと否定した。

 

「それは違う」

「違いますか」

「罠だと分かっているなら、罠を仕掛けた奴の手口を直接見に行ける」

「現代では、それを自殺願望や危険行為と呼びます」

「昔は好機と呼んだよ」

「昔のブリテンは、まともな保険制度がなさそうですね」

「あったらマーリンが悪用して、国庫が三回は傾いていたよ」

 

 冗談めかしたやり取りの中にも、お互いの立場の違いによる明確な意見の対立があった。

 コールソンはSHIELDのエージェントとして、当然アルトリウスの無断外出を止めようとする。

 

「こちらで武装した調査チームを出します。あなたが出る必要はない」

「彼らが見たいのは私だ。他の人間が行っても意味がない」

「だからこそ、あなたを行かせたくないんです」

「君たちだけで行けば、敵はさっさと姿を消すか、あるいは君たちを新たな餌にして次の手を打ってくるだけだ。悪手だね」

「あなたが行けば、それこそ完全に敵の思い通りです」

「思い通りに動かされているように見せかけて、こちらも盤面の裏側を見るのさ」

 

 これ以上の問答は無意味だと悟ったのか、コールソンは少しだけ語気を強めた。

 

「あなた、現代に来て何日目ですか?」

「数え方によるね。地中での眠りをどう換算するかだ」

「どう数え方を変えようと、目覚めてから一週間と少しです。その状態で、得体の知れない連中が待つロンドンの地下へ単独で行かせる許可は絶対に出ません」

「なら、許可はいらない」

 

 室内の空気が、一瞬にして冷たく張り詰めた。

 勘違いしてはならない。アルトリウスはSHIELDの敵ではないが、決して彼らの部下でも所有物でもないのだ。

 

「彼らは王の名を使った。偽物でも、釣り餌でも、それを見過ごす理由には絶対にならない」

「それは、あなたの戦いだと?」

「そうだね。少なくとも、盾の仕事ではない」

「我々の施設で保護されている人間が口にする台詞ではありませんね」

「保護されているのは事実だ。それは感謝している。だが、従属しているわけではない」

 

 コールソンはさらに何かを言おうと口を開きかけたが、アルトリウスはすでにパイプ椅子から立ち上がっていた。

 

「ペンドラゴン」

「後で戻るよ。たぶん」

「そこは確定でお願いします。心臓に悪い」

「善処する」

「私が今、世界で一番聞きたくない言葉です」

 

     *

 

 SHIELDの厳重な施設からの脱出は、拍子抜けするほど静かで、そして異常なものだった。

 当然、誰も殴らない。分厚い壁も壊さない。電子ロックの鍵も壊さない。

 

 マーリン仕込みの()()()()

 それはSF映画にあるような、光を屈折させて姿を消す光学迷彩などという単純な物理現象ではない。極めて低出力のエーテルを自身の周囲に纏わせることで、他者の脳が『背景』として処理する無意識の領域に、自身の存在感を極限まで溶け込ませる魔術だ。

 監視カメラのレンズの死角を歩き、警備員たちの視線の自然な流れを読み、誰かが電子ロックを開けたその一瞬の隙の背後に影のように滑り込む。

 確かにそこに物理的な質量として存在しているのに、誰の脳内にもその姿が『人間』として認識されず、ただの空気の揺らぎのように処理されてしまうという、古典的かつ極めて凶悪な精神の盲点突き。

 

 数分後。対象の消失に気づき、血相を変えた保安担当が青い顔でコールソンの元へ駆け込んできた。

 

「対象が消えました!」

「“消えた”は最近聞き飽きました。追跡は?」

「カメラには映っています! ですが、すれ違った職員も含め、誰一人として彼を認識していません。まるで幽霊です。それと、彼の客室の端末にメッセージが残されていました」

 

 提示された通信端末の画面には、短く一文だけが記されていた。

 

『壊していない。少し見てくる』

 

 コールソンは深い沈黙と共に、こめかみを強く押さえた。

 

「追いますか?」

「追えるなら、とっくに追っていますよ。あの魔術の理屈が分からない以上、外に出られた時点で我々の手には負えない」

「では、どうしますか?」

「後始末の準備を」

「もうですか?」

「彼が“少し見てくる”と言ったんです。間違いなく、何かが起きます」

 

     *

 

 夜のロンドン。

 古い石造りの歴史ある建物の上に、近代的なガラス張りの高層ビルが覆い被さるように建ち並び、道路にはタクシーが忙しなく通り過ぎる。行き交う人々は皆、手元の小さな板――スマートフォンを見つめながら足早に歩いている。

 かつてのブリテンの面影など、地上にはどこにもない。だが、アスファルトで塞がれた地面の奥深くには、まだ古い神秘の匂いが泥のようにこびりついて残っていた。

 

「古い都市の上に、新しい都市が被さっている」

 

 アルトリウスは一人、濡れた舗道に反射する街灯の光を背にして静かに歩を進める。

 王権神秘に似せた悪趣味な偽物の反応を辿り、彼が辿り着いたのは、観光案内にも載っていないような市街地の外れにある、古い教会跡の封鎖区画だった。

 すでに立ち入り禁止の鉄柵は魔術によって内側から破られ、地下の礼拝堂へと続く薄暗い階段が、まるで獣の口のように開いている。

 

「招待状としては、随分と趣味が悪いね」

 

 湿った冷たい空気が漂う階段を下りた先の、古い礼拝堂跡。

 そこには、円卓の騎士の末端部隊がすでに待ち構えていた。

 パブで遭遇した男と同様、現代的なタクティカルベストや防弾装甲に身を包んでいるが、その銃器や防具の表面には、びっしりと強化のためのルーンが刻み込まれている。

 床には王権神秘に似せた幾何学的な儀式円が禍々しい塗料で描かれ、その中央の祭壇には、古めかしい剣のような粗悪な聖遺物の模造品が鎮座していた。

 

「来たか、王の影」

 

 部隊のリーダー格と思われる男が、儀式円の奥から声を上げる。

 

「その呼び方を使うには、少しばかり礼儀が足りないね」

「我らは円卓の騎士」

 

 その名乗りに、アルトリウスは一瞬だけ黙り、そして心底から冷たく笑った。

 

「名乗ればなれるものじゃない」

「古き影よ。貴様は我らの王へ至るための重要な鍵だ」

「鍵扱いの次は部品扱いか。君たちは本当に、人に対する礼儀というものを学んでいないらしい」

「時代に取り残された亡霊が、現代の円卓を語るな」

 

 現代の円卓。

 その驕り高ぶった言葉に、アルトリウスの瞳の温度が完全に氷点下まで下がった。

 ただ椅子に座るだけの者たちの集まりを、円卓とは呼ばない。円卓とは、誓いであり、呪いであり、どうしようもないほどの人間臭さの象徴だったはずだ。

 

「椅子に名前を書いただけの集まりを、円卓とは呼ばないよ」

 

 殺意マシマシ決意マシマシの空気が、地下礼拝堂を満たした。

 

 言葉が終わるや否や、敵が動いた。

 

 アサルトライフルから乱射される魔力強化弾。視界と聴覚を同時に奪う閃光弾の破裂。床に敷かれた足止めのルーン。不可視の結界。そして、後衛からの精神干渉の詠唱。

 一斉に浴びせられる現代神秘の飽和攻撃に対し、アルトリウスは右手に(インヴィクトゥス)を低出力で実体化させた。完全解放はしない。この狭く脆い地下の礼拝堂跡で高出力のエーテルや飛ぶ斬撃を放てば、天井が崩落して生き埋めになるリスクがあったからだ。

 

 迫る銃弾の雨に対し、アルトリウスは剣を盾にして真正面から受け止めるような野蛮な真似はしない。

 飛来する鉛玉の軌道上へ、ほんの微かに傾けた剣の(はら)を正確に置く。激突の瞬間、手首の角度をわずかにずらすことで弾丸の運動エネルギーを巧みに逃がし、刃の上を滑らせるようにして明後日の方向へと逸らしていく。

 甲高い金属音が連続して響き、致死の弾雨がことごとく無害な火花となって散った。同時に破裂した閃光弾の強烈な光と破片は、一瞬だけ左手に実体化させた籠手で視界を塞ぐようにして弾き落とす。

 

 その直後、敵が起動した足止めルーンが床から青黒い蛇のように伸び、アルトリウスの足首を縛ろうと迫る。

 アルトリウスは踏み込む直前、空いた左手の指先を宙に走らせ、空中に短い青白い文字列を描いた。瞬時に編み上げられたルーンの連なりが、小さな杭のように床へ突き刺さる。

 結果として、敵の足止め術式は、その青白い杭に頭を縫い止められた蛇のように完全に沈黙した。

 

「固定のつもりなら、基点が甘い」

 

 そのまま床を蹴り、一瞬で敵の懐へ潜り込む。

 銃器を構え直そうとした敵の手首を剣の峰で打ち据え、同時に銃身に刻まれた反動制御用のルーンを指先で軽く弾き飛ばす。

 

「銃にルーンを刻むなら、まず反動制御を覚えた方がいい」

 

 術式の要を乱された銃が手元で暴発し、強烈な反動に耐えきれなかった敵の腕が跳ね上がり、銃弾は無意味に天井の石組みを撃ち抜いた。

 

 別の敵が、礼拝堂の中央を分断するように不可視の結界を展開する。

 だが、アルトリウスの足は止まらない。インヴィクトゥスの刃に、青白いルーンの光が一瞬だけ走る。

 振り抜かれた刃は透明な壁そのものではなく、結界を構成する『術式の線』だけを正確になぞって切断した。

 

「結界の線が浅い。これでは雨漏りするよ」

 

 強固なはずの透明な壁が、糸をほどかれた布のようにパラパラと無力に崩れ落ちる。

 焦った後方の術者が、古い言語の詠唱と機械音声を混ぜ合わせた、現代的で雑多な精神干渉の術式を放つ。脳髄を直接揺らそうとするその不快な魔力に対し、アルトリウスは鼻で笑った。

 

「論外だ」

 

 そのまま躊躇なく踏み込み、剣の柄頭で術者の鳩尾を深く突き上げる。

 

「マーリンの嫌がらせの方が、まだ十倍は上手かった」

 

 無駄な殺しはしない。武器を落とさせ、体勢を崩し、動けなくなる程度に的確に叩き伏せる。しかし、その手際に一切の容赦はなかった。

 

 数秒で部隊が壊滅状態に陥る中、リーダー格の男が追い詰められ、短剣を抜いて儀式円の中央へ走る。

 粗悪な聖遺物に己の血を垂らし、強引に儀式を起動しようとしたその瞬間、アルトリウスは距離の概念を無視したステップで背後へ張り付いた。

 

「王の名を、こんな安物に混ぜるな」

 

 手首を掴み、短剣ごと骨を軋ませて握り砕く。

 そのまま男を蹴り飛ばし、儀式円の中央を踵で無慈悲に踏み抜いた。床に走っていた偽の王権神秘の光が、アルトリウスから放たれた青白いエーテルの圧力に完全に押し潰されて霧散する。

 

 残った敵の一人が、礼拝堂の奥の壁へと走った。

 壁に刻まれたルーンが発光し、薄い裂け目のようなゲートが開く。完全な転移門ではないが、緊急の逃走用としては十分な機能だ。

 追える。だが、アルトリウスは動かない。この先は敵が周到に準備した場所であり、何も考えずに踏み込めば、みすみす相手の盤面に乗ることになるからだ。

 

「逃げ足は悪くない」

 

 彼は右手のインヴィクトゥスを下げ、空いた左手を軽く振った。

 青白いエーテルが指先から伸びる。それはただの魔力の糸ではなく、光の中に無数のルーン文字が連なった『ルーン鎖(くさり)』だった。

 目に見える形を与えられた術式そのものが、鞭のように空間へ巻き付き、まさに閉じようとしていた逃走ゲートの縁に絡みつく。

 

「なっ……!?」

「門を壊す気はないよ。今壊すと面倒だからね」

 

 アルトリウスは指先を軽く手前に引いた。

 ゲートそのものは予定通りに閉じていく。だが、完全に閉じ切る直前のその一瞬、縁に刻まれていた座標の癖、術式の結び目、そして開いた先の空間の匂いだけを、ルーン鎖が薄く削り取った。

 

 ぷつり、と糸が切れるような音がして、ゲートが完全に消滅する。

 敵は逃げおおせた。だが、アルトリウスの左手には、青白い小さな文字列の残滓がふわりと残されていた。

 

「道は覚えた」

 

 彼はそのルーンの残滓を見下ろし、口角を上げて静かに笑う。

 

「門を扱う者がいる」

 

     *

 

 ロンドン地下の拠点。

 ガレスのモニターに、地下礼拝堂の惨状が映し出されていた。末端部隊は壊滅し、偽装聖遺物も破壊され、儀式円も跡形もなく踏み抜かれている。

 

「うわ、強い。しかも古いくせに判断が速い」

「収穫は」

「低出力戦闘のデータ。認識阻害の使い方。ルーン破りの癖。あと、逃走ゲートに釣り針を掛けられた」

 

 アグラヴェインの眉が、わずかに不快そうに動いた。

 

「外したのか」

「外した。いや、外したけど怖いね。なにあれ、こっちの道に直接指を突っ込んできたんだけど」

「追ってくるか」

「来る気満々」

「なら予定通りだ」

「あれ、誘導成功ってことでいいの?」

「そうだ。影は王の名を見れば動く」

「本当に性格悪い」

「次に言ったら舌を縫う」

「はいはい、効率的、効率的」

 

 敵側は部隊の敗北と引き換えに、アルトリウスの行動原理と戦闘データを得た。

 だが同時に、アルトリウスの側にも、彼らの本拠地へと繋がる追跡の明確な手掛かりを与えてしまっていた。

 

     *

 

 同じ頃、SHIELDの臨時施設。

 コールソンは硬い表情のまま、暗号化回線越しにフューリー長官への報告を行っていた。

 

「対象が単独行動に移りました」

『最悪の報告の始まりだな』

「現時点では追跡不能です。本人の認識阻害と、敵の電子魔術のノイズが重なっています」

『つまり、うちの施設から古代の騎士が散歩に出たと』

「散歩にしては、目的地が物騒すぎます」

『追えるのか』

「今は無理です」

 

 重苦しい沈黙が、回線越しに降りてくる。

 

『なら後始末の準備をしろ。あいつは何かを壊して帰ってくる』

「壊さない可能性もあります」

『本気で言ってるのか』

「……後始末の準備をします」

 

 SHIELDは動けない。現場にも追いつけない。

 強大すぎる個人の力と魔術の領域において、彼らは完全に後手に回らざるを得なかった。

 

     *

 

 戦闘からしばらく後。

 アルトリウスはSHIELDの施設へすぐには戻らず、夜のロンドンを見下ろす古い建物の屋上に立っていた。

 手元には、逃走ゲートから削り取った術式の残滓が、夜風に揺れるように淡く光っている。

 彼は上着のポケットから例のノートを取り出し、新しいページにペンを走らせた。

 

・SHIELDの許可を待つと遅い。

・円卓の騎士は王の気配を餌にした。

・偽物の聖遺物。雑だが、意図は分かる。

・ガレス。電子魔術。

・アグラヴェイン。盤面を作る者。

・門を扱う席がいる。

・ルーン鎖で逃走ゲートの縁を掴める。

・逃走ゲートの残滓を確保。

 

 少し考え、彼は最後に一行だけ書き足した。

 

・これはSHIELDの戦ではない。私の戦だ。

 

 アルトリウスはノートを閉じ、ペンを置く。

 眼下に広がる、冷たくも美しい現代のロンドンの街並みを見下ろしながら、彼は静かに呟いた。

 

「偽物の円卓なら、影が片付けるべきだろうね」

 

 

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