アベンジャーズ計画に神代ブリテンの騎士が追加されました   作:アルトリウス(深淵歩きはしない方)

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試験儀式

 

 

 円卓の騎士において、『第4席』パーシヴァルの名は特別な意味を持っている。

 彼に与えられた役割は、聖遺物探索。聖剣の欠片、聖杯の噂、湖の乙女の痕跡、アヴァロンへと繋がる王権神秘の残滓。それらを世界中のあらゆる場所から掘り出し、買い叩き、奪い、盗み、時には遺跡そのものを爆破してでも強引に回収する。

 

 彼は誇り高き騎士というより、倫理観の欠落した悪辣な発掘屋に近かった。

 歴史を丁寧に扱う学者のような繊細さは持ち合わせていない。行くなと言われた危険地帯へ平気で足を踏み入れ、触るなと警告された呪物に素手で触れ、開けるなと厳重に封じられた扉を爆薬で吹き飛ばす。

 そして、その奥から出てきたものがおぞましい呪いであろうと、人を喰らう怪物であろうと、街を沈める災害であろうと、彼はただ無邪気に笑うのだ。

 

「危険な場所にしか、面白いものは眠っていないからね」

 

 明るく、軽く、ひどく爽やかな声色。

 だが、その本質は探究心という名のエゴに支配された、周囲への被害に対する感覚が完全に壊れ切っている異常者だった。

 

     *

 

 ロンドン郊外、あるいはイギリス南西部に位置する古い修道院の跡地。

 表向きには『歴史財団による正当な文化財調査』という看板が立てられている。だがその実態は、円卓の騎士の聖遺物探索班による、大規模な違法発掘現場だった。

 作業員に偽装した武装構成員たちが立ち回り、地質調査用車両に偽装された巨大な魔術装置が低い駆動音を唸らせている。地中に眠る神秘の残滓を強制的に掘り起こすための発掘用結界が張られ、周囲には一般人を遠ざけるための認識阻害のルーンが幾重にも敷かれていた。

 自治体や警察には、アグラヴェインの裏工作によって書類上まったく隙のない許可証が提出されており、公的な介入は完全に遮断されている。

 

 その現場の中央で、パーシヴァルはひどく楽しそうに指揮を執っていた。

 

「地面を掘ると歴史が出る。歴史を掘ると神秘が出る。そして神秘を掘ると、大体ろくでもないものが出る。最高だよね」

 

 泥に塗れた作業着姿の部下が、焦った様子で駆け寄ってくる。

 

「パーシヴァル様! 地下の封印層、魔力圧が危険値に達しています!」

「素晴らしい」

「素晴らしいではなく! これ以上掘り進めば、何が溢れ出すか……。一度撤退して態勢を立て直しますか?」

「冗談だろう? 危険だと分かったなら、ここからがようやく本番じゃないか」

 

 パーシヴァルは笑いながら、さらに出力を上げるよう無慈悲な指示を飛ばした。

 

     *

 

 アルトリウスは、中継地点で拾い集めた断片的な資料から、迷うことなくこの現場へと辿り着いていた。

 SHIELDには戻っていない。連絡も入れていない。盾の連中が動けば書類上の手続きが先行し、手遅れになることが分かっていたからだ。

 

 彼の上着のポケットに入ったノートには、すでに新しい項目が書き込まれている。

 

・第4席パーシヴァル。

・聖遺物探索班。

・聖杯を追う者。

・探す者は、余計な扉も開ける。

 

 小高い丘の上から、煌々とライトに照らされた発掘現場を見下ろし、アルトリウスはすぐに事態を察した。

 

「表向きは歴史財団の発掘調査。裏では聖杯探索か」

 

 少しだけ呆れたように息を吐く。

 

「現代は、薄っぺらい看板一枚で随分と色々なものを隠せるんだね」

 

 アルトリウスは隠密行動を取らず、堂々と正面のゲートから歩み寄った。

 警備員の制服を着た構成員が、鋭い視線で彼を制止する。

 

「関係者以外立ち入り禁止です。お引き取りを」

「関係者だよ」

「どちらの?」

「九百年前の」

「は?」

「身分証は?」とアルトリウスが問う前に、警備員が怪しんで銃に手をかける。

「この時代、本当に身分を証明する板が強いね。持っていないから困るよ」

 

 アルトリウスが軽く指を鳴らすと、極低出力の認識阻害のエーテルが警備員の意識から『彼自身の存在』を数秒間だけ完全に消し飛ばした。

 警備員が虚空を見つめている間に、アルトリウスは悠々とゲートを通り抜ける。

 

 だが、発掘用結界の奥にいたパーシヴァルは、そのかすかな魔力の揺らぎに即座に気づいていた。

 

「配送所の中継地点からここまで自力で来たのか。早いね、王の影」

「君がパーシヴァルか」

「第4席パーシヴァル。聖杯を探す者。歴史上の本人じゃないよ、念のため」

「それを自分で言えるなら、まだ話は通じそうだ」

「話は通じるさ。ただ、交渉はすごく苦手だけどね。欲しいものは何が何でも掘るし、邪魔ならどける。それだけだ」

「分かりやすい」

「ありがとう。褒め言葉として受け取っておくよ」

「半分くらいは呆れている」

「なら、残り半分は褒め言葉だ」

 

 パーシヴァルは屈託なく笑った。その狂気じみたまでの明るさが、アルトリウスにはひどく不快に感じられた。

 

 彼らがこの修道院跡の地下から掘り起こそうとしているのは、本物の『聖杯』ではない。

 聖杯候補。あるいは、聖杯に似た働きを持つただの古い器。アヴァロンの門に接続した痕跡を持つ杯の断片や、かつての王権神秘に反応しただけの容器。

 

「本物の聖杯なら、こんな重機を使った雑な穴掘りで出てくるわけがない。今日掘っているのはあくまで候補だよ。いや、候補の候補でもいいくらいだ」

「候補の候補?」

「聖杯に似た働きをした器。アヴァロンへ向かう術式に使われた可能性のある容器。王権神秘の残滓に反応した杯の断片。そういうものを、とにかく世界中から全部集めているんだ」

「足りないものを、模造品の部品で補うために?」

「その通り。君、九百年遅れている割には理解が早いね」

「不快な理屈ほど、理解は早いものさ」

 

 本物を探す。なければ似たものを集める。それでも足りなければ、かき集めた部品を繋ぎ合わせて人工的に作り出す。

 それが、現代の偽りの円卓のやり方だった。

 

 その時、地下の封印層から不気味な音が響き始めた。

 ゴボォッ、という重い水音。どこからともなく聞こえる、錆びた古い鐘の音。そして、王権神秘とは似て非なる、もっとひどく湿った古い湖の気配。

 

 周囲の地面から、泥水とは違う不自然に澄んだ水が薄く滲み出し始める。

 その水面には、現実の修道院跡ではなく、深い霧に包まれた見知らぬ湖の景色が鏡のように映り込んでいた。魔力にあてられた作業員の一部が、白目を剥いて次々と意識を失って倒れていく。

 

「封印層が開きます!」

「予定より早いね。いいじゃないか」

「危険です! 精神汚染の数値が――」

「危険じゃない封印に、わざわざ手間暇かけて開ける価値はないよ」

 

 歓喜するパーシヴァルを見て、アルトリウスは冷たく言い放つ。

 

「君、本当に探索には向いているね」

「ありがとう」

「褒めてはいない」

 

 封印の奥から浮上してきたのは、青銅でできた杯の小さな欠片だった。

 本物の聖杯ではない。だが、間違いなくアヴァロンの残滓に似た反応を放っている。

 

 パーシヴァルが魔術礼装のトングでその欠片を無造作に回収しようとするのを、アルトリウスの剣気が止めた。

 

「それを雑に抜くと、上の街にこの水が溢れ出るよ」

「洪水?」

「水だけならまだいい。九百年分の記憶、悪夢、古い亡霊、そういう碌でもない呪いも混じって街を沈める」

「それは魅力的だね」

「君とは絶望的に感性が合わない」

 

 アルトリウスが動こうとした瞬間、パーシヴァルの指示を受けた探索班が立ちはだかった。

 彼らの戦い方は、地下礼拝堂の部隊とも、ケイの物流部隊とも違っていた。正面から打ち合うのではなく、現場の環境そのものを武器にする『発掘罠』の戦術だ。

 

 足元の床を起爆術式で崩す。

 封印層から溢れる呪いの水を水路へ誘導して流し込む。

 吸い込めば肺が石化する呪いの砂を散布する。

 発掘用の防壁結界を不規則に展開し、対象を空間ごと分断する。

 遺跡の石柱そのものを盾にして射線を切る。

 

 アルトリウスは、インヴィクトゥスの低出力とルーン魔術を駆使してそれらに対応した。

 

 崩れ落ちる床にはルーン杭を連打して物理的に崩落を食い止める。

 溢れ出す呪いの水は、青白いルーン鎖を網のように展開して流れを縛り上げる。

 降り注ぐ呪いの砂と結界の壁は、インヴィクトゥスの刃で術式の基線だけを正確に切断して無力化する。

 足場を失えば、空中にエーテルの足場を形成しながら強引に前へ進む。

 

「探検家というより、ただの荒らし屋だね」

「発掘と言え!」

「発掘は、無闇に壊すこととは違うよ」

 

 構成員たちを剣の峰で叩き伏せながら、アルトリウスは封印層の崩壊を止めるためにルーンを刻み続けた。

 しかし、彼が呪いの洪水を防いでいるそのわずかな隙を突き、パーシヴァルは目的の一部を達成していた。杯の本体を強引に引き抜くことは諦め、小片の一つと、そこから得られたアヴァロンへの接続反応データだけをケースに収める。

 

「本体の封印処理は君に任せよう。得意だろう?」

「随分とあっさり引くね」

「今日欲しかったのは全部じゃない。アヴァロンへの接続反応と、欠片という鍵だけだ。探索は一度で終わらせるとつまらないからね」

「迷惑な趣味だ」

「よく言われるよ」

 

 パーシヴァルが部下と共に撤退のゲートを開く。

 アルトリウスは追おうとした。踏み込めば、背中に剣を届かせることはできる。

 だが、彼がここで封印の修復の手を止めれば、限界を迎えた封印層が完全に崩壊し、数万人が眠る上の街が呪いの水に沈む。

 

 追えばパーシヴァルを殺せる。だが、上の街に壊滅的な被害が出る。

 だから、追えない。

 

「王の影って本当に大変だね」

 

 ゲートへ入る直前、パーシヴァルが振り返って笑った。

 

「追いたい相手への怒りより、守るという義務の方を優先してしまう」

「……君たち偽物と違ってね」

「そこは否定しないよ。じゃあね、敗北知らずの騎士殿」

 

 ゲートが閉じ、探索班は完全に撤退した。

 

 パーシヴァルが消えた後、アルトリウスは舌打ちと共に封印の応急修復作業に集中した。

 完全修復ではない。街に被害を出さないための最低限の蓋だ。ルーン杭を床と壁の急所へ打ち込み、溢れ出す封印水の流れを術式で抑え込み、インヴィクトゥスの低出力エーテルを流し込んで魔力の乱れを強引に鎮圧する。

 

「壊すより、直す方がよほど手間だね」

 

 少しだけ自嘲気味に笑う。

 

「マーリンなら、ここで三時間は説教する事態だ」

 

 修復の最中、アルトリウスはパーシヴァルがわざと現場に残していった魔力反応の残滓、そのデータの流れに気づいた。

 持ち去られた杯の小片が向かう先。

 偽聖杯。

 王権神秘の模造。

 擬似王影術式。

 それらが、一つの巨大な儀式場へと集約されようとしている明確な道標。

 

「……もう始める気か」

 

 ここで、円卓の騎士が目論む最終決戦の場所が判明した。

 彼らはアヴァロンへの接続実験――恐るべき『試験儀式』を始めようとしている。

 

     *

 

 SHIELDは、またしても後から現場の異常を把握した。

 

 文化財調査現場で発生した原因不明の陥没事故。作業員数名が急性的な精神混濁で意識不明。現場周辺の地下水脈の異常な上昇。監視カメラに一瞬だけ映り込んだペンドラゴンらしき影。そして、現場に残された謎の聖杯関連の資料。

 

「また彼ですね」

「今度は何を壊したんです?」

「報告を見る限り、壊れるところを間一髪で止めたようです。洪水の一歩手前でした」

「それは我々にとって良いことでは?」

「ええ。問題は、なぜ彼がそこにいたのかです」

 

 コールソンの疑問に対し、通信機越しのフューリーがため息をつく。

 

『もう聞くな。答えはどうせ“SHIELDの許可など待たずに勝手に行った”だ』

「ほぼ間違いなく」

 

 SHIELDは押収した資料から、『試験儀式』という危険なキーワードを拾い上げた。

 だが、その場所の特定にはまだ時間がかかる。王の影であるアルトリウスの方が、遥かに速くその真実に辿り着いていた。

 

     *

 

 夜。

 封印を終えたアルトリウスは、静寂を取り戻した修道院跡の片隅でノートを更新した。

 

・第4席パーシヴァル。

・聖杯を追う者。

・明るい危険人物。

・杯の小片。

・アヴァロン反応。

・試験儀式。

・偽聖杯。

・擬似王影術式。

・次で止める。

 

 最後に一行、怒りを込めてペンを走らせる。

 

・王だけではなく、影まで部品にする気らしい。

 

 アルトリウスはノートを閉じ、暗闇を見据えた。

 

「いい加減、椅子から降りてもらおうか」

 

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