アベンジャーズ計画に神代ブリテンの騎士が追加されました   作:アルトリウス(深淵歩きはしない方)

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エピローグ

 

 

 

 偽聖杯が破壊され、戦いが終わった後の儀式場。

 遅れて到着したSHIELDの回収班、保安チーム、そして分析班が、慌ただしく現場の保全と事後処理にあたっていた。

 

 コールソンは、静まり返った地下空間を見渡しながら、現場に残された痕跡を一つ一つ確認していく。

 無惨に斬り捨てられた武装構成員たち。崩れた石柱の下に倒れている儀式守護者。焼却され、黒焦げになったディナダンの記録媒体。完全に砕け散った偽聖杯。安全な状態に封印された杯の小片。そして、床の要所にルーン杭で固定された、アヴァロンもどきの門の残滓。

 

 一方で、救護班のテントには、アルトリウスによって術式から切り離された末端構成員や、記憶を弄られて巻き込まれただけの作業員たちが運び込まれ、手当てを受けていた。

 

 現場の凄惨な状況と、生存者たちの対比を見て、コールソンはすぐに理解した。

 今回は、これまでと違う。アルトリウスは、明確な殺意を持って敵を殺している。

 ただし、無差別に全員を殺したわけではない。逃げた者、巻き込まれた者、操られていただけの者は確実に生かしている。一方で、自身の意志で儀式を守るために立ちはだかった者たちと、首謀者であるディナダンだけは、容赦なく斬り捨てている。

 

 コールソンは現場で彼を問い詰めるような真似はしなかった。まずは被害の拡大を防ぐ現場処理が最優先だ。

 だが、ブルーシートを被せられたディナダンの遺体と、明確な線引きによって命を奪われた構成員たちを見て、コールソンは後で必ず彼本人の口からその判断基準を確認すると心に決めていた。

 

     *

 

 数日後。

 SHIELDの臨時施設に設けられた面談室。

 

 回収された膨大な資料の解析がある程度進み、アルトリウスも最低限の休息と魔力的な自己治癒を終えていた。

 向かい合って座る二人の間の机には、いくつかのファイルが並べられている。偽聖杯の解析報告、ディナダンが残した研究資料の一部、今回の事件における死亡者リスト、そして救助された作業員のリスト。

 

 コールソンは、事件の全体的な報告や円卓の騎士の情報処理に入る前に、まず何よりもアルトリウス本人の判断について確認を取った。

 

「確認しておきたいことがあります」

「ディナダンのことかな」

「彼だけではありません。最終施設で確認された遺体の中には、あなたが明確に斬り捨てた武装構成員や儀式守護者も含まれています」

 

 コールソンは、淡々とした口調でこれまでのアルトリウスの行動を振り返る。

 

「あなたはこれまで、可能な限り相手を殺さずに済ませていました。パブで襲ってきた大男も殺していない。中継地点の構成員も、多くは無力化に留めた。修道院跡では、追撃を諦めてまで水害から作業員と街を助けた。操られた者も救った」

 

 コールソンは、死亡者リストのファイルを軽く叩いた。

 

「なのに、最後の施設では違った。明確に命を奪っている。なぜですか」

 

 問い詰めたり、非難したりするような響きはない。ただ、彼という規格外の存在が、どのような基準で生殺与奪の線を引いているのかを、現代の管理者として正確に知っておく必要があった。

 アルトリウスは隠すことも誤魔化すこともせず、静かに口を開いた。

 

「時代を、学んでいる途中だったからだ」

「時代?」

「ああ。私は九百年前の人間だ。私の時代の常識だけで動けば、この時代では余計な混乱を生む。警察、法律、裁判、医療、保護、正当防衛。君たちは私に、現代の仕組みというものを少しずつ教えてくれた」

 

 アルトリウスは、自身の両手を見つめる。

 

「だから抑えていた。君たちの時代には、君たちの法と倫理がある。敵が刃を向けたからといって、その場で即座に首を落とす、では済まない場面があることも理解したつもりだ」

「では、あの最後の施設は?」

「あれは違う。退く機会は与えた。逃げる者は追わなかった。操られた者や巻き込まれた者は確実に助けた」

 

 そこでアルトリウスは顔を上げ、コールソンを真っ直ぐに見据えた。

 

「だが、残った者たちは違う。彼らは自分の意志で、あの冒涜的な儀式を守るために私へ刃を向けた。あれは事故でも、ただの犯罪現場でもない。明確な戦場だ」

「ディナダンは?」

「あれは兵士ではなく、兵器の設計者だ。暴走を止めるだけでは足りない。生かしておけば、彼は必ずまた作る。もっと精密に、もっと多くを巻き込んでな」

 

 アルトリウスの目に、一切の迷いはなかった。

 

「だから殺した。同じものを、二度と作らせないために」

 

 急に感情に任せて殺し始めたわけではない。現代の法と倫理に歩み寄ろうとしていたが、最終施設における彼らの振る舞いが、アルトリウスの中にある騎士としての決定的な線を越えたのだ。

 

 コールソンは、深く息を吐いた。現代の法執行機関の人間として、その超法規的な殺害を完全に肯定することはできない。

 しかし、ディナダンが残した非人道的な研究資料や、彼が引き起こそうとしていた神秘災害の規模を読んだ後では、アルトリウスの判断を単純に人殺しだと否定することもできなかった。

 

「報告書に非常に書きづらい内容ですね」

「だろうね」

「ですが、ディナダンの資料を読んだ後では、あなたの判断を単純に否定することもできません」

「君は律儀だね」

「仕事です。それに、できればあなたには、ずっとこの時代の側に立っていてほしいので」

「努力はする」

「その返答が一番信用しづらいんですよ」

 

 コールソンがわずかに口元を緩めると、面談室の重い空気が少しだけ軽くなった。

 SHIELDとして、アルトリウスが極めて危険な存在であることは理解している。しかし、無差別に人を殺すような怪物ではないことも、今回の件ではっきりと理解できた。彼らはアルトリウスを単なる『管理対象』ではなく、『対話可能な超常存在』として扱うという方針を、より強固なものにした。

 

 一拍置いて、コールソンは回収資料の解析結果のファイルを広げた。

 

「円卓の騎士という組織についても、ある程度見えてきました」

「聞こう」

「最初に見つかったのは、現代のダミー企業の財団記録でした。そこから二十世紀の軍事研究、大英帝国期の海外調査、近世貴族の収集台帳、中世修道院の写本へと段階的に遡り……」

 

 コールソンは、一枚の古い古文書の写しをアルトリウスへ差し出した。

 

「最後に、リチャード一世の時代へ辿り着いた」

「リチャード一世?」

「後世では“獅子心王”とも呼ばれたイングランド王です。あなたが地中での眠りについた後、十二世紀頃の時代の王ですね」

「……なるほど。私の知らない王か」

 

 アルトリウスが呟く。

 

「ええ。ただ、彼の時代には、すでにアーサー王伝説が王権の正当化や、騎士道の象徴として強く利用されていたようです」

「私の知らない時代で、兄上たちはただの物語になり、後の王たちを飾るための装飾品にもなったわけだ」

「最初は、王侯貴族の趣味と権威付けを目的とした、私的なアーサー王伝説の探索事業だったようです。聖剣、聖杯、アヴァロン。その記録、資金、人脈、そして収集品が、何百年という時間をかけて秘密裏に残り続けた」

「趣味が組織になり、組織そのものが目的になった」

「その表現が一番近いかと」

 

 アルトリウスは少し黙り、リチャード一世の名が記された資料を見つめた。

 彼は、後世の人間がアーサー王伝説に憧れ、最初の探索事業を立ち上げたこと自体を全否定しようとは思わなかった。

 

「始まりが純粋な憧れだったなら、まだ分かる」

「否定はしないのですね」

「人が物語に憧れること自体は、決して悪ではない。聖剣を見たい、聖杯を探したい、アヴァロンが実在するのか知りたい。そう思うだけなら、人として自然なことだ」

 

 そこで、アルトリウスの視線が氷のように冷える。

 

「だが、長い時間の中で憧れが腐り落ち、王を部品にしてまで人工的に再現しようとするなら、見過ごす理由にはならない」

「彼らは、アーサー王を探していた」

「最初はね」

「今は?」

「自分たちに都合の良い、中身のない王を作ろうとしている」

 

 最初から邪悪なだけのカルトではない。王への憧れ、貴族の趣味、神秘探索、王権演出といったものが、長い時間の中で腐敗した成れの果て。だからこそ余計に厄介で、決して放置することはできない。

 

「円卓の騎士は、今回の件であなたへの直接追跡を一旦停止したようです」

「諦めたわけではないだろう」

「ええ。むしろ、あなたを軽く見なくなったと考えるべきでしょう」

「それは良いことかな」

「半分は。残り半分は、彼らがより慎重に、より面倒になるという意味です」

「なら、こちらも学ぶしかないね」

「現代社会を?」

「それも。敵のやり方も。そして、君たちのその報告書の書き方もね」

「最後は覚えなくて結構です」

 

 二人の間に、どこか相棒めいた軽口が交わされる。

 SHIELDは表立って出しゃばらないが、後処理と情報解析においては非常に役に立つ。アルトリウスもまた、この現代で完全単独で生きることは難しく、彼らのような組織との繋がりが必要であることを認め始めていた。

 

「それと」

 

 ファイルを閉じながら、コールソンが思い出したように付け加える。

 

「あのパブの修理費ですが、こちらで処理しておきました」

「窓の件か」

「窓と、壁と、床と、巻き添えになったいくつかの椅子です」

「思ったより多いね」

「あなたが外へ出るために、律儀に扉ではなく窓を使った結果です」

「次はちゃんと扉を使うよ」

「店主も全く同じことを言っていました」

「なら、その約束は守らないとね」

 

 日常の小さな繋がり。アルトリウスの口元に、自然な笑みが浮かぶ。

 

「それから、あの老人から伝言です。“小さな冬の勉強は続けろ”とのことです」

「冷蔵庫のことか。彼は意外と根に持つね」

「親しみだと思いますよ」

「なら、ありがたい」

 

     *

 

 その夜。

 SHIELDの客室に戻ったアルトリウスは、机に向かい、老人から買ってもらったノートの新しいページを開いた。

 ペンを取り、これまでのすべてを書き留めていく。

 

・円卓の騎士は壊滅していない。

・直接追跡は止まった。

・だが、決して諦めたわけではない。

・最終施設では敵を殺した。

・退く機会は与えた。

・操られた者、巻き込まれた者は助けた。

・それでも儀式を守るために残った者は、戦場の敵。

・第10席ディナダン、死亡。

・ディナダンは再発可能な設計者。殺す必要があった。

・偽聖杯は破壊。

・擬似王影術式も破壊。

・アヴァロン接続実験は失敗。

・現代の法律と倫理は、まだ学ぶ必要がある。

・だが、どうしても許せないものはある。

・組織の起源はリチャード一世の探索事業。

・リチャード一世。私の知らない王。

・私の知らない時代に、兄上たちは物語となった。

・憧れが続き、腐り、やがて王を作る組織になった。

・ランスロット。まだ出てきていない。

・本物を知る者として、彼らを見過ごせない。

・パブの修理費は支払われたらしい。

・次は必ず扉から入る。

・冷蔵庫は小さな冬ではない。らしい。

 

 すべての記録を終え、彼は少しだけ考えるように手を止めた。

 そして、最後に一行だけ、自らの存在意義を刻み込むように書き足す。

 

・王の影は、まだ眠らない。

 

 アルトリウスはノートを閉じ、ペンを置いた。

 

「九百年も寝たしね。少しくらい働こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンドンの地下。円卓の騎士の暗い会議室。

 円卓を模した巨大なテーブルの周囲には、いくつかのモニターが青白い光を放っている。その頂点に位置する『第1席アーサー』の椅子は、無人のまま静かに鎮座していた。

 

「王の影への直接追跡は停止する」

 

 アグラヴェインの冷たい宣言に、通信越しにランスロットが低く唸る。

 

「逃がすのか」

「今は損害が大きい」

「賛成だ。あれが動くたびに中継点が死ぬ」

 

 ケイの実務的な同意に続き、ガレスが軽い声で茶化す。

 

「ケイ、物流網にトラウマできてるじゃん」

「お前のせいでもある」

「でも面白かったよ。彼、ちゃんと守る方を選ぶ」

 

 パーシヴァルが愉快そうに笑う中、ランスロットの声だけが殺意に満ちていた。

 

「影ごときが、王の名を守るつもりか」

「その影ごときに、ディナダンは殺された」

 

 アグラヴェインが冷徹に事実を突きつけると、ランスロットの殺気がさらに膨れ上がる。

 

「……次は俺が出る」

「まだだ。王の器を急ぐ」

 

 無人の第1席の椅子が、薄暗い照明の中に浮かび上がる。

 偽りの円卓は、まだ終わらない。

 

 

 

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