アベンジャーズ計画に神代ブリテンの騎士が追加されました 作:アルトリウス(深淵歩きはしない方)
ペンドラゴンという仮の記録で現代社会に放り出されてから、おおよそ一週間が経とうとしていた。
夜。アルトリウスは老人と共に、いつものパブのカウンター席でエールを飲んでいる。
この数日で、店主や常連客からはすっかり「拾われた若いの」あるいは「ペンドラゴン」として認識されるようになっていた。
「よう、ペンドラゴン。今日は小さな冬の勉強は済んだのか?」
店主がグラスを拭きながらからかってくる。
「冷蔵庫のことなら、もう理解したよ。あれは便利だが、冬そのものではないらしい」
「当たり前だ」
横から老人がツッコミを入れる。
「じゃあテレビは?」
「人を閉じ込めていない板」
「まだ少し怪しいな」
常連客も混ざっての、他愛のないやり取り。
九百年後のブリテンは、知らないものだらけだった。身分を証明する紙切れすらなく、金は老人に借りており、この時代の常識はまだ分からないことばかり。
だが、完全に孤独というわけでもない。
酒場には陽気な酔っ払いがいて、店主は口が悪く、老人は面倒見がよく、食事は温かい。知らない時代でも、人が生きている場所は案外変わらないものだ。
そんなささやかな日常の温かさに、アルトリウスは少しだけ居心地の良さを感じ始めていた。
カラン、と。
入り口のベルが鳴り、パブの扉が開いた。
入ってきたのは巨躯の男だった。
現代の服を着てはいるが、背中には布で隠しきれない巨大な剣を背負っている。強盗のような分かりやすい殺気ではない。ただ、その男が纏う空気は明らかに一般人のそれとは違った。
戦う人間。あるいは、戦うために作られたような人間の圧。
店内の空気が一瞬だけ止まる。
老人や店主は「なんだあいつ」という程度の怪訝な顔をしたが、アルトリウスだけは一目で明確な警戒態勢に入った。
巨躯の男は周囲の視線を気にする様子もなく、一直線にアルトリウスの隣の席へと腰を下ろした。
「その剣が欲しい」
挨拶も前置きもなく、男は言った。
アルトリウスは少しだけ反応する。剣は物理的には実体化しておらず、外からは見えていないはずだ。
「……見えているのかい?」
「見えずとも分かる。貴様の内にあるそれを寄越せ」
確信した。この男は一般人でも警察でもない。
剣の姿を視認しているのではなく、己の内側にある神秘の反応を正確に読んでいる。
「この剣が欲しい、ね」
アルトリウスはグラスを置き、隣の男に視線を向けた。
「なんでか教えてくれても?」
「教える義理があるのか? 寄越せ」
「君は自分のものを他人にあげる時、それをどんなことに使うのか、なぜ欲するのか気にならないのかい?」
子供をあしらうようなアルトリウスの言葉に、男は面倒そうに吐き捨てた。
「……王を、アーサー王を再び見つけ出すため。生み出すためだ。我ら『円卓の騎士』に必要なものだ。話したぞ、寄越せ」
その瞬間。
アルトリウスの周囲の空気が、数度ほど急激に冷え込んだ。
王を、生み出すため。
円卓の騎士。
その言葉を、この男が口にした。
怒鳴ることはない。無駄な殺気も出さない。ただ、アルトリウスの瞳の奥が静かに、そして冷酷に冷え切っていく。
王を知らず、騎士を知らず、アーサーという名と円卓を部品か何かのように扱う者たち。
なるほど。この時代は自分の知らないものだらけだ。だが、それでも許せるものと許せないものの区別くらいはつく。
「んー……ここはあえてこう言おう。Jog on」
「……なんだと」
「ジョギングでもしてきな。頭が冷えるかもしれない」
明確な拒絶。
巨躯の男の顔が怒りで歪み、ガタッと乱暴な音を立てて立ち上がった。
椅子が軋み、常連客たちが静まり返り、店主が固まる。危険を察した老人が立ち上がりかけた。
アルトリウスは老人に軽く掌を向ける。
「座っていていいよ」
「おい、何を――」
「多分、すぐ終わる」
男が背中の布を払い、巨大な大剣を握りしめる。
狭い店内で暴れられれば、一般人を巻き込む被害が出る。アルトリウスは呆然としている店主に向かって、申し訳なさそうに言った。
「あー……店主、後で詫びに向かうよ。また後で」
直後、男の横薙ぎの大剣がアルトリウスを両断しようと迫る。
一撃で人間を真っ二つにできる速度と威力。だが、アルトリウスは座ったまま動かない。
左手に青白いエーテルの光が走り、一瞬だけ騎士の
ガガァンッ!! という凄まじい金属音が店内に響き渡る。
剣は出さない。全身の鎧も展開しない。左手の籠手だけで、その規格外の斬撃を真正面から受け止めた。
そのまま受け止め切れば店内の被害が拡大する。アルトリウスはあえて一撃の衝撃を流す形で、店の奥から外へ繋がる窓ガラスを突き破って後方へ吹き飛んだ。
粉々に砕け散るガラスの雨の中、アルトリウスは空中で姿勢を制御する。
まるで猫のようにくるりと回転しつつ地面のアスファルトに降り立つその姿は、まるで獰猛な獣のようだった。
パブの中から、巨躯の男が大剣を担ぎ直して外へ躍り出てくる。
店内では老人や店主たちが、今の異常な出来事に唖然として固まっていた。
アルトリウスは軽く肩を回し、夜風の中で男と対峙する。
「さて、少しばかりおイタが過ぎてるよキミ。ブリテン流でおしおきしてあげよう」
「戯け、王の影にいた臆病者が。俺に敵うとでも? 剣を抜け、査定してやろう」
王の影。臆病者。剣を抜け。
男の挑発を聞いて、アルトリウスは愉快そうに笑った。だが、その目に一切の笑みは浮かんでいない。
「はは、君程度には素手で十分だよ。ランスロットほどでは無いけど……剣がなくても戦えるんでね」