アベンジャーズ計画に神代ブリテンの騎士が追加されました 作:アルトリウス(深淵歩きはしない方)
「はは、君程度には素手で十分だよ。ランスロットほどでは無いけど剣がなくても戦えるんでね」
その言葉が引き金だった。
巨躯の男が顔を怒りに歪ませ、足元のアスファルトを蹴り砕く勢いで踏み込んでくる。
放たれるのは大剣による横薙ぎ。そして続けざまに袈裟斬り、下からの斬り上げ。
狭い路地で振るうにはあまりに巨大な得物だが、小回りが利いている。ただの怪力馬鹿ではなく、相応の実戦経験を積んできた動きだ。
だが、アルトリウスは派手に飛び退くような真似はしない。
半歩だけ下がる。片足を軸にして体をずらす。肩の角度を変える。首を傾ける。
ほんのわずかな最小動作だけで、必殺の刃をすべて空へ切らせていく。
巨躯の男からすれば、攻撃が外れているという感覚すらないだろう。当たるはずの位置に、すでに相手がいないのだ。
踏み込む前から刃の軌道を完全に読まれ、回避する位置を決められている。
「悪くないね。見た目より器用だ」
「余裕ぶるな!」
苛立ちを隠せない男の咆哮と共に、大剣の振りがさらに加速した。
男の筋肉が異様に膨張し、巨体にかけられた身体強化の魔術が一段階引き上げられる。
さらに、大剣の周囲に淡い神秘の光が走った。本物の聖剣ではないが、古代ブリテンの神秘の欠片を組み込み、現代魔術で強化された模造品。その一撃の重さは、もはや人間の領域を軽く超えている。
アルトリウスはそれを避けず、左手に実体化させた籠手で受けた。
一回目は刃を撫でるように受け流し、二回目は硬い金属音と共に弾き返し、三回目は拳で剣の腹を叩いて軌道を強引に変える。
男の顔に、明確な焦りが浮かんだ。
自分の持つ大剣は、ただの籠手で受け止められるような代物ではない。しかも相手は、未だに剣を抜こうとすらしていないのだ。
焦燥に駆られた男は、踏み込みに合わせて巨体による体当たりを混ぜてきた。
大剣の斬撃と、強化魔術を乗せた突進。
アルトリウスはそれを真正面からは受けず、ステップを踏んで横へ流す。
すれ違いざまに男の肩を籠手で軽く押し、その重心を崩した。そのまま地面に転がるかと思いきや、男は即座に足を踏み替えて体勢を立て直す。
「おっと。そこは踏ん張るか。いいね」
戦い慣れている。それは間違いない。
だが、アルトリウスの瞳の奥にある冷ややかな光は変わらなかった。
背後のパブの窓ガラスを割り、一般の民草を巻き込むことを少しも躊躇わない戦い方。王を語りながら守るべきものを見ようとしないその在り方は、断じて騎士のそれではない。
「力はある。技も悪くない。経験も積んでいる」
「なら、なぜ剣を抜かん!」
「騎士ではないからだよ」
「俺たちは円卓の騎士だ!」
「名乗ればなれるものじゃない」
アルトリウスの静かな言葉が、男の逆鱗に触れた。
男が大剣にありったけの魔力を流し込む。
剣の表面に禍々しい紋様が浮かび上がり、刃の輪郭が歪に揺らめく。模造聖剣としての機能が強制起動され、王権神秘の残滓を帯びた制圧用の斬撃が形作られた。
殺すための刃ではない。相手の神秘を縛り、器として生け捕りにするための大技。
「ならば、その中の剣ごと叩き伏せる!」
「なるほど。道具は悪くない」
「ようやく抜く気になったか?」
「いや、壊しても惜しくないと分かっただけだ」
男が渾身の力で大剣を振り下ろす。
全体重と身体強化、そして大剣の神秘、そのすべてを乗せた必殺の一撃。
対するアルトリウスは、一切の回避行動を取らない。
ただ左手の籠手を前に出し、恐るべき斬撃を真正面から受け止めた。
ガァンッ! と周囲の空気が弾け飛ぶような衝撃が走るが、アルトリウスは一歩も下がらない。
そして、空いた右の拳を静かに握り込んだ。
拳が大剣に当たる。ヒビが入る。
ローキックが膝に当たる。膝が砕ける。
アッパーが腹部に入る。内臓が軋む音がする。
既に巨躯の男は、抵抗するままならぬ状態でいた。
「いやぁ……手加減が下手になったかな。そこまでボロボロにする予定はなかったんだけど」
違う。
お前が強すぎるだけだ。
そう男は言いたかったが、先ほど内臓を押された時に空気が肺から出て行き、喋ることすらできなくなっている。
実力だけでいえば、男は組織の中堅の中でも上の方。
幹部に直接謁見ができるほどに上り詰めていた自分が、剣も使われず、大剣と身体強化を使ってもその速さに追いつけず、一方的にやられている。
自分たちは、回収対象を見誤っていたのだ。
剣を宿す単なる器ではない。王の影。本物の円卓を知る者。王の代わりに死を引き受けた、古い時代の本物の怪物。
既に内心は折れていた。
あぁ、こいつは手を出してはいけなかったんだ。
その想いを胸に、巨躯の男は夜のアスファルトへと倒れ伏す。
「昔の感覚でやると駄目だね。うん、学びだ」
アルトリウスは倒れた男を見下ろし、小さく息を吐いた。現代の町中で人を壊しすぎるのは良くない。殺す気はなかったとはいえ、反省すべき点だ。
そんな呑気なことを考えていると、遠くの夜道からけたたましいサイレンの音が近づいてくるのが聞こえた。
アルトリウスは振り返り、パブの方へと視線を向ける。
無残に砕け散った窓ガラスの奥で、店主が完全に固まり、老人が顔を引きつらせてこちらを見ていた。
「……さて」
アルトリウスは少し困ったように苦笑する。
「説明が面倒になりそうだ」