アベンジャーズ計画に神代ブリテンの騎士が追加されました   作:アルトリウス(深淵歩きはしない方)

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検査をしよう

 

 

 

 戦略国土調停補強配備局――通称SHIELDの車両は、英国国内にある臨時施設へと到着した。

 表向きはただの地味な研究施設か、あるいは倉庫のような外観をしている。だが、一歩中に足を踏み入れれば、そこがただの建物ではないことは明白だった。無数に配置された監視カメラ、武装した警備員、厳重なカード認証のゲート、防弾仕様の強化ガラスに隔離室。

 

 アルトリウスは歩きながら、周囲の構造を静かに観察する。

 

「城ではないが、要塞に近いね」

「表向きはただの施設です」

「表向き、という言葉が出る時点でただではないよ」

「お互い様では?」

「それはそうだ」

 

 コールソンと軽い軽口を叩き合いながらも、アルトリウスの視線は自然と施設の構造、逃走経路、警備の配置、監視装置の死角を探っていた。

 コールソンがそれに気づき、横から声をかける。

 

「逃げるつもりですか?」

「逃げるつもりはないよ。ただ、知らない建物に入ったら出口を見る。昔からの癖だね」

「良い癖です」

「警備側からすると嫌な癖では?」

「かなり」

 

 施設の深部へ案内される途中、すれ違った職員の持つ端末の画面がふと視界に入った。

 そこに表示されていたのは、アルトリウスに対する初期分類のコードだった。

 

『分類:0-8-4 / Unknown Origin Object』

『対象:PENDRAGON, self-identified』

『付随反応:Internal sword-shaped energy signature』

 

 コールソンはその表記を見るなり、傍らの職員に厳しい視線を向けた。

 

「Object(物品)扱いは避けましょう」

「ですが、規定では0-8-4分類です」

「彼は会話ができます。しかも、かなり理性的に」

「内在している剣の方は物品では?」

「その線はあります。ただし、本人と切り離せるとは限りません」

 

 未知の異常物品。それがこの組織におけるアルトリウスの初期評価らしい。

 アルトリウスは端末の画面を指差し、肩をすくめた。

 

「私は荷物扱いかな?」

「すぐに訂正させます」

「助かる。荷札を付けられるのはあまり好みではないからね」

 

 SHIELDはアルトリウスの危険度と性質を測るため、一通りの検査を求めてきた。

 身体検査、血液検査、特殊な機器による内部走査、エネルギー測定、映像記録、そして質問票。

 

 アルトリウスは少しだけ考え、確認を取る。

 

「解剖は含まれる?」

「含まれません」

「ならいい」

「そこを最初に確認するんですね」

「経験上、魔術師の研究施設では大事な確認なんだ」

 

 コールソンが一瞬だけ表情を止めた。

 

「魔術師」

「失言だったかな?」

「いえ。むしろ助かります。あなたがどの分野に近い存在なのか、候補が少し絞れました」

 

 検査室へ通され、医療スタッフや研究員による身体データの収集が始まった。

 結果は、当然ながら現代の医学を根底から嘲笑うようなものだった。外見年齢と身体状態の不一致、異常な筋肉密度と骨密度、そして何より、過去に大規模な損傷――通常なら即死するレベルの欠損――を受けた痕跡があるにも関わらず、現在は細胞レベルで完全修復されているという事実。

 

「過去に、大きな外傷を?」

「何度か」

「何度か、で済む痕跡ではありませんが」

「昔は医療環境が良くなくてね」

「それで説明できる範囲を完全に超えています」

「だろうね」

 

 医療スタッフが頭を抱える横で、今度はエネルギー測定が行われた。

 アルトリウスの内側に、明確な剣状の反応が検出される。だが、その位置が定まらない。心臓の近くにあるようにも見えれば、神経系に重なっているようにも見え、骨格全体に分散しているようにも見える。

 

「物理的な場所がありません。臓器でもインプラントでもない」

「だが反応はある」

「はい。剣状のエネルギーパターンとしては明確です」

 

 困惑する研究員たちを背に、コールソンがアルトリウスを見た。

 

「説明できますか?」

「見えていないだけで、そこにある」

「それは科学的説明ではありませんね」

「魔術的説明でも、あまり親切ではないね」

「では、親切な説明をお願いできますか?」

 

 アルトリウスは少し考え、己の魂に重なる相棒の在り方を言語化した。

 

「剣は私の所有物ではあるが、今は手に持っているわけではない。肉体と、魔力と、魂に重なっている。呼べば形を取る。呼ばなければ、そこに在るだけだ」

「つまり、あなたから取り外せるものではない?」

「無理に剥がそうとすれば、たぶん君たちの施設が先に壊れる」

「試さないでおきます」

「賢明だね」

 

 研究員の一人が、観測のために剣の実体化を要求しようと身を乗り出した。だが、コールソンがそれを手で制す。

 

「安全ですか?」

「私が制御する限りは」

「実体化した状態を短時間だけ観測できれば――」

「やめておいた方がいい。この部屋の機械が全部壊れてもいいなら出すよ」

 

 アルトリウスの静かな警告に、研究員は口をつぐんだ。

 

「冗談ではなく」

「では、本日はやめておきましょう」

「それがいい。あれは、握手より先に抜くものではない」

 

 続く現代知識のテストでも、SHIELDの職員たちは度肝を抜かれることになった。

 一週間で学んだ範囲の常識や歴史、そして基礎的な科学理論。職員が相対性理論の初歩を説明すると、アルトリウスは即座に要点を噛み砕いてみせた。

 

「つまり、観測者と速度によって時間と空間の見え方が変わる。完全な絶対座標ではなく、関係性の問題として扱うわけだね」

「……本当に、初めて聞いたんですよね?」

「この言い方では初めてだね」

「この言い方では?」

「師に、似たようなことを別体系で叩き込まれた。あの偏屈ジジイは、こういう説明をしてくれればもう少し性格が良く見えたんだけど」

 

 はるか昔、ブリテンの塔にいたろくでなしの顔を思い浮かべ、アルトリウスは肩をすくめた。

 

「師、ですか?」

「ああ。超一級の天才で、性格は最悪のクソジジイだ」

 

 研究員たちが微妙な顔をする中、コールソンは真面目な顔で返す。

 

「尊敬しているように聞こえます」

「しているよ。悪口と敬意は両立する」

 

 一通りの検査とテストが終わり、コールソンとの個別の面談が始まった。

 簡素な面談室の机の上には、アルトリウスがパブで書いていたノートが置かれている。

 

・冷蔵庫は小さな冬。

・テレビは人を閉じ込めていない板。

・手錠は趣味の悪い腕輪。

・普通は、という言葉は信用ならない。

・現代社会は紙と番号が強い。

 

「これは?」

「重要資料だ」

「かなり独自の表現ですね」

「私には分かりやすい」

「なるほど。では、こちらも資料を作る時は表現に気をつけます」

「助かる」

 

 和やかな空気を保ちつつ、コールソンは静かに核心へと踏み込んだ。

 

「あなたは、アーサー王ではない」

「そうだね」

「では、誰ですか?」

 

 アルトリウスは少し黙った。

 今ここで、すべてを明かす必要はない。だが、誠意ある対応を見せる相手には、最低限の真実を返すのが騎士の礼儀だ。

 

「王ではない。王の隣にいた者だ」

「騎士?」

「それも間違いではない」

「ペンドラゴンという名を名乗る資格がある、と言いましたね。血縁ですか?」

 

 アルトリウスは少しだけ笑った。

 

「それを今言うと、君の報告書がさらに面倒になる」

「もう十分面倒です」

「なら、もう少し後でいい」

 

     *

 

 その頃。

 SHIELDの暗号化された通信回線越しに、ニック・フューリー長官を交えた評価会議が行われていた。

 画面にはアルトリウスの異常な検査データと、パブ前での戦闘映像が並べられている。

 

『危険です。物品として回収できない以上、厳重隔離を推奨します』

 

 研究員からの報告に対し、コールソンは静かに異を唱えた。

 

『隔離だけでは逆効果です。彼は極めて理性的で、協力的です』

『協力的な古代騎士か』

 

 フューリーの低い声が響く。

 

『少なくとも、今のところは』

『今のところ、か』

『ええ。ですが、彼を危険な物品扱いすれば、その“今のところ”もすぐに消えるでしょう』

 

 フューリーはしばらく沈黙し、やがて結論を下した。

 

『監視は続けろ。だが、檻には入れるな』

『長官、それは危険です』

『檻に入れて安全になる相手なら、あの大剣男も勝てただろうよ』

 

 単なる回収対象(0-8-4)から、対話と協力が可能な超常存在へ。

 それが、SHIELDがアルトリウス・ペンドラゴンに下した最初の評価だった。

 

     *

 

 アルトリウスは、施設内の一室に通されていた。

 鉄格子の独房ではない。監視カメラこそあるものの、清潔なベッドと机が置かれた、内鍵のない簡素な部屋だ。

 

「しばらくここで過ごしていただきます。監視はありますが、拘束ではありません」

「監視付きの客室か」

「表現としては、かなり近いですね」

「悪くない。少なくとも地中よりは快適だ」

「比較対象が極端ですね」

 

 コールソンは退出する前、アルトリウスのノートと共に、現代史や基礎科学に関する数冊の本、そしてSHIELDが用意した簡単な説明資料を机に置いた。

 

「学ぶものが多いと言っていましたので」

「気が利くね」

「職業柄です」

 

 コールソンが静かに扉を閉めて去っていく。

 アルトリウスは机の椅子に腰を下ろし、ノートの真新しいページを開いた。

 ペンを取り、この時代の新たな常識を書き連ねていく。

 

・SHIELD。盾を名乗る組織。

・普通の衛兵ではない

・危険だが、話は通じる。

・今のところ、敵ではない。

 

 少し考えて、彼はもう一行だけ書き足した。

 

・コールソン。距離感が上手い。要警戒。ただし悪くない。

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