「The Mayor Of Simpleton」を、聴きながら書きました
まだまだ寒い1月半ば、とある高校の放課後の屋上に2年生の春日部つむぎと高宮聡(たかみやさとし)は居た。
「春日部! お前のことが好きだ 俺と付き合ってくれ!」
聡が目前のつむぎに片手を差し出す。
「・・・え、えと、あの、サトシ君のこと、さーし君って呼ばせてもらうね」
突然の告白に頬を染めるつむぎ。
(よ、良かった とりあえず断られたんじゃなさそうだな・・・)
「さーし君、3学期になってから隣のクラスのあーしのこと、ずっと見てたよね・・・」
女の子が視線に敏感であることは真実である。
「でも・・・、あーしでいいの? さーし君すっごいモテるのに」
下に俯きながら、困惑の表情を浮かべるつむぎに聡が叫ぶ。
「お、お前じゃなきゃ嫌なんだ!、お前以外にこんなこと言いやしない!」
「えーと、でもね・・・」
「な、何だ?」
びゅうっとひとつ、強い風が吹いた。
それから約1カ月、二人は毎日手を繋ぎながら学校の帰り道を歩くようになっていた。季節がら共にコートを身に着け、つむぎは暖かそうなマフラーを巻いている。
「さーし君見て見て!、昨日大好きなネコネコ動画が更新されたの~」
「・・・んー、俺は犬派だけどな」
「ぶー!、子ネコ達がみーみー鳴きながらママのおっぱいねだっているんだから~」
すこし怒った風に、聡にスマホの画面を見せつけてくる。
「あ、そうだっ!」
つむぎが急に思い返したような表情でショルダーバッグの中をごそごそと漁り始める。
「・・・じゃーん!、ハッピーばれんたいーん!」
頬を染めながらハート型の包みを取り出した。
「・・・お、大きいな。ありがとう春日部、嬉しいよ」
照れたたように、ぽりぽりと頬を掻きながら包みを受け取る聡。
去年は結構チョコを貰えたが、つむぎとの仲が知れ渡った現在は本命チョコはこれひとつだけ。それでも満足だった。
「うふふ、ママと一緒に頑張って作ったの 愛情たっぷり入ってるぞ~」
聡を握る手ちょっと力がこもる。
「あ、さーし君写メ一緒に撮ろ!」
はいはいと頷く聡。片手につむぎのスマホ、片手にチョコと不器用な姿勢で自分達にカメラを向けた。
「えへへ、アリガトね♪」
つむぎ、満面の笑顔に両手でピース!。
素早く『初バレンタイン記念!』と画像にタイトルを付ける。
(・・・あ、火傷でもしたのかな)
つむぎの指に何か所か巻かれた絆創膏に気付く。
(細長くて綺麗な指してるよな・・・ 体つきも華奢だし、ふともも以外はな・・・)
「あーっ、さーし君ナニあーしのコトぜんぶ見ちゃってるの~ エッチー!」
悪戯っぽく微笑むつむぎ、聡が慌てながら言い返す。
「そ!、そんなんじゃねーよ! ・・・てゆーか、ごめん」
「アハ、よくできました~」
笑いながら聡の鼻先を人差し指でちょこんと突いた。
「あーん、さーし君背高いから頭ナデナデできないよ~」
喚くつむぎに、しょうがないなぁといった風に溜め息を吐く聡。
ぽんぽんと軽くつむぎの頭を叩いた。
ふわっと辺りにシャンプーの甘い香りが漂う。
「やーん!、もっとやってくれてもいいぞぉ♪」
両手で口元を抑え、照れまくるつむぎ。
(・・・こういう所がいちいち可愛いんだよなぁ)
高まる鼓動でそう考えると、つむぎの横に並び直す聡。
「ははは、そろそろ何処かに行こうか お礼がしたいんだ」
「うんっ、えーとあーしはねぇ・・・」
「後でラインで写真送っておいてくれよ」
再び手を繋いで歩き出す二人、だがその後方で一人の女生徒がそれを見つめていた。
翌日、体育の時間。授業は1クラス、2クラス合同で行われる。
半分に割られたコートで女生徒はバレーボールに興じていた。
ついつい体操服姿のつむぎを目で追う聡。
聡の視線に気付いたつむぎ、こちらに向かってぶんぶんを片手を振ってくる。
「さーしくーん!!!!」
体育館中に響く元気な声、すかさず体育教師からの注意のホイッスルと生徒達から沸き起こる爆笑の渦。
(・・・あちゃー)
困り顔で片手で顔を覆う聡、けれども目は笑っていた。
昼休み、いつも聡のクラスで並びながら昼食を取る二人。
「ごちそーさまっ! んじゃさーし君、また帰り、ねー」
いつもと変わらない笑顔で自分のクラスに戻って行くつむぎ。
「あぁ、またなー」
軽く手を振る聡。外から降り注ぐ日差しにしばし微睡もうとする。
しかし、そんな聡を取り囲むように3人の悪友達が集まってくる。
「サトシよぉ、春日部がお前にチョコあげたって騒いでるらしいぜ?」
「お前、けっこーモテんのに何であんなうっせービッチに告ってんのよ?」
その言葉に一月前の告白を思い出す。
・・・びゅうっとひとつ、強い風が吹いた。
「やーんっ!」
咄嗟にスカートを抑えるつむぎ。
(み、見てないっ!、俺は何も見てないぞ!)
心の中で慌てふためく聡に、つむぎが呟く。
「コホンッ! ・・・あーしねぇ、今までカレシ居たことないよぉ・・・」
意外な言葉に思わず聡の片手が宙を泳ぐ。
(い、いや、俺はその方が嬉しいんだけど・・・?)
「それにね・・・」
「こ、今度は何!?」
「あーしのこと、やかましー子だって思っちゃうかもよぉ・・・」
「た、楽しそうじゃないか! そんな可愛いやつといつも居られれば!」
しばらく流れる沈黙、突然つむぎが柔らかな笑みを浮かべ顔を上げる。
「・・・うんっ!、いいよ 付き合ったげる!」
聡の片手を握り、頬の傍まで持っていく。
「ラインも交換しよ! あーしのコト、ぜったい大切にしてねぇ・・・」
つむぎ、満面の笑顔に両手でピース!。
「や、やったぁ!」
(こいつらぁ、春日部が気にしていることを軽々しく言いやがって・・・)
聡の眉が少し吊り上がる。
「笑かすぜ!。『いとしのさーしくーん(はぁと』ってか? ヒャハハー」
下品な嘲笑が周りを包む。
「お前らぁ・・・」
聡、激怒の表情でゆっくりと席を立つ。
「な、何だよ? 拳握りしめやがって・・・」
焦り始める一番近くにいた男の顔面に、聡のストレートが炸裂した。
「あぁん!? やんのかテメー!」
「ぶっとばす!」
残りの2人もいきり立つ。
「お前ら、春日部のことなんか何も知らねーくせによぉっっ!」
平和に終わろうとしていた筈の昼休み、大喧嘩がクラスに巻き起こった。
あれは確か冬休みの最中、小雨降る一段と寒さの厳しい日の事。
(・・・うー、さみー こんな日に買い物なんか出るべきじゃなかったな)
聡は傘を差しながら帰り道を急いでいた。
だが不意に、前方で傘を差しながらしゃがみ込んでいるつむぎの姿が目に留まる。
(私服、初めて見た・・・)
つむぎは野良猫と一緒に傘に入りながら、ピンクのフェイスタオルで慈しむようにその体を拭いてあげていた。
「ふふ、寒いねー でももう大丈夫だよ♪」
聡、何だか声を掛け辛くて横の路地に身を隠しながら見つめ続ける。
猫がくしゃみをしながら、きゅるると腹の鳴る音をたてる。
「お腹空いてるの・・・? あ、そだ、ちょっと待っててねー」
傘をその場に置き去りにして、唐突に小雨の中を走り去って行くつむぎ。
(こ、こんな寒い中、どーすんだ?)
5分程経った後、100円ショップの包みとホットミルクの缶を持ちながら戻ってきたつむぎ。
「ちゃんと待っててくれたね! もーちょいだけ、待っててねぇ・・・」
100円ショップの袋から小皿を取り出すと、とくとくとミルクを注ぎ始める。
ぺろぺろとミルクを舐め始める猫。
「美味しい? んふふ・・・」
つむぎ、猫と一緒の傘の中、優しくその背中を撫でる。
やがて猫がけぷっと声を上げると、満足そうに背を伸ばし始めた。
「お腹いっぱい? よかったぁ♪」
つむぎも満足そうに、優し気に猫に微笑み掛ける。
「・・・あ、雨止んだねぇ」
傘を閉じると、もう一度猫を優しく撫でる。
「じゃーね、にゃーにゃ カゼひかないでねー!」
ぶんぶんと手を振ると、後ろの猫を見つめたまま走り去っていくつむぎ。
「優しいんだ、な 春日部って・・・」
傘も閉じずに一部始終を見届けていた聡。ぼそり、とそう呟いた。
放課後、あれから4人とも職員室で連帯責任と言われ、たっぷりと怒られた。大小様々な絆創膏だらけの仏頂面で学校の入り口をのしのしと通り過ぎる聡。
(くそっ、あいつらのせいで・・・ イテテ)
いつもの待ち合わせ場所の校門前に着くと、つむぎが不安に表情を曇らせながら佇んでいた。
「さーし君!、ケンカしちゃったってホント!?」
聡の姿を見止めると、心配そうに駆け寄ってくるつむぎ。
いつもならうぃーすと言って笑い掛ける所だが、今は腹の中の怒りが収まらず、その余裕も無い。
「・・・あーしのセイだって、聞いちゃったんだケド・・・?」
何故だかあの3人の嘲笑が思い浮かぶ。
「関係ねぇよっ!!」
何故だか飛び出す怒号。周りの空気が凍り付く。
「ひぃっ!」
驚き、怖れながら縮こまるつむぎ。
(しまった!!)
そう思いながら必死に顔を緩めようとする聡、だがもう遅い。
ゆっくりとつむぎが呟く。
「さーし君・・・、あーしにちゃんと教えてくれないんだね・・・」
つむぎの瞳にうっすらと浮かぶ涙。
「あーし、先に帰るから・・・」
くるっと背を向けると駆け足で走り去って行くつむぎ。聡、激しく自己嫌悪に陥っていた。
そんな二人の姿を学校の入り口からで見つめている女生徒の姿、聡と同じクラスで、学校一可愛いと噂されている優等生の山口良子(やまぐちりょうこ)が立っていた。
その夜、ベッドの中でスマホを見つめ続けるつむぎ。
ラインには聡からのごめんのメッセージが何行も並ぶが、既読にするつもりにはなれなかった。
(さーしく・・・)
心の中の呟きでさえ途中で止まり、鬱な気持ちが襲い掛かってくる。
(もぅいいや、寝ちゃお・・・)
布団を深く被り固く目を閉じた。
翌日の放課後、校門の前一人きりで佇む聡。
(・・・春日部、来てくれないな まぁ、俺が悪いんだけれども)
それでも下校する生徒達を眺め続ける。
(せめて直接謝ることができたらいいんだが、な・・・)
「高宮君?」
背後から穏やかに女子の自分を呼ぶ声がする。
(ま、まさか春日部・・・!?)
勢いよく振り返ると、そこに良子が笑顔で自分を見上げていた。
「や、山口・・・?」
「こんにちは」
優等生らしく、物静かな体で語り掛けてくる。
「よ、よぅ めずらしいな、俺に話し掛けてくるなんて」
「あら? 同じクラスじゃない」
良子が小首を傾げながら答える。
「・・・昨日は済まなかったな、学級委員長」
確かクラスの大喧嘩を止めるために、真っ先に職員室に駆け込んだのは良子だった。
「いいえ、謝らなくてもいいわ クラスのことだもの それに私のことをそんな風に呼ぶ人なんて誰も居ないわよ?」
良子はふふふと笑うと、肩口まで伸ばしたショートボブの黒髪を軽くかきあげ聡の瞳を覗き込んできた。
つむぎとはまた別の、柔らかな香りが辺りを漂う。
「今日はつむぎちゃんと一緒じゃないの? お昼もいなかったし・・・」
痛いところを突かれる。
「あ、あぁ 今日はダメみたいなんだ・・・」
焦りながら答える聡、つむぎとは真反対のあくまでも穏やかな彼女の物言いに終始ペースを乱されまくる。
(・・・さっきから通り掛かるやつら全員こっち見てくるし、もし変な噂流されたらヤバいし、それにこんなとこに春日部が来たらもっとヤベぇ・・・)
聡、全身に冷や汗が浮かぶ。
「それじゃあねぇ・・・」
意を決した様に良子が語り掛ける。
「ん?」
「私と一緒に帰らない?、確か方角同じだったわよね」
(えええええええええっ!?)
魂が抜けた様な表情の聡。
その少し前の刻の放課後のつむぎのクラス。彼女は一人切りのまま椅子に座り込み、スマホでバレンタインの時の写真を眺め続けていた。
画面の時計を見て驚くつむぎ。
(あ、もうこんな時間・・・)
(もう帰ろうかな もしかしたら、もしかしたら、さーし君待ってるかもだし、ナニ話したらいいかわかんないけどケドさ・・・)
帰り仕度を整え終えると、とぼとぼと廊下を歩き始めるつむぎ。
学校の入り口を出て前方を見つめると驚きの光景を見た。
(えええええええええっ!?)
(アレって、さーし君と良子ちゃんっ!?)
見つめ合う二人を見止めると、すきんっと胸が痛んだ。
話は聡の側に移る。
「・・・それとも、私とじゃ嫌?」
良子が寂し気に聡を見つめてくる。
(そ、そういうことは他の男に言ってくれよ!?)
焦りをヒートアップさせまくる聡。
「あ、あぁ、いいよ 途中まで、な!」
一刻も早くここから逃げ出したい衝動に駆られまくり、思わずそう答える。
「良かった ね、行こう」
いつもと変わらない柔和な笑顔に戻る良子。聡の隣に立つと共に歩くことを促す。
良子と共に歩き始めた聡に口をぱくぱくとさせるつむぎ。
二人のことを追い掛けずには居られなかった。
「高宮君、まだ顔の傷痛むの?」
「へ、平気だ! こんなんカスリ傷さ!」
罪悪感を振り払うかの様に、強がってみせる聡。
「ふふふ、でも高宮君って凄いわよね 3対1でも引き分けちゃうなんて」
二人に気付かれない位置を保ちつつ、尾行を続けるつむぎ。
(うー、あーしがナンでこんなストーカーみたいなコト・・・?)
軽く自己嫌悪に陥るも、痛み続ける胸が止める事を許さなかった。
「山口、そ、そろそろこの辺で・・・」
「え、もう?」
残念そうな表情を浮かべる良子。聡の顔をじっと見つめて言う。
「高宮君、絆創膏剥がれそうだから直してあげる」
「へ? あ、あぁ、うん」
何の警戒心も持たず、その場に屈み込む聡。
不意打ち気味に、だがおずおずと良子が聡の頬にキスをする。
「・・・っ! 山口っ!?」
真っ赤な顔で頬を抑えながら、がばっと良子から離れる聡。
「ふふ 私、同じクラスになってからずっと高宮君のことが好きだったのよ・・・」
頬を染め、天使の様な笑みを浮かべる良子。
「はい、これ遅くなったけれどもバレンタイン 私にもまだチャンスが有っても良いかしら?」
鞄の中から高級そうな用紙に包まれた箱を取り出し、聡に差し出す。
(待て!)
心の中で叫びをあげるも、何とも情けなくとも、受け取ることしかできなかった。
「また一緒に帰ってくれても良いかしら? 明日は委員会が有るけれども、次の日の土曜には・・・」
(待て、待て、待て、待て、待って・・・)
「それじゃあ、ね 高宮君」
(待ってくれぇぇぇ・・・)
ぷるぷると震えるつむぎのスマホ、画面には聡に口付ける良子の姿が
写っていた。
翌日の放課後。ラインにつむぎから『屋上に来て』とメッセージが届き、息を切らせながら階段を駆け上がる聡。扉を勢いよく開くと、そこには怖ろしい形相を浮かべたつむぎが立ちつくしてした。
「春日部・・・? 今着いたんだけど」
聡が目の前まで来ると、スマホの画面を見せつけてくるつむぎ。
「・・・ナニこれ?」
たちまち、顔の血の気が引く聡。
「春日部!、み、見てたのか!」
「・・・・・・」
つむぎ、何も答える事無く聡の目を睨み続ける。
「あ、あれはっ!、山口が勝手に・・・」
「フーン・・・ 女の子のせいにするんだ・・・」
聡の言葉を遮り、低い声で呟く。
「俺の話を聞いてくれっ!・・・」
次の刹那、つむぎの右手の平が宙を舞う。ばちんっと聡の頬をはたく音、辺りに響いた。
「痛てッ!?」
怪我をしている場所など、お構い無しの一撃。同時につむぎの瞳から大粒の涙が止めども無く溢れ始めた。
「最っ低っ!」
「か、かすか・・・」
会話する事すら儘ならずに、再びつむぎが叫ぶ。
「二度と関わらないでっ、顔も見たくないっ」
聡、つむぎの両肩をがっしりと掴む。
「嫌ッ!、バカ、バカ、バカ、バカ、バカぁ・・・」
聡の胸元をぽかぽかと殴り続けるつむぎ。
「春日部っ!、俺は、俺は・・・」
「放してよッ!、馬鹿ぁ・・・」
つむぎ、涙が散る程までに何度も、何度も首を横に振り続ける。
「・・・あーしのコト、可愛いって言ってくれたのにィ・・・!?」
「・・・好きだって言ってくれたのにィィ・・・!?」
半ば狂乱した状態で叫び続ける。誰かがこの騒ぎを聞きつけ、ここに駆けつけて来るかもしれぬ事を恐れる聡。
「頼む!、落ち着いてくれよっ」
「最ッ悪の・・・大嘘ツキぃ・・・」
その言葉に、聡の手の力が緩む。
どんっ!と一段と強い力で聡の胸元を突き飛ばす。
「ひぐっ、ひぐっ・・・」
自由に動ける様になると、両手で顔を覆いつくすつむぎ。
「大ッ嫌イィッッッ・・・・・・!!!!!」
耳をつんざくかの様な金切り声での大絶叫。素早く振り返ると駆け出し、あっという間に屋上から逃げて行ってしまった。
(・・・また、傷つけちまった・・・)
無様に、がっくりと床に膝を突く聡。
(・・・誰でもいい、俺を助けてくれぇ・・・)
深夜、部屋のベッドに横たわるつむぎ。スマホの写真の削除ボタンを押し、『削除しますか?』のメッセージが出ると×ボタンを押す。そんな事を、もう何時間も繰り返し続けていた。
明けて、土曜日の学校。結局あれから一睡もすることが出来なかったつむぎ。
授業中に大居眠りをしてしまい、放課後の職員室で、生活指導の教員から普段の素行も含めてたっぷりと油を絞られていた。。
(あのバカ教師ぃ、30分以上も同じコトを何度も何度も・・・ あー、ユウウツ・・・)
早く帰って寝ようと思いながら、もう誰も残っていない廊下をとぼとぼと歩く。
校舎の入り口を出て幾ばかりか歩いた時、突然驚愕の表情を浮かべる。
聡が一人きりで、校門の場所に佇んでいた。
「やぁ」
暢気そうな笑顔で挨拶をしてきた。
「い、いったい、ナニ・・・?」
冷たく視線を逸らすつむぎ。二人の間は約2~3メートルと云った所だろうか。
「まずは色々とごめんな、今日はお詫びをしたくてさ」
コートのポケットから贈答用紙に包まれた箱を取り出す聡。
「ほらこれ、猫型のアクセサリー 前に欲しがっていただろ?」
僅かに照れた様な表情でぽりぽりと頬を掻く聡、つむぎの方に差し出す。
(えっ?)
視線は再び聡に戻された。
つむぎ、唐突に何時か二人で訪れたアクセサリーショップの事を思い出す
(ねーねー、さーし君、このネコかーわぃー♪、欲しいなぁ)
(あ、あぁ でも結構すんな、これって・・・)
話は校門前に戻る。
「着けてくれたら、きっと可愛いと思うぜ」
(・・・どくんっ)
つむぎの鼓動がひとつ。
「絶対もっと好きになりそうだ、きっと、な」
(・・・どくんっ)
鼓動ふたつ目。
ふらふらと、且つゆっくりと、聡に歩み寄るつむぎ。
箱を受け取ると、おずおずと聡の顔へ目線を上げた。
「・・・ア、アリガト でも結構高かったんでしょ?、このアクセ・・・」
「親に金借りたんだ 何、バイトしながらでも返すさ。それに、・・・な」
聡が続ける。
「山口の誘いは断った、チョコも捨てた また俺と一緒に帰ってくれないか?、つむぎ」
つむぎ、大きな瞳を更に見開いて目を丸くする。
「うわー!?、うわー!?、うわー!?、うわー!?・・・」
箱をコートのポケットに収めると、驚きの声を上げ続ける。
「さーし君っ! やっとあーしの名前、ちゃんと呼んでくれたね!」
聡の胸に寄りかかると、昨日とは別の涙を零し始める。
ハンカチを取り出す聡。
「ううんっ!、大丈夫だから!」
つむぎ、ピンクのフェイスタオルを取り出すと自分の涙を拭う。
つむぎの背中を優しく抱き留める聡。
「本当に、色々とごめんな 明日は一緒に映画館でも行かないか?」
「うんっ!、行く行く!、モチのロン! それに・・・ね」
「ん?」
「あーしこそ、昨日はゴメンねぇ・・・ まだケガ治っていないのに思いっきり引っぱたいちゃって・・・」
「いや、つむぎの方がずっと痛かっただろう? この間からずっと全部が、さ」
「さーし君・・・」
つむぎ、目を閉じると思い切り背伸びをしてキスをねだり始めた。
「つむぎ・・・」
聡、辺りに誰も居ない事を確認すると、やや離れて屈み込み、それに応えた。
唇が触れ合うだけのキス。それだけでも二人は全身に幸せを感じていた。
「・・・やっぱり、お前のことが好きなんだ 俺ってさ」
ぐしゃぐしゃになりつつある瞳を拭い続けるつむぎ。
「そろそろ行こうか、何かメシでも食いに行こうぜ」
「うんっ! あーしも、さーし君のコト大好きだよっ!」
恥ずかしそうに聡の片腕に両手を組むつむぎ。二人はいつもの帰り道を再び歩み始めた。
「・・・えっとね、確かもうすぐ誕生日だよね? さーし君」
「あぁ、そうだったな ありがとうつむぎ、覚えていてくれてて」
耳まで真っ赤にさせながら、悪戯そうな微笑みで、つむぎが語る。
「そしたらさぁ、あーしの初めて、プレゼントしちゃおっかなー、なんてね♪」
聡の胸元に人差し指でくるくると『の』の字を書き続ける。
「・・・バっ、バカ野郎! こんな所でいきなり何言い出すんだよっ!?」
思わず飛び上がりそうになる聡。
「アハ、さーし君も真っ赤になっちゃって、かーわーいいー♪」
笑顔でぼそりと呟くつむぎ。
『あーしのコト、もっともっと大切にしてくれればねぇ・・・』
消え入りそうな声。
「・・・あ?、何だって??」
「アハハ、ナイショだよー ねぇさーし君また写メ撮ろっ、ココで!」
あいよ、と頷くとつむぎのスマホを受け取り自分達にカメラを向ける聡。つむぎ、喜色満面の照れ顔で聡の片腕に両手を組み直し、そのまま両手でピース!。聡からスマホを受け取ると、さらさらと画像に『ファーストキス記念!』とタイトル書き綴る。
「・・・ふぅ」
聡が一つ、白い溜め息を吐きなが語る。
「3年になったら、つむぎと同じクラスに為れたら良いなぁ・・・」
「えーっ!、モシそんなんなって席が隣ナンカになっちゃったら、あーしっずっとさーし君のコト見てちゃうよー!?」
あまりにも真面目に、且つあまりにも狼狽する姿に聡が吹き出す。
「ぷっ! あははははははははははははははは・・・」
「ナニよー・・・、もぅ!」
むくれるつむぎ。だがすぐに気付く、自分はこの笑顔が好きになったんだ、と。
「エヘ、エヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ・・・」
もう一度、聡の片腕に両手を組み直し、共に頭も預ける。
「・・・大好き・・・」
突然、低い垣根を飛び越え路面に着地した縁結びの”にゃーにゃ”。ほど近く前方を幸せそうに歩く二人の姿を、しばらく見つめていた。