チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
おっさんが転生するとか、転移するとか、活躍するとかあるじゃん? 流行してるぽいアレ。あと、若い女の子が異世界に行って悪役令嬢になるとか。幼児からやり直してザマアするとか。
他にも色々な流行物がある訳だけど。
「アラフィフの転生もの(しかもおばさん)って需要がないと思うの。ていうか、誰得」
自嘲をこめて呟いた私を誰が責めようか。
やっと子育てが終わって子供も自活するようになり、今は旦那も会社でそこそこの役員を務め(そして単身赴任。手がかからない)、順風満帆とは言わないまでも、生活にはそこまで困っていない。最初は共働き……うっ、今どきは2馬力とか言うって、ちょっと前に見かけた気がする。
この年になっても息子、娘の年齢の子の話題にはついていきたい。出来ればその世代でよく使われる言葉も把握しておきたい。自分で使わなくても、理解できないと馬鹿にするような目で見られることがある。説明を求められる雰囲気じゃないというか?
なので、私はちょいちょい、今どきの言葉を調べている。ついでに流行の小説を読んだりもしているので、そこそこは理解しているつもり。
いけない。この年になったからかいつものように話が脱線する。そもそも主題がないのだから仕方ないんだけど。
とにかく、前は2馬力だったのだけども、今は仕事を辞め、私は悠々自適な生活を送っていた。たまに贅沢と称して一人でこっそりカフェに入ったり(人のいれてくれたコーヒーは美味しい)、一人分だけ作らなくて済むという理由でサイゼで出てくるご飯を堪能してみたり、コンビニで好きなスムージーを買ってみたり……。していた。
う。人によっては贅沢でもなんでもないのかも知れない。でも小心者のアラフィフな私的には冒険なのだ。ちょっと前まで生活費を詰めて詰めて貯蓄に回していたし、マイホームのローンもあったり……うっ、気が滅入る……。
何で無計画に家を買うのか! 子育てにどんだけ金がかかるか知ってるの!? しかも車を買い換えまくるし! 馬鹿なの死ぬの!? 車検のたびに買い換えるなんて、どんだけ新車が好きなの! 免許はあるけど乗る機会はほぼないでしょうが!! 支払いは終わったからいいけども!
……そういうのからやっと開放されたばかりだった。
なのに!
なんでよりによって階段で足を滑らせるかな!? しかも最後の2段!
耐えろよ、私! それで頭を打つとかどうなの! 恥ずかしいわ!
「斉藤奈美恵さん、貴女は死にました」
「はい、知ってます」
目の前にいるのは知らない男の人。ちょっとイケメン。でもタイプじゃない。
ここは私の知らない空間で、足元が雲の上みたいにもやもやしている。あー、雲の上って天国のイメージかしら。それはそれで地球の人に合わせてるって感じ?
私の考えを余所にイケメンが言う。……紛らわしいから、雲のイケメンと名付けよう。
「アラフィフでも仕方ないのです。こういうことはよくあるので」
「アラフィフとか大きなお世話です」
「それでは、転生してもらいます」
「お断りできませんか?」
「一般的拒否権はありません」
こいつ、融通が利かないらしい。しかも一般的拒否権って。地方自治か。でもこのやり取り、どっかで観た気がするわー。自由裁量権とかいう単語が出てきたような。
私は知り合いのセクハラ問題で裁判に関わったから知っている。そーゆー、面倒くさい単語が出てくると話がややこしくなるということを! ていうか、司法書士とか弁護士はどこ!! そもそも裁判所はあるの!?
見回してみるけどそういうのがなかったので、私は仕方なく自分で言い返した。
「……考え直すとかは」
「再考は出来ません」
「実は私は気絶しているだけとか」
「ありません。死亡届が出され、斉藤さんの死体は火葬されました。戻ったら墓の下です。具体的には遺骨となって埋葬されました。かなり時間はかかりますが、最終的に遺骨は溶けます。文字通り土に還ります」
「溶けるのは知ってます! 火葬とか墓の下とか、どーしてこっちの常識を知ってるのかと」
すると雲のイケメンが表情を変えずに首だけちょっと傾げる。あ、違和感があると思ったら、この人……人じゃないか? とにかく、雲のイケメンって無表情だ。
「多くの女性の好みを反映した結果、この形になりました。あなた方の世界の常識を知っているのは、話が噛み合わないと困るからです」
「とりあえずエスパーみたいに私の考えを見るのは止めてもらえる?」
はーっ、とため息を吐いて私はうんざりしつつ、雲のイケメンを見た。
「それで? 転生するのなら、せめて特典はあるんでしょうね」
「ありません」
そう言われた瞬間、私はがっ、とダッシュして雲のイケメンが着てるローブみたいな服の襟をつかんだ。
「ふざけんな。特典がなくて、どーやって知らない異世界で過ごせと!?」
「特典はありませんが、転生先の世界に合わせた能力はあります。ですが特別待遇ではありません」
「は? 普通は異世界に行く時に、チート能力みたいなのが得られるものじゃないの?」
「チートではありませんが、斉藤さんがいた世界にないものは存在します」
そんなことを言ってから、雲のイケメンがどこからともなく書類のような束を取り出す。
「そもそもチートというのは不正行為のことですので、そういったことは出来ません。公平性を欠きます」
「あー、はいはい! 判りました! とにかく、何が出来るのか訊いてもいいの!?」
私が怒鳴るように言うと、雲のイケメンは書類を見ながら淡々と言う。
「斉藤さんが転生するのは魔法のある世界です。冒険者という生業も存在します。スローライフと呼ばれる生活も送れます」
「でしょうね。テンプレそのものかー」
「それらを逸脱しない行為であれば、斉藤さんの行動に制限はつきません」
「それで、どんな魔法が使えるの」
「竜○斬(ドラグ・ス○イブ)などの使用は要領を覚えれば可能です。ただし重○斬(ギガ・○レイブ)は使えません。世界が崩壊します」
ちょっ。
「いつの時代のラノベか!!!」
「空を飛ぶことも出来ます。空間を操作するスキルを取得すればですが」
「あれか! 翔○界(レイ・○イング)とか!?」
「はい。可能です」
どういう仕様の世界なのよ……。まさかスレ設定の世界じゃないでしょうね。
「斉藤さんに回復魔法の適性はありません。ですので、治○(リ○バリィ)などの魔法は使えません」
「そこは伏せなくてもよくない?」
「では、言い換えます。ケアルは使えません」
雲のイケメンは今度はゲームで例えた! 意味は判ってたんだけど!? 言い換える必要はなかったんだけど!?
「あー! 判った判った! 要するに、白魔系は駄目ってことね!?」
どうやら私は攻撃魔法しか使えないらしい。それは理解出来た。でも、魔法が使えるってかなりの特典では? でも雲のイケメンは特典はないっていうし……。それっぽい魔法が使えるのがデフォルトの世界、ということかな。
まあ、何もないよりいっか。私の好みとしては鬱展開は嫌なんだけど、どういう世界観なのかさっぱりだし、行ってみないと判んないわね。と、私は割り切ることにした。
割り切った私の目の前で雲のイケメンが書類をめくる。
「それと、我は放つ○の白刃、などの音声魔術は使えます」
「だーかーらー! いつの時代……あっ、復刻したんだっけ。それはいいのよ! 攻撃魔法が使えることは判ったから!」
折角、こっちが割り切ったのに雲のイケメンが余計なことを言う。つまり私がかつて読んでいたラノベ系の魔法・魔術の中で、攻撃系のものだけは使えるらしい。回復系が駄目、ということは某ゲームの黒魔で間違いない。
問題はそれが特典ではなく、誰もが使えるという点かも知れない。ふむ、と呟いて私は考えてみた。
・魔法は特典じゃない。
・私は攻撃魔法だけ使える。
ということは、回復魔法が使える人もいるということ。例えば私は怪我をしても自分では治せない。教会とかある設定なら、そこで治してもらえるのか。それとも医者がいるのか。薬はあるのか。
まあ、いーや!!! 考えてもキリがない!
「で! 他に注意事項はあるの?」
「斉藤さんに問題がなければ転生先に転送します。注意事項は特にありません」
「魔王を倒すとかの使命は」
「ありません」
「パーティーを追い出されて成り上がって反撃するとかは」
「そういったことは可能ではあります。ですが、義務ではありません」
「本を作るとか」
「本と呼ばれるものは既に存在しています」
「スライムになるとか」
「魔獣や魔神、魔物などには転生出来ません」
「こっちの世界基準で、色んな武器をゲットするとかは」
「こちらからは干渉はしませんので、そういった武器の入手は大変な困難が伴います」
「武器自体はあるんかい!」
一通りのやり取りをしてから、私は膝に手をつき、ぜいぜいと息を吐いた。こっちはアラフィフなんだから、ちょっとは突っ込みが要らないようにして欲しい。
「判った。いいから転生させて。疲れた」
「それでは」
雲のイケメンがぱたん、と書類を閉じたと思ったら、どこからともなく光が降ってきた。お約束な転生シーンかも、と思ってたら雲のイケメンが爆弾発言をした。
「そうでした。斉藤さんは赤子に転生しますので」
「待てや、ごらああああ!!!」
今、流行のあれかーーーー!!!
と、叫んだ私の声は雲のイケメンにはたぶん、届かなかっただろう。
はじめましてこんにちは。
衝動的に書き始めてしまいました。
よろしくおねがいします。
https://syosetu.org/novel/413002/
こちらから作品を登録してもらえると嬉しいです
試しにXのアカウントを作りました
https://x.com/yoshiho_lo