チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
ごきげんよう。再々、正座でお説教を食らっている、転生者で元アラフィフ主婦の斉藤奈美恵です。今回は自然のままの岸壁の上で正座をさせられています。要するに地面に石コロがたくさんあるので、ある意味ではツボ押しになっているのかも知れません。すねがものすごく痛いです。
ってか! 何で正座!? というか、スカーレットは正座させる趣味でもあるんか!? と、思いたくなるほど、私はやたらと正座させられている気がする。いや、私が悪いってのは判るけどさ! 何で正座!? 転生前世界日本ですか!? 違うとは判ってるけど叫びたくなる!
「戦いの際、貴女が前に出てはいけないということは判っているのでしょう?」
「え……まあ、はい……」
「返事ははっきりなさい」
私は現在、腕組みをしたスカーレットに睨まれている。普段のスカーレットはこんなことは絶対しない。というか、ガチギレしてるのが判る!
「え、と、あの、判ってるというか、判ってないというか、判ってるけど、ついやっちゃったというか」
仕方ないので私は正直に言った。言い訳になってる気がするけど、本音だから! ブチキレて飛び出したという自覚もあるし!
「つい、という、軽はずみな行動は慎みなさい、と前々から言ってますわよね?」
「えっ、はい、でも」
「でも、ではありません。今回、貴女が何も考えず飛び出したことで、後方がどうなったと思いますの?」
後方……あ、要するにメイプルたちかな。そこまでは考えてなかった。ていうか、私は自分が前線に出てたつもりは毛頭ねーのである。ブチキレで喧嘩を買いに行った、という感覚しかない。
でも大勢を巻き込む戦いなら、それをやらかしたらマズいというのは判る。……あー。例えるなら転生前世界日本で観た劇場版幼女○記のメアリー准尉ってことかな。……そ、それは怖い!!! 確かに突進だけする獣と化してたかも! 他の人のことを考えない即決即断猪突猛進。確かにヤバい!
「貴女が先走ったため、本来は前方に出るはずの者たちが慌てて後方に向かうことになりました」
スカーレットが続けて説明してくれたのは、メイプルたちの動きだった。まず、燃えてる稲の火を消すために数人が動員された。火が飛んで来た岸壁付近を監視していたのは使用人の一人だ。どーやったか判らんけど、屋敷に即連絡したらしい。
戦う時の使用人はスティーブンが仕切ってるらしい。スティーブンの命令で使用人は全員、戦闘モードに入った。私がいきなり飛び出したので、戦いに備える後方と、フォローに回る使用人とに分かれて行動開始となった。屋敷に連絡が来た時点で、スカーレットはテオに命じて私を追っかけた。
前からの攻撃に備えるのも当然で、使用人たちは島のあちこちに散った。転移陣があるので色んなところに飛べるらしい。現場で指示をするのはスティーブンの下についている使用人たちだ。本当は私を追いかけようとしていたジャスミンは、スティーブンの命令で仕方なく後方を護るメンバーになったという。
今回はたまたま南西からの攻撃だけだったが、他の方角から同時に来ることもある。その可能性を私は失念していたのだ。スカーレットが怒っている理由には、私が飛び出したこともあるが、何も考えずに私が戦っていたことも含まれていた。要するに本来は全方角を警戒しなければならないのに、私が先走ったせいでみんなが動きを変えるしかなかったのだ。
「アシュフォード家の者は役目があると、わたくしは説明しましたわよね?」
「は、はい……」
「貴女は大切な跡取りなのですよ。わたくしや旦那様が仮に敵に斃れても、貴女さえいれば、アシュフォード家の血は守られるのです」
そう言われて私は固まった。なに言ってんだ、コイツ、という気分である。転生前元アラフィフ主婦の私から見て、今のスカーレットはまだ年下だ。そのスカーレットが自分が先に死んでも問題ないとか言いやがった!
説教されていることも忘れ、私は勢いよく立ち上がった。
「冗談じゃない! 何でそんなこと言う!? 自分大事にだよ! 私より先に死ぬとか絶許! 馬鹿じゃないの!? みんなで生きればいいじゃん! 使用人も戦いなんぞで誰も死なないのが私の方針である! それだけは絶対に譲らん!」
私は怒りに任せてスカーレットにそう怒鳴った。
馬鹿ですか!? 本当に! 冗談じゃない! こちとら一度は死んでんだ! 一回も二回も大して変わらんわ! むしろアーサーとスカーレットがまた子を作るなり、親戚がいるなら養子を取ればいいだろうが!
と、言えれば良かった。でも私は転生したことを言うわけにはいかない。そんなファンタジー、この世界で通用するか判らないからだ。いや、この世界自体が私にとってはファンタジーだけどさ!
「何故、貴女が泣くのですか」
それまでの怒りをおさめたスカーレットが小声で問う。わざと泣いてないし! 怒り狂って涙がうっかり出ただけだし!
「とにかく! 誰も死なないのが私の理想です! 寿命とかどうしようもないのは仕方ないけど、戦いで死ぬとかあり得ない!」
「ですが、貴女が戦ったのは■■■と■■■■■なのですよ? 場合によっては全方位同時の戦いになるのです」
は? 今、ピー音が入ったけど? 急に冷静になった私は、もう一度、とスカーレットに敵の名前を教えてくれと言った。
「ですから■■■と■■■■■です」
少し首を傾げて言うスカーレットを見て私は唖然とした。
これは困った。スカーレットもだろうけど、私も激しく困ってる。この世界の言葉を聴き取れないなんて初めてだ。こういう時は……あれだ! 自動翻訳機カモン! 逆翻訳もしてくれ!
「あの、もう一度お願いします」
ダメ元で私はスカーレットに頼んだ。すると今度は少し眉間にしわを寄せたスカーレットが言う。
「オークとワイバーンです」
「ああ!!! 納得です! 理解出来ました!」
急にピー音が鳴らなくなった。どうやら自動翻訳機が仕事をしてくれたらしい。でもってはっきりと敵の名前が判った。オークは転生前世界日本で私がプレイしてたファイナル○ァンタジーVIに出てきたヤツだ。豚とか言われてたモンスター。確かに頭が豚に似てたな……。
ワイバーンは竜騎士がつれてたアレか。サイズは違うし好戦的というか、むしろ私を攻撃してたけども。アレか。ラノベとかに出てくる竜の一種かな。そーいえばアニメの沈黙○魔女が冒頭でフルボッコにしてたな。確か。
あ。しまった。スカーレットの存在を忘れてた。
「どうして急に納得したのかは判りませんが、とにかく危ないことをした、ということは理解出来ましたの?」
「え。プチッと倒せたけど」
「……ですから、そういうところが……」
そこまで言ってから、スカーレットは盛大なため息を吐いた。
「だからと言って、前線に出てはなりません。判りましたか?」
「は、はい」
スカーレットの呆れた声に負けて、私は大人しく頷いた。