チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
怒られすぎて色々と麻痺しそうになったけど、私は倒れたテオとスカーレットを連れて屋敷に向かった。高速で飛行しても特に問題ないのか、スカーレットは意外と落ち着いている。テオは多分、悲鳴を上げるだろうから意識をなくしていて良かったかも知んない。ちなみに私は結界箱の中に自分とスカーレットとテオを入れて移動中。飛行魔法で人を連れて行くのは難しそうだったから、結界箱を作って飛んだら意外と上手くいった。前は飛びながら結界を放出とか無理だったのに。
屋敷近くに戻ったところで私はゆっくりと結界箱を着地させた。スカーレットが優雅に着地し、テオがべしゃっと地面に落ちる。そんな私たちに使用人が一斉に走ってきた。先頭にいるのはスティーブンだ。メイプルとジャスミンもいる。どうやら島のあちこちに飛んでいた使用人たちは、私がスカーレットから説教を食らってる間に戻ってきたようだ。
そして全員が私たちの前で、ざっ! と膝をつく。な、何事!? びっくりするだろ! と思った私を手で制し、スカーレットが前に出る。
「ご苦労でした。皆、よくやってくれました」
「はっ! 奥様、お嬢様、ご無事で何よりです!」
スカーレットの言葉に続けて使用人たちが口を揃えていう。……もしかしてコレ練習してるんか? ってくらいに揃ってた。ちなみにテオは相変わらず私たちの後ろで倒れている。だけどスカーレットは気にしてないらしい。まあでも仕方ないね! って、他人事じゃなかった。私もこれからまた色々と食らうんだった。
使用人の一人が膝をついたまま言う。
「残存する敵影はありません」
「よろしい」
良しと言ったのはスティーブンだ。……こんな風に見ると出来るオトコに見えるから不思議だなあ。いやまあ、料理の腕は凄いと思ってるんだけども!
「迎撃態勢から警戒態勢に移行します。問題ありませんか?」
スティーブンの問いに鷹揚にスカーレットが頷く。
「けっこう。それでは通常業務に戻る者は戻ってくださいな。リディアはこちらです」
真面目な会話してるから大丈夫かな? とか思ってたら逃げられなかった! 倒れてたテオは無言で他の使用人に引きずられていった。……あの辛い回復水を飲まされるのかも知れない。
スカーレットの一声で集まっていた使用人はそれぞれ散っていった。……燃えた稲が気になるんだけど……とは、今は言えない。ううっ、出来ればあんまし燃えてなかったらいいなあ。そんなことを考える暇があるのか? 私には大事な大事なことだから! 稲大事!
ざっ! と散った使用人の多くは屋敷に戻っていった。そーいえばスティーブンとかは屋敷の中で働いてるしなあ。レベッカとかエミリアも戻るよね、そりゃ。あ、メイプルとジャスミンがこっちに来た。でも私はスカーレットに連行されているところである。どーすんだろ、二人とも。
「奥様。護衛はどうしますか?」
声をかけたのはメイプルだった。……ジャスミンが目をギラギラさせている。自分を選んで欲しいという顔だ。でもスカーレットは悩むことなく、メイプルを見た。
「リディアにはメイプルがつくように。ジャスミンは戦闘処理に回ってくださいな」
「えっ」
ジャスミンが小さな声を上げる。叫ばなかっただけ、ジャスミンは偉い。相手が私じゃなくてスカーレットだからなあ……。結局、逆らうことも出来ずにジャスミンはしょんぼりと肩を落として農園に向かった。
メイプルと一緒に屋敷の書庫に向かう。……あー。書庫に行くなら説教確定。先回りしたレベッカが急いで書庫の鍵を開けてるし。
「お待たせしました。奥様」
「ええ。ご苦労様です。あなたたちは別室で待機なさい」
書庫に入りつつスカーレットが言うと、メイプルもレベッカと一緒に書庫の別室に向かう。あああ! 一人にしないでえええ!
……という、私の心の叫びも虚しく、スカーレットが二脚の椅子を引く。片方に座るように手を差し伸べられて私はおっかなびっくりで椅子に腰掛けた。てっきり正座だと思ったのに! 椅子!? 怖い! スカーレットが何か企んでいるような気がする!
「リディア。今回の貴女が危険を冒したことは理解していますの?」
改めて訊かれ、私は少し迷ってから頷いた。何度も確認されたし、説明もされたし、周りの人たちがどうしたのかも判ったつもりだ。ただ、半分くらいはスカーレットの言ったことにキレてた気がするけど。
「今回、襲ってきたのは魔物の一部です。この島は危険にさらされることが多いのです。旦那様がいない隙を狙ったのでしょう」
「でも、私でもぷちっと倒せたのは……」
「あれは本来は斥候でしたのよ」
そう言われて私の頭の中は真っ白になった。斥候って、たくさんのやつが攻撃する前に相手を調べたりする何かじゃない!? でも火魔法を撃ってきたくない!?
「あの! じゃあ、何で稲を燃やしたりしたの!?」
「賢くない魔獣だったからです」
スカーレットがきっぱりと言い切る。私はちょっとの間、瞬きしか出来なかった。えー!? 頭悪いとか、そんな理由で先に調べたり出来ないの!? だったら他のヤツを使えば良くね!?
「えっ、普通は先に調べたりするくね!? それに向かないヤツを斥候にするってどういう」
「ですから、魔物側も兵力が足りないのですわ。旦那様とわたくしが多くを処理したのです」
何でもないことのように気軽にスカーレットが言う。はー!? 処理!? たくさん!? 島にたくさん来たことがあるってこと!?
「少し待ってなさい」
そう言い置いてスカーレットが立ち上がり、本棚から一冊の本を抜いて戻ってくる。表紙には魔物大全と書かれていた。……私が転生前世界でプレイしてたゲームの攻略本みたいだな……そのタイトル。スカーレットが本を開くと、そこには地図があった。そーいえば前に世界地図を見せてもらった時、西には魔族とかがいるってレベッカが言ってた気がする。
この島から遠く離れたところに陸がある。ただし、紙面の端で切れてて、全部は見えない。うーん。南とかみたいにやっぱ世界地図って言っても限度があるのかも知んない。しかもこの地図ってこの島と西の陸がメインで描いてあるし。
スカーレットが静かにページをめくる。そこには色んな魔物? なのか、コレ。そんな感じの絵と特徴とかが書いてあった。
「ここからここまでの種は殲滅しました」
スカーレットが最初のページをつまみ、かなりページをめくってから指で押さえる。……おい! ほぼ全部じゃねーのか! これ! もしかして魔物大全2巻とかあるんか!?
「以前、島に上陸しようと試みた魔物は全て殲滅しました。島の西にある魔物の国に向かって魔法を放ち、剣を抜いた衝撃波で陸の半分ごと魔物が消えたのです」
「待って待って待って! ここから西の陸って、超離れてるくね!?」
「ええ。もちろん離れていてよ? でもわたくしたちは飛行魔法を使えません。ですから、岸壁から狙うしかなかったのです」
当然のように言うスカーレットを私は驚きの目で見た。ってか、どんだけ強いのか! この夫婦! 私が放出した火の玉とか、目じゃなくね!? 私がビビりながらスカーレットを見ると、困ったような顔でスカーレットが額に指をそっと当てる。
「ですから、貴女が前線に出る必要はないのです」
「いやいやいやいや! おかしいおかしい! 二人とも戦闘力が異常!」
「何を言っているのです? わたくしたちは墓守ですのよ? 護るべきものを護れなくてどうしますの?」
平然と言うスカーレットが怖い! でもって私は気付いてしまった。魔法の訓練とか剣の訓練とかで、アーサーとスカーレットは手加減……というか、指の先くらいの力で私をぶっ倒していたってことだ! どうりでもっと訓練しろとか言われるわけだよ! それがホントなら、スカーレットが私に前に出るなって言うのは当たり前だ! そりゃ、そんなに力の差があったら、私が前に出たら危なっかしくて仕方ない!
「……それにしてもあの魔獣はまだ残っていたのね……。繁殖力が高いのかしら? でも、殲滅するほど害のある魔獣ではないですし……」
ぼそっと呟いたスカーレットが見たのは、指で押さえたページをちょっとめくったトコに描いてあった、オークとワイバーンだ。繁殖力て! 滅ぼしたはずが、ちょっとだけ残ってたから増えたって意味!?
ああああ! この世界の、いや、この二人の戦闘力が異常な理由を誰か教えてプリーズ!