チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
問い詰めること一時間。あ、そいえばこっちの世界の時間って、転生前世界と同じだった。恒星の数とか惑星の数とかは知らん。というか、宇宙何とかみたいのはまだないっていうか? 下手すると地面が動かず空のが動いてる、みたいなのが常識なのかも知れん。その辺りは私にも判んない。ただ、1日は24時間だから転生前世界と変わらなくて楽。
それは置いといて! 今はホルモンだよ! モツとも言うね!
それにしてもホレス、根性あるなあ。小屋でジャスミンに椅子にくくりつけられても、のらりくらりとかわすんだもん。ていうか、早く教えろし! と、こっちがイライラすればするほど、どーじゃったかのー、みたいなことを言う。ジャスミンがものっすげえ睨んでも同じ。多分、ジャスミンが手出し出来ないのを知ってるんだな!
……仕方ない。老体にこのような仕打ちはどーかと思うが、私はホレスの靴を脱がせた。何事かと思ったのか、ホレスがびっくりした顔になる。
「なっ、何ですかな、リディア様」
「こーする」
そして私は30分くらいホレスをくすぐりの刑に処した。足の裏はもちろん、全身である。最初は耐えてたホレスも段々と我慢出来なくなったのか、途中から身悶えして笑い始め、最後にはぜいぜいと息を切らした。ぐっ、ホントは老人にこんなことしたくないんだよ!? 私も! それにジャスミンにやらせないだけマシだと思って頂きたい!
「ここまでやっても吐かないとは……ある意味、尊敬する」
ジャスミンがぼそりと言う。まあね、判るけどね。ホレスも今はぜいぜい言ってるから、くすぐりからは解放して、水を飲ませてあげたけども。
「しっ、仕方ないですのう……リディア様は本当に頑固者じゃ」
「どっちがだよ! ホレスの根性のが怖いわ!」
やれやれ、と言ってホレスが話し始めた。
実はアシュフォード家はおろか、この世界ではホルモンを食べる習慣はあんましないと言う。ていうか、食用としての処理の方法がほぼ出回っていないらしい。だから自然に帰すという方法をとっているという。
ホレスはここに長く勤めてるけど、その前は農村で暮らしていた。でもって家で牛を飼ってて、仕方なく潰す時にホルモンを食べていたそう。だからホレスはここで密かに一人で食ってたらしい。
「一人で食ってたとか! ぶっ叩くぞ!」
椅子にくくりつけてたロープを外し、私はホレスの襟首をつかんで上下に揺すり倒した。待って待って、というホレスを無視する。
「何で捨てるし! ていうか、食えると判ってて捨てるとかない……待て! ここのは全部ホレスの腹におさまってるとかじゃないよな!?」
「なんのことですかなあ」
そんなことを言ったホレスがピューピューと口笛を吹く。でもすぐにホレスは降参した。ジャスミンがスカートの下からナイフを取り出したからだろう。
「はあ……。今日のリディア様は過激すぎるのお」
「黙れ! 飯がかかってるのに落ちついてられるか!」
「あれの処理はかなり難しいんですじゃ」
そう言ってホレスが振り向いてホルモン入りのタライを見る。私にだって処理が大変なことは判る! 転生前世界日本で読んだラノベとかで見たことあるし! でも私は食いたい! 特にミノが!
「よし、判った。私が処理する。でもってここで調理する! もう我慢しないというか! 醤油を作る!」
「しょう、ゆ、ですか? 自分は聞いたことがないのですが」
「わしもないですな」
当たり前だ! と叫びたくなるのを我慢した。私が転生者だってことは誰にも言ってない。珍しいご飯を作るなあ、くらいの感じで納得してもらってる。何で、とか、どうして、とかは誰にも訊かれてない。多分だけどアーサーとスカーレットが黙れと言ってるんだと思う。こっそりと。もちろん彼らも私が転生者だとは気付いてない。……と、思う。多分。ていうか、気付いてたら怖すぎるよ!
私は問答無用でタライに入ってたホルモンを吸引した。これまで何となくふわっと合成してもどーにかなってきたので、ホルモンの処理もどーにか出来るだろう。
「ジャスミン! これ、冷蔵庫に入れて!」
タライにホルモンを放出した私が言うと、素早くジャスミンが動いてタライを冷蔵庫に入れる。……こっちでは冷蔵箱と言うらしいけど知らん! あっ、もしかしたら自動翻訳機が活躍してるんかも知れん。
「ホレス、大豆はある?」
「はあ、ありますな」
「くれ!」
私が手を出すとホレスが急いで冷蔵庫の近くにある棚を開け、麻袋を引っ張り出した。その中にあった大豆を吸引し、海水から塩を作り、ついでに小麦を吸引する。転生前世界日本でY○uTubeをぼんやり観てたらオススメ動画が出てきて、そこに醤油の作り方みたいのがあったんだよね。でもって私が転生する前くらいに流行してた、米麹? みたいなものを使うらしい。
でもって必要なのは麹……菌だよね! 菌ってあちこちにいることが多いから、空気を吸引すればどーにかなる! でないと困る!
だって転生前に観てたYouT○beの作り方だと、出来合いの麹を振りかけるとかになってたんだよ。私も甘酒を作る時、買ってきた米麹を入れてて、麹そのものを作ったことはない。ていうか、あれって一般のご家庭では作れないのかも知れない、と思ってた。だがしかし! 吸引と合成があればきっといける!
大豆、小麦は揃った。あとは水とか塩。麹。吸引してるから合成して圧縮とかして増幅とかして……。
「ジャスミン! 桶を洗って持って来て!」
「了解であります!」
命令すると妙に嬉しそうなジャスミンが、手早く桶を洗ってから持って来てくれる。ホレスは何か起きると思ってるのか、ワクテカな顔でこっちを見てる。……おい。誰のせいだと思ってんだ! さっきまで醤油を遠慮してたのに! ホレスが悪いんだからね!?
「ホレスは茄子とかキュウリとか、そういう野菜を持って来て! 近場にある!?」
「ほっほっほ。こんなこともあろうかと、冷蔵箱に入れてありますわい」
こんなこともあろうかと。転生前世界日本で観てた宇宙戦○ヤマトの真田さんかな? 実は言ってないとかの説があるぽいけども! 真田さんは格好いいので良いのだ! ホレスは似ても似つかないけども!
ホレスに野菜を準備させたところで、私は桶に某白ポケットから醤油を放出した。
「出でませ! 醤油!」
かけ声は何というか、勢いをつけるためのもの。で、放出されたのは確かに黒っぽくて透明な液体、しかも懐かしい香りのするものだった。私は思わず歓声を上げた。
「ひゃっはー!」
桶を覗き込んだホレスが不思議そうな顔をする。
「何ですかな、これは」
「自分は判りません! リディアお嬢様がお可愛いのが一番であります!」
どういう会話だよ、と思いながら、私はある程度の醤油を放出した後でホレスの用意した野菜を吸引した。確か醤油を絞った残りで漬け物が出来るとか言ってた気がするんだよ。出来ないかも知れんので、茄子とキュウリを吸引して漬けるにした。
問題はホレスとジャスミンの醤油への反応だった。でも二人とも意外と普通の態度というか、物珍しさはあるらしいけど嫌がってはいない……ように見える。ていうか、ホレスが早速、醤油をちょびっと指の先につけて舐めた。
「おおー! こりゃいい味ですなあ」
「え、そう?」
「自分も味見していいでありますか!?」
ホレスが味見するのを待っていたのか、ジャスミンがワクテカな顔で私を見る。私はその場にあったキュウリを洗って、真ん中で割った。
「いいよー。私も味見する」
半分にしたキュウリをジャスミンに渡してから、私はキュウリの先を醤油につけて食べてみた。おおー!! 出来てる! 醤油! 香りもいいし塩味も丁度いい! 私好みの味になってるじゃん! さすがは吸引&放出!
「美味しいです!」
私の真似をしてジャスミンがキュウリの先を醤油につけて食べてから、吼えるように言う。……感動したのは判るけど、泣かなくてもいい!
「あ、そうだ。ここで起きたことは誰にも言わないように。もし言ったらホレスのホルモンの件をバラす」
ジャスミンは言うな、と命令すれば言わないので、ホレスの口止めだけすればいい。そう思った私は、ホレスを見て唖然とした。いつの間にかホレスもキュウリを醤油につけて食べている。早業か!
それにしても良い場所を見つけた。ここは前から狙ってたけど当たりだった! ホレスの小屋は草の中にぽつんと建っていて、周囲には何もない。でもってキッチンがあるし、ホルモンがあるし、何なら七輪を出しても多分、大丈夫。でもってホルモンの処理をしたからあとは焼くだけ! 煮てもいいかな!? かまどあるし!
私たちは三人で和気あいあいと醤油を味わった。