チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
このところウマ飯スキーを突き進んでいる、永遠のアラフィフ、元主婦の転生者、斉藤奈美恵です。無事に醤油を作り、こそこそ隠れて食ってたホレスに白状させ、テオが乗り込んできたにもかかわらず、ホルモンを食べていました。四人で。
なのに、何でメアリーが来たのか!
「どうして判った!?」
「えっと、米を炊く香りがしたので」
キリッとした顔でメアリーがきっぱり言う。今度は米かよ! そいえばメアリーは米女子農婦だったわ! だから白米の香りを嗅ぎつけたのか! どんな時も嗅ぎつけるとこが、転生前に観た幼女○記のメアリー・スー准尉まんまじゃね!? あいつどこでもすぐにタ○ニャを嗅ぎつけるし! あ、准尉だったのは劇場版だけども!
いや、そうじゃない!
今は稲を刈って落ち着いているので、田んぼでの作業は少ないらしい。いや、判るけども! こないだ田んぼは見たし! 藁が干してあったし! 今回の収穫もかなり良いと聞いた……じゃねー!
「どんだけ鼻が利くんだよ……」
「あたしはお米の香りは間違えません」
あーあーあー! テオに続いてメアリーにまでバレた! もう終わりだ!
「これ、何ですか?」
当然のように七輪に近づいたメアリーが不思議そうな顔で言う。ですよね! 判んないよね! でもじーっと見てたメアリーがポン、と手を叩く。
「あ、もしかして内臓ですか? 懐かしいです」
「は!? 判るの!?」
米の時といい、今回といい、何でメアリーは知ってるんだ!? もしかしてメアリーの出身地は転生前世界日本と似てるの!?
メアリーが次に見たのはガラス瓶に入れた醤油だった。
「あ、それ、しょうゆっていうらしいっすよ」
「馬鹿テオ! 何でこういう時だけ、もぐもぐしてないのか!」
もぐもぐしてれば、多少は聞き間違えるかもなのに! はっきりきっぱり言うとかないわ! って思ってたら、ホレスとジャスミンまで同意しやがった!
「そうじゃなあ。リディア様は調味料まで……あー。砂糖も作りなさったか」
「そうです! 自分は現場を見ておりませんが、砂糖を数種も作られたと聞いております! どうして自分は見ていなかったのかと思うのであります!」
「やかましい! 三人ともバラすな!」
とかやってる間にメアリーがガラス瓶に近づく。
「これ、開けてもいいですか?」
「あー、うん。もういいや」
バレたんだから仕方ない、と脱力しつつ私は許可した。瓶の蓋を開けたメアリーが香り確かめる。まさかメアリーはまた知ってるんじゃないだろうな!?
「これは大豆から作られたのですか? 良い香りがします」
「は!? 判るの!?」
「はい。発酵していますが、大豆の香りは残ってます」
メアリーがサクッと言うのを聞いて私は呆然となった。こ、こいつ、どんだけ鼻が利くのか! 原材料が判るとかある!? でも言われてみれば……? いや! 豆腐ならまだしも、醤油だよ!? 色々入ってるし、発酵してるんだよ!? しかもメアリーはそれも判ってるぽい!
「そ、そうか……メアリーの鼻、恐るべし……」
「あ、えっと、あたしは田舎で植物とかの香りで色々なものを採っていたので」
聞けばキノコとかも採ってたぽい。風に乗ってきたキノコの香り? 近くなら判るかも知れないけど、1キロ以上、離れたとこのが判るって! えっ、何なの!? こう言うと失礼と思うけど、犬レベルなの!?
どうりで米を炊く香りを嗅ぎつけられる訳だよ……。だってホレス小屋って田んぼから相当離れてるし。って、どうやって来たんだ、メアリー。そう訊いたらメアリーは朗らかに言った。
「馬に乗ってきました。田のために使うかも、ということで飼育されていたのですが、使わないことが多いので」
「田んぼ、馬いたの!?」
「はい。あれ? お嬢様はご存知なかったのですか?」
そう言われて私はちょっと考えた。田んぼの近くには家畜を飼育できるような場所はなかった。ということは、馬はかなり離れたところにいたということだろう。
「私にメアリー的な嗅覚を期待されても困る!」
「えっ、えー!? てっきりご存知かと」
そんな会話をしてから、メアリーも当然のように七輪を囲む仲間に入った。OH...。これで私を含めて五人だよ! しかも口止めがきくかどうか判んない!
「こんなに美味しい内臓は初めて食べました!」
「ホルモンとかモツって言うんだよ。あ、そこ焼けてる」
私が言うと素早くテオがホルモンをフォークでさらう。一瞬、遅れたジャスミンが歯噛みする。
「おのれ!」
「はっはっはー! 早い者勝ちっすね!」
そんな風にジャスミンとテオの攻防の中、ホレスとメアリーと私はのんびりと皿に取り分けた焼けたホルモンを口に運んだ。
「そういえば、お嬢様。このしょうゆ、というものをおにぎりに塗ってはどうでしょう?」
「はっ!」
メアリーに言われて私は今さら気付いた。そっか! 焼きおにぎりという手があるじゃん!
「メアリーえらい! さっそく……あ」
しまった。醤油を塗る刷毛がない。スプーンでもいけると思うけど、ここまで来たら刷毛が欲しい。今後も使いそうだし。毛……毛……毛……あ!
「馬ー!」
「は?」
唐突に私が叫んでドアを開けたからか、中に残った四人が声をかけてくる。が! それどころではない!
メアリーが言ったようにホレス小屋の近くに馬が繋いであった。……おい。裸馬に乗ってきたんか、メアリー。乗るの大変なんじゃないの!? それ!
いや、今はいい。私は馬ににじり寄った。動物特有の匂いがするけどそれどころじゃない! そして馬の方は私の気を察したのか、じりじりと後ろに下がる。
「観念せいやー!」
私はその場の空気を吸引して馬の尻尾を切った。その瞬間、馬がブヒヒーン! と鳴く。いや! 全部は切ってないじゃんか! 私は慌てて尻尾を吸引し、金属とか木とかでアレコレと合成した。
「どーん!」
もう恒例になってしまったかけ声を上げて私は刷毛を放出した。やった! 毛先が揃った綺麗な刷毛が出来たよ!
「刷毛が出来た! これで焼きおにぎりが」
「リディア……貴女、一体なにをしているのですか? 馬が一頭、消えたという報告を受けて来てみれば……」
「いっ、おかあさま!?」
これは正座案件。そう思いながら私は引きつった。