チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
メイプルが目に涙を浮かべながらホルモンを食ってる。まあ、アレですよ。ジャスミンに先を越されたと私の後ろで殺意ぽいものを放ってたから、怖くて飯を差し出した、というわけです。いやもう、ホントに怖かったんだよ!
「はあぁ。幸せです! 内臓がこんなに美味しいとは!」
そんな感想を吐き出しながらメイプルがまたホルモンを皿に取る。ああ、そうですか! 良かったですね!
外での豚ホルモンの処理は夕方には終わった。だからちょっとだけ、という条件でホルモンを焼くことになった。メイプル怖かったし。そして焼けたホルモンを当然のようにスカーレットとその侍女、プラス、ホレスとテオ、でもってメイプルが食ってるのである。
いや! 作業しまくった私を優先しようよ! とは思ったんだけど、作業量が半端なかったからグロッキーになってしまった私は、テーブルにぐでっと伏せている。スカーレットは食べることに集中してるからか、それとも私の状態を知ってるからか、注意してこない。……今も忙しなくホルモン食ってるから、前者だとは思うが!
ちなみに今焼いてるのは牛のホルモン。大量の豚ホルモンの処理は一応終わったんだけど、まだ味付けとかの前調理はしてなかったんだよね。だから在庫があった牛のホルモンを焼いてるところ。って、ちょっとだけだよ、ホントに! みんなが満腹になるほど出したら、夕飯が入らないからね!? そしてどっかで何か食ってたことは確実にバレる!
ホレス小屋は無事に工事(私が拡張した)を終え、部屋は広くなっている。キッチンと通じているリビングでみんなが食べているのだ。テーブルもでかくなった。そして七輪はもう1個作らされた。なんでやん! 確かにみんなで1個の七輪を囲むという、混み混みで食うことはなくなったけどさ! どっちかの七輪で焼けたのを素早くスカーレットがさらってくんだよ! おま、そのために七輪2馬力にしたのでは!?
「お嬢、もぐもぐ、様、もぐもぐ、大丈夫、もぐもぐ、です、もぐもぐ、か?」
テオがもぐもぐしながら話しかけてくる。だから、食うか喋るかどっちかにしろし! という突っ込みをする元気もない。テーブルに突っ伏したまま、私はちょっとだけ顔を横に向けてテオを見た。
「大丈夫に見えるかね?」
「見えな、もぐもぐ、い、もぐもぐ、っすね!」
「だろ!? 作業して疲れた私を称えろし!」
「すご、もぐもぐ、いです、もぐもぐ、ね! お、もぐもぐ、嬢、もぐもぐ、様!」
テオがにこにこ笑って、でも本人的には真面目に言う。あー! だからもぐもぐしながら喋るなし! せめて飲み込んでから称えるように!
そうそう。刷毛のために毛を刈った馬は妙に怯えてたけど、無事にメアリーが連れて帰った。でも毛を刈っただけなのに怯えてたのは解せぬ。何でそんなにビビるかな!? 全部、抜いたわけじゃないし! しかも尻尾じゃん!? ……もしかして馬は尻尾にも神経とかあるんか? 判んないな。もしかして殺気に近い何かを感じたのか?
みんなが食べ終わった後、いつもやってる洗浄&消臭&乾かす、とかをやってからそれぞれが持ち場に戻った。私はメイプルと一緒に荷馬車に近い馬車に乗り、スカーレットは別の馬車で屋敷に向かう。スカーレットの馬車はもちろん私が普段乗りしてるものとは違ってかなりゴージャス。どっちの馬車も難なく通れるように道が整備されているのが凄い。揺れが少ないんだよね。
「はー……疲れた」
御者台でだらーっと身体を台に預けて私はため息を吐いた。ホルモンを食べたメイプルはルンルンである。メイプルも作業に加わっていたのに疲れを感じてないらしい。
「美味しかったです! お嬢様!」
スカーレットと別れたからか、メイプルがテンション高めで言う。はいはい、とおざなりに返事をしてから私はまたため息を吐いた。
こうなったら味噌とか作ってやろうか。いや。その前にメアリーがトマトとかの煮込みを作るのに協力してくれるとか言ってたな。そっちが先か。ワインとか色々入れて試作しないとだから、スカーレットに食わせるのはその後か。でもそれをどう伝えればいいもんだか……。
「え? 奥様への伝言なら私がしますが?」
「何で考えてることが判った!?」
「口から出てましたから」
はっ。しまった。疲れてた余りにぶつぶつ呟いてしまってたらしい。OH...。うっかりしてた。でもメイプルならスカーレットだけに伝えられるかも知れん。私は身体を起こしてメイプルを見た。やっぱメイプルってちょっとアレだけど優秀ではあるんだよなあ。メイドの中でもかなり立場が上ぽいし。ジャスミンと比較しても上なんじゃないか? いつもどっちが私につくかで喧嘩してるけども。
「じゃ、おかあさまには試作の後で誘うから待ってくれって言っといて」
「判りました。ところで」
馬を操りながらメイプルがガッ! と顔を寄せてくる。
「何の試作ですか!?」
「えっ、知らずにOKしたのか!」
そーいえば煮込みの話をしてた時にはメイプルはいなかった。しまった。口が滑ったかも知れない。私はこれ以上、メイプルから殺気を浴びないように説明をした。するとメイプルが目を輝かせる。あー……これジャスミンとのバトル発生案件だ。
「判りました! ワインは私が調達します! スティーブンさんに持っていくフリして、一本くすねてきます!?」
「いやいやいや! メアリーが協力してくれるって言ってたから!」
「メアリーさんは田んぼ担当ですよね? 協力と言ってもワインは」
「あの近くで酒造してるやん!」
「はっ!」
私の突っ込みにメイプルがはっと気付いたような顔をした後、がっくりとうなだれた。おい。そもそもワインって言っても赤か白か、どっちが合うかも判らない。しかも香草とかも多分いる。ついでにトマトとかの野菜もいると思う。でもただぶち込むだけじゃ、仮に成功しても一発料理になってしまう。その時たまたま良くできた、だとスカーレットに振る舞えない、というか他の使用人が食いたいのだから足りない。試作ではちょっとしか作らないつもりだし。どんな味になるか判らんし。
とかいう説明をしたら、メイプルがさらに落ち込んだ。これ以上はないというくらいにがっくりしていたので、私はついついフォローした。
「いや! あの、香草とか香辛料とかもいるかも? 塩コショウは私も持ってるけど、香草とかはあんま」
「わかりました!!」
私の声を遮ってメイプルが顔をこっちに向けて、また目をキラキラさせる。あーあーあー! どうして私はこんなに甘いかな!?