チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
ホルモン料理の実験……もとい、試作は何日もかかった。というか、スティーブンが妥協しねーから時間がかかるのである! プロだから!? でも私が作りたいのは家庭料理なんだよ! と、文句を言ったけど無視された。このやろー!! しかも最初は私が試作しようとしてたのに、結局はスティーブンにその役をとられてしまった。なんなの、これ!
でも試作で出来た料理は私も当然食べる! メイプルを始め、他のメンツも喜んで食ってるのに、味見したスティーブンがブツブツ言いながら次のを作る。分量とか入れるものとか変えてるんだろうと思う。特にテオは味覚が鋭いのか、今回の料理は何がどう変わったのか判るらしい。テオのくせに!!
スティーブンがホレス小屋に来るのが二日置き(さすがに一日置きは止めた)だったから、試作終了までに数週間かかった。朝から晩までスティーブンはホレス小屋に貼り付いていたから、小屋には誰もいない時もあった。スティーブンは味見をした後、また別の試作に入っていたからか、ホルモン料理の残りが冷蔵庫に突っ込んであることもあった。おいいい!! 片付けていけよ! ……と思ったけど、小屋を訪ねた誰かが召し上がってることが多くて、私のは!? とキレることもあった。残しておいてよ!
「やっと……終わった……のか」
減った食材を足したり、なかった食材を持って来たりと色々しつつ出来た料理が目の前にある。私は長く続いた試作祭を思い出して呟いた。ひと月半くらい経ったと思う。どんだけ妥協しねーのか!
「ようやく納得のいくものができました。お召し上がりください」
テーブルにはホルモンの煮込みが盛られた皿が置いてある。私は隣のメイプルをちらっと見た。試作の間、ジャスミンとメイプルが入れ替わりにホレス小屋に来てたんだけど、今日はメイプルがついている。スティーブンの料理が完成したという報告を聞いたジャスミンがメイプルとまた侍女争奪戦をした。ていうか! 完成する前も取り合ってたけどな!
皿に盛られた煮込みはトマト色というよか、もうちょい深い色だった。ワインかな、これ。様々な具材が入っていて深みが増してる気がする。仄かに柑橘系の香(ry
私には料理系アニメみたいな解説は出来ん! とにかく食べるぞ!
みんながほぼ同時に料理を口にした。そこでみんながぴたっと止まる。私も口にスプーンを運んだ状態で止まった。
ナニコレ! 美味すぎるんだけど!? と思った私より先に動いたのはやっぱりテオだった。
「美味いっす! びっくりっす! 酒ください!」
「勤務中に飲ますか!」
感想を言う前に私はテオに突っ込みを入れた。でも食べたテオがもぐもぐしてないのは、ホルモンがとても柔らかいからだろう。いつもかなり噛んでるのはホレスやメイプル、メアリー、でもって私も同じなんだけど、これはさくっと食べられる。私はもう一口食べて唸りながら感想を口にした。
「ナンダコレ! どうやったらこんなに柔らかくなる!?」
「そうじゃなあ。わしもこういうのは初めてじゃなあ」
私が叫ぶように言うと、ホレスがにこにこ顔で言う。デスヨネ! と私はホレスと頷きあった。
「料理にワイン使ってたじゃないっすか! 希望っす!」
「確かにこれはワインに合いそうですね」
メアリー同意するんじゃない! てか、メアリーも酒飲みなのか! 私は転生前も酒は飲んでなかったから気持ちはよく判らん!
「生きてて良かった……」
……メイプル、泣きながら食べてる。感動するにもほどがあるよね!? これまで生きてて辛かったのか!? いやまあ、比喩表現だと思うけど、メイプルが言うとホントにそうなのかと疑いたくなる。
そして最後にスティーブンがテーブルについてホルモン煮込みを食べる。
「まあまあですかね」
「え!? これで!?」
スティーブンのセリフに全員が一斉に突っ込んだ。OH...。気持ちが重なるというのはこういうことを言うのか。なるほど。理解した。
「これ、レストランとかで出すレベルの飯だろ!? 私は家庭料理って言ったよね!? なんでここまで!!」
私は正気に戻ってスティーブンに突っ込んだ。するとスティーブンがよく判らんという顔をして私を見た。
「ご主人様と奥様にお召し上がりになって頂けるものを、と常々思っていますが」
「は? おとうさまは食べないけど。というか、おかあさまもここだけで食べてるんだよ!」
そっか。スティーブンにはその辺の詳しい事情を説明してなかったかも。ていうか、試作中は何を言っても生返事しかしなかったから、途中から話しかけるのを諦めた。返事してくんないなら話しかけても仕方ないし!
「奥様がお召し上がりになるのでしたら、やはり完成度を上げる必要があります」
最初はフィーバーしていたスティーブンも今は落ち着いている。この変わりようがむしろ怖い。
「確かにこの味でしたら夕食にできますね」
「メイプルものっかるんじゃない!」
必死で食べてるのにこういう時だけ口を挟むんか! テオみたいに無言で食ってればいいのに!
「とにかく! ホルモン料理はここだけで食べる! 屋敷で食べない! というか、賄いに出してないよね?」
不安になった私はスティーブンに訊いた。すると料理を食べては首をひねってたスティーブンがこっちを見る。
「それはしないように、とリディアお嬢様からご命令を受けておりましたので」
「よかった……」
「一部の者には試食させましたが」
「はー!?」
私は声を上げて椅子を蹴倒して立ち上がった。賄いで出さないっていうのは、他の使用人に食わせないって意味だ。なのに試食とか!
「何で! 他の人が試食したら、バレるじゃんか!」
「いえ。厨房で働くコックの中でも、特に口の硬い者に試食させましたので、他の者には伝わっておりません。香草に詳しいもの、香辛料、野菜など、コックによって得意な分野が異なっている場合がありますので、試食はさせるべきなのです。試作もシェフが中心になって行いますが、試食はその場にいるコックも一緒にすることが多いのです。ですが、今回はリディアお嬢様のご命令でしたので」
あ。駄目だ。これ。ループするわ、くそ真面目に。しかも言い訳じゃないから困るやつ。もしかして料理人の常識なのか? だとすると私が突っ込んでいいものか判んない!
「美味ければいいと思うっす!」
「黙れテオ」
私はすぱっとテオを切り捨ててため息を吐いた。
「……まあ、事情は判ったよ。屋敷で食べるものじゃないって判ってもらえてるなら、もういいや」
「え? こちらは奥様だけがお召し上がりになるのですか?」
「メイプル、何でそこの事情だけが抜ける!?」
当たり前のように言ったメイプルに私は言い返した。突っ込みが忙しすぎる。食べる暇がない! 誰か手伝ってよ!
「あの。白飯は炊かないんですか?」
唐突に言ったメアリーに視線が集まる。メアリーは挙手してかまどを見ていた。ご飯がないことがちょっち不満らしい。ホントに残念集団だな!