チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
うーまーいーぞー!!! と、声を上げて涙を流すアーサーを横目に見つつ、私は黙々とホルモン煮込みを食べた。何回食べても美味しい。さすがはスティーブン。
「リディアはやはり世界い」
「おとうさま。食べる時は落ち着いて食べて」
世界一ィィィィーーーー!! とか言われるのを私は阻止した。賑やかな食事は楽しいけど叫びすぎ。
「お、おう。すまんな。つい感動してしまった」
いつもやん! と全力で突っ込みを入れたかったけど我慢出来た私、えらい。今は離れの城、よーするに私に用意されたらしい部屋でアーサーと一緒に飯を食べてるところである。ちなみにメイプルとテオはキッチンでこそっと食事を済ませてた。このやろ! 私が食べてないのに先に食べるとかどーよ!? しかも煮込みは温めるだけでよかったけど、レバニラ炒めは私が作ったんですけど!? 城の厨房にいた使用人は私が調理することにびっくりしたというか、止められまくったけども! いや、これはアーサーが譲らないのでね! 仕方ないのよ! と、言い訳しまくった。
当然のことだけどもここの厨房の使用人用の分は作ってない。もちろん味見もさせてない。ていうか、食わすなとアーサーに強く言われたのだ。まあ、判る。交渉材料に料理を使ってるのに、使用人に食べさせたりすると、今後の社交に影響ありそうだし。
「それにしてもおとうさま。どうしてここの使用人を無碍にするっていうか、態度が横柄なのは、何で?」
私は食べつつ疑問に思ってたことを言った。この部屋に案内された時もそうだけど、戻ってきた時もこの城の使用人が必死で追いすがってたのに放置してたし。
「ん? ここの男爵にはそういう態度で接しているだけだが?」
「は!? ここの人ってドMですか!?」
「どえむ? ああ、リディアは私の態度がいつもと違うことに違和感があるのだな」
そうそうそれそれ。ドMってゆっただけで、食い物のことかとぐいぐい来られなくて良かった。最近は私の周りにはそういうのばっかりだからね! スカーレットすらそれだし! 判らん単語があると迫られるってどうよ!? 自動翻訳機、仕事してくれ!
「ふむ。私は相手によって態度を変えることにしているのだ。丁寧に接しなければならない時はそうしているし、ぞんざいに扱わねばならない時はそうしている。ここの男爵は友人ではあるが、油断してはならぬ相手でな」
「それって友達っていわない!」
私はここに来て何度目かの悲鳴を上げた。何で!? どうしてそれ、友人っていう!? でもアーサー的には友人というカテゴリに入ってるぽいし……。私の認識がおかしいのか!? 確かに私は転生前に友人は多くなかったけど……って、余計なお世話だ!
とにかく私の認識がずれてるというのは判った。転生前世界日本でいうところの友達、友人、というのが当てはまらないってことは。でもってアーサーはそれを当たり前のこととしている。……はー。社交ってめんどくせ。でも一応はお嬢様な私もそういうのに関わるんだろうか。ダルすぎる!
食事が済んだらアーサーは離れからでかい城に戻った。……飯を食うだけのために来るってどうなんだ。まあ、娘である私と食べたいというのは判るから、何とも言えないけども。そうそう。アーサー付の執事もメイプルたちと一緒に厨房で食べたらしい。食いっぱぐれてないなら良かったよ。
私が寝る前までメイプルとテオが一緒にいてくれた。これもやっぱ、アーサーが油断ならぬと思ってるからなんだと思う。単に旅行ならテオは別室で呑気に寝てるはずだし。
「二人とも今日は隣の部屋で寝るの?」
「いえ。お嬢様がお休みになっても待機ということでしたので」
「は!? ちょっと待て! 二人とも寝ないつもり!?」
「え? 普通っすよね?」
待てーい! 私、どんだけ身の危険があるの!? それともアーサーの警戒心が強すぎるの!?
でも私が心の中で悲鳴を上げてるのに、メイプルがしれっと言った。
「ご主人様のご命令ですから」
「判るけど判らん! 徹夜って身体壊すよ!?」
慌てて私が突っ込むと、メイプルとテオが顔を見合わせて怪訝そうな表情を浮かべる。だって徹夜ってしんどくない!? 若い時はまだいいけど、年とってくとホントにしんどくて50近くなるとどーにもこーにも……って、今はそれどころじゃなかった!
「1日以上待機することはよくありますよ?」
「っすよ?」
「はー!? おまいらは狙撃手か!」
転生前世界日本で観たアニメで、じーーーっと待ってた狙撃キャラがいたのを思い出した。あれは軍人だった希ガス。フィクションだから大げさなのかと思ったけど、調べたら実際にあるぽいというのが判ってびっくりした記憶がある。
で!? メイプルとテオがそれやんの!? 狙撃したりしないのに!? 徹夜で私を護衛!?
「そんなので私が一人で寝られるとでも!?」
「え。前に外に出た時、お一人でお休みになってましたよね?」
「……は?」
メイプルに聞いたところ、前に島を出た時もメイプルかテオが護衛のために起きてたという。マジか! 確かに私は爆睡してたよ! でもそんなこと知らなかったからだよ! 知ってたらハラハラするだろ!?
「えっ、もしかしてお嬢様、気付いてなかったんすか」
「知らないよ! てか、誰も教えてくんなかったよね!?」
「当たり前すぎて」
テオに真顔で言われて私はテーブルに突っ伏した。今日はよく突っ伏するな、と思いつつ。
「要するに私はいつも護衛されてると」
「はい。私たちは護衛ですので」
「俺は今日は寝る番っす!」
「待て! 昨日はテオが護衛してたんか!」
街から出た私たちは、途中で小さな村に寄って一休みした。つまり一泊したのである。みんな疲れてたし、私も宿で爆睡した。こぢんまりした村だったから、あんまし見るとこもなかったし。蜂蜜もなかったし。民家と宿くらいしかなくて、雑貨屋があったかな? という感じのとこだったのだ。だから見物する気にもならなかったというか?
そこでテオは寝ずに私を護衛をしていたという。……待て待て待て! だとするとアーサーの護衛は!? 執事ひとりしかいないけど!?
「おとうさまはどうしてるんか!」
「ご主人様に護衛は必要ありません。むしろ護衛が邪魔になるので」
「は!?」
私は何度、驚かされるんか! でもびっくりするんだから仕方ない!
「ご主人様が何者かに狙われたら、ご主人様が犯人だけではなく背後の者まで全て消」
「まてーい!」
メイプルが言い終わる前に私は全力で突っ込んだ。消す、という言葉は聞きたくない! というか、そんなことをさらっと言わないで欲しい!
「なるほど……お嬢様はご主人様と初めて外に出たから、判らないってことっすかね」
メイプルが淡々と説明する間に、テオが手を叩いて納得顔になる。うん、そうなんだけどね。そうだけど、私は納得してないからね!?