チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
夕食の後、みんなで一泊してからアーサーとは別行動になった。アーサーとアーサー付の執事が転移の魔法陣で移動するのだ。私たちは馬車と共に最初に着いた街に向かうようにと言われた。ただし、この小屋にある転移魔法陣からは、あの街には転移出来ないらしい。それに今回はアーサーもついてくるようには言わなかった。……鍋は2個放出するように言われたけども。
この辺りの散策をするという選択肢もあったんだけど、私は街が見たい! と思ったので、メイプルとテオ、プラス御者を説得した。特に御者は一度、街に帰さないとといけないぽいのだ。馬車と御者が借り物でなければ良かったんだけど、出先だから仕方ないね!★ それを理由に街に行けるとは思ってないよ?★
小屋の女子二人に別れを告げ、私は馬車に乗ろうとして気付いた。
「飛行魔法のが早くね?」
何の気なしに言ったらメイプルとテオが即座に反応した。
「は!? お嬢様、まさかあれをまた!?」
「ひー! 嫌っす、怖いっす!」
ついでに御者がorzして震えている。むう。そんなに怖かったのかな。単に高速移動してただけなんだが? 揺らしてねーのだが?
「じゃあ、速度落とせばいいんじゃない?」
「えっ、遅く出来るのですか!」
「来るとき何で速かったっすか!?」
メイプルとテオに食いつかれ、私はため息を吐いた。
「おとうさまが速くって言ったから」
「はー!? 旦那様のご要望だったのですか!」
「どうしてそれ、先に言ってくれなかったすか!」
二人にまた食いつかれ、私ははいはい、と宥めた。過ぎたことは仕方ない。それにアーサーは高速飛行をとても喜んでいたのだ。天高く昇って落ちる、みたいな移動じゃなかっただけマシだと思って頂きたい。
馬車って揺れるし、遅いし、と思ったので私は飛行魔法を強引に行使することにした。御者とテオを馬車に押し込み、メイプルを連れてレッツゴー! と、一気に上昇して逃げられなくした。悲鳴が上がったけども、知らん。私は優雅に馬車での移動を堪能したい気分じゃないのである。でも二人&御者に泣きつかれた私は、仕方なく馬車と私たちを飛行魔法でゆっくりと移動させることにした。
でもこんなにちんたら移動するんなら、馬車でも良くね? とも思った。今の移動速度は転生前世界でいうと時速50キロくらいかな。体感だけども。行きより遅いけど、普通に走る馬車はこれよりはずっと遅い。ちなみに行きに飛行魔法で移動した時は、時速100キロは越えていたと思う。転生前世界みたいに車道がないのは便利だね! 難しい離合とかもないし! 懐かしの高速道路を思い出したよ!
これ以上、速度を落とすと馬車と変わらん、と思った私はため息を吐いて振り返った。ちなみに私は馬車の前に立っている。
「これでいいのかね」
馬車に乗って窓からこっちを見たテオが何度も頷く。はー。出来れば案内して欲しいんだが? 東とか西とか言われても判んないし。あ、でもテオはあてにならないかも知んない。前にスカーレットに命令されて飛行魔法を使った時も、ばったり倒れてたからなあ。転移魔法じゃなく、こんな風に飛ぶことに慣れていないんだと思う。浮いた状態で方角を訊ねても、ろくな答えはもらえない気がする。
じゃあ、と私は橫にいるメイプルを見た。何でか判らんが、メイプルはorzか匍匐前進かよ、という体勢になっている。下を見る方が怖いよ、と何度も言ったのに聞かない。私だって高いところはそんなに得意じゃなかったから、最初は下なんか見られなかった。でも練習をしているうちに段々慣れた。というか、慣れないと使えないからね!
「どっちに行くとか聞かないと進行方向が判らんのだが?」
「あっ、あの! もうちょっと左だと思います! たぶん!」
「多分か!」
そう言いつつ、私は進行方向を少し左にずらした。数日前に訪ねた村の橫にあったでかい川が見えてくる。村より先に川に目が行くのは横幅があるからだろう。村からは見えなかったけど、上空からだと両岸が見えた。ほほーう、と感心していると、メイプルががくがくと震えながら私の足をつかむ。
「何だ!」
「お嬢様が視線を逸らすと落ちると思いまして!」
「落ちない! それに方向は変わんない! 私が意識しないと何もないからね!?」
例えばここから降りて着地するとか、スピードを落としたり上げたりも私がしようと思わないと出来ない。そもそも私は吸引・放出しっぱなしなのである。放出しながらそんな器用な真似が出来るか!
メイプルにしがみつかれながら、私は眼下を走る川をじーっと見た。広大な川からかなり離れたところに、別の川がある。そっちは茶色だから浄水とかはしてないのだろう。川がぶつかるところから透明な水と茶色の水が混ざっていく。
そーいえば転生前世界では川沿いに肥沃な土地が広がってるとかどーとかいうのがあった気がする。そういうとこに住んでる生き物もいたし。川の全てを浄水するのはマズいのかも知れない。そんなことを思っているうちに、私たちはゆっくりと川を通り過ぎた。あー。行きみたいにスピード出せば、街にも早く着くんだろうけどなあ。
日が暮れ始めたところで私たちは馬車ごと草地に降りた。そんなに広い草地じゃないけど、森のど真ん中に降りるよりはマシ。そう思ったのは私だけだったのだろうか。着地して結界を解いた途端、馬車に乗ってた御者がリタイアした。というか、ここの地理は判るから自分で戻る! と言い張ったのだ。OH...。そんなに怖かったか。
それにしても往復料金も求めず一目散に走り去るってどうよ。小一時間問い詰めたいけども? と、思ってたら、走り去った馬車に手を伸ばしたテオが叫んだ。
「待ってー! 俺も乗せてって欲しいっすー!」
「駄目に決まってんだろ!」
四つん這いになって訴えるテオの背中を踏んで、私は腕組みをした。着地したことにほっとしたのか、メイプルはてさっさと木切れを集め火をおこしている。
「そうですよ、テオさん。馬車の中にいたんですから問題なかったでしょう? 私は宙に浮いてたんですよ!?」
「そういう問題か!?」
私は思わず突っ込みを入れた。……御者も去り、やっと思っきり突っ込んでもいい環境になって、実はほっとしたのは内緒だ。