チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
もうじき日が落ちるというのに、体育座りをしてガクブルしているテオを殴りたい衝動に駆られている、元アラフィフ主婦で転生者の斉藤奈美恵です。ごきげんよう。メイプルは食事の準備で火をおこしているし、私は私でかまどを作ったりしているのですが。その上に載せる鍋を放出しているのですが。ついでに言えば、火種に乾いた薪をちょっとずつ足してるんですが。
ていうか! 働け、テオ! と思いながら私はテオの頭をぺちっと叩いた。裏拳でぶん殴ろうと思ったけど、何しろ私の腕力はあんましない。それにやろうとしてもどうせ防がれるに決まってる。
「いい加減にしろし! そこまでビビらなくてもいいんじゃね!?」
「お嬢様は問答無用で飛ばされたことがないから、俺の恐怖が判んないっす!」
「私は結界魔法の特訓でザビエルに何度も吹っ飛ばされたが?」
じっとりと睨むとテオが慌てて首を横に振った。
「それとは違うと思うっす!」
「はー!? 急上昇とか急降下とかしてないんだから、そこまで怖くないと思うが!?」
とか何とか、何度も言い合ってから、テオを何とか起こすことに成功した。というか、メイプルが殴って立たせた。
「いい加減にしてください、テオさん」
「でっ、でも」
「私は馬車の外にいたんですよ!? どれだけ怖かったか判りますか!?」
……怖さ自慢をしなくてよろしい。そんなことを思いつつ、私は食事の準備をした。そんなにビビることなのかな、と思うけど、もしも私が結界魔法を使えなくていきなり飛ばされたら……確かにビビるかもな。そんな想像をしてみたけど言わない。
仕方ないので私は料理でテオの機嫌回復を図ることにした。何でお嬢様の私がそんなことをしないといかんのか、という疑問はあるけど! 二人が元気じゃないと気持ち悪い!
まずは某白ポケットで合成したフランスパンを二人に投げる。これはまだ、厨房で作れないらしい。多分だけど、粉の比率とかが判らないのかな。もしかしたら他のパンが出来るんだから後回しになってるのかも知れない。
「あ! パン!」
真っ先にフランスパンに飛びついたのはやっぱりテオだった。続いてメイプルがパンをキャッチする。早い早い。私はかまどの片方でご飯を炊き、もう片方でおかずを作ることにした。
そーいえばご飯とおかずを分けて食べる、というのは転生前世界日本ではフツーだった。でも他の国は違ったという話を聞いたことがある。何だったかな。日本に長くいたからなのか、飯がない食生活に耐えられず、アキバかどっかで炊飯器を買ってった人がいたとかどーとかいう話もあった。結局、その人はおかずと白飯を分けて食うようになったのだろうか。ちなみに海外では米はかなり高いと思う。税金なのかな。転生前世界日本に入ってくるチーズの値段が馬鹿高いという話も聞いたな。
はっ。今はそれどころじゃない。おかずは何にしよう。フランスパンと一緒というと、グラタンか何かか? あ、汁物がいいか? でもおかずとして成立しないと……。
「よし。シチューにしよう。すぐに作れるし」
「えっ!? シチューですか!? それって普通では!?」
「そうっすよ! もっと別のなにかで!」
「やかましい!!」
どうしてこの二人は変わり種を食おうとするのか! でも私が作るシチューだから、アシュフォード家で出てくるものとは違うと思われなんだが?
でもって私は前にうっかり作った圧力鍋をどーん、と放出した。結果魔法の訓練の時、圧力とか箱とかをイメージしたら出来たのだ。料理は吸引して合成して放出、という手順でも簡単に出来るが、圧力鍋を一度は使いたい! という私の欲求を優先し、鍋の中に材料を色々ぶち込んで吸引した。某白ポケットの中でごちゃごちゃと合成したり色々して、圧力鍋を放出する。でもって私はそれをかまどにかけた。
「よし! 煮れば完璧!」
「なっ、なんっすか、これ」
「あっ、これは結界魔法の訓練の時にお嬢様が作られた鍋ですよね?」
さすがはメイプル。覚えてたか。うんうん、と頷いて、私は鍋を火にかけた。ごはんも炊いたから、フランスパンに合うものとか考えなくて良かったかもだけども。まあ、作る気になったから仕方ないね! 私だってたまには某白ポケットを使わず料理をしたい気分の時もある。
圧力鍋でいい感じに煮えたところで蓋を開く。もちろん、先に圧力は抜いた。蓋を開けるとふわっと良い香……はー!? どうしてこうなった!!!
「こ、焦げてる……」
「えっ、これ、食うんっすか、お嬢様」
「さっ、さすがにこれは……」
二人してドン引きされ、ついでに私もドン引きして、鍋の中身を見なかったことにした。ううっ、つまり私は某白ポケットを使わねば料理が出来ないと! トンカツとかは出来たのに! もしかしてあれか! 煮込み料理は駄目とかか!!
泣きそうになりながら、私は焦げ付いた鍋を吸引した。鍋の中身を綺麗に落として圧縮しまくり、焦げの塊を地面に放出する。ゴマくらいのサイズに縮めたから、環境汚染にはならんだろう。
いつもの手順で某白ポケットの中で、鍋に材料を叩き込み、合成しまくってから放出する。出してあった作業台に鍋が載り、今度はふんわりと良い香りがしてくる。今度こそ、と蓋を開けるとそこには良い感じに出来たビーフシチューがあった。
「おお! 美味そうっす!」
「ですね! あ、これはシチューですか? いつものと違うのですが」
皿におたまで盛ってから、茹で野菜を添えたところでメイプルが言う。あ、そっか。いつもは一緒に煮込んだものしか出てこないからね。って、しまった! これって一種の新料理なのでは!?
焦る気持ちを隠して私はシチューを盛り付けた皿を置いていった。皿を素早くさらったテオがさっそく食べ始める。それを見たメイプルが私と皿を見比べる。
「いいよいいよ。先に食べて。私は二人みたいにたくさん食べられないから、ちょっとにするし。あっ、さっきのパンと一緒に食べると美味しいよ」
何度も頷いたメイプルが椅子に腰掛けて食べ始める。二人ともどーして作業台で食べ始めるのか。テーブルにつけし。とも思ったけど、早く食べたいという気持ちが勝ったのだろう。私は苦笑して自分の器にご飯を盛り、シチューを皿に盛って食べ始めた。
やっぱり美味い。某白ポケット、万能か。