チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
小屋ごと飛行魔法を使ったら二人が引きこもってしまった。ゴラ。誰か案内しろや。そう言うと、小屋の窓からメイプルが手だけを出して行く方を指差す。おまっ、馬車の時は大丈夫だったのに、小屋と一緒だと外に出られないってどゆことだよ!
あ、あれか。空飛ぶ自転車は良くても、空飛ぶ家が駄目とか。そーいえば転生前世界で自転車で一緒に飛ぶ宇宙人みたいな映画を観たなあ。昔だけど。懐かしい。でもこの二人ならあれも怖いのかも知れない。この世界にあるのかどうか判らないけど、今まで自転車は見たことないし。よし、今度むかついたら荷車に乗せて飛ばしてやろう。
そんなことを考えているうちに街が見えてくる。よし、と頷いて私は開けたところにゆっくりと小屋の入った結界を下ろした。……いつも思うんだけど、ザビエルが最初に言った結界箱は私に合っていたのかも知れない。イメージしやすいというか。自分だけで飛ぶ時は箱にはしないんだけど、誰かとか何かを運ぶ時は結界を箱型にする癖がついている。おかげで誰も落ちたりしないんだけど。
着くまで小屋の中でギャーギャー言ってたメイプルとテオが、地面に降りた途端にドアから駆け出してきた。地面にべったりと土下座……? あ、五体投地か。そんなことをしつつ、嬉し泣きをしている。
「地面ってすばらしいー!」
メイプルとテオが同時に叫ぶ。イラッとしたので私は二人を睨みつけた。
「そんなに私の魔法が信用できんのか!」
感動している二人に同時に突っ込みを入れる。でもテオはともかくメイプルまで地面とべったりお友達をしているので、私は仕方なく一人で小屋を吸引した。お片付けである。ていうか! 荷物とかも私が某白ポケットの中に入れてるからいいけど、小屋の中に置きっぱになってたらどうするつもりだったんだよ!
街近くなのでここからは徒歩、ということになったら二人は急に元気になった。試しにちょっと離れてるから飛ぼうか、と提案したらもの凄い勢いで嫌がられた。冗談が通じないのかな。それともそんな気分じゃないのかな? まあ、判ってて言ったけどな!
空から見ると近くだと思えたけど、街はちょっと離れていた。子供の足で2時間かかった。途中で休憩したから遠く感じたのかもだけども。いつもの調子を取り戻したテオにスイーツを要求されてぶっ叩いたり、それにつられたメイプルをぶっ叩いたりしながら、私たちは最初に来た街に着いた。
一応、街の入り口には門番みたいな二人の男が立っている。挨拶程度はしたけど、ほぼスルー。悪党に見える奴だけ止めるみたいな感じだろうか。だとするとこの街の警備ってかなりザルなのでは……。あ、もしかして転生前世界日本で読んだり見たりしてたラノベの影響が強すぎるのか、私。門番的なものが立ってて怪しい人間だけじゃなくて、通る全員をチェックする的な。そういうのがテンプレだった希ガス。
はっ。そんな場合じゃなかった。私は街に入ってすぐに駆け出した。道沿いにはずらっと店が並んでたのだ。当然、メイプルとテオもついてくる。
「店で買い物ー!」
「お嬢様、落ち着いてください!」
「そっすよ! 俺はトラブルは嫌っすー!」
それぞれが何事か言いつつ私に合わせて走る。相変わらず速いな、二人とも。私は走りながらテオを睨んだ。
「トラブルってどゆことか! 私がトラブルメーカーみたいじゃん!」
「えっ、そうじゃないっすか」
当たり前、みたいな顔で言うんじゃない! という突っ込みをする前に、私はメイプルに片手で抱え上げられた。
「ちょっ、メイプル!?」
「宿が先です」
急停止したメイプルに合わせてテオも足を止める。抱えられた私は慣性の法則? とかなんとかで、前後に激しく振られる格好になってしまった。しかも腕が腹に食い込んで痛い。
「ぐえっ! メイプルメイプル! 腕が食い込んでる!」
「このくらいしないとお嬢様がどこかに行ってしまわれるので!」
きっぱりと言ったメイプルが向かったのは店がずらっと並ぶ道から一本入った道だった。OH...。この街は宿とかと店を分けてるのかー。ていうか! でかい街なのに入ったところにいきなり店があっても大丈夫なのか!? 泥棒とかいないのか!? あ、もしかして、そういうのをとっ捕まえるために警備してるんか? でも二人で足りる? それ。
そんなことを考えてる間も、私はメイプルに抱えられてぶらぶら揺られていた。てか、酔うわ!!
「ちょっと、メイプル! 揺らさないで! 酔う!」
「あっ、すみません。これでどうですか」
そう言ったメイプルは歩いてるのに上体がぶれない、というステキな動きになった。あのな! そういう意味じゃない! 揺れなくなったけど!
「メイプルさんってそういう動きが得意っすよね。俺、ちょっと苦手で」
「訓練の時に困りません?」
「激しく困るっす! 片足で飛ぶ時に上体を揺らさないとか、俺は向いてないって思うっすよ」
「あれも慣れですからねえ。でもホレスさんとかジャスミンも苦手ですよ、あの訓練は」
「あー。判るっすー」
……おい。私を置き去りにして怖い話をするんじゃない! オバケ系じゃない怖さがあるよ!?
「片足で動いて身体が動かない!? ナニソレオイシイノ!?」
「はい、到着です」
私の質問は無視か! そう思ってる間にメイプルとテオがさっさと宿に入る。ドアを開けると賑やかな声が聞こえて、私はぴたっと口を閉じた。賑やかなのは酒場と一体型なのもあるけど、冒険者とかそういう人もいるぽい。よく見る掲示板みたいのに紙が貼られてて、クエスト? 依頼? そんな感じのものが書いてあるらしい。
ラノベ的テンプレばんざい!
「はい。宿泊で3名様ですね。お一人様一泊で銅貨15枚になります」
「おい、ぼったく」
「はいはいはい、銅貨45枚っすね!」
ぼったくりか、と言おうとした私の口をメイプルが素早く塞ぎ、テオがさくっとお金を払う。だって前に泊まった時、銅貨6枚とかじゃなかった!? しかも三人で! しかも45枚ってどういうことだよ。
それに銅貨だから10円10枚で100円玉になるとか、そういうのはないのか。例えば銅貨の次は銀貨とか! 転生前世界日本で見てたラノベには鉄貨とかいうのもあったかな? もしかして銅貨が100枚で銀貨とかになるのか? お金の単位ってイマイチよく判らん。
考えてるうちに私は宿の部屋に放り込まれ、当然のようにテオが遮音結界を張る。その結界、私も出来るんだけど……。
「お嬢様! 思ったことを何でも言うのは困ります!」
「そっすよ! ぼったくりとか、思っても言っちゃ駄目っす!」
「思うのはいいんかい」
私が呆れて突っ込むと、メイプルとテオが顔を見合わせて頷いた。
「この宿はぼったくりですから」
「っすね」
そう言い切った二人を私はうろんな目で見た。