チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
私は遮音結界でみっちり囲まれた部屋で説教された。されまくった。何度かやらかしてるからか、それとも馬車とか小屋を飛行魔法に巻き込まれた憂さ晴らしなのか、よく判んないけども。テオにまでぐちぐち言われるとは思わなかったよ!
でもって今回の旅ではどうやら着替えなくてもいいらしい。この街は大きいからか、お貴族様がいるのは珍しくないのだそう。お忍びで買い物を楽しんだりしてるらしいけど、着るものを変えても、雰囲気とかで身分はバレるらしい。
って、ちょっと待て。私は着替えなくていいんか、と訊ねたらメイプルに鼻で笑われた……気がした。多分。着替えても無駄なのか、そもそも着替えなくても貴族のおじょーさまっぽくないのか。問い質したら、いいようにはぐらかされた。おのれ。
説教&説明を聞いた私は二人を連れて下の階に降りた。広い部屋では色んな人が飲んだり食ったり話したりしている。とにかく賑やか。人の声をこんなに一度に聞いたのって、久し振りだと思う。転生前世界日本で暮らしていた時は、たくさんの人の声を聞くことはあった。でかい街に行ったりすると、問答無用でそういうのに晒されてたし。しかも車の音とか電車の音とか。あ、それに比べたら騒音レベルは低いか?
話が逸れた。しまった。
テオが私より先に行ったかと思うと、空いていたテーブルを確保する。ふむ。他の人たちとは離れてるからいいってことか。どうぞ、とメイプルに椅子を引かれて私は座ろうとした。けど子供だからな! 高い椅子じゃないと微妙に高さが足りないんだよ! それを知っているメイプルが座面にさくっと座布団……じゃない。クッションを敷いてくれる。座布団は見た目もちょっと違うよな。転生前世界日本で子供の頃はクッションなんて洒落た言い方とかしてなくて、こういうのは全部座布団って呼んでた。もしかして私だけか? そもそも椅子が必要なテーブルが置いてあるだけでお洒落的だった気がするし。あれ? この感覚も私だけ? まあいいか!
メイプルが座った私の斜め後ろに立とうとして、慌ててテーブルにつく。そうである! 旅人の時はメイプルは、私と一緒に飯とか茶とかをしなければなのだ! テオはそうするのが当たり前、みたいに平然としてるけど。あ、アーサーに連れて行かれた城(離れ)ではメイプルがいつも通りにしてた。ちょっとほっとしていたように見えたような気がする。
三人がついたテーブルに近づいたアラフォーと思われる女性にテオが声をかける。
「おねーさーん! 食事が欲しいっすー!」
「何にするかね?」
他のテーブルを片付けながら女性が訊ねる。けど、こっちを見ない。そっか。転生前世界にあったレストランとかとは違うんだよね。でもテオ。おねーさんって。いや、まあ、悪い気はしないのかもだが! だから返事が早かったのかもだが!
「おすすめで!」
丸投げかよ! と思ったけど、メイプルに腕をつかまれて突っ込み損ねた。うっ、この二人に突っ込めないとストレスが溜まる。これはいかん。早く食べてこの場を脱しなければ。
それにしても宿兼食堂兼、だけじゃなく、冒険ギルドも、というのは見ていて面白い。色んなタイプの装束……もとい、格好? の人々が色々している。色々っていうのは、ここからだとよく見えないし判んないから。カウンターみたいのがあって若い(多分10代)子と話してるのは見えるし、掲示板みたいのに集ってるのは判るけども。やっぱ異世界テンプレみたいにクエスト請けて完了とかしてるんかなあ。やってみたい。
「はいよ」
ぼーっと考えごとしてたら料理が目の前にどかんと置かれた。いや、皿が置かれたというのが正しいか。って、待てやゴラ。何で皿の縁に汁が垂れてるんか。皿には鶏肉みたいのを焼いたのと、芋を茹でたのと、黒いパンみたいのが乗ってる。垂れてる汁は多分、肉の脂だ。
おおおいいいいい!!! と、叫びそうになった私の口をメイプルがまた塞ぐ。手で押さえられたまま、私はむぐぐぐぐ、と言った。だってこれはないだろ! しかも見た目がものすごくまずそう!
「こっ、これがこの店の飯なのか」
メイプルが手を離したので、私はぼそっと呟くように言った。するとテオが遠い目をしてぼそっと返す。
「こうくると思ったっすー。王都の店よりはマシかも?」
「どうでしょうね。あまり期待出来そうにないですね」
前に島外に出た時は、質素だったけどそこそこは食べられるものが出てきていた。なのに! なんであっちより栄えてる街がこーなのか! それともこの宿が変なのか! しかもフォークが微妙に汚れてるから触りたくない!
さっ、とメイプルが私のフォークを取って、ポケットから出した布で綺麗に拭いてくれる。ついでとばかりに自分のとテオのフォークも拭く。三人で顔を見合わせ、覚悟を決めてそれぞれの皿に盛られたものの一部を突き刺して口に入れる。
ひっぎゃああああああああああああああああああああああああああ!
と、私は口だけ動かした。声は出さない。さすがにメイプルに止められたというのと、周りを気遣ったというか、その、みんなフツーに食ってるから、叫ばなかったというか。メイプルも微妙な顔をしているし、テオなんか俯いてブルブル震えている。
そうか。こんなところで心はひとつ、みたいになるとは思わなかったよ! ホント、どういうこと!? この世界にも鶏はいて、フツーに食ってる肉なんだけど、それをここまで不味く料理するってある意味で才能では!? 肉はスカスカなのにべったりした脂がついてて、しかもなんか変な匂いがする。フォークでつつくと、千切れた羽根が残ってるとこがあった。
ばん! と私はテーブルに手をついて椅子を降りた。出された食事は完食する主義だが、これは無理だ! 芋とかパンも怖くて食えない! これならアシュフォード家で前に出されてた牛の肉肉肉肉のがマシだ!
私と同じことを思ったのか、メイプルとテオも席を立った。でもってメイプルがテーブルに金を載せる。さすがに払わない、というのはないからね。そして三人足並みを揃えてさっさと宿の部屋に戻った。
三人が入ってドアを閉じたのを確認し、私はテオより先に遮音結界を張った。
「何だよ、あれーーーーーーー!!!」
「最悪です。何ですか、あれ!!」
「まずいっすーーーーーーーーー!!」
同時に叫んで私たちは揃ってorzした。