チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
でかい街を散策するのを楽しみにしていた時期もありました。うん、楽しいんだけどね。色んなものがあって面白いんだけどね。野菜みたいなのもあれば、魔法具とか魔道具とかいうのも並んでて、賑やかではある。
あるんだが! 欲しいものがない!
魔力で動くなにか、みたいのは自分で作れるし、そもそも必要がない。付与した魔力で簡単に土が掘れるスコップとか売ってたけど、魔石がそもそもあんまし役に立ってないのでうさんくさいことこの上ない。念のためにメイプルに小声で訊いたら、やっぱりうさんくさい代物だった。
でも掘れるんだろう。買う人いるんだし。それってあれだ。ぷろぽー……違う、えーと、プラシーボ効果!! そんな感じのアレでは? と思った。信じる力でどうにか出来るのは凄い。でも岩盤とかに当たったら砕くのは絶対に無理だと思うけどね。
そんなに簡単に魔力をどっかにくっつけられるんなら、アシュフォードが治水してる村を管理するための女子は必要ないわけで。もし魔石でどーにかするなら、何個いるんだかわかんない。それなら魔法を使える人間を置く方が早いと考えたアーサーは間違ってないと思う。
まあでも。ウインドーショッピングは楽しい。欲しいものがなくてもひやかす程度に近づくのはアリだと思う。私が暴走しないと判ったのか、メイプルとテオものんびりしたものだ。テオはたまに買い食いしては微妙な顔をしている。さすがメシマズの街。
そーいえば転生前世界日本にはメシマズ嫁というスラングみたいのもあったな。動画を観たことある。どこまでホントか判んないけど、そのせいで入院したというネタもあった。怖いけど、逆に自分が作る飯は大丈夫なのかと不安になったこともある。味見はするけど私は残念味覚の自覚があったからね!
そういう時の友なのだよ! そりゃもう、味見しまくって頂きました。友人が少な……うるさいよ。事実だけど! そんな私にとって大事な友は遠慮なく指摘してくれるので助かったなあ。気を遣えという人もいるけど、ストレートに言われないと判んない時もあるんである。味のバランスもだけど、濃さな! あれ、本当に自分では判りづらい。というか、私はあんまし気にしてなかったけど、当時は塩分濃度高めで作ってたっぽい。
慌てて薄味にしたら旦那にキレられた。あー……。急に味が薄くなれば文句も言いたくなるか、とも思ったけど、息子娘は(゚∀゚)ウマウマって食ってるのに!? やっぱあれか! 長年染みついた好みの味はなかなか変わらんということか! ちなみに私は残念味覚なので、別段マズくなったとは思わなかった。薄めにしただけだ。
めんどくさいけど仕方ない、と、ちょっとずつ味を薄くすることにした。旦那を慣らすのである。具体的には味の洗脳である。でないと私や息子娘がずっと濃い味を食い続けねばならなくなる。冗談じゃない! 私は残念味覚だけども、友の指摘は正しかったので薄味にしたかった。
私と息子娘の分のを薄味にして、旦那の分に調味料を足した。で、旦那の分も少しずつ少しずつ薄くする。ちょっと薄い? いやでも普通? くらいの感じで徐々に慣らせば、目標達成である。出張があると味覚が戻りやがるので、頑張ってなんとかした。かかった時間は10年。10年だよ! 転生した私が今に至るまでの10年!
って、その話はいいんだよ! とにかく! ここの露店の飯がマズいという話だ!
「この串焼きもかー。悲しいっす」
テオががっかりした顔で呟く。だろうな!
「判ってて何で買い食いするのかと小一時間」
「そうですよ。この後の食事が食べられなくなったらどうするんです?」
私とメイプルに突っ込まれたテオがはっ! として慌てて串焼きを食べきる。
「気を付けるっす! でもまた、腹は開いてるっす!」
「……腹が空いてるじゃなくて、開いてるんか」
「ですです!」
呆れた私の突っ込みにもテオは真顔で頷く。うん、天然だというのは知ってた。出来ればとっとと食事にしたいところなんだけど、私は探してるものもあるのだ。多分、ないと思うけど蜂蜜だ。それも百花蜜以外の。テオが嫌いと言ったのは百花蜜だろう。あ、百花蜜っていうのは、色んな花からとれた蜂蜜のこと。
蜂蜜って種類によって全然味が違うから、もしかしたら他のならいけるのではと思ったんだよね。転生前世界でいうならレンゲとかアカシアとか。癖が強いのもあったな。好みが分かれるだろうな、あれ。花が何か忘れたけど!
そういう理由もあってウインドーショッピングなうなのである。野菜とか果物のとこに並んでてもいいと思ったけどなかった。多分、蜂蜜が稀少というかお高いせいだと思う。もしかしたら通りの奥にあるっていう、お高い系の店にしかないのかな?
あ。メイプルじゃないけど、そろそろお腹も空いてきた。私は朝食少なめが好みだけど、昼食はフツーに食べるからなあ。でもこの辺で料理って難しくない? 宿からちょっと距離があるから戻るのダルいし。いや、速攻戻れるけどね。転移とか飛行魔法使えば。でもそれやると目立って仕方ないし、ヤバい気がする。
「ご飯にしたいんだけど、どこか作れる場所とか、そういう部屋とかない?」
要するに私が某白ポケットを活用しても問題ないとこ、という意味を含めてメイプルに訊いてみる。するとメイプルが周囲を見回して眉を寄せた。
「この辺りの宿の部屋を借りるという手もありますね。泊まったところに戻るのもアレですし」
「あ、それなら向こうの通りに入ればいいっす」
「何故に」
テオがにこにこしてるのが不気味で、私は何となく訊いてみた。するとテオが指を立ててにかっと笑う。
「低い屋根の建物が多いから、その上ならいけるっす!」
「いけねーよ!!」
私はそう突っ込んでテオに回し蹴りを叩き込もうとした。というか、そうしたのにさくっと避けられた。くっ! テオのくせに生意気だ!