チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
別に美食家とかじゃないけど、ウマ飯求めて三千里みたいな元アラフィフ主婦、今は転生者の斉藤奈美恵です。決して娘なウマではないよ、念のため。
私は美味いものは好きだけど、味覚が優れてるとかではない。転生前世界の日本で生きてた時も、超お高いレストランとかで食べたいという欲求はなかった。そんな金があったら家族数食分の飯に変換してくれるわ! という程度の味覚といえばお判りいただけるだろうか。……まあ、若い頃はちょっとはそういう欲もあったかもという気がするけど、転生前の時点で贅沢気分はすっかり風化してしまっていた。
そんな私が家で作ってたのも主婦のてけとー料理。本格何とか料理みたいのはできない。お菓子作りたい欲が旺盛だった子供の頃はともかく、主婦になった後の私はカップケーキとかを焼く時はホットケーキミックスを使ってた。自力で出汁をひいてたのはいつまでだったか。
私が主婦を始めた頃は、めんつゆを出汁にすればいいじゃまい、という時代じゃなかったんだよね。いつも使ってた醤油メーカーが、出汁入り醤油を出した時の衝撃が伝わるだろうか。それだけで食事を作る手間が省けてお得だった。醤油入り出汁にもなるし、普通に麺をつけるつゆとしても使えるし、何なら小バ(略
いかんいかん。油断してヤバい系のネタに走るところだった。食い物に混ぜるな危険だったわ。危ない危ない。
とにかく! 私にはそれほどすごい味覚はないってこと。そんな私が我慢出来ないくらいにマズ飯を連発されるとキツい。だから知識を本に求めたら、最初のページにジャガイモが載ってて、キレ散らかして暴れた。そしたら傍にいたメイプルがパニックを起こしたのか、私を農園に連れてってくれることになった。
というのが、農園に来るまでの経緯なんだけど。
屋敷を出たところでメイプルが移動に馬車を使うと言った時に気付けば良かった。初めて乗る馬車に浮かれた私は馬車の中で踊るほどはしゃいでしまって、周囲をあんまり見てなかった。幼児の視野って物理狭いしね。
だって馬がいたんだよ、馬が! 転生前世界とかラノベで見た馬が! そりゃはしゃぐってもんでしょ! 本物の馬って初めてだけど、想像以上にでかかったよ! いや、びっくり! 馬車は一頭立てだから一馬力? とにかく私はわくわくが止まらなかった。
だから、気付くのが遅れた。
……ナンダコレ。
周囲には草草草。でかい草刈り機を持ってくればいいね! というくらい草が生えている。メイプルと一緒に馬車を降りたところは辛うじて草が短い。この草が短いところが歩くとこ? 二人がぎりぎり並べる幅。えっ、なにこれ。背が低い私には足元しか見えない。やたらめったら長い草が生えてると周囲が見えないよ! しかも生えてる草の種類が私には判らない。しまった、植物図鑑を持ってくるべきだったか。
「……メイプル。周りが見えません」
「あっ、すみません、お嬢様。これでどうでしょう」
はっ、と気付いたようにメイプルが私を抱きかかえた。うむ。よく判っているではないか。褒めてつかわす。
ではなく。メイプルに抱っこされた私はじーっと周りを見た。……遠くに木が生えてる……ように見える。もしかしなくても何かが実ってない? 果物? でも木は整然と並んでたりはしない。点々と生えているようだ。
途中で長い草が揺れてるとこがあった。
「あれは何ですか? 草が揺れています」
「ああ、牛や馬が草を食べているのではないかと思います」
えーと。要するにこの背が高い草は牛とかの餌だと。牧草とかワラじゃないんかい。
いや待て。これは異世界特有なのか? それとも私が知らないだけ? 多分、後者だな、と私はすぐに割り切った。最初からモリモリの知識があるキャラクターが出てくるラノベはあるけど、残念ながら私にはそういうのはない。本は読んでたけどフィクションがほとんどだったし。
出でよ! Wikipe○ia!
……とか叫んだら、調べられないかな。アニメでよく見る透明な板みたいなのが出てきて、そこに書いてあるとかね。でもそんな便利魔法はないんだろうな。と、私は諦めの笑いを浮かべた。