チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
きんちょーのなつ、にほんのなつ。転生前世界日本でよく聞いたフレーズを思い出すくらい、むちゃくちゃ暑い! アレですよ! 日本でいう猛暑とかですよ! 酷暑まではさすがにいってないと思うデス! 体感だけども!
私が転生する直前の日本は、夏がヤバかった。ものすごい暑さで水が干上がったりすることもあったし、熱中症になって救急車で運ばれる人も多かった。しかも湿度がね! もの凄かった。日本特有の湿度とか聞いたけども。除湿機に頑張ってもらうとかなり楽だった覚えがある。
それを思い出してしまうほどの暑さから逃げた小部屋で、私たちはじっとしていた。三人とも『涼しい部屋から出たくねえええ』と思ってるのが判る。でも早く出ないとアーサーに超心配された挙げ句、ドアを蹴破られる未来が見える。もし蹴らなくても手でどついたり、魔法を使ったりして、とにかく開けると思う。
その前にどうにかして部屋を出なければ! とは思うけど、出たくない!
「仕方ありません、お嬢様」
「メイプル……」
やっぱりメイプルはしっかりメイドの基本は叩き込まれているのだろう。私は迷いながらメイプルを見た。
「ここから逃げましょう!」
キリッとした顔でメイプルが言う。真顔でなに言ってんだこいつは! 私はメイプルを蹴ろうとした。けど、やっぱり避けられてしまう。このー!
この部屋には小さいテーブルと椅子があるだけで、他には何もない。窓があるけど分厚いからか、それとも何かされてるのか判らないけど、外の暑さは伝わってこない。小さいけど横たわれば、十分三人で寝ることは出来る。
って違う! 出たくないあまりに訳の判らんことを考えてしまった!
「逃げられれば逃げてるよ! ていうか、そんなことしたらおとうさまに叱られるだけじゃすまないけど!?」
「はっ! 旦那様がいらっしゃいましたね!」
「そこ、忘れるとこ!? テオもいつまでも床に寝てるな!」
「だって冷たくて気持ちいいっすよ、ここー」
呑気に言ったテオは床にぺたっと頬をくっつけている。踏んでやろうか!
「せめて着替えましょう、お嬢様」
「はっ! そうだった!」
私は慌てて某白ポケットの中を探った。三人分の服を放出する。半袖ズボン7分丈はやり過ぎかと思ったけど、正解だったと思う。私もドレスで歩き回るとか絶対に無理だから!
先に着替えたテオを壁に向かって立たせ、出たくない欲を必死で抑え、私は何とか着替えた。部屋の温度が低すぎると外でダメージを受けるから、ちょっとずつ氷魔法を弱くする。室温30℃弱(体感)くらいまで落としてから、せーの! でドアを開けて外に出る。
「あっつ!」
「うわー!!!」
「暑いですね、やっぱり」
三人でぐったりしてたら橫から話しかけられた。
「ん? リディアはそんなに厚着でいいのか?」
「は?」
声を掛けられた方を見た私はびきっと固まってしまった。アーサーがアロハ着てる……何で……? この世界にもあるの? ていうか、アロハ警察は出てこないのか? いや待て、そもそも何でシャツの中に何も着てねーのか。
「おとうさま、その格好は一体」
「ん? いま流行りの服だ! いいだろう!」
にかっと笑って腕を上げて力こぶを作る。サングラスがあれば良かったかも。ついでに海も必要だけども。ていうか、貴族なのにこれでいいのか!?
ちなみに私たちは半袖と短いズボンが1枚ずつだ。厚着と言われても困る。これ以上は脱げない。
「旦那様、日焼けとか大丈夫ですか?」
真っ当なことを言ったのはメイプルだった。ちなみにアーサーの後ろに控えてる執事は、私たちと似たような服を着ている。
「問題ない! 馬車を使うからな!」
「馬車!? ここからの移動は馬車ですか!? 暑いのに!?」
蒸し暑さを想像して私は身震いした。転移陣から出てすぐの通路ですらコレなのだ。馬車みたいな個室的なものに入ったら確実に死ぬ。
「氷魔法を使えば問題なかろう?」
「あ」
そうだった。転生前のことを思い出してガクブルしてたけど、さっきの部屋も冷やしたんだったわ。ついつい怖さの方に意識がいってしまった。でも馬車の中はいいけど御者は下手すると死ぬのでは? 大丈夫か、おい。
そんなことを考えながらアーサーに連れられる格好で通路の外に出る。そこには町の風景が広がっていた。木で出来た感じじゃない。石を積んだ感じの壁とかが見える。この分だと家も石造りではなかろうか。さすがに転生前世界日本みたいなビルとかはないけども。あ、でも、木造のが湿気は逃がせるかもだから、もしかしたら家とかは木かも知れない。腐りやすいかもだけど!
ていうか、暑い! やっぱ暑い! 通路にいる時より更に暑い! しかも湿度高いいぃぃ!!
叫ぼうとした私は通路の近くに止まってた馬車を見た。屋根はあるけど御者が平然としている! 何故だ! と思ったら麦わら帽子ぽいもの被ってた! いや、だからって涼しくなるかどうかは知らんけど!
心の中が混乱しているうちに、私は馬車に押し込まれた。今回もアーサーと二人で乗ることになった。もう一台にメイプル、テオ、でもってアーサー付の執事が乗り込んだらしい。多分、三人なら氷魔法とか風魔法とか使え……
「暑いわ!!!」
私はたまらず氷をちょっと放出してから吸引して、畳んだり合成したり色々してから放出した。ついでに風魔法も混ぜたから、冷風が馬車の中を満たす。
「すずしーーーーい!」
「おお! リディアは複合魔法も使えるのだな!」
呑気に座ってたアーサーがぱちぱちと拍手する。は? 複合? あ、もしかして氷と風を強引に混ぜたからか。なるほど、こういうのを複合とか言うのか。
「チューターに習ったのか?」
「いえ。クソ暑いので根性でどうにかしました。あ、筋肉じゃありません念のため」
根性と筋肉は違う。似て非なるものである。アーサーが一瞬、嬉しそうな顔をしたけどしゅんとなった。うん、ごめんね。ぬか喜びさせる気はないから。
そういえば前に天使とかに攻撃した時は、手順を踏んで別の魔法を使ったなあ。光と闇……いや、こんな言い方すると厨二病くさいけども。いやまあ、私も厨二病から卒業できない自覚はあるけども。ともかく。あの時は二つの魔法は混ぜてはいない。上に被せただけだし。
結界とか飛行魔法は空気の吸引と放出で済ませてる。でもやっぱり使ってるのは空気の吸引と放出だから、二種類の魔法を混ぜたって感じじゃないな。氷と風だと明らかに別のが混ざってるって感じなのかも。
そして魔法的なクーラーがかかった馬車はゆっくりと進み始めた。