チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
砂漠なら暑くても空気はからっと乾いてるんだろーか。空調(?)の効いた馬車から降りた私は、暑さに晒されながらぼーっと外を見た。遠くで船が何隻も動いてて、しかも私のいるトコから近い川を使って移動もしている。
そして船の向こうには水平線。海である。ばりばりの海。しかも前に島から出た時に見た港町とここは違う。前はかなりしょっぱかったけど、こっちはたくさん人がいて賑やかで忙しそう。
でもって船や海の手前にあるのは、どでかい建物である。商業施設的な何か? アーサー曰く、倉庫みたいのも兼ねてるらしい。つまり商人と品物が入り乱れる感じのとこ、ということだ。ちなみに魚市も近くにあるようだ。だからなのか見える範囲には家らしいものがない。海際には住むことはないのかな、もしかして。潮風で建物痛みそうだしな。でも飯屋とかはあると思う。
「どーして馬車を降りたのかと」
「それは私がリディアと一緒に歩きたいからだな!」
「灼熱の中をか!」
アーサーと言い合いながら私は歩き出した。でろーん、と溶けそうな顔をしつつ、メイプルとテオもついてくる。さすがアーサー付の執事はけろっとしてる。
「あつい……しぬ……」
「そんなに暑いなら、自分の上から氷魔法と風魔法で涼しくすればよくね!?」
愚痴ったテオを振り返って私は地団駄を踏んだ。私だって暑いんだよ! でもおじょーさまが冷たい風に上から吹かれながら歩くのもアレだから、してねーだけだよ! ホントはそうしたいよ! 出来ないんだよ! イラッ! 日傘はさしてるけどな!
「そういえばそうですね!」
「あっ、風は俺が! メイプルさんは氷魔法お願いするっす!」
「私だって風の方が得意なんですけど!?」
「俺の氷魔法は調整できないっす! 氷漬けとかになるかもですがいいっすか!?」
「は!? いいわけないでしょう!? 判りました判りました!」
後ろで言い合ってんなー、と思いながら私は意識が朦朧とするたびに、こっそり放出した氷を口の中に入れた。ついでにアーサーにも渡してやる。するとアーサーは喜んでそれを口に入れる。あめ玉みたいに舐めてるだけだけど、ないよりマシ。塩とか砂糖とかを溶かした水はすぐに作れるし、熱中症で速攻バタンというのはないと思う。
「それにしても大きな街ですね」
あのメシマズ宿があった街とはまた違う。近づいて判った。通りは広く、荷車や馬車が忙しく行き交う。気を付けないとぶつかりそうな勢いの時もある。急いでるのは判るけど危ないな! 思わず結界魔法で箱を作ってやろうと思ったけど、アーサーに先に止められた。OH...。何で考えていることが判ったのか。
「ああ。ここは商業都市だからな。外から来る船も多いから、様々な取引が盛んだ。外海に繋がっているから、遠くからも荷物が届くのだ」
「はー……。あ、だからおとうさまはここに?」
「んむ。大事な取引先というか、取引を任せている商人が来ている。面倒だが会わねばならない」
はい、面倒って言い切りました! まあ、このクソ暑さの中で歩いてるんだから仕方な……あれ!? そいえば魔法、使うなとか言われてないな!? 後ろにいる三人も簡易クーラーと化した魔法で涼んでるし。
「魔法、いいんですか?」
何が、と言わずに私はこっそりアーサーに訊ねた。背伸びをして手を口に添えて、小声で訊ねられるのが嬉しかったらしい。アーサーがあめ玉を転がすように氷を舐めながら、うんうん、と頷く。
「魔法はここでは知られているから問題ないぞ。転移魔法のようなものはなかなか使える者はいないが」
「そっか。海の外から来る人もいるし」
「エルフも来るからな。魔法が得意な者も多い」
は!? エルフ!? ちょっと待って! 地図で見たら南の方は判んなくなってて、そこにはエルフの森があるって話だった、はず! たまに王都でエルフを見かけることもあるとかないとか。書庫のレベッカが教えてくれた。
「じゃあここ、王都よりずっと南ってこと!?」
「ん? リディアは知らなかったか。そうだな。説明していないな! ははは!」
「ははは、じゃねーです! 知らんわ! ここは暑いと思うだけだわ!」
待って。魔法OKだったら私もクーラー魔法を使っていいのでは!? あ、お嬢様らしくないから、上から風と氷魔法で風に吹かれるのは駄目と言われたんだった。あれ!? でも待って。結界を張って中を涼しくすれば問題ないのでは!? あ、結界張ったまま動ける……? いや、飛行魔法みたいな感じならいけるのでは。馬車とか小屋とか飛ばした時は、結界に包んでた訳だし。結界箱に入れてた、という方が近いか?
でも箱型だとぶつかった人が大変か? ギリ、私とアーサーが入るくらいのサイズならいけるような気がするんだけど。
「おとうさま。結界魔法を使ってもいいですか?」
また小声で訊ねると、アーサーが腕組みをして周りを見て、でもって私に目を戻す。
「うーむ。心配ではあるが……リディアの頼みならきくしかないな!」
「いやもう、どんだけ親馬鹿か」
こそっと呟きつつ、私は自分とアーサーを包み込むように結界を張った。でもって結界の中で、さっき馬車で使ってたクーラー魔法を放出する。あくまでも弱めに。あんまし強いと寒いからね。
「おおー!!!」
「やったー!」
私たちは二人で立ち止まり、顔を見合わせてがっちり手を握りあった。それを見ていた後ろの三人が不思議そうな顔になってる。ま、黙ってても大丈夫だろう。
「なるほど。これなら問題はないと思うぞ」
「デスヨネ!」
さっきとは違い、るんるんと歩きながら私はにっこりと笑った。わざと。アーサーは私に超絶弱いから、こういう表情をすると喜ぶのだ。……鏡を見て練習した甲斐はあったかな。