チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
大きな入り口を抜けると、ドーン! という感じの建物が見えた。広場では何人もの人が話したり、馬を繋いだり、井戸で水を汲んだり、荷を倉庫みたいなとこに入れたり、とにかく色々してる。ていうか、見える範囲だけど! どんだけ広いんだよ,ここ!
でもって建物の入り口は一カ所。ここもでかいアーチ状の門があった。ナンデダヨ。二重扉かよ。と思ったら、ここでは防犯のために厳しくチェックされるという。今までの街にはこういうのはなかった。それだけ重要な場所ということだろう。門の周りには堀りみたいのがあったし。転生前世界日本の城の周りにはよくあったなあ。水で囲まれた城。鯉とか色んな魚がいた気がする。たまにガーとかいてヤバいというか? 何で最後まで飼えないものを買うのか。今でも謎すぎる。
しまった。話が逸れた。
入り口のチェックは恐ろしいことに顔パスだった。アーサー……怖いな。何しろアロハのおっさんが入り口の警備をビビらせたのだ。警備の人の声が裏返ってて、顔は引きつってた。あー……。やっぱアーサーが何度も来てるからかな。そして恐らく上客というか、有名なんだな、きっと。
ていうか! アシュフォード家を知らないなんて世間知らずとか、恥ずかしいとか、そんなことを囁いてる人はダレデスカ!? メイプルとかテオなら判る。でも知らん周りの人間がそんなことを言ってるのはイミフである!
「何だ、ここはー!!」
「まあまあまあ、お嬢様、落ち着いてください」
二回目の広場を抜けて3階の広い個室に案内され、ようやく私は全力で叫んだ。アーサーも一緒だけど、もういい! 私は叫びを我慢しない! 私を宥めたのはメイプルだった。
「そもそもアシュフォードを知らん者は恥知らずとか、何だよ!」
「いや、それは仕方ないっす。俺も同意っす」
「ですよね。知らない人は少ないかと。あ、でも田舎というか、奥地の人はもしかしたら知らないかも知れません。生活に関係ないと思っているかも知れませんし」
テオの後にメイプルがつらつらと説明してくれる。アーサーは呑気に椅子に腰掛けてお茶をしばいているところだ。仲がいいな、とか言って微笑んでる。ちっがーう! でもいちいち突っ込んだら疲れるから今はアーサーは放置。アロハのままでのんびりしてるけど、放置ったら放置!
「広場が2個ってなに!?」
「あ、それはひとつめの広場は馬小屋とかあって、馬車をとめることも出来ます。御者も休むところがあります。建物は別ですけど」
「メイプル、来たことあるの?」
そういえば、と思ってメイプルに改めて訊いてみた。するとメイプルが当然、という顔で頷く。
「私たちメイドは一度は来ています。訓練として入りますね」
「俺は入ったことないっす。外の仕事してるから」
あ。テオは下男だからとか言ってたな。ホルモンの時に。ホレスもそうだって言ってた。厨房とかの屋敷内で働く人たちとは別なのかな。私にとっては全員が使用人って感覚なんだけど。
それはともかく、だ!
「2個目の広場でも取引ぽいことしてたじゃん! 広場が2つある意味が判らん!」
「それは商人の取引の規模の違いです。外側の広場で話している者は、小さな取引しかしてませんでした」
「そっすね。聞こえたのはそんな感じの話っすね」
……こいつら、もしかして歩きながら周りの話し声をばっちり聞いてたってことか? 護衛として優秀すぎるくね!? 何なの! 私には聞こえてなかったんだが!? 忍者か!? いや、転生前世界日本の忍者って、諜報とか……あ、合ってたわ! でも諜報とかの活動ってジャスミンの仕事ではなかろうか?
「ねえ。そんなの聞き分けられるって、ジャスミンみたいな仕事してる人だけだと思ってたんだが」
私は驚くことばかりで能面みたいな顔になってると思う。多分。でもそんな私を見てもメイプル&テオは平然としている。
「周囲の声はある程度は聴き取れないと、護衛任務にはつけません」
「っす。出来ないと護衛で外に出るとかは無理っすね」
声を揃えて言うなし! 私は頭を抱えて唸った。そうだった! 私の護衛って、この二人以外はついてなかったわ! そっか、そういう基準だったのか! でもメイプルはともかくテオは!? あ、転移魔法を使えるからか? でもポンコツなテオとバトルったら私は負ける自信がある!
「あ゛ー。とにかく。おとうさまはここで何をするのかと」
「ん? 昼食だな! リディア! 頼む!」
アーサーが元気に頼むというか命令してくる。判った判った! 確かにさっきから腹は減ってるしね! しかもこの部屋、何故かキッチンがついてるんだよな……。もしかしてアーサーがそういう部屋を頼んだのだろうか。そういう気配は見せなかったけども。もしかしたらこっそり執事が動いてたとかか?
まあいい! 私は半ば以上にヤケクソでキッチンに入った。作る飯はこれまで出したものでいいだろう。てか、メイプルとテオだけが先に食ってるものがかなりあるのだ。グラタンもそーだし、ビーフシチューもだし。でもそれを二人が先に食べた、とアーサーにバレたら、もの凄く悲しい顔をして、下手したら泣きながらorzするかも知れない。というか、その可能性が高い!
なので、出来れば新しいの、と思うんだけどどうしよう。そーいえばフランスパンもアシュフォードではレアなんだよなあ。スティーブンが作れないから。それを出すとして、あとは……そうだ! 鶏にしよう! 豚とか牛とかが多いから、たまには鶏肉が食べたいし!
そうだなあ。簡単なやつがいいよね。そんなことを考えつつ私はメイプルに踏み台を持って来てもらい、某白ポケットに入ってた鶏肉を放出した。
「新しい料理ですか!?」
「やったー!!」
無邪気に喜ぶメイプルを横目で見て、私はため息を吐いた。こいつら、働かせたろ。
「メイプルはこれを千切って。テオはこれをつぶして」
「ん? 香草とかですか?」
「え、これコショウっすよね? 粒のコショウって挽くものでは……」
「やかましい。これで潰せ」
メイプルには香草を千切ってもらい、テオには乳鉢と乳棒を放出してやる。つまり、黒コショウを挽くのではなく、すりこ木みたいので潰すのである!
「え、これ風魔法で切ったらダメっすか?」
「駄目に決まってんだろ!」
そんなことしたらテオが楽すぎる。というのを言わず、私は却下した。ぶーたれた顔をしつつも、テオがコショウを潰していく。よし、ちょっとすっきりした!
香草と香辛料が用意できたら、塩とかと一緒に肉に塗したりする。某白ポケットに入ってるフライパンを放出し、皮目から焼く。うん、久し振りにやったけど悪くないな。でもこの手の料理って、もっと凝ったやつは屋敷の夕食とかのメインに出てきたりするから、目新しくないかも知れない。
ホントは照り焼きでも、と思ったんだけど、スカーレットがどの程度の料理を許してくれるか判らん。ていうか、何でアーサーに内緒にしているのか理解できん。ただ、理由はあるんだと思う。もしかしたらアーサーが知ってしまうと、うっかり出先で言ってしまうとか……あり得るな!
焼いた鶏肉とフランスパン、ついでにサラダも作ってテーブルに並べたら、アーサーが号泣しながら食べ始めた。あー、こういう反応されると次も作ろうかな、みたいな気分になるのは転生前と同じだな。ホント。