チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
商館の1個目の広場は荷下ろし&軽い商談&馬小屋&でかい倉庫がある。2個目の広場はちょっと込み入った取引とか、検査を通った荷物を入れる倉庫、御者やその辺の商人が寝泊まり出来るところがある。2個目の広場を過ぎて建物に入るための入り口では更に厳しい検問があって、通れる人間や荷物は限られる。倉庫以外の荷物だ。手荷物の範囲内のもの、という感じだろうか。
建物の1階では商用取引許可証が発行される。それを持っていないと建物内では取引が出来ない。1階の広間にはお茶をするスペースなども用意されていて、従者付きのエライ人もちょっとした休憩が出来るようになっている。他にも珍しい商品が並ぶ土産物屋とかもあるらしい。建物に入れるならそこで買い物なども出来るらしい。
って、聞いても判らん! それが全部、3階から見えるって訳じゃないんだよ! 木があったりするし、視界に建物が入ったりしてるし! 私は苛々しながら窓の外を見ていた。解説してくれているのは後ろにいるメイプルだ。ちなみに私の視界の一部を遮ってる木や建物の向こうには広い海が見える。港も大きくてたくさんの船が見える。行き来してるのもいるなあ。転生前世界の電車とかとは違って、動きはゆっくりだけども。そいえば転生前もでかい船って乗ったことないな。乗り物酔いが激しかったから無理だったとは思うけども。
それはいいとして、だ!
「それは理解せねばならんことかね」
「いえ。説明しろと言われたので」
振り返った私にメイプルが微笑む。……こんなことならデザートをダシにするんじゃなかった。悲しい。
「判った! カボチャプリンね!」
仕方ない、とため息を吐いて私はテーブルに置いた皿に、型に入ったプリンを放出した。型はケーキみたいな丸くて大きめのを使った。転生前世界日本でよく見た、一人分な感じのサイズじゃない。みんなで切って食べるサイズ。大きくすると一度で出来るから楽というのもある。
今回のプリンにはカボチャを裏ごしにして入れてみた。某白ポケットの中で合成したから裏ごしとは言わない? まあとにかく、ペースト状になったんだからいいよ! みたいなノリで作ったら、案外ちゃんと出来てびっくりした。
そーいえば転生前世界のプリンって最初は肉とかじゃなかったっけか? 菓子って感じじゃなかった気がする。多分だけど! 詳しくは知らん。
「やったー! 新しい菓子っすね!」
「こっ、これはこのまま食べてもいいのでしょうか!?」
今はアーサーと執事は留守である。だからメイプルとテオのテンションも高い高い。はいはい、と言って私は皿をもう一枚放出し、型入りプリンに被せた。
「あーーーー!!」
「二人して叫ぶな!」
私は二人を睨んでから、プリンの下と上にある皿を手で挟み、天地をひっくり返した。メイプルの悲鳴が聞こえる。テオは声にならない声で叫んでいるぽい。やかましい!
下にした皿にすーっと茶色の液体が出てくる。上手く出来たらしい。私はテーブルに皿ごとプリンを乗せ、上になった皿を退けて型をそっと抜いた。思ったより綺麗に抜けたプリンは、皿の上でプルプル揺れる。うおー! とか言ったテオが取り分けるための皿をキッチンから取ってきて、メイプルがいつの間にかナイフを出してプリンを切る。
「おい。そのナイフどこから出した」
「え? ナイフを携帯するのはメイドの嗜みですので」
「護身用のナイフを使うな!」
さらりと言い訳したメイプルに突っ込む。テオがそわそわしつつテーブルに皿を並べていく。珍しく静か……と思ったら、テオの目は少し黄みがかったプリンに釘付けになっていた。ウマ飯スキーの姿勢がぶれないのは評価したい。ちなみに私もウマ飯スキーである。
メイプルが切り分けたプリンを皿に載せる。メイプルはちょっとためらいつつも、テーブルについてくれた。よし! メイプルを同じテーブルにつかせる調教はかなり進んでいると思う!
「いただきまーす」
私が挨拶している間に、二人はフォークとスプーンでそれぞれプリンを口に運んでいた。私がフツーに口にプリンを入れてるのに、二人が固まって動かない。ん? もしかして口に合わなかったとか?
「え、まずい?」
「美味しいです! 生きてて良かったです!」
「これ、菓子っすか!? ぷるぷるで口の中で溶けたんすけど!? 美味いっす!」
二人とも感動の余り動けなかったらしい。叫ぶように感想を言う二人に頷いて私は二口目のプリンを食べた。それにしてもみんな、生きてて良かったとかいうけど、これまでの人生で食べたものがそこまでアレなのだろうか。いや、単に比喩表現というか、嬉しいというのを言葉にしたらそーなるってことか。褒めてくれてるぽいので悪い気はしない。
二人ともあっという間にプリンを平らげ、皿とプリン型はメイプルが洗ってくれることになった。お茶を飲みつつ、私は何となくキッチンを見た。吸引して某白ポケットでアレコレすれば綺麗になるんだけど、出来ることはしたい、とメイプルに主張されたのだ。それともお礼なのだろうか。吸引して某白ポケットでどーとかするのには、大した手間はかからない。むしろこれまでそうやって食器とかを綺麗にしてきた。
「なんだかなあ。メイプルが皿洗いしてるって不思議」
「メイプルさん、こそっと旦那様に言われてたっすよ。お嬢様にあまり頼りすぎないようにって」
「おとうさまに? メイプルだけ?」
アーサーが注意するならテオもではないのか。そんな疑問をこめて私が訊いたら、テオはハハハ! と元気に笑った。
「俺、家事とか苦手っす!」
「私の魔法を家事扱いすんなや!」
私はテオに跳び蹴りを食らわせた。