チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

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そこに直れ!

 商館の3階個室でおやつを食べたり食事をしたりしてたら、やっとアーサーが戻ってきた。ん!? という感じでアーサーがドアから入ったところで周囲を嗅ぎ始める。あ。しまった。匂い消すの忘れてた! ホレス小屋じゃなかったし、これまで出先で気にしたことなかったから!

 

「これは……メイプル! テオ! 貴様ら私より先にリディアのごはんを食べたのか!?」

「ひっ! すっ、すっ、すみません、旦那様! ごめんなさいっす!」

「えっ、あっ、はい! そうです! 美味しかったです!」

 

 テオとメイプルが返事すると、アーサーの顔が鬼みたいになった。こっわ……。普段は強面だけど優しいから忘れてた。アーサーはドラゴン……間違い。ライオンハートっぽい何かだったわ。それにしてもメイプルの返事はどうよ? 詫びとか一切入ってないんだが!?

 

「そこに直れ!」

 

 一喝された二人が並んで正座させられる。うっかりしたのは私なのに、怒られるのがメイプルとテオというのが居たたまれない。なのにアーサー付の執事はフツーにその場を片付けたり茶を準備したり、せっせと働いている。私はどーする? と思ったんだけど……さすがにこれは……。

 

「おとうさま。彼らは悪くないのです。うっかりウマ飯スキーが出ただけで、作って出したのは私だから」

「だがリディアの料理を先に食すとは許しがたい!」

「だーかーらー! うだうだ説教するのを聞くだけの身にもなって! 誰かが怒られてるとこなんて、見ても聞いても楽しくないよ!」

 

 転生前世界日本のことを思い出して私はキレ散らかした。高校の時だったか。説教が好きな教師がいた。若い男教師で顔が良かった(私にそうは思わなかったが)ぽく、アイドル的な存在だった……らしい。私は知らなかったけども。授業中にも絶対に怒らず、指摘はするけど仕方ないなー、みたいな感じの教師だったようだ。

 

 ところがある日、普段は怒らないその教師がブチギレて、怒鳴ってからの説教が始まってしまったのだ。

 

 まあ、原因は私なんだけど。宿題は放棄、予習復習しない、当てられるって判ってても必殺「判りません」を連発する。最初は生温い笑いで流していた教師もキレたって話である。私はともかく、それを聞いてた周囲が授業が終わって私を責めた。当時は何でだよ、と逆ギレしそうになった。

 

 怒られた本人以外が何か言うってどうよ、と思ってたけど、やっとその気持ちが判ったわー。 今はもう過ぎた話だし、転生した後だけど、あの時キレそうになった私が悪かった! ホントにごめんなさい!! 経験しないと判らないことはあるね! これは居たたまれない! それに尽きる!

 

「しかし、リディア!」

 

 怒ってたからなのか、私を呼ぶ声も鋭い。残念ながら私は転生前世界日本での生活で旦那に怒鳴られまくってたので、そこは慣れている。私はじっとりとした目でアーサーを見ながら、手のひらをビシッとアーサーに向けた。

 

「おとうさま、ステイ! もっかい作るから! それとメイプルとテオ、救われたみたいな顔するのやめろ! おとうさまが納得するまで正座だからな!」

 

 アーサーはアシュフォードの当主。だからメンツを潰すことは出来ない。なので私は妥協案を出した。断じてメイプル&テオをアーサーから救おうと思ったわけじゃない。単に正座説教を見ててアレだっただけだ。

 

 アーサーが説教を止めたのは私の料理とおやつが完成した時だった。あ゛ー! 私も疑われてたのかな!? ホントに作るかどうか! 確かにアーサーの分を取っておかなかったのは悪かったけど、作るって言ったんだから作るよ! 某白ポケットを全力で活用したけどさ!

 

「おおおー! これがリディアの食事とおやつ!」

 

 食事の並んだテーブルについたアーサーがいつもの雄叫びを上げて、嬉しそうな顔でご飯をもそもそと食べる。はー、とため息を吐いた私はちらっとメイプルとテオを見た。カーペットの上で正座といっても、けっこうな時間が経ってたから足が痺れたらしい。メイプルはorzでギリ耐えてたけど、テオは床にひっくり返った。

 

「いたたたた……いつもよりキツい気がしたっす……」

「そ、それは、旦那様が、私たちの膝に重力を載せてたからですよ……」

「は!? いつの時代か!」

 

 まさかそんなことになってるとは思わず、私は慌ててアーサーを見た。にこにこ顔で食事をしてるアーサーはそんなことは知らん、という感じだ。重力を載せるって、つまり転生前世界日本の昔の正座の上に石を載せたりするアレですか!? 何て拷問をするのか! 容赦ないな、アーサーって! スカーレットがいつか言ってたな、そいえば! 説教はアーサーのが怖いって! なるほど、よく判った!

 

 私はビビり倒してチラチラとアーサーを伺った。執事が流れるような動きでアーサーの皿に肉とか野菜を取り分ける。残った分は多分、執事が食べるのだろう。そういうのがあるって、転生前のラノベとかアニメで見た気がする。

 

 のたうってたメイプルとテオが復活したのは、丁度、アーサーがプリンを食べ終えた時だった。アーサー付の執事は残った食事を載せたワゴンを押して部屋を出て行った。表情が一切変わらないのが凄い。というか、あれが付き人のフツーなのか!? 私なら逆に恐縮しそうだよ。

 

「うむ。リディアの料理に免じて、叱るのはこのくらいにしておこう。次はない」

「はっ、はいいい!」

 

 二人が同時に土下座した。アーサーが茶を飲みながら、うむ、とか頷く。ちょい待て。私に免じてじゃなく、料理に免じてなのか!? 解せぬ!




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