チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
アーサーの機嫌もなおってほっとしている、元アラフィフ転生者の斉藤奈美恵です。ごきげんよう。アーサーは商人から取引を聞いたりする仕事が何件かあるらしいので、私たちはまだ商館にいます。出来れば海を見に行きたいです。結界で防御してもいけませんか、と訊いたらアーサーに駄目だと即答されて悲しいです。
ていうかさ! 海が近くにあるのに行けないってどういう拷問かと! しかも出来るだけ部屋から出るなって! 確かにこの部屋は広くてあれこれ揃ってるから、長居は可能だけども! 出来れば港で色々みたい!
そう要求したら、アーサーは渋い顔をしつつも商館の中からOKと言った。よっしゃー!
「メイプル! テオ! 出かけるよ!」
「えー。俺、ここがいいっす。飯も美味いし」
「やかましい! 何で私よりくつろいでいるのかと小一時間!」
ソファにだらっと橫になってるのはテオだ。私の前でいい度胸だ。とは思うけど、今までもこんな感じだったからなあ。メイプルはそこまで酷くないけど。ちなみにメイプルはアーサーと執事が使った皿やカトラリーを洗っているところだ。使ったのが食器だけで良かった。鍋とかプリン型とか出してたらそれも洗わないといけなかったし。某白ポケットを使えば油汚れもすっきりなんだけどね。ここでは洗剤じゃなくて石けんみたいのを使わないといけない。これが油汚れがなかなか落ちないんだよね。
メイプルたちも魔法を使えばすぐにすっきり解決も出来る。……らしい。どういう原理かは判んないけど、氷魔法とか? だったかな? だからメイプルも使えるはず。でもわざわざ石けんみたいのをぶくぶく泡立てて洗ってるのは、そういう縛りでもあるのか? と思う。そいえばアシュフォードの厨房でもぶくぶく泡立てて洗ってるとこは見たことないな。
だらけてたテオと食器洗いを終えたメイプルを急かして、私は商館の1階に向かった。1階には土産物屋が並んでるという話を聞いたからだ。入ってきた時に見えなかったのは、この商館が馬鹿でかいからだ。天井付近まで(吹き抜け)飛べば見えるかもだけど、それやると目立って仕方ない。さすがに私にも理性ってもんはちょっとくらいはある。
「ほら! とっとと行くよ!」
「お嬢様! 走らないでください!」
「そうっす! 危ないっすよ!? 俺たちが!」
おい! とテオに突っ込みたかったけど、私は土産物屋があるらしい方に一直線に向かった。場所は通りすがりの商人風の男に聞いたから、間違いないだろう。どうせ私が全速力で走っても、メイプルとテオなら追いつけないはずはない。
と、思っていた時期が私にもありました。
「おい! 危ねえだろ!」
ちょっと肩が当たっただけでいかつい男(アラフォーぽい)に睨まれる。判りやすいインネンをつけられたらしい。それどころじゃないと思ったら、私は自動的に男に拳を叩き込み、屈んで回し蹴りを入れ、倒れた男に踵落としを食らわせていた。あ、そうだった。私、マーシャルアーツなるものを会得してるんだったわ。
床に伸びた男は目をまわしてるらしい。ふー、とため息を吐いて周囲を見ると、いつの間にか人垣が出来ていた。拍手してる人までいる! しまった! 目立った! と思ったら、橫から何かが私の腕をつかんで勢いよく引っ張ったかと思うと、唐突に浮遊感に襲われる。
「お嬢様! だから走るなって!」
小声で言ったのはメイプルだった。あ、抱えて飛んだらしい。しかもジャンプ一発で人垣を越えてる。相変わらずジャンプ力、すごいな! テオもいつの間にか傍にいた。下ろされた私は二人に空笑いしてみせた。
「ごめんごめん。追いついてると思ったから」
「にしても! 一瞬で相手を倒したら目立ちます!」
「っすよ! 俺たちの仕事をとらないでくださいっす!」
二人がかりで言われて私は慌てて手を振った。自己防衛以前の問題だ。反射を止めろと言われても困る。こっそり人垣から離れつつ、私は説明した。
「条件反射以前の問題なんだってば。無意識に出たんだって。私にも止めようがないよ」
「相手がミジンコ以下の力しかなかったからいいものの! もし強かったらどうするおつもりだったのですか!?」
……みじんこ。この世界にも存在するのか。そしてそういう言い回しがあるんか。それともメイプルが特殊なのか。あ、全部か。とか納得してる間にテオが床にしゃがみ込む。
「はー。何事もなくて良かったっす。お嬢様になにかあったら、正座じゃ済まなかったと思うと」
テオが遠い目をして涙ぐむ。おまいはやはり自分優先だな。ある意味、潔いと褒めてもいい。私は感心しながらテオに合わせてしゃがんだ。
「それより土産物屋はどこかね?」
「お嬢様ってぶれないっすね」
「おまいに言われたくない件」
そんなやり取りをしてから、私は次はこっそりと土産物屋に向かった。メイプルに手を握られているので走ろうとしても無理。ちっ。仕方ない。それにメイプルが言ったのはセイロン……もとい、正論だからな。従うしかないよね。
そーいえば転生前世界日本プレイしてたゲームでは、セイロン島は宝石島だったなあ。だから取り合いしてた。勢力が強いと安く買えたり多く買えたりしたんだっけ? 私は採集が趣味だったから、原石を大量に採ってたけど。あそこ、生糸も採れるから便利だったんだよね。ちなみに紅茶も売ってた。転生前世界でもセイロンの紅茶は売ってたなあ。私も好きだっ……って、違う! 今はそんな話じゃない! うっかり意識が逸れた!
でも土産物屋に着いたら目の前に青赤黄白の宝石が並んでた。しかも茶葉もある! おいいい!! 人がうっかり思い出したゲームの島と被ってる被ってる! そして店頭にはどこぞの島ぽい地図が描かれていた。形がセイロン島! と言いたくなるほど似てる! ナンデダヨ!
「いらっしゃーい。ここの宝石は稀少よー」
「そりゃそーだろ! サファイアにルビー! 他は知らんが、恐ろしいわ!」
「あれ? でも稀少品は2階で取引っすよね? 何で1階?」
橫から覗いたテオが言うのを聞いたのか、店主の若い女性がびっくりした顔になる。あー、これは容姿でだませると思ってたクチか? にしても、海のど真ん中に浮かんでる島って。もしかしてここから近いのか?
「だ、だって、その」
「ちょっと話を聞きましょうか。あ、荷物はまとめてください。テオ、手伝ってあげてください。それかお嬢様の手をつかんでてください」
「あっ! 俺、お嬢様の手がいいっす! 荷物とかめんどくさい!」
と言ったかと思うと、テオがメイプルの代わりに私の手を握った。意外とテオの手ってでかいというか分厚いんだよね。働く男の手って感じで。さすが外で農作業してるだけあるなあ。