チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

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ざんざか切れる

 こういうときどんなかおすればいいのかわからないの。と言いたくなってる、転生したアラフィフ主婦の斉藤奈美恵です。ただいま、もりもりの草の中でぼーぜんとしてます。

 

 てか、一面の長い草の中で佇むとか、どこぞの絵画か! でもこれは私にとっての現実である。転生したらそれは現実なのかどうかとかいう哲学的発言は受け付けない。断固として。私にも哲学判んないから。

 

 ……仕方ない。疑問は自分で解決するしかない、と私は居直ることにした。

 

「放牧ということでしょうか」

「はい。牛や馬、鶏、羊、豚などがいます」

 

 メイプルが指折り数える。ほほう、それだけの家畜がいるのに、何故、食卓には焼いた牛肉しか出ないのかな?

 

「お食事には牛のお肉しか出ていない気がしますが」

「それは……あ、あれです」

 

 メイプルがぼーぼー草を指差す。するとざーっという音とともに強い風が吹きつけてきた。その直後、何かの叫びみたいのが聞こえて、私は思わずびくっとなってしまった。動物の急な叫び声とか怖いわ! なのにメイプルはけろっとしている。

 

「時々、暴れる牛がいるので殺しています。それを食肉としてます」

「ぺろっと爽やかに言うな!」

 

 さすがに私はにっこりと笑ったメイプルに突っ込みを入れた。不思議そうな顔で私を見たメイプルが首を傾げる。

 

「お嬢様も見てみたいという意味でよろしいでしょうか?」

 

 よろしくないよ! でも止める間もなくメイプルがすたすたと歩いて行く。待ってー! 心の準備が出来てない! ていうか、出来ない!

 

 などという私の心の叫びを完全にスルーしたメイプルが歩いて辿り着いたところに……倒れていた……

 

 真っ二つになったバッファローが!!!!

 縦切りじゃなくてせめて横切りにしてくれ! グロいわ!

 

 じゃなくて! 何でバッファロー!? えっ、私の記憶違いじゃなかったらこれってバッファローだよね!? え、これは牛判定!? 確かに種としては牛かもだけど、これは野生では!? 角でかいな、おい!

 

「こんにちは。ホレスさん」

 

 にっこりと笑ったメイプルが話しかけたのは、麦わら帽子を被った男性だった。……良かった、普通の名前で。ホレスって名前はどこかでチラ見したことがあるけど、私はあんまし知らない作品か何かだと思う。……でも覚えられるかな、この名前。

 

 ホレスは老人……って言ったらまずいかもしんない。ここは私よりちょっと上くらい? と言っておこう。多分だけど六○代だと思う。……あれ? これ伏せ字にしても意味なくない!?

 

「はい、こんにちは。メイプルに……おお! リディア様! このようなところまで」

「あ、ええ、ごきげんよう」

 

 どうやらホレスは私のことを知っているらしい。使用人が知らないのは逆に変か。それにしてもホルスは手ぶらだしバッファローに出くわして大丈夫な……

 

 待て。もしかして、ホレスが魔法でバッファローを切ったのでは!? という想像をした私の目の前で、ホレスが二つになったバッファローに指を向ける。

 

「すこしお待ちくださいのぉ」

 

 呑気に言ったホレスが指をひらっと動かした瞬間、倒れてたバッファローに見えない風の刃が襲いかかった。皮が剥がれて内臓が抉れてひとまとまりになり、ざんざかと肉が切られる。そういった処理がほんの数秒で終わった。

 

 これが私の口に入る、と。

 

 私は感情の失せた目でホレスと解体されたバッファローを見た。肉と内臓は用意されてた二つのタライに別々に入っている。ホレスがほいほいと指を動かすと、今度は剥がれていた牛皮が皮革になった。

 

 待てや! 生皮は闇栗でなめすんじゃないんかい!! なんでその工程が飛ばせるのか説明して! と思ったけど、あっという間にホレスが風で浮かせた皮革をちょいちょいと切る。これを服や鞄とかにするらしい。畳まれた皮革が積まれていく。

 

 落ち着いた私はやっと気付いた。この辺りは少しひらけている。ホレスの作業場だろうか。近くには小屋のようなものがあった。多分だけど、切ったバッファローを風でここまで運んだのだろう。草が動いて見えたのは、草がもりもりに生えていたところだったし。

 

「ほい。リディア様どうぞ」

「どうぞ言われても」

 

 ホレスが差し出した肉入りのタライを冷たい目で見ながら、私は思わず言い返した。するとメイプルが、あっ、と声を上げる。

 

「そうでした! お嬢様の魔法でお肉を運ぶのは難しいですよね!」

「どーして私が肉を運搬しなければならんのかと小一時間! せめて洗えや! 血まみれだろうが!」

「ほっほっほー。リディア様は元気でいいですのぉ」

 

 ニコニコしてる二人に挟まれた私はげんなりするしかなかった。




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