チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

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牛肉の価値は

 生肉攻防を頑張った私は心身共に疲れてしまった。というのも、ホレスがしつこく私にタライ肉を押しつけようとしてきて、私が必死でそれを拒否しようとしたせいだ。私も最初は遠慮という遠回しな拒絶をしてたんだけど、いやいや、いやいやいや、いやいやいいやいや、とかやってるうちに段々腹立ってきて、最後は「いやだあああ!」と叫んで拒否に成功した。何でこういうトコだけ転生前世界の日本っぽいんだよ!

 

 ていうか、幼児が生肉を喜ぶかどうかを、ちょっとは考えろし!

 

 でもホレスとの攻防ではっきり判ったのは、ここでは牛の肉(バッファローだと思うが)が高級食材とされているってことだ。

 

 確かに転生前世界の日本でも国産牛肉は高かったよ。特に和牛は高かったからなかなか手が伸びなかった。グラム○○○○円とか見ると、うーんうーん、と考えるほどだった。部位によってはグラム三桁だったりするけども、モモとかカルビ、ロースとか霜降りとか、ヒレとかまで行くと簡単には買えない。というか、たくさんは買いたくなかった。牛がなければ豚とか鶏を食べればいいじゃまい。という精神である。

 

 いや、たまには買ってたよ? でも贅沢すればキリがないじゃん。ふくふくと金のあるご家庭の主婦様は考えなくていいかも知んない。けど私がいた家程度だとそこを考えて切り詰めないといけなかった。常日頃から湯水のように牛肉を使うと、ちゃりんちゃりんと小銭というか、札か、もはや。とにかく日々、支出が積もっていく。

 

 それでも食べ盛りの息子と娘は年に数回は牛をたらふく食べたいと不平不服を申し上げてくる。……あ、違う。申し立ててくる。そういう時は食べ放題の牛○一択。ああいうところで食べると肉食った満足感が半端ないらしい。多分だけど制限時間内に必死で食うからだと思うヨ。

 

 食べ盛りの子供は牛肉を水を飲むが如く食っていた。ホントに食べる。特に息子。何だろ、あの胃袋のサイズ。私も若い頃はそうだったっけ、と思ったけど、もう記憶の彼方である。でもって牛○の時は私はひたすらトングで肉ひっくり返す役。ザ・トング二刀流。

 

 私だってたまには牛肉を食べたかったよ! でも子供に必死で食わせてると、ぶっちゃけ自分が食べてる暇ねえって!! 箸を取る暇が本当にない!

 

 ハー……思い出したら胃がキリキリしてきた。いや、転生前世界日本の牛事情はともかく。

 

 この世界の、少なくともアシュフォード家では牛肉は高級食材だということだ。だからやたらと牛肉が出てきたらしい。私は率直というかストレートに質問を飛ばした。

 

「待てい。じゃあ、羊とかヤギとか豚はどうしてるのかと」

「わしら使用人用ですなぁ。とてもじゃないが、貴い方々の口には入れられんですじゃ」

「ですじゃ、キリッ、じゃねーわ! それじゃ、牛乳とかバターは!?」

「あー……ケーキですかの? ケーキはおめでたい席のものじゃから、厨房で仕方なく使うこともあるんじゃが、普段はないのお」

「めでたい席で仕方なく使うとか誰得なんだ! 普段から使えと小一時間!」

 

 のんびりしたホレスと必死で攻防をした私を誰か褒めて。ていうか、ホレスもメイプルも油断すると話がばりばり逸れるから困るんだよ! 多分、私の言ったことが変に翻訳されたり省略されてるからだと思う。雲のイケメン、覚えてろよ。

 

 とにかく判った。このままでは私の食生活はこのままであると。

 いでよ豚肉! 鶏肉! 卵! 牛乳! バター!!!!

 

 と、叫んでもご都合よーく出てくるはずがなく。そこで私は小屋に案内して欲しいと駄々をこねた。ホレスとメイプルは、何で幼児が小屋に入りたいんか、みたいな不思議そうな顔をしていたけど、私は断固として小屋を所望した。仕方ないのだ。ここは情報収集に徹するべ……

 

 なんだ、この整った小屋はー!!

 

 案内されてメイプルと手を繋いで小屋に入った私は心の中で叫んだ。外観と内装のギャップがおかしい! ていうか、あの外観でこのサイズの部屋はあり得ない! 小屋の外観だとせいぜい六畳くらいのサイズだったのに、入ったら二十畳以上はありそうな部屋だったのだ。しかも床も壁もピカピカである! 何でだよ! 外観はぼろぼろじゃん! 木とワラで組まれたものだったじゃん! 何でぴかぴかフローリングの床なのかと!

 

 部屋は転生前世界の日本一般家庭基準でいうところの、リビングっぽくなってるし……。テーブルとか椅子とかがあって、細い花瓶に花までいけてある。これでコンロとかあればお茶もいれら……って、あるんかい、かまど! 入ったら日本標準家屋とか、なんというファンタジーか!

 

 しかもどういうわけか壁際にはでかい金属の箱ぽいのが、ででーん! と並んでいる。ちょっ……。

 

「あー、すみませんのお。お茶の前にちょっと片付けんと」

 

 そんなことを言ったホレスが持ってたタライ肉……もとい、肉の入ったタライと臓物の入ったタライを金属の箱みたいのに入れた。待て! それ、中から冷気が漂ってるくね!? と、思った瞬間、私はメイプルの手を振りきって走っていた。二歳児だからヨタヨタだけども! 走ったんだよ! スピードは出ないけども!

 

「ちょっ、まっ、ホレス! そこ、閉めないで!」

「リディア様? どうしたんかのぉ」

 

 呑気に言うホレスを押しのけて、私は金属扉の縁に手をかけて箱に頭を突っ込んでみた。

 

 あ~ひんやり~。そういえば冷凍冷蔵庫の三段のが出てきたのっていつだっけか。左右どちらからでも開けるどっちもどっちみたいな名前のもあったな。そうそう。日本では冷蔵庫・掃除機・洗濯機を三種の神器と言ってだな……。

 

 いや、それはいいとして! これ、冷蔵庫じゃん!

 

「これっ、冷蔵庫ですわよね!?」

 

 あ。ついつい頑張った成果の言葉が出てしまった。ま、気にしない気にしない。どうせメイプルとホレスは自動翻訳で聞いてるんだから。それより問題は冷蔵庫だよ! 中に四角い部屋が何個かあって、生肉とか野菜が入ってる。ホレスはそこにタライ肉を突っ込んでいたのだ。

 

「れいぞうこ? いやぁ、これは冷蔵箱ですな」

「庫でも箱でもどっちでもいーわ! とにかく、これに入れれば冷えたままになるということ!?」

「まぁ、そうですなぁ。魔法を使えるモンがおらんといかんのじゃが」

 

 ほう……。どういう原理かは知らんけども、これは確かに冷蔵庫ということなのだろう。橫に並んでいる同じような箱も同じサイズで同じ色だし、これと同じような冷蔵庫なのかも知れない。

 

「お嬢様、大丈夫なのですか? そんなところに入って……」

「あー、心配ない心配ない。入ったわけじゃないから」

 

 私は背中越しに飛んで来たメイプルの声に応えるために手をひらひらと振って、さらに冷蔵庫の中を確かめてみた。触ると内側の壁は冷たい。扉の外も金属製だからそれなりに冷たいけど、中はもっと冷たい。というか、まんま冷蔵庫。

 

 あー、シャー○ック食べたい。

 

 冷気に当たっていた私は唐突にそんなことを思った。転生してから二年以上、アイスとか食べてなかったから思い出したぽい。それに冷蔵庫があるってことは冷凍庫もあるんじゃね!?




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