チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

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つららとバトルスキル

 転生前の世界はどーだったっけ、と、そろそろ混乱してきた転生者、アラフィフ主婦の斉藤奈美恵です。産まれてから二年経ってても私は永遠のアラフィフなのです。

 

 私は目の前にある冷蔵庫ぽいものに呆然としつつ、ホレスに訊ねた。

 

「ホレス。冷凍はできないのですか」

「あー……凍らすあれかのぅ」

 

 そう言ったかと思うと、ホレスは私が頭を突っ込んでいた冷蔵庫の隣の扉を開けた。

 

「これかの?」

「これだよ!」

 

 私は思わずホレスが開いた扉をばんばん叩いた。そこから出てきた冷気は、私が最初に感じたものよりはるかに強かった。これはどう考えても冷凍庫! なのに中身がない。あれ?

 

「こちらには何も入れませんの?」

 

 ……なんで時々、まともな言葉が出るのか私自身を問い詰めたい。が、ここは無視。

 

「こっちはあんまり使いませんのじゃ。なにしろ、冷やすより凍らせる方が早いでの」

「そうですよね。凍らせるのは簡単ですし」

 

 は? 飛んで来たメイプルの声に私は思わず振り返った。

 

「凍らせる? 簡単?」

「はい。氷属性の魔法が使えれば簡単です」

 

 むしろ冷やすだけ、というのが難しい気が、とメイプルが続ける。つまり、程よく冷蔵より冷凍の方が断然楽、ということだろう。

 

 ……冷やすより凍らせる方が難しいって……。もしかして私の認識がおかしい? 転生前世界では氷点下が当たり前のところなら、外にぶん投げとくだけで凍ってたかも知れない。でも私が住んでいたところは冬でもそこまで寒くなかった。冬はコタツぬくくて最高だよね! いや、違う。とにかく室外でも室内でも凍らせるより冷やす方が楽だった。

 

 あれ? 魔法アリなら冷やすより凍らせるのが簡単なのかも。

 

 スカーレットが寝込んでいた時、屋敷は凍り付いていたと聞いた。でも回復したら屋敷を覆っていた氷は一気に融けたと聞いた。それにスカーレットは魔法の訓練の時にも周囲をあっさりと凍らせていた。

 

 スカーレットの魔法はちょっち規格外な気がするけど、他の人もそれなりにパワー魔法は使える。アーサーだって全力ならドラグ・ス○イブぽい魔法を使えるらしいし、吸引からの放出でモンスターは倒せるし、使用人のメイプルだって廊下に出るヤバいモンスターを平気で倒すし。ホレスだって簡単に牛(バッファローだと思う)を切り刻んでたし。

 

 待て。変なものに毒されてる気がするぞ、私。でもこの世界の常識が常識であって、転生前世界日本の常識を持ち込むのはどうなのか……。いやいやいや! 五十年以上あっちで生きてきたんだから、今さら常識をひっくり返すとか無理ゲーすぎる!

 

 でもなぁ。と思いつつ、私は何気なく冷気を吸引して、さらに何となくそれを放出してみた。

 

「お嬢様!」

 

 メイプルの悲鳴のような声が聞こえたと同時に腹に腕を回されて後ろに引かれた。ぐえ。力強く引っ張られて内臓が出そうなんだが! でもそれが正解だったとすぐに判った。私が放出したものはでかい氷になって箱をいっぱいにしただけでなく、でかく尖ったつららのような氷が何本も箱からはみ出していたのだ。

 

「ほっほっほ。リディア様はおてんばじゃなあ」

 

 頭上から呑気な笑い声が聞こえる。どうやら私を引っ張ったのはホレスだったらしい。メイプルは、と周囲を見たら、臨戦態勢でつららに向き合っていた。おおう……メイプルがタンクだったとは。って、ちがーう!!

 

「ご、ごめんなさい、メイプル。こんなことになるとは」

「いいえ、お嬢様。私はお嬢様の警護も兼ねてますので、お気になさらず」

「えっ、メイプルはバトルスキルがあるのですか!?」

 

 あっ。言葉遣いは問題ないかもだけど、バトルスキルとかうっかり訊いてしまった。でも自動変換システムというか、自動翻訳というか、そういうので理解したらしいメイプルはにっこりと笑って拳で氷を叩き割った。

 

「はい! いつでもどこでもお嬢様をお守り出来るよう、毎日訓練してます!」

「いやいやいや、そこじゃねーし! 何でメイドがバトるのかと!」

 

 ……そーいえばラノベにめちゃくそ強いメイドの話があった気がするけども。って、違う! 私が葛藤しているのにメイプルがしれっと言う。

 

「え? アシュフォード家の侍女はもちろん戦えます。使用人ももれなく」

「……は? それって使用人は全員ってこと?」

「はい。全員です。そもそも戦えないものは雇ってもらえません」

 

 ホレスに下ろしてもらった私は、どういうことよ、とメイプルに訊ねた。どうやらアシュフォード家で雇われる最低条件が、戦闘能力が高いことらしい。バトルが最低条件って……ここってどういう家なんだ、ほんとに。




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