チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

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乳幼児の世界

 私、斉藤奈美恵、アラフィフ主婦。転生して、異世界の赤子から人生リスタートになりました。

 

 どこぞの漫画に出てきたようなことを考えながら私は目を開けた。視野がすっごく狭い目で周りを何とか見ようとする。……でもまあ、赤子ってこうよね。うん。あんまり見えない。赤ちゃんは特に目が良くないと聞く。自分で体験した記憶はなかったけども。

 

 でもそれって私のいた世界の話でしょ!? 何でそこんとこを現代地球日本に忠実にする!?

 

「お目覚めになられました!」

 

 若い女の子らしい声が耳許でする。やかましいわ!! 何で無遠慮に叫ぶのか! 私は不満を覚えて逆ギレした。すると何故か泣き声が口から出た。というか、喋れないから、何か言おうとすると自然と泣くしかないらしい。

 

 そっか。言葉は判る、と。そのことに私はほっとした。言葉を覚えるところから始める、ハードモードな世界観もあるっぽいけど、そういうのは断固拒否だ。文字を覚えるのも遠慮したいけど、止むなしかも知れない。まあ、音声言語一致なら何とかなるでしょ。

 

 考えを巡らせながら私はしばらく周囲を観察した。誰かが飛んで来たかと思うと抱き上げられたりする。おうう……懐かしい。乳幼児の頃の子供をそんな感じで扱ったわー。泣くとあやす、みたいなことは普通なので、私は愚痴りたくなったり、キレたくなった時には遠慮なく泣くことにした。

 

 どうやら私がいるところには、メイドみたいな人がいるらしい。ということは、ここは少なくとも中流階級以上の家だと思う。ベビーベッドのような物に入れられている、というのも、金はそこそこありそうな感じがする。それにおむつが上等な布なのか、股間を覆われているのに痛くない。……あっ、下ネタが出てしまった。

 

 とにかく、割と良い感じの場所に転生出来たのではなかろうか。はー、どうなることかと思った。そんな風に安心していたら、急に男の声が聞こえてきた。

 

「おお! やっと目覚めたか! リディア!」

 

 OH...。まさかの某ゲーム4のキャラネームな私。でも個人的にはファリスが良かったなぁ。と、私は呑気に考えていた。すると、唐突にがっしと抱き上げられた。ちょっ!

 

 どうやらさっきの声の主が私を抱き上げたらしい。それにしてもこのおっさん、扱いが雑! 首がすわってない赤ん坊を高い高いするな! 首ががっくんがっくんするでしょ! もしかしてこれが父親? 危なっかしい。子供に触るな、と昔の私なら叫びそう。

 

 と思ったので、泣いてみた。すると慌てたように男が私を別の誰かに渡す。

 

「いけませんわ、あなた。小さい赤ん坊をそんな風にしては」

 

 今度はお上品ぽい声が聞こえ、ごいつ手から柔らかい腕に抱き支えられる。これは良い感じ。胸が大きいのでいいクッションになる。そっかー。乳幼児にはこの胸のクッションはなかなか快適だったのか。私は貧……やかましい。

 

 とりあえずここまでの状況を整理しよう。

 

 嫋やかな手のこの女性が私の母親。名前はスカーレット。……最後に殴らないでしょうね。大丈夫? この名前。まあ、いっか。

 

 男性、私の父の名前はアーサー。ちょっ、聖剣とか持ってないでしょうね。覚えやすくていいけども。フルネームはアーサー・アシュフォードというらしい。私はリディアだから、リディア・アシュフォードみたいね。OKPK。ミドルネームとかあると、ホントに覚えられないから勘弁して欲しい。登場人物が本の表紙の折り返し部分(そで)にまとめて書いてあるならともかく、脳内にはそんなものはない。だから名前は出来るだけ短い方が私には楽なのだ。……将来的にはどこかにメモってもいいけど。

 

 メイドは確認出来る範囲で三人いた。部屋の中だから、一人は私の乳母兼傍付、もう一人は父親付、もう一人は母親付、だろう。判りやすい感じの異世界だと思う。軽々しく中世ヨーロッパ、というとジャガイモ警察が出張ってきそうだから、具体的な世界観はのちのち確認かな。今は目もあんまり見えないし、耳もちょっと聞こえづらいし。

 

 転生した後なんだからジャガイモ警察は気にしなくていいかもだけど、やっぱり気になる。私はそういうのをよく読んでいたから、アンチも見かけてたし……。

 

 何でそんなことに詳しいかって?

 

 小説投稿サイトの小説は基本無料というのもあって、私は人から勧められたものをよく読んでいた。え? どうして読む物を自分で選ばないのか? はっはー! 今日日、どんだけ異世界転生物があると思って? 私にチョイスの才能はない。好みを知ってる人に訊く方が早いでしょ。つまり、労力の無駄を省く、有り体に言えば横着よ!

 

 そもそも小説投稿サイトに小説が溢れ始めたのはごく最近で、私が死ぬ前、つまり地球時間で20年前には流行していなかった文化だった(一応、存在はしてた。ケータイ小説とかあったし)。あ、私の世代では、ね。あれがあれば、子育ての傍らというか、隙間時間に小説を読めたのにと今では思う。

 

 アラフィフな私の世代の20年前には、小さな子供を育てている間に何かをするのは難しかった。子供はちょっと目を離すとすぐに危険に突っ込む。子供本人に自覚はないけど、勝手に上がった階段から転げ落ちそうになったり(持ち家にするからよ!!)、公園で転んで派手にすりむいたりはしょっちゅうだった。そんな子供から目を離すとか、とてもじゃないけど無理。お友達がいれば多少は大丈夫だけど、基本的には見ていないといけない。

 

 さらに乳幼児となると、ほぼ目が離せない。寝ている隙に食事の準備を高速でする、程度が出来ないとお話にならないのだ。

 

 当時を懐かしんでいた私は、急に頬にぺったりと何かが触れてびっくりした。いつの間にか乳が口に入っている。どうやらスカーレットが私を抱いて母乳をくれ始めたらしい。ほうほう。

 

 あー。この甘み。試しに自分の母乳をなめたことがあるけど、驚くほど味がなかった。でも乳幼児には十分だったみたい。なるほど。そうだったのかー。ここから離乳食に移行するまで数ヶ月かかるけど、こっちの世界はどうなんだろう。成長速度が私には判らない。でも乳幼児の状態だけは同じだと思う。

 

 ……ちなみに私は未だに自分の姿すら確認出来てないけどね!




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