チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
そろそろ転生後世界と転生前世界日本とのすりあわせをして欲しい、アラフィフ転生者の斉藤奈美恵です。ごきげんよう。まあ、実際には価値観とか違うだろうから、すりあわせとか無理なのは判るけども。
ふと気付いたようにホレスがあごひげを撫でてこっちを見る。
「ん? リディア様は牛乳をご存知なんですかの?」
ぎくり。しまった。訊き方が直接的だったか!? でも私が何かを言う前にメイプルが頷いた。
「はい! お嬢様は勉強も出来るのです! 先ほども書庫で本をお読みになってました!」
……なんでメイプルがドヤるのか訊きたい。が、ナイスフォロー、メイプル。でもだからってここで調子に乗ってはいけない。私は出来るだけ落ち着いて見えるようににこりと微笑んで頷いてみせた。
「そうですね。書物に牛乳のことが記してありました。牛を絞り取ると」
「牛を絞り取る?」
ホレスとメイプルの声が被る。……しまった! ウマ飯を求めすぎてうっかり間違えた! 絞ると搾るは違う! そんでもって文字からくるイメージは自動変換されなかったぽい。あああ! こういう間違いはそのまんま伝わるのか! 何というめんどくさい変換仕様か! ひらがなで考えればいいってか!? ないわー!! どうせならそこも自動変換しろし!
……よし、失敗は成功の母と思っておこう。切り替え大事。こほん、と咳払いをして私は言い直した。
「えっ、と、あの、牛から、搾る? でしょうか」
「あー、そうですなぁ。牛の乳と言いますからなぁ」
ほっほっほ、と笑いながらホレスが言う。それ、日本語じゃないの? 牛乳ってミルクって言うくない? それだと牛って判らんくね?
あっ、でも英語だとミルクだけど……って、待って。私、英語は苦手なんだよ! 英語だけじゃなく海外語は全部苦手だけども! それはともかく! 英語でも牛って名前が、乳の前についてるとかなのかな? それともミルクってだけで牛乳なのか? だとしたら日本語の方がおかしい?
……あー、もう! ヤギ乳とか羊乳とか母乳とか色々あるかもだけど、ややこしいことはいいんだよ! 今は!!
めんどいことを考えるのはやめて私はにっこりと笑って首を傾げてみた。二歳児ならぐるぐる考えて硬直してる時間が長くても許されるだろう、きっと。
「牛乳は牛を搾ればゲット出来て、それをエミリアたんが持ってる、と」
「はい。食材の管理をしているのはエミリアさんです」
大きく頷くメイプル。それに合わせるようにホレスも頷く。なるほど、つまり牛乳はエミリアというのを絞れば……もとい、問い詰めれば判る、と。いや、それ以前にまずは牛肉の話からいくか。
「あの。牛の肉が高級食材なのはどうしてなのですか?」
「え。そういうものなのですが」
「そういうものじゃからのぉ」
二人とも真顔で言うなし! そういうもの、で済めば警察は要らんのだよ! じゃなく! 何で、とか、どうして、というのは二人にも判らんということかー!
つまり歴史とかどーとかで、そういうことになってて、二人はその経緯とかどーとかを知らん、と。そういうことでいいのか、と私は丁寧に丁寧に訊ねた。キレキレなので引きつってると思うけども、そこはご容赦願いたい。
「はい。私の田舎では色んなお肉を食べますけど、こちらのお屋敷に入る時にそういうものだと習いました」
「わしは長いことここでやっかいになっとるが……昔からそういうもんじゃったなあ。牛肉は食わんのう」
メイプルの田舎いいなあ。
ではなく!
「牛肉が高級食材ということは判りました。では、他の食材はどうして料理に使われないのですか」
落ち着け、私。ここでキレキレになって暴れ回っても何も解決しない。というか、肉から一歩も話が進んでねえよ。
「あー……ええと、牛乳とかですか?」
「それな」
メイプルの質問に私はびしっと指を向けて頷いた。うっかり素が出たけどまあいい。
「牛乳は飲むくらいしか使い途が……あっ! おめでたい時のケーキに使われてるんでしたっけ? ホレスさん」
「そう聞いたがなぁ。わしらの飯には使うこともあるっちゅー話じゃったが」
ほうほう。つまり使用人の方がアシュフォード一家より良いもん食ってると! それは解せぬだなあ!