チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

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ためしに撃ってみた

 目の前に広がるシンクタンク……じゃない、シンク、つまり厨房または台所は私の想像したような、むかし~~、のものではなかった。転生前異世界日本のキッチンのようなものは、農場の小屋で見たから心の準備は出来てたはず……だった!

 

「なんじゃ、こりゃあああ!!」

 

 思わず叫んだ私を誰が責めよう。いや、責められても困る。まず床がおかしい。何でつるつるぴかぴかの綺麗な一枚石材!? これ、大理石!? いや、違うか!? でもそれっぽく見える。私は四つん這いの格好で床の手触りを確かめた。触ったらやっぱりつるつるだった。下手したら私の顔、うっすら見えてるくない? これ。鏡かよ。

 

「お嬢様!」

 

 メイプルが焦った声で私を呼んで片腕でひょいっと持ち上げる。しまった。立場を忘れてうっかり床を確かめてしまった。でも……ねえ。荷物みたいに持つのやめてもらっていい? 小さいから出来るのは判るんだけども。

 

「リディアお嬢様!?」

 

 それまで黙々と働いていた厨房の人たちがびっくりしたように私を見る。うっかり手を上げて「は、はろー」と言おうとして口を手で覆った私、えらい。我慢できた。

 

 待て、それどころじゃない!!

 

 転生前世界の私が住んでた家。長く住んでるし、そろそろリフォームするか、って時のこと。営業に来たヤツに「高級感が~★」みたいな勧められ方をして「そっかー、じゃあ、それで」と返事した旦那の一声で、うちのキッチンの床やシンクには大理石が使われたものに変わった。揉み手でにやにやしてた営業を張り倒したい。でもその前に旦那を張り倒したかった。リフォームにかかった費用はかなりのものだったのだ。……いやもう、トイレまで大理石でリフォームって、どっかのホテルかな!? ふ・ざ・け・ん・な。

 

 いや、トイレはどーでもいい。

 

 うちのキッチンはそんな感じで床も貼り替えしたから大理石になったんだけど……。目の前に広がる景色はどういうことなのか小一時間。

 

 床だけじゃない。流し台も壁に並ぶ箱みたいな……多分、ホレスの小屋にあった冷蔵庫とか冷凍庫だろうけど、銀色の金属と大理石っぽい何かとのコラボになってるのはどういう!? もしかしてこの世界には金属魔法とかあるんか? 土魔法の派生か? もしかしてこの床も土魔法の仕業か? ドアが大理石だと磁石がくっかないだろ! ラップホルダーとかがつかないと地味に困るんだよ!

 

「どうしてお嬢様がこのようなところに!」

 

 恰幅のよい男が飛んでくる。転生前世界日本の私の息子よりちょっち上か? という年齢だと思う。その男がでかい声でまくし立てたものだから、私は思わず耳を塞いだ。ってか、メイプル、いい加減おろして。

 

「あー……えっ、と、見学したいなと思いましたの」

 

 そう言いながら私はメイプルの袖を引っ張った。ようやく私をぶら下げてたことに気付いたらしいメイプルが、はっ、と息を飲んで私をそっと降ろす。……人って息を飲む時、ほんとに音がすることあるんだなあ。

 

「おっ、お嬢様が……見学……えっ、あの! お食事に何か!?」

 

 ずいっと顔を寄せてきた子……ちがっ、息子よりちょっち年上だからって、子供扱いはヤバいね! ごほん。えーと、白い服を着た厨房の男は慌てまくっていた。ここで働いている人たちは大体が私より年下……あー、今の私は二歳児だったっけ。でも感覚的には年下。中には私の息子や娘より若い子もいる。

 

 焦って寄ってきた男はスティーブンというらしい。スティーブン……キング? ホラー小説を基にした映画が超怖かったんだよね。一人で観てたら悲鳴を上げてたかも知んない。って、スティーブン違いか、それは。覚えやすいといえば覚えやすいのでありがたいけども。

 

「いえ。私の食事は問題ありません。いつもありがとうご……おい、ちょっと待て」

 

 にっこり笑って礼を言おうとした私はスティーブンを押しのけて走った。いや、二歳児だから実際にはよたよたしてると思うけど! 私的には全力疾走だよ!

 

「何で塩コショウしないのかと! 単に焼くだけってどういうことかと! 調味料ないのかと!」

 

 鉄板みたいなものの上で肉を焼き始めた別の男に向かって私は叫んだ。この形、この香り、これは牛肉! 明らかに私たちの口に入るもの! だと思う! そういえばそろそろ昼時だったか! つまりこれは昼食!?

 

「は!? あの、お嬢様!? その、すみません!?」

「塩はないの? コショウは? もしかして調味料自体がないの? それともあるけどあえて使ってないとか?」

 

 肉を焼いていた男は焦りすぎたのか、すみませんという言葉が疑問みたいになっていた。あっ、しまった。勢いよく問い詰めすぎたか。

 

 こほん、と咳払いをし、私は背伸びをして焼けつつある肉を指差した。うっ、背が届かない! と思ってたらメイプルが後ろから抱えて持ち上げてくれた。OH...。こういうところは気がきくんだな、メイプルって。

 

「お嬢様。調味料はございます。ただ、その……貴い方には、使わないというか……」

 

 後ろから声をかけてきたのはスティーブンだった。思わず叫びながら振り向く。

 

「何でだよ!」

 

 叫んだ私にたじろいだのか、スティーブンが額を袖で拭く。汗が出たらしい。が、私にはそんなことは関係ない! 私がぎらりと睨んだからか、スティーブンが震え声で返事する。

 

「そ、そういう慣習というか……。決まりというか」

「誰だ! そんな決まりを作ったのは!」

「王家の方かと存じますが……詳しくは……」

「はあ!? 王族とか居るんか!? 何でそんな無駄なことをしたし! 王家とかいうのは、牛肉ダイスキ一族か! 牛肉至上主義か! だが私は断じてそれを認めない!」

 

 ひとしきりぎゃあぎゃあと騒いだら息切れした。ぜいぜい、と息をする私をここにいるみんなが戸惑ったように見ている。

 

「お嬢様、落ち着いてください! 暴れられると落としてしまいます!」

「はっ」

 

 私は正気に戻って腰をしっかりと抱えているメイプルの腕を見下ろした。そっか。いつの間にかメイプルは私を抱え上げるから、押さえるに切り替えたのか。それだけ私がじたばたしていたってことだ。

 

 そーいえばこのくらいの年齢だと、イヤイヤ期が使えるんじゃない? 確か息子の時は大変だったっていう記憶がうっすらとあるな。過ぎてしまったら笑い話になったり忘れてしまうことだから、私もうっかり忘れてた。ホレスのところで遠慮バトルをした時には無意識に使ってたけど、意識してやったらどうなるのか。

 

 うむ。試しに撃ってみよう。

 

「イヤ!」

 

 メイプルの腕をつかんで私はぶんぶん首を振ってアピールしてみた。すると明らかに周囲の人たちが焦り始める。ほほう……これは有効なのではなかろうか? これで無味牛肉を回避出来るならしめたもの! 調味料、どーしても駄目ならせめて塩だけでもいい! かけてもらえるかも知んない!

 

「お嬢様、ですから、落ち着いてください!」

「イーーヤーー!!!!」

 

 よしよし。メイプルも焦ってるけど、厨房の人たちも困惑し、更に肉を焼いてた男……スティーブンよりもしかして年上? かな? もしかしてアラフィフなのでは……まあ、幅広いからね! ○○フィフとかいうのは! 出来れば上にも幅広くあって欲しいところだね! 肉焼いてたアラフィフ男の手も止まってるし、よしよし、こんな感じでイヤイヤを続ければいいのでは!

 

 と、調子をこいた私が悪うございました。




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