チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
魔法を使うには魔力が必要。こういうのはラノベのテンプレな気がする。だからなのか、この世界の魔法にも魔力は必須で……ぜいぜいぜい。転生した元アラフィフ主婦の斉藤奈美恵です、ごきげんよう。ごはっ! 苦しい!
私は訓練が始まってからすぐに息切れし始めた。膝に手をついて屈んでぜいぜいいってると、スカーレットが微笑んでちらりと視線を寄越す。判ってるってば! これを吸引するんだよね!? 目の前にあるちっこい雪だるまを!
訓練の内容はこれまで通り魔法を吸引して、放出する時にサイズを変えることだ。それもちょっとじゃない。極小まで縮めたり、超拡大したり。それを繰り返している。息切れした私は無意識に色々作ってしまう。雪だるまもそのひとつだ。スカーレットの吹雪を吸引してから放出したらこうなった。
無意識って怖い。私は気合いで身体を起こして雪だるまを吸引した。その直後、スカーレットがその場に吹雪を出す。くっ、またか! 私は泣きたい気分でスカーレットを見たけど、にっこり笑い返されるだけだ。
「変換できますね?」
出来るかどうかじゃなく、出来るだろ! 的な訊き方ヤメロ! と思ったけど、私は根性で吸引した雪だるまのイメージを、頭の中で別のものに変える。
「うりゃああああ!」
気合いのための呪文が欲しいよ!!! と思いながら、私は叫びながら特大の火を放出した。火の玉が吹雪とぶつかって弾け飛ぶ。普通なら水蒸気爆発が起きそうだけど、こういう時はスカーレットが杖をかざし、弾けた吹雪&火の玉を素早く氷で囲んでさくっと鎮めてしまう。……
そして私はそれを吸引するんですよね! そうですよね!? と、心の中ではガチギレしてるけど、我慢して私は必死で氷ごと吹雪と火の玉を吸引した。これを畳んで、畳んで、火に変換して……
何かが倒れた音が間近で聞こえたと思ったら、私の視界は白くなった。どうやら魔力が限界になって自分が倒れたらしい。魔力量が減りすぎるとHPも削れて立ってられなくなるのだ。でも意識はあるから困りもの。倒れた時に私の視界が白くなったのは、スカーレットが寸前で氷の魔法を使って雪を積もらせたからだろう。
「メイプル。リディアを」
「はっ、はい! 奥様!」
飛んで来たらしいメイプルが私を抱き起こす。その直後、口に瓶の口をねじこまれる。瓶に入ってるのは魔力回復のための薬だ。ゲームで言えばエーテル? チャクラポット? 回復の泉? 名前は何でもいいか。そもそも私の口に突っ込まれてる瓶入りのコレ、名前が回復水みたいなのだった気がする。……だったらHP回復のためのアイテムも寄越せし。身体もキツいんだよ! ポーションでもエリクサーでも薬草でもいいよ! あ、薬草はどれか判んないから困るか。てか、この世界でも薬草というか、漢方みたいのがあるっぽいんだよね。多分、治療魔法が使える人がこの付近にいないから色々あるんだろうなと思う。だから単に薬草というと紛らわしいかも。
それにしても辛いんだよ、これ! つらいじゃなくて、からい! ちみちみと舐めるようにしか飲めないよ! ちょっとずつ魔力は回復してるけど、私は辛いものが苦手なんだってば! 香辛料もそこまで得意じゃない! 転生した三歳児でも辛いものは駄目だ! てか、転生前世界のアラフィフ主婦の時でも子供舌だったから、CoC○壱の二辛でもキツいんだってば! せめて一辛でお願い!
うー。いろいろ考えてる間に、私はどうにかこうにか回復水を全部飲んだ。メイプルがやっと私の口から瓶を退けてくれる。瓶は小さくて50㎖くらいしかないんだけど、それだけでも飲むのがキツいんだよね……。
ぜいぜい言いつつ、私は吸引してたものを更に小さく畳み、マッチの火くらいのサイズにして放出した。ぽっという音がして指先で灯った火がすぐに消える。
「今日はここまでにしましょう。ところでリディア、先ほど放出した人形はなんでしたの?」
杖を消したスカーレットが歩み寄る。ようやく身体を自力で起こせるようになった私は、その場にへたり込んで、まだ積もったままの雪に指で雪だるまの絵を描いた。我ながら画力ないなー。まあ、雪だるまって判ればいいか。
「これですか?」
「ええ。面白い形ですわね」
「はあ……これは雪だるまです。こんな人形があったら可愛いと思いました」
苦しい言い訳だと思うけど、こう言うしかない! 説明を求められてもややこしいから出来ないの! そして書庫でこれまで読んだ本には、雪だるまなんか載ってなかった! こういうのはその場のノリで返事しても大丈夫なのだ。今までもけっこうあったし。
魔法が火の玉じゃなくて火の鳥(フェニックス)になった時とかも、可愛いから良いと思いました、で乗り切ったし。……ものっすごい無理があるけどね!