チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
壊滅ダンスを延々と披露するという羞恥プレイが終わったら、次は魔法の訓練に入るというハードモスケジュール。これって何て拷問? と言わないでいる私はものすごく我慢強いと思う。魔法の訓練は最初は簡単で、少しずつハードになるもんじゃないのか、ゴラ。とも言いたい。
近頃の私の魔法訓練は主にスカーレットが担当、たまにアーサーが担当してくれる。っても、アーサーが訓練してくれる時は稀というかね? 最初の頃と逆転してない? でも今日の訓練は運良くアーサーの担当だ。
「さあ! リディア! 気合いでこれを取り込むのだ!」
「身体に取り込んだら破裂まっしぐらです。吸引しますね」
淡々と言ってから、私はアーサーが撃ったどでかい火の玉を吸引する。最近はこの吸引するスピードをかなりうるさく言われるようになった。
「もっと速くだ!」
無茶言うなし。と、呆れた顔で見た瞬間、アーサーがさらにでかい火の玉を出す。あのなー!! 何度も言ってるだろが! くっ、ここでガンギレしても仕方ない。私は心の鬼を鎮めてから言った。
「おとうさま。続けては無理です」
「はっ、そうだった」
やっと思い出したか。どんだけ脳筋なんだ、アーサー。我に返ったらしいアーサーが出してた火の玉をさくっと消す。はー、まったくもう。
実は私の無限増幅・縮小が可能な吸引にも限界というものがあると判ったのは最近だ。それに気付いたのは、スカーレットのスパルタ訓練の最中だった。スカーレットの魔法を二度続けて吸引しようとした私は、いきなりぱたんと倒れてしまったのだ。しかも二度目はちょっとしか吸引出来なかった。
倒れた時にも私の意識はあった。身体の中に意識が向いていたのだが、目が潰れる! というくらいの光がキラキラしまくっていた。魔力がちろちろ流れるのではなくて、でかいパイプか何かが出来たような感じで、猛烈な速さで流れまくっていたのだ。
どうやら連続で吸引したら、何か知らんが、魔力が密になったらしい。私はそう理解し、スカーレットに説明をした。スタンディングオベーション……ではなく、スタンガンではなく……ええと、いつも忘れるんだ、何だっけ……あ!! そうそう! ソーシャル・ディスタンス! あれ? ちょっと意味が違う? でもまあ、要するにでかい魔法を吸引した上に、もっとでかいものを吸引するのは密密密になるからか難しいということだ。
ちなみに小さいものなら、上からぽいぽいと何度も吸引出来たりする。食材とか食材とか食材とかな! 気が付いたら最初に望んでた生活魔法とか主婦魔法に特化してたりするよ、吸引&放出! 合成とかも出来るしな! 調理器具扱いもされるしな!
いかん、話が逸れた。
吸引している場所は私にもよく判ってない。仮だけど某白いポケットぽいとこ、と思うことにしている。増幅とか縮小は魔力を消費するけど無限に出来るのに、でかい魔法の吸引は一気にしないと駄目とかどういうルールだ、めんどくさい。もしかして今は出来ないのか? とも思うけど。
でもって私にはスキルが増えた。あくまでも吸引・放出に関するものだけども。
それは、畳む、である。
それまで私が出来たのは、吸引、合成、変換、放出の四つだった。あ、増幅と縮小は早くから出来たので数には含めない。で、増えたのは畳むというスキルだ。畳むというスキルは吸引してる場所に小さくまとめてキープするというものだ。でも会得する時に頭の中でピキーン! とか音が鳴って、畳む、という文字が出るの止めていただきたい。訓練中だったから何事かとびびったわ!
そうそう。畳むというのは文字通り、布団を吸引して畳む、服を吸引して畳む、とかすると綺麗に畳める……あああ! 私の魔法って生活用なの!? 家事用なの!? この魔法!! あれかな!? パイ生地を畳む時にも役に立つとかか! まあ、やったけどね!? 出来たけども! でも本来は家事特化のスキルではないというかね!?
そんなことを考えながら私は吸引した火の玉を畳んだ。最近はこれも楽に出来るようになってきた。てか、スパルタ訓練で慣れてしまった。ははは。息切れしていた頃が懐かしいくらいだよ。
「えーと、畳みました。合成しますか?」
「ふむ。リディアは吸引した魔法の威力や属性を変えられるのだったな。では、これはどうだ」
アーサーがちょっと考える素振りをした後、杖……じゃない、剣を揮う。すると私たちがいる場所が巨大な石の壁に覆われてしまった。檻か、これ! まあ、鉄格子じゃないだけマシか。
「はい。では」
ここは考えては駄目だ! 例え、火と石を混ぜてどーすんだよ! とか思っても! 前に焼いたレンガとかにしたら喜ばれたし!
「うりゃあああ!」
私は気合いを入れてでかい石壁を吸引した。気合いを入れないと畳んだものが某白いポケットから、はみ出そうになるんだよ! 仕方ないのでいつも気合いの声を出すようにしている。いちいち意味なく叫ぶのは恥ずかしいから、呪文が欲しい、本当に、切実に。
吸引した土魔法をすぐに畳む。このスピードを上げることが次の攻撃を避けたりするのに、どうしても必要らしい。……次の攻撃ってどういうことか。と何度、突っ込もうと思ったか。でもメイプルとか他の人の話を聞いてると、アシュフォード家ってバトルというか脳筋というか、そんな一族ぽいんだよね。それ以上、突っ込めない雰囲気が漂ってて無理というか。だから今もどういう家なのかは訊いていない。
私は土で出来た檻をきっちり全部吸引してからアーサーを見た。
「出来ました」
「すぐに合成できるのか?」
「出来ますけども……あの、おとうさま。ワクワクしないでくださいませ」
腰を屈めて私を覗き込むという、あからさまにワクテカしているアーサーに、さすがの私も突っ込みを入れた。するとはっとしたようにアーサーが姿勢を正す。
「ごほん。今日はどうするのだ?」
「とりあえず、えーと……サラマングレイトパイ□・フェニックス!」
この世界の魔法に呪文は要らんというか、ないのだけど、妄想に必要だったので叫んでから合成したものを放出してみた。前に私が出してみた火の鳥(フェニックス)の形を土魔法で作り、そのガワに火を纏わせてみたのだ。まあ、叫んだものとちょっと形が違うのはご愛敬。
ただこれ、魔力が切れると土はともかく火は消えると思うけども。それに火の鳥って言っても飛んでないけどね。これを飛ばすのは私には無理。多分だけど飛行魔法みたいのを覚えないと、浮かせるとかは出来ないと思う。
それともあれかな。元ネタの形で作ってエンジンとか何とかで飛ぶとか、いわゆるよくある巨大ロボとかにすれば良かった? でもそれだと金属がなあ……ま、いっか。
「すーごーいーぞー!! これが前にスカーレットが言っていた炎の鳥か!」
「叫びながら抱っこしないで!」
急に私を抱き上げたアーサーが耳許で喚く。転生してから四年経った今のアーサーはアラサー一歩手前で、転生前世界の息子が育ったら同じくらいだな、としか思えない。だから立場的にはアーサーとスカーレットは両親だけども、私の中では自分の息子娘と同じくらの年の子という感じ。言えば息子と娘の同級生? という風にしか見えないのだ。
アーサーは片腕に乗っけるような感じで私を抱っこしている。私は試しに息子に抱っこされる転生前の自分の姿を想像してみた。……絵面が酷い。少なくとも転生前の私サイズだと、息子にこれは出来ないだろう。ていうか、やったら腕を傷めそうかも。
……転生前の私は断じて太くはない! ちょっとふくよか程度である! 異論は認めない!