チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

35 / 38
砂糖はこうなったよ

 そいえば砂糖の件をすっかり忘れてた、元アラフィフ主婦の転生者、斉藤奈美恵です。この世界にはまだまだ慣れてません。ていうか、練習のたびに奇天烈ダンスを披露する私をステラに冷めた目で見られる日々が続いています。

 

 で。

 

 砂糖がないのか! と前に必死で考えてた私は、牛肉問題が解決した時についでのように調味料のことも知った。ていうか、砂糖、あったのよ。ええ、はい。でも白い砂糖じゃない。あったのは黒砂糖だ。私はものっすごい恨みをこめてスティーブンを問い詰めましたとも。そしたらまた愉快な答えが返ってきた。

 

 黒色だから、って理由だけでアシュフォード家の食卓に上がらなかった。それだけなのである。

 

 砂糖は白と誰が決めた。あれは不純物を抜いた砂糖でしょ。そもそも白い砂糖を作るような精糖技術がこの世界にあるかどうかすら判らないじゃん!? いや、あるのかもだけど、ここにはなくていいわけよ! 甘みさえあればいいんだから!

 

 スティーブンをしめて話を聞いた私はメイプルと一緒に農園に凸った。畑にうっそうと茂るサトウキビを見た私が呆然となったのは仕方ないと思う。その頃はまだ、地面にあっためるための魔石を埋め込むなんてこと知らなかった。サトウキビはあったかいところで採れる。そう(ゲームで)習った。なのに涼しいところに生えていることにびっくりしたのだ。

 

 サトウキビが生えていることを確認して私はすぐに厨房に戻った。黒砂糖だから多少、料理に色はつくかもだけど別に良い。生クリームが泡立ちにくいかもだけど。あ、生クリームを泡立てる時って、グラニュー糖が楽なのよね。何故かは知らない。私はパティシエではないし。

 

 話を戻そうっと。

 

 黒砂糖があったので私は色々なものを要求することにした。もちろん、スティーブンは正座させた。当たり前! 私がどれだけ砂糖を求めてたか! と、熱い思いを懇々と語って聞かせた。でもスティーブンも頑張った。判る。砂糖が黒いからだよね? と、思ったらそれだけじゃなかった。

 

「お嬢様! 大変、申し上げにくいのですが……黒い砂糖には悪魔がいるといわれておりまして」

「は? 何を言っているのかと小一時間。家の中にモンスターがいるのに、何で今さら悪魔にビビるの?」

「実は……」

 

 厨房に勤める使用人が何人か、黒砂糖を食べて悪魔に取り憑かれて痛みにのたうち、治療師のところに行ったきり帰ってこなかったという。その話を聞いた腕組みをして私は半眼になった。

 

「……ほほう。悪魔、と」

「はい。大変な痛みを与える悪魔と言われています! ですから、危険なのです! 使う時もほんの少しだけなのです!」

「その痛む場所は、もしかして歯かね? ズキズキするとかかね?」

 

 私は腕組みをして正座しているスティーブンを睨みつけた。すると何故か驚いたようにスティーブンが目を見張った後、すぐにぶんぶんと頷く。

 

「はい、そうです! どうしてお嬢様はお判」

「それ、悪魔じゃなくて、虫歯だろーが!!!!!! 歯磨けよ! 子供か! いや、私も子供だけども!」

 

 私はここぞとばかりに叫んだ。それから使用人にも歯磨きは義務付けられることになった。というか、した。でもって黒砂糖は使い方を誤らなければ問題ない調味料だと、スティーブン自ら厨房で説明することになった。ていうか、説明させた。スティーブンの後ろに仁王立ちになってやったので、コックたちも納得したと思う。たぶん。

 

 そんなことがあって以来、私たちの食卓にも砂糖を使った料理が並ぶことになった。時にはデザートもついてくる。そして食材管理担当のエミリアが渡してくれるクッキーなどの菓子にも砂糖は入っている。クッキーやマドレーヌをくれるのは、私たちだけでなく、使用人のみんなが菓子を食べられるようになったお礼らしい。

 

 だが! 私はその程度では満足しない!

 

 馬車を出してしばらく進んだところで、メイプルがこそっと訊ねてくる。

 

「お嬢様? 今日はどうなさったのですか? そのドレス……? ではないですけども」

「作業服です! 私が作りました! カーテンを使いました!」

 

 きりっ、と顔を引きしめて私はきっぱり言った。誰も用意してくれないなら、作ればいいじゃない! という結論に至って、私は部屋のカーテンをこっそり吸引し、合成して自分用の作業着を作ったのだ。

 

 私が着てるのは、給食当番の服に近いけど、要するに割烹着。その下にはサロペット。靴は財布とカーテンを強引に合成した皮のブーツ。頭には三角巾。これで装備は完璧! カーテンとか財布を使ったからまた怒られるかもだけど!

 

「今日はサトウキビの収穫があると聞いて!」

「はい、ですけど……確かにそうなのですけど……お嬢様。馬車で踊らないでください」

 

 馬車の手綱を持ったまま振り返り、メイプルが困った顔をする。私はステラに習った通りに踊っていたつもりなんだけど、やっぱり壊滅ダンスになってたか。仕方ない、とため息を吐いて私は大人しく踊りを止めて、メイプルの方に身を乗り出した。

 

 農園と屋敷を行き来する馬車は、ラノベとかアニメで見たことのある箱型で屋根があってソファみたいな椅子がある的なお洒落なものではない。屋根はあるけど簡素なもので、クッションがないと座ってたらお尻が痛い、どっちかといえば荷馬車に近い。私はクッションを敷いて、よいしょ、と御者台のメイプルに並んで座った。

 

「また! お嬢様、駄目ですってば!」

「別にいいんじゃないかな。ここの方が景色がよく見えるし」

 

 それに、と言って私はポケットからハンカチの包みを出した。包みを開くとメイプルの顔がぱっと明るくなる。

 

「クッキーですか!」

「エミリアがくれたの。一緒に食べよ」

 

 さっきまで難しい顔で窘めようとしていたメイプルがぱっと顔を輝かせる。……単純で嬉しいよ、メイプル。

 

 最初は農園の背が高い草にびびってたけど、今はもう慣れた。たまにバッファローが突撃してくるけど、メイプルがさっさと弾き飛ばす。するとどこからともなく風が吹いて、倒れたバッファローを運んでいく。あれはホレスの仕業だ。メイプルはホレスの小屋に向かってバッファローを弾いているのだ。……まあ、その後でかっさばかれて肉になるんだろうけど……。

 

 二人でさくさくとクッキーを食べて、ついでにお茶も飲みながらのんびりと進んでいくと、サトウキビ畑が見えてくる。畑を世話しているのはテオという、若い……まあ、私の娘と同じ年の男だ。このくらいの年の人間は、どうしても息子娘に見えていかん。しかもテオて。どこぞの有名画家の弟かな? まあ、覚えやすいからいいけども。

 

「こんにちは! お嬢様! 今日も良い天気ですね!」

 

 私たちに気付いたテオが元気良く手を振る。……あー。私の子供たちはどっちもインドア系で、しかも会社勤めのデスクワークだからか、こんな風に元気に挨拶はしないなあ。とか思ってると、メイプルが馬車を止めた。

 

「こんにちは。テオ。今日はサトウキビの収穫するって聞いたから来たよ」

 

 私もひらひらと手を振り返してから馬車を飛び降り、テオの方に駆け出す。お嬢様らしくないからかメイプルが困ったように私を叱るけど、声の調子で本音じゃないのは判る。

 

「お嬢様ぁ。おてんばは止めてくださいと言ったじゃないですか。奥様に叱られますよ」

「メイプルとテオが言わなければいいと思うの」

 

 二人を見てにっこり笑ってみせる。……近頃は口止めのための笑みも上手になったと思う。鏡に向かって練習した成果だ。

 

「まあ、そうですけど……」

「元気が一番ですよ!」

 

 メイプルが言葉を濁すとテオがからからと笑って、長く伸びたサトウキビに向かって指を振る。するとサトウキビは根元付近で綺麗に切れた。ため息を吐いたメイプルも宙に浮いたサトウキビを風で集めていく。

 

「そういえば、メイプルとテオって風の魔法が得意なんですか?」

 

 ホレスもそうだったし。使用人必須スキルなのかな?

 

「風は使い勝手がいいので、よく使いますね。農園に勤めている使用人は大抵は使えます」

「そういえば草刈りとかは楽だなー。俺は考えたこともなかった!」

 

 メイプルとテオが交互に言う。メイプルも侍女としてはかなりゆるい方だと思ってたけど、テオも相当だな。これ。

 

「ふーん……私も使えばいいのかな、それ」

 

 私はその辺に残ってた風を吸収し、増幅してサトウキビに向かって放出した。もちろん根元を狙った。でも切った範囲がテオとは比べものにならないくらい異様に広くなってしまった。OH...。

 

「あー! お嬢様! せめて先に言ってください!」

「おー。これは楽かも! ありがとうございます、お嬢様!」

 

 ここはまるでミステリーサークル。私は自分たちを中心に広がった、でかい丸ををぼーぜんと見回した。台風でやられてしまった田んぼの稲が倒れてるみたいな感じになってる。あれと違うのは大量のサトウキビが空中に散ったことだけども。

 

 そっか、私って訓練で馬鹿みたいに増幅出来るようになったんだったわ。忘れてた。吹き飛んだサトウキビを慌てて回収するメイプルと、呑気に笑って馬車に大量のサトウキビを積み込むテオを見ながら、私は力なく笑った。

 

 刈り取ったサトウキビは汁になる。私はこの瞬間を楽しみにしていた。汁をあれこれしたらきび砂糖とかが出来るくね!? とか思ってたのだ。

 

 サトウキビを汁にする。つまり圧搾する。

 しまった、圧搾って! と思った時には遅かった。

 

「凄いです! お嬢様! こんなに大量の絞り汁が一気に出来るなんて!」

「さすがはお嬢様! 牛の乳しぼりと同じでしょうか!? 素晴らしい手際です!」

 

 やかましい。

 

 二人が絶賛してくれる中、私は大量のサトウキビを吸引し、放出で樽に汁をざばざばと注いでいった。大量の汁を注いでから、今度は絞りかすを木箱に大量に放出する。最後に別の樽に不純物を注ぐ。……というより、ざらざらと落とす、かな? 小石とか色々。あああー! 濾過器になった気分だよ! これ!

 

 これ、煮詰められますか? と、絞り汁を指差してニコニコ笑ったテオをぶん殴りたい。あ、実際、ぶん殴った。子供の手だから、ぺち、と音がしただけだけど。

 

 吸引から放出はイメージが大事、そう、大事! 作り方は詳しく知らんけど、私はサトウキビの汁を吸引し、必死でイメージした。私が知ってるのは、黒砂糖、きび砂糖、三温糖、グラニュー糖、氷砂糖、上白糖、粉砂糖である! 放出する時に違う樽それぞれに色んな種類の砂糖を放出したら、メイプルとテオが喜んで小躍りしてた。

 

 私は晴れて砂糖製造機にもなりました。

 どうせなら、来たれ! 大賢○! と思った私を誰が責められよう。悲しい。




https://syosetu.org/novel/413002/
こちらから作品を登録してもらえると嬉しいです

テーピングのごとく指を固定したら、指の痛みが減りました。
あ、正しいテーピングは出来ませんので、なんちゃってです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。