チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

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正座で足痛い。

 空の彼方の鳥に見えた、その実態は白い石像的な天使と呼ばれるものと戦った、転生者のアラフィフ元主婦の斉藤奈美恵です。絶賛正座なうです。そろそろ足がしびれて動けなくなってると思います。

 ていうか、超痛い!

 

「いいですか、リディア。あなたは無茶をしてはならないのです」

「で、でも、おかあさま。その、あの時は、ええと……そう! 仕方なかったと思うのです!」

 

 手をグーにして私は目いっぱい力説した。すると目の前に立っているスカーレットの眼力がより強くなる。ひっ! 怖い!

 

 今のスカーレットは怒りを全く隠していない。冷気がモロ出しだ。なのに、口元だけが笑ってる。どういう器用さだと言いたい。が、言えない。というか、言ったら殺されそうな予感しかない。ていうか、何で私だけ正座で説教なのかと問いたい。他のみんなもバトってたし! 怪我もしてたし! それに屋敷のあちこちが壊れてたし!

 

「仕方ない、という言葉を便利に使うのではありません。あなたは自分がどれだけ無謀なことをしたのか理解しているのですか」

 

 スカーレットは仁王立ち、さらに腕組みをしている。普段はこんな姿は見せない。そして私が怒られている場所は書庫にある例の扉の前だ。改めて近くで見ると扉は金属製ではあるけど、とても古いのかあちこちが錆びている。観音開きになっているのに何故か取っ手が見つからない。

 

 そんなとこで正座させられているのは、書庫は外とは完全に隔絶されているから……らしい。ここに入ってすぐにスカーレットがそう言ってた。

 

「あなたが家を修理する必要はありません。怪我人の治療もです。倒れていたというのに、何をしているのですか」

 

 そうなのである。言われた通りである。ホントに。心からのごめんなさいである。

 

 私は天使をぶっぱした後、しばらく身動き出来なかった。ぐったりしていた私をベッドに押し込んだのはメイプルだった。包帯だらけだったのにわざわざ私を抱えて進むメイプルを見て、私は泣きそうになった。怪我で痛々しい姿を見ていられなかったのだ。

 

 ベッドに入った私は吸い込まれるように眠った。その後、完全復活した。メイプル曰く、時間はちょっとしか経っていなかったらしい。半日も過ぎていなかったというから、ぶっ倒れた幼女が回復にかかる時間としては短すぎたのだろう。でも治ったものは治った。

 

 外に出た私は屋敷の壊れ具合に頭を抱えた。壁がちょっと削れたとかではない。ガチで穴が空いたり、場所によっては崩れてて、中に人がいなくてホントに良かった、というほど酷かったのだ。瓦礫を片付けている使用人たちも怪我をしまくっていた。

 

 息子娘と同じくらいか下手したら孫くらいの、しかも怪我をしてる子を働かせて、大人の自分がただぼえーっとしてるとかないから! 転生して身体は幼児だけども! でも気分的には解せぬなんだよ!

 

 と思ったので、私は瓦礫を全部、問答無用で吸引した。屋敷の壁が元通りの形になるように瓦礫を合成したり畳んだりして放出したら、初めてなのに意外とちゃんと出来た。割れた箇所にぴったり嵌まらなかったとこはやり直したりして、壊れたとこを完全修復したのだ。

 

 いえーい。修復完了! と、私が喜んだら使用人たちが騒ぎ始めていた。騒ぎの内容がちょっとおかしいかな? とは思った。喜んでるとかではない。真っ青になってた。たぶん。

 

 でも私はみんなが怪我をしてるから顔色が悪いんだとその時は思った。で、もしかして怪我してる部分も壁みたいに修復できるんじゃないか、と考えた。試していいか、と訊ねたらメイプルが了承してくれたので、試してみた。

 

 傷口を吸引するのはさすがに無理というか、怪我が酷くなりそうだったから、メイプルの髪を一本もらった。それを吸引して増幅しまくった後、合成しまくった。いや、私も人の肌とかがどうなってるとか、何で出来てるとかは知らないよ? 遺伝子がどーとかも知らん。でもイメージしたら出来るんじゃない? と思った。

 

 だって光黒シャーペンのぶっぱが出来たじゃん!? あれだって私のイメージの産物だった。天使がどういうものかとか知らん。だけど出来た。しかも天使が全部墜ちた。もーまんたい。と、考えながら放出したら、出来たんだよね……。メイプルの治療。

 

 でも治癒系の魔法は使えないとか言ってたなかったか? 雲のイケメン。どういうことだってばよ。それともこれって治癒系にはならないってこと? でもここまでいくともう、チートが過ぎるくね? でもチートはないとか言ってたよね? じゃあこれが標準だということ? でもいくらなんでも変じゃない?

 

 そうは思ったけども、私はメイプルだけじゃなくて、怪我してる人は全員治療した。治療した時もやっぱりみんな騒いでいた。

 

 その時に気付いたのだ。騒ぎが喜びの声ではなかったってことに。

 何でみんなの顔色がおかしいのかということに。

 

「呼びつけた治療師は皆、無駄足になりました。壁の修復は土魔法の使える者たちが絶句したとか。あなたもその話は聞きましたね? リディア」

「は、はいぃぃぃ」

 

 おろおろしながら説明してくれたメイプルやスティーブンの顔色も超悪かった。スカーレットの言った通りだったからだ。ホントすまん。

 

「アシュフォード一族の者が、他の者の仕事をとりあげてどうするのですか。しかも貴女、その後にまた倒れたのですって? 本当に本当に本当に……」

 

 早口で言ったスカーレットがふるふると震える。ひっ、と私は息を飲んだ。

 

「馬鹿ですか! 貴女は! アシュフォードの者にあるまじき行動だと心に刻みなさい!」

「ばっ、ばか……」

 

 馬鹿って言われた! スカーレットに! ストレートに! 娘に罵倒された気分だよ!

 

 悲しさとせつなさと色々な何かに襲われた私はがっくりとうなだれた。まさにorz。でも何故か、仁王立ちになっていたスカーレットが、急に怒りの冷気を消してその場にしゃがんだ。どうしたのかと思って顔を上げた私の頭を、スカーレットが大切そうにそっと撫でる。

 

「ですが、リディアがわたくしたちが居ないにも関わらず、敵を退けたこともまた事実です」

「え」

「わたくしたちは代々、この扉を護り、また封じる役目を担っているのです。そのことを知らず、リディアが敵を食い止めたことは評価しているのです」

 

 少し悲しげにスカーレットが微笑んだ。




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