チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

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おうちの秘密

 ティールームに案内された私は、足のしびれと戦いながらスカーレットの話を聞くことになった。……せめてしびれがおさまるまで待ってくれるとか……は、無理ですねそうですね。

 

「お屋敷の中にモンスターが出るでしょう?」

「はい」

 

 足がビリビリするのを我慢し、お茶を少し飲んで私は頷いた。初めて廊下に出た時にはかなりのショックを受けた。家の中にアンデッドって。ここは幽霊屋敷なのかと本気で思ったよ!

 

「このお屋敷は墓所なのです」

 

 そう言ってから、スカーレットはゆっくりと話を続けた。

 

 アシュフォード一族は代々、この地を護ってきた。この辺りの土地だけではない。遠い王都を含めた国そのものを護っている。護るといっても、例えばいわゆる魔王のような、一部の魔物と戦って勝つというような意味ではない。魔王を倒しました、はい、平和。という話ではないのだという。

 

 ていうか、魔王、おる(居る)んかい!

 私は話の途中でそう言いそうになって慌てて口を閉じた。いかんいかん。

 

「このお屋敷を含め、辺りの地は全て王家の領地ということになっています。わたくしたちはここの管理を任されているだけ、という形をとるようにしています」

 

 アシュフォードは代々、墓守を務めているという。扉の向こうに封じた多くの魂が外に出ないよう、護り続けているのだ。そのために王家はアシュフォードには手を出せない。アーサーやスカーレットに強い発言力があるのはそのせいだ。

 

 だがそれを知る者は少ない。事情をよく知らない者、あるいは舐めている者たちは、王族に無条件で庇護されているように見えるアシュフォード家を羨み、嫉み、そして権利を奪おうともする。だからアーサーとスカーレットはそれらに対して事前に手を打ち、ここに近づかないようにしているのだという。

 

 そこまでしなくてはならないという話を聞いたら、私でも事情は何となく判る。私はちょっと考えるような仕草をしてからスカーレットに言った。

 

「では、魔法の訓練が厳しいのは……」

「ええ。リディアは将来、アシュフォードの者として扉を継ぐことになるでしょう。それが明日になるのか、それとも十年後のことなのかはわたくしにも判りません。その時の備えとしてリディアはできる限り、力をつけなければならないのです」

 

 あの扉の向こうにあるのは、死んだ人々の魂なのだそうだ。スカーレットがそう言うのを聞いて私は目を見張った。

 

「まさか、わたしが吸引したのは」

「そうです。死した人々の魂です。人の身体をなくした魂は、時が経つにつれて自分が何者なのか判らなくなるのです」

 

 中には人を守護する者もいます。と、スカーレットは続けた。けれど魂が守護できるのは亡くなってしばらくの間だけだ。徐々に魂の記憶は薄れ、自我もすり減り、やがては扉の向こうでざわめいているモノと同じモノに変わるのだという。そうなったら魂はここの扉の奥へと自動的に押し込められる。扉を避けて逃げようとする魂は、アーサーとスカーレットがつかまえて扉の向こうに封じるという。どうしようもない時は跡形もなく消す必要があるため、二人とも強い魔法が使えるのだそうだ。

 

 そして黒く、闇色の蠢くものと化した魂は、外に出るために扉を開けようとし続けている。今回は人々の魂の一部を私が吸引し、攻撃に使えるように変換したのだ。そう説明された私は視線を泳がせた。どう答えたものかと考えこんでしまったのだ。

 

 スカーレットは転生前世界の私の娘と同じくらいの年だ。そんな若い子が真面目に言ってることに、

 

 え。それがどーかした?

 

 とか、返してもいいのかどうか、迷う。

 

 魂とか言われても私の目には見えない。天使に攻撃するために黒いのを吸引した時は痛くて苦しくてしんどいと思ったけど、それだけなのだ。屋敷に出てくるモンスターは扉の隙間から漏れ出る煙のようなものらしい。今は私でも簡単に倒せるし、怖くはない。でもって、扉越しに魂を吸引してぶっぱしたことも、私は大したことではないと思っている。

 

 むしろ私が恐怖を感じたのは、身近な人々、メイプルやスティーブン、ホレスやレベッカ、エミリア、テオ、あ、カテキョのステラもだ。その他たくさんの使用人が傷ついて血を流し、下手をすれば死んでいたということだ。

 

 私は全てに無条件に優しく出来るほど、人間はできてない。それは転生前からの性質、性格のようなものだ。欲しいものがたくさんあればあるほど、総取りは出来ない。必然、優先度の低いものから切り捨てて行くことになる。それが私の生き方だったし、そうせざるを得なかった。

 

 だから自分の知らない人間のことまで心配は出来ないし、どう思えば正解なのかは知らない。転生したからって、考え方が急変するとかはないというか? 正直、王都とか王家とか魔王とか言われても、ぶっちゃけどーでもいいとしか思えないのだ。

 あ、もちろんアーサーとかスカーレット、その他の屋敷に勤めている人たちが無事なら、という条件付きだけど。

 

 それに言うこときかない魂を封じるとかって私の吸引一発でいけるくね? 特殊な魔法とか覚えなくても問題ない気がする。今回みたいなことがあるなら、魔法の訓練は必須かも知れないけども。光黒シャーペンがいつも通用するとも思えないし。

 

 ……この温度差、どうしよう。スカーレットは悲しげな表情で切ないため息を吐いているし、チラ見したメイプルとスカーレットの侍女も痛ましいものを見る目で私を見てる。メイプル、こっそりハンカチで目元を拭うのヤメレ。こっちは温度差に困ってるんだってば!

 

「えーと……その、わたしたちの家は、その、どういう状況に置かれているというか、そもそもどこにあるのでしょう」

 

 とりあえず無難なことを訊くか、と思って私は話を逸らした。空から天使が来たってことは判ったけど、私は未だにここがどこなのか詳しく知らないのだ。私が質問したらスカーレットが頬に指を当てて少し首を傾ける。ふむ。疑問なのね。というか、眉間にちょっとだけしわが寄ってるから、もしかして迷ってる?

 

 少し間を置いてから、スカーレットが真っ直ぐに私を見た。

 

「リディア。ここは島です」

 

 一瞬、私の思考は凍った。スカーレットが言ったことがすぐに理解出来なかったのだ。

 

「……は?」

「ここは、大陸から遠く離れた島です。ですから外に出ることも、外から来ることも難しいのです」

「はーーーー!?!?!?」

 

 私は思わず奇声を上げて立ち上がった。具体的には椅子の階段の上に足を乗っけたままで立ち上がった。力一杯テーブルを叩いてしまったから、ティーカップが揺れてお茶が零れそうになる。が、その前にメイプルがさっ、と止めてくれた。ついでによろけた私の身体も支えてくれる。

 

「あら。教えていませんでしたか? リディアは賢い娘ですから誰かに聞いているものだと思っていましたわ」

 

 そう言ってスカーレットは微笑んだ。

 

 島……島!? 島だと!?

 

 植生とかどーとかが、屋敷周りのしか本に書かれてなかった理由がやっと判ったよ!

 だとすると……米……私の米は!?

 

 私はショック過ぎてその場で失神した。




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