チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
死んで異世界転生を無事(?)に果たしたアラフィフ主婦の斉藤奈美恵です。ごきげんよう。ただいま交渉中です。必死です。米がかかっているので。
「どうしてもお願いします!」
「いけません。何度言われても駄目です」
スカーレットが書類を片付けながら淡々と返事する。ここはスカーレットのお部屋というか執務室だ。そんなとこに突撃した挙げ句、島から出てみたいとお願いするのもどうかと思ったけども、やっぱ大陸に行って確認はしたい!
米があるかどうかを!
私はパンは嫌いじゃない。むしろ好きだと言い切れる。転生前世界日本ではあちこちのパン屋を巡るのが楽しかった。時々、ものっすごい好みのパンを発見出来た。その時は踊るほど喜んだものだ。……たまたまリビングに居た息子に変な目で見られたけども! それでもパン屋巡りは止めなかった。
だって惣菜パンって美味しいじゃん!? 菓子パンもいいけども! 店によってはお好み焼きパンとかあるんだよ!? しかも車で行ける距離のショッピングモールとか、電車で頑張れば行けるとことか、あるいはIKE○とか! あそこのパンも種類によっては好きだった。ついでに家具も見られるし、広いし、あ、でも家具は買わないよ。ほとんど。
でかい家具を組み立てるの大変じゃん!? ニ○リとかで買った家具の方が組み立てが楽なんだよね。多分だけど日本人用じゃないから? そいえば前に読んだ海外小説に、IK○Aはユ○クロみたいなもん、と書いてあったな。いいじゃん、ユニク□。転生前世界日本ではにちょっち高くなってたけども。
でもって私はパンはアンデルセン推しである。リトマとかタカキとか、アンデルセン系列のパンも好き。季節パンもずっと続いて売られてるパンも美味しい。あえて伏せ字にはしない。推しだから。
話が大幅に飛んだ。食べ物の話はついつい。
ちなみにアシュフォード家で食卓に乗るパンはバターロール。
いや、それはともかく!
「おかあさま! 見聞を広げるためも是非!」
「是非ではありません。それにリディアは食材を探していると聞きましたよ?」
私はくるっと振り返ってメイプルをじーっと睨んだ。するとメイプルが困ったような顔をする。くうー! 報告義務があるっても、限度あるだろ!
「じゃあ、えっと、知識で!」
「言い換えればいいというものではありません」
さくっと言い返したスカーレットは書類をめくっては何かを書いている。スピードを見る限り、多分サインをしているのだろう。その辺りは転生前世界日本と同じかな? 転生する前の日本ではそろそろ印鑑じゃなくてサインでも良いという感じになってた気がする。でも元々、印鑑も自筆サインも同じ効力を発揮してたはず。たぶん。でも自筆じゃない時は本人の印鑑が要るんだったかな? これも、たぶん。どっかで聞いた話だし。
「いいですか、リディア。貴女はアシュフォードを継ぐのです。そんな立場の者が軽々しく外に出たいと言うものではありません。それに貴女はまだ四歳なのですよ」
そこまで言ったスカーレットが椅子ごと振り向く。……しまった、口元だけ笑ってるから怒ってる気がする。ヤバい。
「リディア。何を探したいのですか?」
もう、言葉に飾りがない。う、どうしよう。素直に答えた方がいいのだろうか。ちょっと迷ったけど、私は覚悟を決めて説明することにした。
「米です」
「こめ?」
それまで凍えるような笑みで私を見つめていたスカーレットの表情が、ほんの少しだけ緩む。そして軽く首を傾げる。この様子だと米、知らないな……。
私は説明をする前にちらっとメイプルを見た。メイプルは私の視線が飛んだだけで意味を察したのだろう。首を橫にぶんぶん振る。ということは、メイプルの田舎とか、あるいは厨房でも米を使ったことはないのだろう。食材として認識されていないことを確認し、私はすうっと息を大きく吸ってスカーレットに向き直った。
「米はとても美味しいです! そのまま食べるのではなく、鍋に米と水を入れて火にかけて、始めちょろちょろ中ぱっぱ赤子泣くとも蓋取るな、で炊きます!」
「赤子、ですか? どういう意味でしょう」
「赤子が泣こうが喚こうが、蓋を取ってはならぬのです!」
私が力説すると、スカーレットは私の背後にいるメイプルに視線をずらした。恐らく米という食材と料理の仕方を知っているかどうかの確認だろう。そのことに気付いて私もメイプルを見た。
「私はこめというものも、赤子とかもわかりません!」
「でしょうね」
メイプルの返事を聞いたスカーレットが納得顔で頷き、でもため息を吐く。それから私を見て困ったような顔をする。……珍しい。スカーレットが感情をストレートに表情に出している。
「こめ、というものがどれだけ美味しいのかは、リディアの説明でわたくしにも理解できました。ですが、やはり島外へと出ることは禁止します」
「えー!?」
この流れだときっと行ける! と思っていた私はかなりのショックをうけた。説明が足りなかったのか!? と思って、さらに説明をしようとした私に向かってスカーレットがストップ、というように手を上げてみせる。
「今は、です。どうしても島の外に行きたいと言うのなら、まず剣術を身につけなさい。お話はその後といたしましょう」
「……は?」
私はおもっきり変な顔をしていたと思う。逆にスカーレットはすっきりにっこりしている。解せぬ!
「もしかして、あの、わたしの説明が」
「説明の問題ではありません。リディアが求めるのがあくまでも食材だけだと理解したということです。それならやはり、剣術、もしくは体術などの戦う術を身につける必要があるのです」
そこから始まったスカーレットの特訓メニューの説明は、私の米への情熱を叩き込んだ説明より長かった。てっきりお説教だと勘違いした私が正座したくなるほどだった。
だが言質はとった! バトルスキルをゲットすれば、私は島から出てもいい!
……たぶん。