チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

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閑話 メイプル日記 2

 それからのお嬢様は食材を求めて走り回るという、私には理解不能なことをし始めました。いや、あの。牛肉がお嬢様だけでなく、ご主人様と奥様のお口に入るものだ、と説明したはずなのに……何ででしょう。お嬢様はそれが嫌だったようです。

 

 だって私の田舎の料理ですよ!? とてもとてもお嬢様のお口に入れられるものだと思えません。それに私がアシュフォードお屋敷にあがる時に、こちらの方々は牛肉をそのまま焼いたものを食べる、という教育をうけました。

 

 なのに!

 

 お嬢様は一直線に厨房に突撃しました。私はお嬢様の後ろでああー、と頭を抱えましたが、お嬢様には見えてなかったようです。角度的に見えないと思ったから、頭を抱えたんですけども。

 

 スティーブンさんが引きつってました。当たり前です! まさかお嬢様が厨房に急に現れると思っていなかったでしょう。私もあまりのことに伝え忘れていました。お嬢様の動きがとにかく速い。幼児と思えないくらいに速いんです。走りながら急旋回したりします。

 

 確かに私の方が足は速いです。でも、私は侍女としてお嬢様に付き従うという使命があります。先を行くことは出来ません。それにお嬢様は場所を訊いたら一目散なのです。追いつけても止められない!

 

 しかも余りのことに緊張しているスティーブンさんに向かって、塩コショウのありがたさを切々と訴えてます。私たちの食事にはそういう調味料が使われてます。だから訊かれれば答えることは出来ます。

 

 でも! 王族に啖呵を切るのは止めてください! 私だけじゃなく、その場にいた全員が固まってます! お嬢様ぁぁあああ!!!

 

 私は暴れるお嬢様を必死で抱えました。訴えたいことは判りますけども! 暴れられると困りますし、落としてしまいそうになって真っ青になりました。お嬢様、意外と力があるんです。

 

 ……そして私は奥様にこっぴどく叱られました。ですよね……。

 

***

 

 みなさんの食卓には、焼いた牛肉以外の料理が上がるようになりました。最初は厨房責任者のスティーブンさんが、今にも倒れそうな顔色になってました。判ります。私も食卓にお皿を並べる時、もしかしたらクビになるのでは、と緊張してました。

 

 でも予想は外れました。お嬢様だけでなく、なんとご主人様と奥様も喜んで食べてくれました。私たちの口にする田舎料理なのに! そのことを報告した時のスティーブンさんの顔がちょっと面白かったです。赤くなったり青くなったりしてました。

 

「なあ、メイプル。本当にいいのか? 俺はクビにならないかと毎日、怖いんだが」

「多分、大丈夫だと思いますよ。美味しそうに召し上がってますから」

「あー……胃が痛い」

 

 スティーブンさんとは何度かそんな話をしました。何度言ってもスティーブンさんは怖がってました。スティーブンさんは料理長なのに意外と小心者なのです。ご主人様と奥様、それに使用人たちはそのことを知ってますけど、お嬢様は知らない。

 

「それにしてもメイプルは変わったな。前はお堅い侍女って感じだったのに」

「喋り方が変になってしまって。私にも理由が判らないんです。奥様はそれでいい、と言ってくれたんですけど」

 

 私はもう割り切ることにした、とスティーブンさんに言いました。他の使用人にも突っ込まれるんですけども。どうもこれ、治らないらしいんです。病気ではなさそうですし、放置するしかないっぽいです。

 

***

 

 お嬢様の目下の課題はダンスだと思います。というのも、お嬢様は他のことはよく出来るのに、ダンスだけは何故か下手くそなのです。ステラさんもとても困ってました。でもこういうものは慣れるしかない、ということで、毎日のようにお嬢様はダンスを習っています。

 

 その他はとても優秀なのにどうして。と、ご主人様と奥様も言ってました。私も同感です。もしかしたらお嬢様は他が出来過ぎるのかも知れません。多少は苦手なことがないとバランスがとれないのかも、と私は思いました。

 

 たとえば書庫で難しい本を自力で読んだり、食材を手早く用意してくれたり、農場や厨房でも大活躍です。最初はこんなことをさせてもいいのだろうか、と悩んでいたスティーブンさんも、気軽にお嬢様にお願いするようになりました。

 

 なのにダンスが! ダンスは社交界でどうしても必要になるものです。ステラさんも困っていましたが、私もお嬢様の後ろで頭を抱える日が続いています。しかもお嬢様はたまに馬車でも踊ります。危ないのでやめて欲しいと何度も言いましたがきいてくれません。

 

 そしてとうとうお嬢様は砂糖を何種類も作ることに成功しました!

 私もですが、厨房にいるもの、食材を管理しているエミリアさん、もちろんご主人様と奥様も知らない砂糖です!

 

 お嬢様の能力は底知れないと思いました。

 

***

 

 アシュフォード一族に仕える者は、戦えなければならない。

 お嬢様にそれを見せる日がやってきました。

 

 ここにはたまにそういう敵が出てきます。お屋敷に出るものとは桁違いに強いモノです。お屋敷内に出てくる程度のものは、お嬢様も楽に追い払うことが出来ようになりました。

 

 でも、これは違う。

 

 いつも周囲を見張っている者から連絡を受けたレベッカが厨房に飛び込んできた直後、私たちはいつものように戦いに出ました。当然、お嬢様は書庫にこもってもらいました。あそこが一番安全だからです。

 

 私の主な役目は対空誘導の魔法を放つことです。剣を振ることによって炎と風の魔法を同時に飛ばし、敵を討つ。または敵の動きを鈍らせる。それが前線に出る私の戦い方です。

 

 いつもならそれで撃退ができます。けれど敵が異常に高い場所にいたため、届かせることが難しい。仮に届いたとしてもダメージが与えられません。無傷かどうかすら目視出来ないのです。しかも光の矢が降り注ぎます。かろうじて避けられる時もありましたが、多くの者が矢に傷つけられました。

 

 これは天使で間違いない、とスティーブンさんとも意見が一致しました。こんな高高度から攻撃してくる敵は、それ以外にないのです。

 

「これはもう、お嬢様に頼るしかない」

「スティーブンさん!?」

「メイプル。お嬢様にあれをお願いしてきてくれ。お嬢様に出来るかどうかは判らんが」

 

 スティーブンさんは私以上に切羽詰まってました。みんなの司令塔なのですから当然でしょう。私は仕方なくお嬢様のところに走りました。こうなっては手段を選べない。ご主人様と奥様はお留守なのです。

 

 頭ではそれは判っていました。けれどお嬢様はまだ幼い。たった四歳なのです。いくら大人びていても、書庫の扉に働きかけるなんて無茶なことだと思いました。

 

 ですがお嬢様は私の想像をはるかに越えていました。

 なんと、扉の向こうにあるモノを吸引して、無数の矢を放ち、天に舞う天使を撃墜したのです!

 

 そのことにびっくりしている暇はありません。私たちは墜ちた天使を手早く処理しました。お嬢様は力尽きたように倒れてしまいました。けれど無事だとスティーブンさんが手振りで教えてくれたので、私もほっとして天使の処理に当たりました。

 

 お嬢様を攻撃しようとしたこと、許せない! その場にいたみんなの思いは同じでした。墜ちた天使をみんなでボコボコに殴り倒しました。

 

 ……ですが。

 その後、お嬢様はなんとお屋敷を修繕し、さらに私たちの傷まで治療しました。当然、みんな真っ青になりました。

 

 違うんです、お嬢様!! 私たちはそこまで求めてません! 自信満々でにっこりして倒れるなんて、本当に困ります!

 お願いですから無茶苦茶をしないでください!!




https://syosetu.org/novel/413002/
こちらから作品を登録してもらえると嬉しいです

長かったので分けました。

急いで書いたので後で直すと思います
すみません
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