チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

50 / 64
私の風呂事情

 ノコギリを作ってぼーぜんとしてた日が遠く感じられる、転生者の元主婦アラフィフの斉藤奈美恵です。こんにちは。うっかりすると斉藤奈美恵という名前を忘れそうになります。だからメモったけども! 記憶が薄れる速度って怖い。

 

 ノコギリ作成が終了した私は無事に自分用の得物を作った。とりあえず、剣。ホントは日本刀が欲しかったんだけど、さすがにこの世界にそれはどうかと思ったのでやめておいた。あと、切れ味の問題もある。剣はどっちかっていうとぶっ叩くという使い方が主だけど、日本刀は斬る、だからね。刃の鋭さがヤバい。……あ、聞いたことがあるっていうか、どっかで見た話だから念のため。真実は知らない。

 

 そして私は五歳になりました。……なのに剣術スキルが足りないと言われ、島の外に出られません。ナンデダヨ!

 

「はい、お嬢様。私の勝ちです」

「う、うおおお……おのれ、メイプル。手加減というものを覚えろし」

「駄目ですよ。戦う術を身につけないと危険です」

 

 剣士メイプルは容赦がない。私の剣は自分の身体に合わせて短めにしている。メイプルはいつも使っているらしい普通の剣だ。しかもメイプルは恐ろしいくらいに剣術に長けていた。ぶっちゃけ、私の剣がメイプルの剣に届かないんだってば!

 

 一年経ってもメイプルから一本とれない。うごごご。私の米道が! 思った以上に激しく遠いよ!

 

 しかもこんだけ頑張ってるのに剣術のスキルはとれないというか、修得していない。いつものピロン! はどうした! こんな時に鳴って欲しい! でも魔法じゃないからか一向になる気配がない。くそう、雲のイケメン、覚えてろ! 再会出来るかどうかは知らんけど!

 

 剣術訓練の次は魔法の訓練、書庫でお勉強、ダンスレッスン……。他にも厨房で手伝い、農作業の手伝い、鍛冶の手伝い、とにかく諸々の手伝い。

 

 まさに殺す気か! というハードスケジュールである。

 

 転生前世界日本のブラックも真っ青だと思うよ! こんなの五歳児に課す仕事量じゃないってば! 剣術とかの訓練は仕事ではないかもだけども、私にとっては仕事と同じだ!

 

 でも食事は美味しくなったから良いかな、とも思う。……あー、私ってかなりちょろいな。飯でつられるとかヤバくね? でも塩コショウだけじゃなくて、他の香辛料とか香草とか色々あることには驚いた。ブーケガルニを合成させられた時にはキレたけど、他にもいっぱいあった。

 

 ……そしてそれらは私たち以外、つまり使用人が普通に食べてたものだった。解せぬ! メイプルの話を聞いたから薄々は判ってたけどね!

 

「お嬢様。訓練はまだ終わっていません」

「わっ、判ってるけど! ちょっとは休ませて!」

 

 ぜいぜいと息を切らして地面にへたり込んでいた私は、仰向けに寝転がってじたばたと手足を振って抗議した。そんな私の顔を覗き込んだメイプルが困ったように笑う。よし、勝った!

 

「仕方ありませんね。少しだけですよ」

 

 そう言うものの、メイプルは剣を腰にさしてからささっとお茶の準備をしてくれる。炎天下というものがないこの付近では、多少の時間、ワゴンに食品を載せていても腐るなんてことはない。……まあ、炎天下でも冷却用の魔石があれば問題ない気がするけど。

 

 メイプルのいれてくれたお茶を飲みつつ口に運ぶのはエミリアが用意してくれた菓子だ。作ってくれているのはスティーブンだけど、食材をエミリアのところに頻繁に納品するので、必然的に私に会う機会が……

 

 待て、私。

 納品とかナチュラルに考えてる!? お嬢様のやることじゃなくない!? 今さらだけど!

 

 とにかく、用意してくれる菓子は少しずつ豪華になっている。前はクッキーオンリーだったのが、マドレーヌなどが増え、今はシュークリームまで出てくるようになった。シュークリームって作り方が難しかったから、私は一度も成功したことがないのに。私が合成して放出してみせたシュークリームから、スティーブンたちが分析したのだろうか。

 

 まあいっか。私は今日のお菓子のパンケーキを口に運んだ。メープルシロップの代わりに蜂蜜がかけてある。果物も添えてあるから酸味と甘みを交互に味わえるのだ。

 

 それにしてもメイプルは頑なにテーブルについてくれない。訓練中はこっそり水分補給はしているみたいだけど、それだけだ。私も水分は摂るようにしている。メイプルはあんまり汗をかかないからいいのだろうか。っていうか、私相手だと汗をかくほどではないみたい。

 

「ねえ、メイプル。一緒にお茶」

「駄目です」

 

 全部言い終わる前にダメ出しを食らってしまった。OH...。最近は私が何を言うのか判るみたいで、メイプルには先回りして答えられることもある。チッ! さすがは五年間、私についてるだけはある!

 

 お茶が終わった後、私は夕方になるまで必死で訓練した。終わったらボロボロだ。息は切れるは、汗はかくわ、身体中が痛いわ……。これ毎回なんだよね。慣れるとかないのかなぁ。

 

 そんな状態だから私はすぐに風呂に突っ込まれる。はー。この世界に風呂があって良かった。それほど深い湯船じゃないんだけども、広々とした浴室で湯につかれるのはありがたい。それに浅くてもこの身体なら肩くらいまで湯に入るからね。

 

 でもって最初は焦ったけど、私を風呂に入れる時もメイプルはついてくる。それに他のメイドさんもついている。私の身体を洗ったり拭いたり色々されて卵肌にされるのである。さすがに乳幼児の時はこんなことはなかったんだけど、一歳くらいの頃からされてる覚えがある。

 

 前世の息子や娘も乳幼児の時は湯につける時は怖かった。あの頃は縦長のタライみたいなのがベビーバスとして売られてた。お値段も高かった気がする。さすがに私は買う気になれなくて、でかいタライを使ってた。小さい身体だから入るんだよね。

 

 一歳くらいになると一緒に風呂に入っていた。……大変だったわー。頭から湯をかけるのに慣れてもらわないと面倒くさい。出来るだけ早く洗うのがコツかな。

 

 ……私自身のこと? 放置だよ! 後だよ!

 

 湯船に足をつけて立ってられるくらいになるまで、自分のことを先にするとか無理! バスルームの床に座って大人しく玩具で遊んでくれるようになってから、自分をダッシュで洗う! それしかない!

 

 子供の風呂を旦那が手伝ってくれるとか誰かに聞いた時はいいなぁ、とも思った。何度か頼んだけど、浴室を見たいという欲求を抑えるのが大変だった。うっかりだろうけど、風呂の中に落っことしたんだよ!? 自分で引き上げればいいのに、でかい声で呼ばれた私の気持ち! 呼ぶ前に自分でどうにかしろよ! 硬直してる場合じゃねえよ!

 

 結局、小さかった息子娘の風呂を任せるのが怖くなって、それなら自分でやった方が楽だ、という結論になった。息子娘が小さい頃は父親が育児に参加とか、まだそこまで浸透していなかった。……ホント良かった。

 

 そんなことを考えてるうちに私は風呂から出た。ほかほかの身体を丁寧に拭いてくれる。自分で出来る! と言いたいんだけど、それだとみんなの仕事を取り上げることになるし、スカーレットからはめちゃくちゃ怒られそうだから言わない。




https://syosetu.org/novel/413002/
こちらから作品を登録してもらえると嬉しいです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。