チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
アラフィフで転生した主婦の斉藤奈美恵です。がっかりし過ぎて、農園で崩れ落ちました。失神しなかっただけ、前よりマシでしょうか。
ってか、米! と思って農園に突撃し、小麦とか大麦とかねこじゃらしを吸引し、米に変換しようとしたのに! どうやっても出来なかった! 何故だ!
「くっそーーーー!! 私の米道をどうやっても邪魔するってか!!」
叫びながら起きた私は放出したものを見た。樽に放出されたのは、脱穀した小麦、大麦、ねこじゃらしだ。小麦とかを育ててる農園の使用人たちは最初は何事かと思ったらしく、私の周りに集まっていた。でも私が必死で吸引・放出を繰り返すのを見ることに飽きたのか、今は仕事に戻っている。
「お嬢様、諦めた方がいいと思いますよ?」
「はあ!? メイプル、おぬしも私の米道を邪魔するか!」
メイプルの困ったような問いかけに私は反射的に言い返した。でも何十回も繰り返していくつもの樽に放出しまくってしまったから、きっとこれは管理が面倒だろう。理性では判っている。ちなみに麦は粉にはしていない。
フー。落ち着け私。ここで暴れても仕方ない。
小麦とかをこの状態で置いて大丈夫だろうか。メイプルに訊ねると、籾のままなら密閉して涼しいところで保管すればいいということだった。
「それか、時間を止めるかですかねえ」
唐突に言われたことにびっくりして、私は思わず声を上げた。
「は? 時間を止める!?」
「はい。そういう魔法があるらしいです。私も聞いたことがあるだけですが」
ちょっ。それってゲームに出てくる魔法じゃね? 敵の時間を止める魔法があったはず! でも使い勝手はイマイチだったような? あれ? 時空魔法だった? ……うーん。久しくプレイしてないから、うろ覚えだな、私も。
「もしかしてその魔法って、ストップとかいう名前とかだったりする?」
「そうですそうです。珍しく魔法名があるんですよね」
そういえばここでみんなが使ってる魔法や、アーサーやスカーレットが使う魔法には名前らしいものがない。火属性とか風属性とかいうのはあるんだけど……。私の吸引とかは珍しいから、吸引って名前で呼んでるだけだろうと思う。
でもその魔法にはストップという名前がある。もしかしてレアでは?
「攻撃系の魔法のひとつみたいですよ。使える人は少ないですし、効果時間も短いらしいので……戦闘に使えるかどうかは微妙かも知れません」
いや、戦闘とかはともかく。私もゲームのバトルを最初に思いついたけども。ストップという魔法を使えば小麦だけじゃなくて、他の食品の保存も……あ、効果時間があるのか。でも魔石でどうにか出来ない? 待て待て、使い手が少ないのは使い勝手が悪いとか、そういう事情があるのでは?
でも一瞬でも動きを止められるのなら、こないだの天使とかにも効く……あ。しまった。あの手の魔法ってボス系には効かないんだった。天使がボス系なら無理だわ。雑魚い敵なら効くかもだけど。あれが雑魚ってどういう世界観とか思う。きっついバトルだったし。
しまった。やっぱりバトル方面に思考が流れる。いかんいかん。
私は樽に目を戻した。
「とにかくこれを密閉すればいいんだよね。樽の蓋を閉めて空気を抜けばいいのかな」
「え。空気を抜く、ですか?」
「あ、そっか。布団圧縮袋とかもないんだったね」
「あっしゅく? ふくろ? ですか?」
会話の間でメイプルから質問が飛んでくる。ははは、と笑って私は誤魔化した。転生前世界にあった物とか言葉を無意識に口にすると、首を傾げられることがある。そういう時は説明するのが超めんどくさいのだ。というか、どう説明すればいいのか判らん。そもそも説明しても判らんだろうし。
この世界全体なのか、もしかして島内だけなのか、とにかくここにビニールとかはないんだよなあ。あれ? ポリエチレンだっけか? とにかくラップとかジップ□ックとかも当然ない。石油があれば吸引からの合成でいける? とか思うけど、そもそもビニールとかポリとかがどういうものか判らないんだよね。ああいうのって私のイメージでは石油から出来てるものだから、原料の石油がないと無理かなと思う。それにビニールみたいなものがなくても、特に問題なく生活出来ているし。
米道という思いを頑張って抑え、私は農園の人たちが出してくれた大きな樽に小麦とか大麦を移し変えていった。でも、さすがにねこじゃらしは要らんと言われた。デスヨネー。