チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

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待て待て待て!

 雪国を過ぎて冬な港に着いた、永遠のアラフィフな元主婦、転生者の斉藤奈美恵です。自分の名前を忘れないようにしようと思います。ごきげんよう。

 

 港町はサビレアほどではないけども、動いてる漁船は少なかった。あ、サビレアというのは某ゲームで寂れてるって意味と町の名前を組み合わせたもの。私が転生前にプレイしてたのはかなり前だったから、今でもそう呼ぶのかどうかは知らん。っていうか、今の私って七歳だから、かなり昔だな。うん、確か20年以上前……やかましい! 私は永遠のアラフィフ!

 

 ちなみにそのゲームではアメリカまでは行った。拡張パック買ったのはそこまでだった希ガス。東南アジアで地獄の香辛料が嫌で頑として嗜好品しかとってなかったような? 冒険メインだったから積み荷も水と食料だった。食料は少なめにして、ひたすら釣りしながら動いてたなあ。

 

 いかんいかん。話が逸れた。

 

 海際では漁師と思われるアラフィフくらいの男たちが網を修理したりしてる。もう魚は魚市に持ってったのかな。そんなことを思ってると、テオが一人の男に駆け寄って話しかける。

 

「ねえねえ。今日の漁ってどんな感じだった? いっぱい獲れた?」

「あー? 気になるなら魚市に行け」

「ありがとー!」

 

 手を振ったテオが戻ってくる。やり取りがかっるい! 漁獲量を訊ねたのに、返事がそれかい! そっか、ここって屋敷じゃないからなあ。説明が不十分になるってことがあるんだな。最近、そういうことがなかったから忘れてたよ。

 

「リディア様。思ったことが顔に出てます」

「うっ」

 

 メイプルに指摘されて、私は慌てて顔を押さえた。ちなみにメイプルとテオは私のことをお嬢様ではなく、リディア様と呼ぶことにしたらしい。この呼び方は汎用性が高いって言ってたな。ちょっとイイトコの女の子、くらいには思ってもらえるらしい。ちなみにテオは、うっかり間違えそうだから出来るだけ呼ばないようにするらしいけど。器用だな……。

 

「魚市の場所は判ってるんで! 行きましょう!」

 

 戻ってきたテオがニコニコで言う。そっか! 魚市があれば屋台があるかも知んない! それはワクワクじゃん! そうそう。そのために朝ご飯を抜いたんだったわ!

 

 ちなみに刺身はないらしい。OH...。食中毒を避けるためなのか、それともさばけないのかは判らない。転生前世界日本は魚を生で普通に食べてたけど、他の国はどうだっけか。日本は周りが海だらけだから食べるのが当たり前だったとか誰かが言ってた気がする。逆に昔は西洋で長距離航海する時は、刺身を食ったりしないからか壊血病になったりしてたとか。だからライムとかが……あ、これも半分はゲーム知識だったわ。

 

 ……それ以前にこっちの世界でというか、この港町で魚を三枚下ろしにしたりするって食文化があるかどうかすら判らない。市場に行けば判る? イワシとかだと手開きに出来るんだけど、どうだろ。七歳の私の手でも出来そうな気がする。

 

 魚のことをぐるぐる考えている間にメイプルとテオに連れられ、私たちは魚市場に着いた。……らしい。

 

「はー!?」

「リディア様!」

 

 声を上げないように、ということだろう。メイプルが小声で私を呼ぶ。でも、判って欲しい! こんなしょぼい……もとい、しょっぱい……あれ? まあ、いいか! こんなに人がいなくて魚が並んでなくてご飯の屋台もないとは思ってなかったよ!

 

 三人で市場……というか、ぽつぽつと並ぶ店を見ながら歩く。店は木の支柱があって、布が屋根みたいにかけてあるものだった。まあ、これは転生前世界のラノベとかアニメとかのお約束の形だな。でもって魚は木の箱に入ってて、その下には氷の塊がどーん、と置いてある。

 

 ……ん? 氷の塊だけ? 転生前世界日本の魚市では、発泡スチロールとかプラ箱に魚と一緒に氷が入ってるのは見たことがある。テレビとかで。自分で魚市に行ったことはないからホントかどうかは判らん。それに魚市じゃないけど、でかいスーパーとかで売ってる魚は砕いた氷の上にどーんと置いてあったりもした。もしかしたら店によってはでかい氷の上に魚が入った箱を置くこともあったかも知れん。その箱にも水やら氷やらは入ってたと思う。

 

 でもここの木箱には氷は入ってない。海水すら入ってない。木の箱の下に氷の塊が置いてあるだけだ。寒いんだから海水を入れるだけでも多少は保存が利くと思うんだけど……。もしかして木の箱の作りが粗くて水が抜けるとかか?

 

 箱の下にある氷は真四角だから切り出したのか、氷魔法で作ったのかな。私はある店の前で足を止めて並んでる魚を何となく見た。

 

 ……鱈かな、これ。……はっ! 鱈は足が早かった気がする! すぐに調理しないと大変なんだよ、あれ。だから魚がたくさん並べられないのか!? でも他の魚ならちょっとはいけるくね? この辺りって寒いし。氷があるんだから多少は問題ない気がする。なのに魚の売りがあんまりないのは……って、この辺の漁師はどうやって生きてるんだ!?

 

「この辺の魚って普通は料理してから売るの?」

 

 店先で魚を見た私が言うと、店主のおばちゃん……失礼。おばさま……駄目だ! どうやってもおばちゃんって思ってしまう! 私もアラ還……違う! 永遠のアラフィフだから、呼び方がちょっとアレだけど仕方ない!

 

 ちょっとふくよかなおばちゃんが頷く。

 

「そりゃそうだよ。生だとすぐに腐っちまうからね」

 

 相手の私が子供だからだろうか。おばちゃんはさっきの漁師より判りやすく説明してくれる。私の身長だと箱の中身は屈まなくてもよく見えた。そこに入った魚を指差す。

 

「じゃ、これは?」

「あー、余りモンだよ。売れなきゃすぐに食っちまうんだ」

「そっかー」

 

 そんな会話をして私たちはその店から離れ、また歩き出した。他の店にも魚は出てて、やっぱり木箱の下に氷が敷いてある。

 

「メイプル。どの店にもあるけど、あれって氷属性の魔法で作った氷? 真四角だし」

 

 ぼそぼそと呟くような小声で訊ねると、メイプルが首を横に振った。

 

「氷魔法を使える者は島外にはあまりいないかと」

「は?」

「そっすねー。お屋……ちが、ええと、島では普通だけど、こっちではほとんど見ないっすね!」

 

 頑張って言い直しながらテオも説明してくれる。待て待て待て待て! 氷属性の魔法が使えない、だと!? だとすると魚が入った木箱の下にある氷はどうにかして凍らせて切り出したものか。ふむふむ。

 

 ……じゃなくて!

 

 ホントに待って! アシュフォード家ではスカーレットはもちろん、使用人も氷魔法をばんばん撃ったりしてた気がする。アーサーも火の魔法が得意だけど、氷属性の魔法も使える。他にも魔石にも氷魔法をこめたりする人もいたし、そもそもあの天使バトルの時に氷を飛ばしたりしてた使用人も多かったと聞いた。ちなみに私も冷気を吸引すれば氷の魔法は簡単に使える。この寒さならその辺りの冷たい空気を吸引してもいけると思う。

 

 なのに!

 

「待って! それってデフォルトで使えるものじゃないの!?」

「リディア様、声が大きいです」

「でかい声にもなるわ! って、ごめん。でも、氷魔法が使えないなら、冷蔵庫とかは」

「ありません」

 

 メイプルが即答する。マジか! だから生の魚は保管とかが出来ないのか! だとしたら最低でも干し魚にしないと保たない気がする。それに氷魔法が使えなくてもここは寒いから、野菜とかは土の下に埋めるとかでもいけるかも……って、待って! もしかして、私の認識がおかしい!? アシュフォード一族も使用人も氷魔法やその他の魔法を気軽に使ってたから気付かなかったけど、私も彼らもこの世界の一般常識からちょっとズレてるかも……。




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